二年目の四月に本編スタートということは、それまでの物語は幕間の物語として気が向いた時に挟んでおけばいいんだ……!
「なぁ南雲ぉ。南雲、最近ちょっとマジでヤバいって……」
「清水くん。やばいって何のこと?例の異世界召喚もの?」
南雲ハジメは、ありふれた高校に通うありふれた高校生だ。授業中に眠るとか、遅刻ギリギリに来るようなことはしないが、積極的にクラスメイトに話しかけたりもしない。そんな彼だが、友人は存在する。
それは清水幸利。長い黒髪を持つ同級生だ。彼は、ハジメと同じくオタクをやっている。近頃アニメ化する予定の作品について感想を言い合ったり、時に解釈違いを起こしたりもする。
趣味に生きている彼らだが、勉学には人並みに取り組んでめでたく二年生となった。今は四限目の授業が終わって教室で弁当を食べている。
「いや南雲さぁ。白崎さんのこといい加減決めた方がいいって。最近、女子の視線が痛くなってきてさ。」
「はは、は……」
幸利とハジメがこんなやり取りをするのは、実は今回が初めてではない。
入学からしばらくして、生活態度の悪さから、ハジメは不良に目をつけられた。そこからひと悶着あって、どういうわけか幸利という友人を得ることが出来た。
ここまでは、ありふれない奇跡のような物語だ。だが、奇跡はここで終わらなかった。
クラス一の美少女と名高い白崎香織が、どういう訳かハジメのことを気に掛けてくれるのだ。話しかけたり、一緒に弁当を食べたりという厚意が一年にわたって続けば、どれほど鈍感な人間でもそれが恋愛的な意味での好意であることは明白だ。
しかし、南雲ハジメは踏み出せずにいた。
ずるずるずるずると曖昧な笑みのまま保留を続け、気が付けば二年生になってしまった。
香織への純粋な好意と、ライバルを蹴落としたい打算で二人を応援していた女子たちも、それが何か月と続けば流石に苛立ってくる。
実際には光輝がもう諦めているとしても、恋敵の周囲にいる女は目障りになるものだ。それが美人ならなおのこと。
そんな恋の事情で、さっさと振るか付き合えと、ハジメや友人の幸利に無言のプレッシャーをかけてくるのだ。
雫の助言によってその回数が減っても、女子たちの団結は変わらなかった。まるで、裏で操っている黒幕がいるかのように、その圧力は密度を増している。
「最近、谷口さんまで視線がきついんだ。あの谷口さんだぜ?ちょっとキツイって。マジで何とかしようよ……」
「それは本当に、清水くんには申し訳ないと思ってるけど。」
ハジメは知る由もないが、士郎や龍太郎や光輝が、嫉妬に震える檜山に釘を差している。そのおかげで男子からのプレッシャーはほぼ無いと言っていい。
「僕が白崎さんに釣り合うわけがないよ。だって、僕は彼女に好かれることを何もしてないんだから。」
これも、何度目かのやりとりだ。実際、ハジメはどうして自分が好かれたのか、それが分からない。
「聞いてみればいいじゃん。チャンスだぞ?あるかないかっていう大チャンスだぞ?」
「もし勘違いだったらどうするの?ハジメじゃなくて恥っかきになるじゃないか。」
そこに踏み込んで、今が壊れるのが怖かった。
だから今日もハジメは選択する。
現状維持という名の、ありふれた選択を。
「まぁ、ハジメがそう言うなら。」
それは、ありふれた日常の雑談に過ぎなかった。こんな日常がこの先も続くのだと、ハジメは期待していたのだと思う。
けれど後になって思う。
そういうありふれた日常を、先延ばしにせず前に進むべきだったのだと。
「おい、何だあれ。」
幸利が何事かに気付く。見ると、士郎と何事かを話していた光輝の周りに、純白に煌めく円環が見える。その輝きは、気のせいではなく、ハジメたちの足元にも広がっている。
「ど、どうなっているんだ!?」
「皆、教室から出てー」
そう愛子先生が呼びかけた時にはもう、教室からは人が居なくなっていた。
彼ら彼女らは、それぞれに日常を歩んでいた。
必ずしも真っすぐではなく、平坦ではなく、一人一人にとって違う道を、同じ教室で共有していた。
そんな彼らの日常は、こうして奪われてしまったのだった。
本編より問題児が増えた状態で召喚される畑山先生が不憫でならない。