「……」
高官との対談の後。光輝たちはメルド団長の訓練を終え、水魔法のシャワーを浴びてから愛子たちと合流し、学級会議をすることにした。
愛子たちは光輝が訓練を受けている間、教育係らから、この国に関する講義を受けていた。
天職が持つ、宗教的な意義について。
天職。それは地球においては、自らの手で手に入れるもの。そして、手に入れられないもの。
ある職業に必要な資格を得るために、年単位で学校に入る必要がある職もある。
一方、資格そのものは必要なく、本人のやる気と努力の集大成によって評価される職もある。
前者にしろ後者にしろ、多くの場合、その職になるために努力しなければならないことは確かだ。努力が報われるかどうかは分からず、ただその積み重ねた後の結果で、本人にその才能があったかどうかがはじめて分かる。
教育者はその資質を見極め、本人の進路の手助けをする。
しかし、”天職”が明らかになっている世界があったとしたら?
”天職”の持ち主と”それ以外”に、絶対的な差がある世界があるとしたら?
このハイリヒ王国では、教会の影響力が強い。それはつまり、エヒト様から与えられた”天職”に従い生き、”天職”を持たない人も、それに疑問を持たず、それが常識だと受け入れて生きる、ということだ。
ステータスプレートは身分証だ。そこに記された天職は、いわば、エヒト様の意志。
戦争間近だという時期に、戦闘系の”天職”を持ちながら他の生き方をすることを、この世界は。少なくともハイリヒ王国は、許しはしないだろう。
皆がそれを理解した。理解出来てしまったからこそ、顔色が悪い。
「ま、まだ……希望はあります……!」
「……愛子先生……」
園部や玉井たちが愛子先生を悲痛な目で見る。
「天職というものが何であれ、ここには”知識”が存在します。戦わず、日々の糧を得る手段は必ずあります。」
あまりにも愛子先生らしくない、現実性のないプランだった。光輝は力なくそれを否定する。
「そうしている間に、魔族が攻めてくる可能性があります。」
「それで戦えば死にますよ!?話を聞いていなかったんですか!?」
「聞いたからこそです。」
愛子先生の悲痛な叫びにも、光輝は動じない。
「どうあっても、ハイリヒ王国は俺達を戦いに参加させたいようだ。」
やっぱりか、という思いが、クラスメイトたちの中に広がる。
これから待ち受ける悲惨な現実を理解しつつ、それを受け入れるしかない、という絶望感。
「皆、聞いてくれ。今日の訓練は正直に言えば、緩かった。おそらくは、みんなを参加させたいがためにあえてそうしているんだと思う。」
「……やっぱりかよ。」
「俺達、戦うしかないんだな……」
皆のため息を聞きながら、士郎は考える。
「具体的な侵攻の時期はまだ、分かっていないはずです。」
そういった軍事機密は、王国の諜報部が調査しているのだろう。
現時点で光輝たちにそれを知る術はない。だからこそ、光輝たちは常に最悪の事態を想定しなければならなかった。
「最終的に戦うしかない、としても。せめて、皆の自由だけは勝ち取ってみせます。」
「そんなことが、本当に可能なんですか?」
「王国に、私の天職を用いて協力することを条件に、譲歩を引き出してみせます。」
それを聞いて、生徒たちは顔を見合わせる。
(……俺達のせいで。)
(畑山先生が苦労してるんじゃないか?)
諦めの中にあった生徒たちの心に、ある共通した思いが生まれていた。
それこそ、檜山や近藤たち不良でも。
ここまで自分たちのために力を尽くしてくれた先生に、恩を返したいという思い。
どうせ、戦いが避けられないならせめて発想を変えて。
自分たちの手で、愛子先生を守りたい、という思いが芽生えた。
「皆、聞いてくれ。」
そこで、光輝がクラスメイトたちに語りかける。
「状況ははっきり言って悪い。俺は、皆に戦って欲しくはない。だけど、それでもこの先、戦いが避けられないのなら。」
「俺が必ず、皆を護ってみせる。だから、絶対に帰ることを諦めないでくれ。まだ、俺達は何も足掻いてはいないんだ。努力していないんだ。」
絶望の中にあって、天之河光輝は勇気を失っていなかった。
「光輝くん……」
「天之河……」
士郎も、皆の雰囲気が少しだけ上向きになったのを感じ取っていた。
(リーダーの資質、ってやつなのかもな。)
そうやって皆を励まし、勇気づけることが出来なければ、この先きっと生きていけないだろう、と士郎は思った。
「皆さん、明日も早いので、今日の会議はここまでにしておきましょう。」
その日は、それで解散となった。
そして二日後。
転移者達は、光輝たちとともに戦争へ参加することになった。
非戦闘系の生産職を持つ畑山愛子と、南雲ハジメを除いた全員が。
色々とあったが、愛子先生の苦労は無駄ではなかったのだ……