実際には体力と筋力と敏捷は最後までずっと最重要なステータスだけど。
士郎たち志願者に、戦闘系の天職を持つクラスメイト達も合流し、全員で座学を受けた後で戦闘訓練を行った。
光輝たちが懸念していた問題は、まだ初日ということで表面化してはいなかった。問題が起きるとすれば、それぞれの訓練の成果が出始めて差がつき始めてからだろうか。
士郎は訓練中、木陰に座って休憩していた幸利に声をかけそれとなく隣に座る。
「よう、清水。水いるか?」
士郎は竹筒を取り出して清水に手渡す。
「あ、衛宮。ありがとう。助かったよ……」
清水は素直に水筒を受け取る。やせ我慢をする余裕さえなかった。
異世界に来てから、高い魔力の影響か身体能力は向上している。それでも、元々文化部に所属していた清水の体力は高くない。ランニングに高い付加をかけた筋力トレーニングを繰り返せば、たった二時間で体力が尽きてしまった。
そして木陰で二人で休憩していたところ、こちらに近寄ってくる四人組がいた。
「よぉ衛宮ぁ!キモオタとサボってるとか余裕だな!」
檜山たちである。
「大介さぁ、いい加減止めとこうぜ。」
「異世界に来てまで揉めたくねぇよ。天之河にあとで何言われるか分かんねぇって。」
「……」
中野も近藤も斎藤も、俺たちこんなことしてる場合なんだろうかと思っていた。
「ああ、ちょっと休憩している。さっき光輝と模擬戦をしたからな。」
「ほーん。で、どうだったんだよ?一本でも取れたのか?」
「残念ながらかすりもしなかった。」
士郎が剣道をやっていたのは昔の話である。今はハイリヒ流の剣術を覚えるための基礎を学んでいるところで、当然ながら光輝の相手にはならなかった。
その後、弓術での模擬戦も行ったが、残念ながら光輝に勝つことは出来なかった。とはいえ、高速で動き回る光輝の動きは実戦を想定する上で充分に参考になったのだが。
「だと思ったぜ!キモオタと話す暇があるんだったら、精々腕を磨いとくんだな。じゃねーと死ぬぜ?」
「何だ?心配してくれてるのか?」
「そりゃあお前、俺は優しさに満ち溢れた男だぜ?そんな足手まといのキモオタなんざ、実戦じゃ何の役にも立たねぇよ。俺の”軽戦士”くらい、アタリの天職じゃなきゃな。」
(……今に見てろよ……)
その檜山の言葉に、内心で清水は反感を持つ。ハジメと親しくしているというだけで目をつけられるというだけでも嫌な相手なのに、勝手にくっついてきた天職で何故そこまで言われなければならないのか。
「檜山お前。」
この状況で周囲を見下して何の意味があるというのか。いくら檜山でも、それが分かっていないとは思えない。士郎は若干の呆れを込めて言った。
「俺に出来ないことを清水が、清水に出来ないことを俺が、俺たちに出来ないことを他の誰かがやればいい。仲間ってそういうもんだろ。仲間を見下す必要は無いはずなんだがな。」
「はっ!そんな甘いこと言ってると死ぬぜ!信治!良樹!礼一!行くぞ!訓練だ訓練!」
(大介のやつ、何で訓練なんかやる気あるんだよ。清水みてぇに適当にサボリりゃいいのに。)
檜山の親友の中野たちは、檜山が何故ここまで前向きに訓練しようとするのか理解出来なかった。
いや、理屈は分かるのだ。戦場で死なないように、少しでも強くなりレベルを上げなくてはならない。ならないのだが、明らかに檜山にやる気があり過ぎる。
(俺たちそんな熱血キャラでもないのに。)
(世界を救うって柄でもないのに。)
斎藤と近藤も含めて、ボスがなぜ急にやる気を出したのか理解出来なかった。
この場の誰にも言葉の真意は分からないまま、言いたいだけ言って去っていった檜山から視線を切って、士郎は清水に話しかける。
「……まぁ、檜山の言ったことは気にするな。あいつ、前衛と後衛の体力差を分かってないんだ。」
異世界に召喚された戦闘職にも、当然ながらステータスに差がある。何かしらの運動部に所属していて、体力のある人間は前衛職、そうでない人間は、本人の魔術回路が多ければ後衛職、魔術回路が少なく体力も無ければ生産職へと振り分けられていた。
士郎たちに魔術回路の知識はないが、運動部系は前衛として戦う天職を与えられていたし、それ相応の技能を所持していた。だが、異世界で活かせる技能を持っていたかどうかなんて完全な運であって、誰かがどうこう言う必要なんてないのである。
「ありがとう衛宮。俺、訓練に戻るよ。筋トレとか嫌だけどさ、ああまで言われてサボる訳にはいかないし。」
「ああ。体調が悪くなったら、すぐに言えよ。」
そう言って、士郎もまた訓練に戻るのだった。
休憩や雑談によるサボりが許される時点で部活よりヌルい訓練になってしまった。
倒れられても困るし騎士たちも黙認してるんでしょうね。