ごくありふれた正義の味方   作:taiken

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模擬戦で無敗よりは負けて欠点を洗い出したほうがいい。


ありふれた本編の話 模擬戦

 

 士郎たちだけでなく、戦闘系の天職を持ったクラスメイトたちも参戦することになり数日。

 

「……どいつもこいつも使えねーな!」

 

 ハイリヒ王国の演習場は、熱気に包まれていた。気分的なものではなく、魔法によって起こされた物理的な炎が周囲の空気を熱し、演習場に生えた雑草を燃やす。その中で、檜山は汗とともに悪態を吐き捨てる。

 

 士郎たちと檜山たちで、四人対四人による模擬戦が行われていた。檜山たちいつもの仲良し四人組に対して、士郎は余っていた幸利に声をかけ、園部らと組もうとしていた鈴に頭を下げて彼女の友人である恵理を引き入れ、急増のチームを作った。

 

 本来ならば、実戦に近い形式の訓練も多対多の対人訓練もまだ先の話だ。メルドとしては基礎訓練を徹底させ、各個人が己の天職における基本的な立ち回りを覚えてから対人訓練をさせたかった。しかし、光輝たちや檜山、士郎などの一部の人間を除くとクラスメイト達の士気が異様に低いことに、ハイリヒ王国の上層部は危機感を抱いた。これではまずいと業を煮やした高官らの鶴の一声で、模擬戦が開催されたのだ。

 

 やる気のない人間でも、殺る気のある一部の人間と一致団結して己の力を使い、存分に暴れてもらって、力に酔わせて戦闘に対する忌避感を取り除く。ハイリヒ王国側も、戦力となる異世界人に育ってもらわねば困るのだ。光輝たち異邦人への待遇は、国賓に対するそれと何ら変わらない。メルド達騎士団よりも数段上の生活をしているからには、殺る気を持って訓練してもらわねばならない。

 

 国民から取った税金を使っているのだから、半端な気持ちでは困るのだ。だからこそ、対人形式の訓練でやる気を出させる、という理屈。本職の軍人であるメルドたち王国騎士からすれば、やる気だけで勝てるほど甘くは無いと文句の一つも言いたいところだが、政治能力では文官たちには敵わない。高官の意向をを無視すれば王宮内での自分の立場も危うくなると危惧し、メルドは結局、この企画を通すしかなかった。

 

 そして、光輝達四人と永山ら五人の模擬戦が行われ、光輝たちが勝利した後で、士郎、清水、谷口、中村の四人と、檜山たち四人組との模擬戦も行われたのだった。

 

 互いの戦力を比較すると、槍術師、軽戦士という前衛二人と炎術師、風術師という後衛二人をバランスよく揃えた檜山たちに対して、辛うじて前衛が務まるのは守護者である士郎だけ、他三人は結界師、降霊術師、闇術師という後衛三人というバランスの悪い編成での戦い。しかし、幸利と恵理の存在が、その差を埋めていた。

 

 

 

 

 ……士郎に直撃するはずだった炎魔法が、あと一歩で躱される。

 

「おいどこ狙ってんだ信治!ちゃんと当てろよ!」

 そう斎藤が声をかけるが、中野になすすべはない。

「やった!俺はちゃんとやっただろ!?」

 

(何でだ!?ちゃんと攻撃の合間の隙を狙ったのに!!)

 中野はちゃんと、士郎が足を止めたその瞬間を狙ったにもかかわらず、攻撃が当たらない。

 

 士郎が弓を使うことは訓練でクラス中に知れ渡った。普段悪態をつきまくっていても、敵にすると厄介だと檜山たちも認めざるをえなかった。中野が炎魔法を詠唱している間にも二の矢、三の矢が飛んでくるので、風術師の斎藤が常に風壁を貼り続ける必要があった。

 

 中野は炎術適性があり、炎系統の魔法なら他人より簡易的な詠唱で、かつ高威力、高速度で放つことができる。斎藤も同様だ。斎藤の固有魔法”風見鶏”は、風系統魔法の効果範囲を拡大することができる。これによって、士郎の撃った矢を撃ち落とすことには成功した。

 

 そして、士郎が弓を使えず、檜山と近藤が二人がかりで士郎の足を止めたその瞬間を狙って、炎術師である中野が炎魔法をぶち込んだ。斎藤の風による後押しを受けたその炎は、作戦通りなら谷口の防壁すら撃ちぬいて士郎をダウンさせていたはずだった、のだが。

 

「我、仇の失墜を望む。幻想を与えたまえ!暗縛!」

 

 その作戦は、幸利の闇魔法によってあえなく阻まれた。中野が狙ったのは、三秒前までの士郎だったのだ。

 

 清水が行使した闇魔法、”暗縛”は、対象に幻覚を見せる闇魔法だ。士郎は明後日の方向に放たれた炎魔法を避けもせず、近藤と檜山の攻撃に木刀で応戦する。

 

「天よ、我ここに雷撃を望む。かのものに裁きを与えたまえ。雷霆。」

「!??」

 

 そして、中野に対して恵理が詠唱した風属性の上位魔法である雷魔法が飛んでくる。中野はもろにその直撃を受けてしまった。全身の筋肉が衝撃で揺れ動き、口からは声にならない悲鳴が上がる。

 

 矢や魔法を警戒して発動し続けていた近藤の風壁でも、上位属性である雷魔法までは防げない。清水の闇魔法の影響下にあり、無警戒のところに不意打ちを喰らってしまった中野は、たまらずに意識を失った。

 

 

 ”天職”が炎術師であり、運良くそれなりの量の魔術回路を持っていた中野は、戦闘系の”天職”の中でも高い魔法耐性を持っている。だから、雷魔法の直撃を受けても本来なら一撃でダウンするわけではない。

 

 だが、ステータスはその人間が好調時に出せる最高値である。数字は所詮数字でしかない。清水の闇魔法で調子を狂わされ、同じく高い魔力を持っていた恵理から無警戒のところに直撃を受ければ、耐えられるわけがない。

 

 

「……効いてる効いてる!」

 幸利は、気に入らない集団相手に一泡吹かせられたことで完全に浮かれていた。それを横目で見ながら、淡々と恵理が指示を出す。

 

「……清水くんのお陰だよ。次は近藤に闇魔法お願い、清水くん。」

 実際には、恵理の補助があったお陰で幸利の魔法は成功していたが、恵理はあえてそれを口には出さなかった。幸利には調子に乗ってもらった方が面倒くさくなくていい。

 

 幸利の闇魔法は、本来なら任意の相手に対してそれなりに接近しなければならない。中野たちとの距離は130メートルもあり、射程外の距離だ。

 

 それを命中させたのは、”降霊術師”である恵理が、高い気配感知能力と魔力感知能力を備えていたからだ。中村は自身でも雷魔法を詠唱しながら清水の手を補助し、正確に闇魔法を直撃させるという離れ業をやってのけていた。

 遠目でそれを確認した騎士たちは呟く。異世界人の中にも、戦闘向きに人材はいるものだ、と。

 

 

 

「へへ了解!ありがとう中村!」

 

 清水の魔法のおかげで棒立ちだったとはいえ、クラスメイト相手に魔法を直撃させたにも関わらず、恵理の心には何の動揺も無かった。

 

(もっと悲しいとか、悍ましいとか。人を傷つけたことへの抵抗感とかあると思ったんだけどな。)

 

 そういった感情が一切湧かない自分自身にも多少驚きつつ、恵理は思考する。

(鈴の前でもあるし、光輝くんも見てくれてる。ここは悲しむフリをしておこうかな?)

 

 そう、試合以外のことに頭を巡らせたとき、恵理の背中で鈴が叫んだ。

 

「やばいダイダイがこっち来てる!シロシロヘールプ!!」

 

 

 鈴の支援を受け、防壁が貼られた士郎の相手が難しいと見ると、檜山は士郎の相手を近藤に任せ、自分で突っ込んできた。

 

 当初の檜山たちの作戦では、近藤と檜山の二人で士郎を抑え中野の魔法で士郎を倒した後で、残りのの三人をじっくりと料理するはずだった。だが、中野が先に倒れてしまうとこのプランは使えない。二人がかりでも、士郎に防戦に徹されるとそれを崩すのは時間がかかることが予想された。

 

 

 近藤と檜山の二人がかりでも、攻撃は掠るばかりで直撃させられない。士郎は一瞬前まで弓を使っていたくせに、いつの間にか士郎の手に木刀が握られ、手痛い反撃を喰らったりもした。檜山にしてみれば、弓使いの癖になんでそんな接近戦が強いんだと文句の一つも言いたくなる。

 

「そうか、あのキモオタが原因か!きっとあいつの魔法だ!」

 

 近藤がそう誤解して言葉を発する。

 確かに清水は闇魔法を使ったが、それは中野に対してだ。

 

 これは、近藤が槍術師ではあっても槍術の技能を習得していないこと、檜山との連携も始めたばかりであることも原因の一つだった。互いの動きを気にして本気を出せない二人に対して、既に騎士団員や光輝たちと手合わせしていた士郎にとって、まだ余裕を持って戦える相手だった。

 

 異世界に来たクラスメイトたちは、永山や雫や龍太郎のように武術の下地があった人間ばかりではない。近藤や園部、玉井など、その”天職”に合った武器など持った経験すら無い人間がほとんどだ。檜山だってそうだ。

 

 士郎や光輝や雫のように、恵まれているわけではない。その差が、近藤の不幸な誤解を生んでいた。自分が当てられないのは幸利の魔法のせいだ、と。

 実際には、士郎でも雫や永山や龍太郎らの相手をすることは難しい。一対一でも五割にいくか怪しく、仮に檜山と組んでいたのがこのうちの誰かなら、谷口の補助があっても今頃士郎は敗北していただろう。

 単に近藤の実力不足なのだ。

 

 

(ざっけんじゃねぇぞ!)

 

 だが、檜山にはそんな言い訳などいらない。欲しいのは勝利だけだ。勝つためには、自分の木刀を士郎に当てなければならない。が、今それをするのは難しい。檜山たちや士郎が使っている木剣や木槍には、錬成師の手で魔法処理が施されている。直撃すれば、今の檜山たちなら衝撃と痛みで気を失う。それでも、当てられなければ意味がないのだ。

 

 

 このまま士郎ばかりに気を取られては、後ろにいる幸利たちを倒せない。時間をかければ幸利の闇魔法や、恵理の攻撃魔法が来る上、また鈴に防壁を貼りなおされてしまう。

 

 だから近藤にその場を任せて、檜山は後衛組に狙いをつけたのだった。

「礼一ィここは任せたぞ!俺はキモオタをぶっ潰す!」

「え!?わ、かった!」

 

 槍を払って士郎に攻撃を当てようとしていた近藤は、檜山に反論する余裕もなくただ頷いた。

 

「”軽業”っ!」

 

 檜山は、士郎に対して投石を行い、自分自身の固有魔法を発動させ清水たちへと向かう。石は士郎に直撃せず、鈴の張った防壁に阻まれて防壁ごと砕け散った。それでも、檜山にはそれで充分だった。

 

 異世界に来た時、檜山たちクラスメイトもそれぞれが”天職”と、何らかの固有魔法という力を得た。檜山に与えられたそれは、軽戦士という”天職”に相応しいもの。

 

 ”軽業”は使用者が武器を手放した時、一定時間の間だけ自分自身の敏捷値と、おまけで筋力と体力を上げることが出来るという固有魔法だ。本来は弓矢などを用いて攻撃し、その場を素早く離脱するという使い方が基本なのだが、檜山はこれが気に入った。

 

(これを使い続けりゃ、俺は誰より早くなれる!)

 

 ”軽業”を発動するには、武器を手放さなくてはならない。だが、使用者が武器だと認識していれば、そこらに落ちている石ころでも”軽業”は使える。普段より体は軽く、そして強くなったことを実感しながら檜山は走る。

 

 そして、檜山と中村たちとの間には百メートルは距離があったにも関わらず、剣を抱えた状態でも数秒で到達できた。

「オラ死ねやぁ!」

 

「や、やべっ……!」

「……!!!!」

 恵理と幸利が迎撃のために詠唱しようとした魔法も、間に合わない。そのまま檜山の木剣が清水に届こうかというところで。

 

 檜山は、意識を失った。

 

「……すまん皆!俺のミスだった!」

 

 檜山を倒したのは士郎の矢だった。先端は刃ではなく羽毛だが、魔法処理の施されたそれは、急所に受ければ木刀による攻撃と同様に、弱い相手の意識を奪う。

 

 檜山が場を離脱してから清水に到達するまでの数秒間で近藤を倒した士郎は、咄嗟に弓矢を投影した。視界の端で捉えた檜山に対して、矢を打ち込んで勝負をつけたのだ。

 

 檜山が場を離脱してから、二秒間の出来事である。

 

「ありがとう、助かったよシロシロ。」

「いや、びびらせて悪かったな、谷口、幸利。」

「いや、俺はビビッてなんか無いし?ち、ちょっと足が震えただけだし?」

 

 仲間たちと雑談しながら、士郎は木刀を投影し直して、斎藤に向き直る。彼はリーダーがやられたことで戦意を喪失したのか、風壁を解除していた。

「……で、どーする斎藤?」

 

「いや、この状況で勝てるわけねーじゃん。魔力切れだし。参りました。もう負けでいいっす。」

 へらへらと笑いながら斎藤は負けを認め、模擬戦は士郎たちの勝利で終わった。

 

 それを見る騎士たちの表情は暗い。自分たちはここから、彼らを一人前に育てなくてはならないのだから。




クラスメイトたちのチートは原作には具体的な描写が無かったしちょくちょく捏造させていただきます。サラっと雷魔法を使えるエリちゃんさんとか檜山くん四人組とか、まあ無駄に強い。
ちなみに檜山君のチートはポケモンのフワライド(ただしお手軽に任意で発動可能でまだ制御しきれないけどバフの重ね掛けも可能)です。
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