ごくありふれた正義の味方   作:taiken

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部活の夜錬


ありふれた本編の話 夜錬

 

 ハジメは幸利の後ろを歩いて、王宮の敷地内にある訓練場へと足を運ぶ。

 これまで座学を共にしてきたハジメであるが、ここを訪れるのははじめてだった。生産職だから当然だ。

 

 だが、幸利の言う通り、内心でどういう訓練をしているのかと、興味が無かったわけではない。

 

 一人のオタクとして、魔法そのものには興味があるのだ。科学の代わりに、魔法が発達した世界。科学では不可能な現象すら起こすことが出来る技術。そういうものに触れたら、オタクとしてその検証をしてみたいと思うのは当然だ。

 

 それに加えて、ハジメは(自分自身ではそれを認めたがらないが)年相応の少年でもあった。周囲で友達がやっているゲームを自分もやってみたくなる。昼間に仕事を頑張った分、空いた時間で幸利に付き合ってちょっと遊んでみたくなることもあるのだ。

 

 一方で、そういう甘い考えを、否定する自分もいた。ここは教室ではなく、戦争になる予定の異世界なのだ。だから幸利の提案は、ハジメにとって渡りに船でもあった。

 

 勿論、魔法を行使して人を傷つけるとか、戦争に参加するとか、そういうことには使いたくない。しかし生産職だって、魔法は必要だ。固有魔法である”錬成”だけではなく、金属を加工する上で土属性の魔法や火属性の魔法が使えるにこしたことはない。この先この世界を生きていく上でも、魔法は必要だ。

 

(……別に悪いことをするわけじゃ無いんだし。)

 

 内心で少しの高揚感と罪悪感を抱えながら、ハジメは幸利の背中を追う。ハイリヒ王国の夜は少し肌寒く、夜空に見える星の輝きは日本で見えるそれとは桁も、星の位置も異なる。そのおかげで、ハジメは躓くこともなく訓練場にたどり着いた。

 

(……うわぁ)

「あれっ……?」

 幸利が驚きの声をあげる。そこには、予想外の先客が居た。

 

 訓練場には、やや年配の騎士団員と、比較的若い騎士団員がいた。その二人が、光輝、龍太郎、雫、士郎といった面々に加えて、永山や檜山まで面倒を見ている。どうやらそれ以外のクラスメイトは居ないようだ。

 騎士団員たちはハジメ達に気付いていたようで、ようこそ、と二人を手招きする。

 

(ああ、そうだったのか。夜中に出歩けるなんておかしいと思ったけど、ちゃんと見張りが居たんだ)

 

 ハジメ達は厳密には、騎士団に所属しているわけではない。あくまでも、召喚された勇者一行としてハイリヒ王国に協力している、という体裁をとっている。だから騎士団員のように厳しい規律を矯正されることはなかったとはいえ、王国にとって貴重な戦力であることに変わりはない。

 

 

 ……なのにどうして、王宮の敷地内とはいえ夜に出歩くことが許されたのだろうか?

 

 

「……それは王国の後ろ盾があるから、に過ぎない。ハイリヒ王国の王億、王直属の騎士団は俺たちをバックアップしてくれる。けれど、他の貴族たちはそうじゃない。」

「魔人族の脅威があるってのに……」

「だから、前面に立てて俺たちを使い潰そうって腹なんだ。」

 

 

 

 ……たとえばクラスメイト達の誰かが現状に絶望し、自殺を試みたり王宮からの逃亡を企てる可能性だってあるのに、どうして?

 

 その答えは、騎士団員たちが毎夜交代でハジメたち異邦人を監視、もとい護衛していてくれたから、だとハジメは理解した。誤解かもしれないが。

(……やけに警備が緩いとは思ったんだよなぁ)

 

 あえて緩いセキュリティだと思わせておいて、必要なところには人を配置していたということだろうか。ハジメは恐らく交代で夜勤をしているだろう騎士団員のことを思い、身を震わせる。

 

(騎士団ってブラックだなぁ。戦争になったら、僕の職場もこんなブラックな仕事が回ってくるのかな……?)

 

 過労死することだけは避けたいな、なんてことを思いながらも、ハジメ達は騎士団員に挨拶をする。

 

「や、夜分に失礼します、カイルさん、イヴァンさん。」

 どうやら幸利は彼らとも面識があるようだ。年配の騎士は笑顔でハジメの方を見る。

 

「君は確かユキトシ、だったか。隣の君は?」

「錬成士のハジメです。その、魔法の練習がしたくてここに来させてもらいましたが、お邪魔でしょうか?」

 

「そう畏まるな。なーに問題はない。イヴァン、ハジメ達の面倒を見てやれ。お前も一端の指導が出来るところを見せてみろ」

 

 

 

「承知しました!……ま、ここで魔法ってのもコウキたちの気が散るだろう。あっちに行こうかユキトシ、ハジメ」

「ありがとうございます!宜しくお願いします、イヴァンさん!」

「よ、宜しくお願いします!」

 

「ここで使うとコウキ達の邪魔になる。あっちの木まで移動するぞ」

 

 というわけで、ハジメ達二人は年若い騎士のイヴァンに連れられて広葉樹まで移動する。よく手入れされた真っすぐな木に体重を預けて、イヴァンは二人に向き直る。

 

「よく来たな。俺はてっきり、今日は坊主たちの追加は来ない方に賭けていたんだが。お前さんたちを見くびっていたぜ」

「今日はって、どういうことですか?皆やってるんですか?」

 幸利の疑問にイヴァンは笑って答える。

 

「コウキ達は初日からずっとな。

他の……あー、ナガヤマ?とヒヤマ、で合ってるか?」

「合ってます。」

「そいつらは一昨日からの参加だ。眠れないんで体を動かしたいんだと。」

 

「そうなんですか」

 ハジメは内心で、永山君のことは良く知らないが、檜山ってそういう奴だっけ、と疑問に思う。 

 

「昼間あんだけ動いといてまだ動き足りないんすか……?」

 幸利はドン引きしながら言う。基本的に、幸利は昼間の基礎訓練と模擬戦で動くのはもうこりごりだった。

 

「はは。後衛職にしたらそうかもしれんな。」

 イヴァンは笑ったが、前衛職にとっては重要なことでもあった。

 

「だが、前衛職は動いてなんぼだ。昼間の模擬戦のせいで基礎錬が足りとらん。前衛職としては、動き足りんくらいだな」

 

 突然異世界に連れてこられた光輝たちは、増加した身体能力に技術が追い付いていない。これまでの生活や、運動系の部活動で培ってきた癖を、トータス式の戦闘技術へと修正しなければならないのだ。

 今までの技術を捨てて新しいものを習得する。その為の訓練なのだ。

 

 クラスメイトたちのモチベーションを上げるために模擬戦を導入した結果、クラスメイト達は嫌々ながらも訓練に前向きになった。チームを組んで戦う以上、自分が足手まといになりたくない、という心理が働くからだ。

 しかし模擬戦の分だけ、基礎訓練の時間は減る。トータスで生きていくための一般常識に関する知識の講義時間を削るわけにはいかないので、基礎訓練の時間は本来予定していたものよりずっと短い。

 

 騎士団は本音では生徒全員に夜錬を課したいのだ。しかし、夜錬を強制にすれば幸利のような後衛職は体力がもたなくなる。結果、希望者だけの夜錬となってしまっていた。

 

「……ま、それはいいだろう。ユキトシ、ハジメ、どんな魔法が使いたいんだ?」

「あ、じゃあ僕は火属性の初級魔法を使いたいです」

「”火種”だな。地面に魔法陣を書いてやってみろ。ユキトシ、落ち葉を集めておけ。」

「了解っす!」

 

 ハジメが地面に魔法陣を描いている間、二人は火種となる落ち葉を拾い集める。

(あー、結構時間がかかるなぁ。)

 ハジメには魔法適正がない。そのため、簡単な魔法であっても魔法陣を作成した上で発動させなくてはならない。

 それが少しもどかしいが、とにかくやれるだけのことはやろう。そう思い、魔法陣が完成した。

 

 

「出来ました!どうですか?これで合ってますか?」

 ハジメがトータスで最初に作成した魔法陣は、二メートル程度の大きさになった。イヴァンのみたところ、魔法の方向も正しく垂直上方になっているし、威力も適正そのものだ。

 

「最初にしては上出来だ。坊主たちは覚えるのが早いな」

「そうですか?」

 

「ああそうだ。俺なんかは教えられても最初は中々覚えられんかったからな。持続時間の設定はしているか?」

「あ、書き足します。」

 イヴァンが促すとハジメは魔法陣の一部を消して式を追加する。

(きちんと理解出来ている……)

 

 それを観察しながら、イヴァンは思う。異邦人たちは戦闘には向いていない人間も多いが、それ以外では優秀な人間が多いと。

 

「良いじゃないか。さ、魔法の詠唱をしてみろ」

 イヴァンのような異世界人の平民出身者には、ハジメたちのような学校などはない。大抵は親や教会で簡単な読み書きと計算の仕方を習う。貴族や王族であれば優秀な家庭教師がつくが、そうでなければせいぜいが近所の物知りな爺さん婆さんに教えて貰う程度だ。

 

 ”天職”に恵まれて騎士団に集められても就学の経験がなく、集団行動に馴染めず放逐され、冒険者となる人間もいる。それだけならまだ良い方で、犯罪者に身をやつすクズもいる。

 それを思えば、ハジメ達異世界人には驚かされてばかりだった。

(教えられることは教えてやらないとな)

 

 

 

「はい。えーっと……『求めるは火、其れは力にして光。顕現せよ、〝火種〟』」

 

 ハジメは詠唱に若干の恥ずかしさを覚えながらはじめて魔法を唱える。自らの体から何かが抜けるような感覚があった。

 

 魔法陣の中心から、ほのかな灯りが見える。それはすぐに広がり、微かな炎となって夜を照らし出した。

 円の中心に置かれて燃える薪を見ながら、幸利はハジメに笑いかける。

「やったな、一発成功じゃん!」

 そう言われてハジメはふと我に返った。魔法で出来た火に見とれていたからだ。

 

「ありがとう。でも、本当に一定の火力になるんだね。魔法って凄いな……」

「だよな!油とか燃料無しで火を出せるってだけでちょっと感動する!」

 

 ハジメが見る限り、魔法陣で出来た火はぱちぱちと一定の火力で落ち葉を燃やしている。

「ふふ、良いもんだろう?」

 

 イヴァンはハジメ達を見ながら誇らしげだった。別にイヴァンが開発した魔法でもないが、自分たちの世界の技術を褒められて悪い気はしない。

 今現在国が存亡の危機にあるイヴァンだが、だからこそ自分たちの世界を褒められるというのは嬉しいものだ。それがイヴァンから見て純粋な子供ならばなおのこと。

 

「よし。じゃあ次は、”火種”の持続時間を延ばす実験をしてみようと思うんだ。清水くん、秒数カウントしてくれないかな?僕よりも、清水くんの方が上手く出来ると思うんだ」

「俺?わかった、いいぜ!」

 

 ハジメは”錬成”意外ではじめてつかった魔法に興奮した。ファンタジー世界に来て、実際にその魔法を使うことが出来た。その興奮と感動は、はじめて自転車に乗った子供のようだった。

 

(……)

 その姿を見て、イヴァンの中で微かに罪悪感が沸き上がる。ハジメや幸利の姿は、彼がかつて守りたいと思っていた善良な市民そのものだった。

 誰かを傷つけることもなく、ただ己の日常の中に幸福を見出せる人。戦争が近付き余裕の無くなった今のトータスで、そういう善性を維持できる人間は少ない。

 

(少なくとも、ユキトシからはあの笑顔を奪うことになる)

 だが、イヴァンはその罪悪感を見ないふりをした。そうでなければ、何のために今まで市民を犠牲にしてきたのか、分からなくなるからだ。

 

 

 

 

 

 ハジメが幸利に時間の計測を頼んだのは、彼が自分よりも高いステータスだったからだ。敏捷のステータスが上がっている幸利なら、自分よりも正確に時間を刻むことも出来るんじゃないか、という信頼。

「坊主、俺も計算をやってやるぞ?」

「……良いんですか?」

「ああ。何の問題もない。ま、一万より先は数えられんがな」

「じゃあ、お言葉に甘えてお願いします。次は火力を高めて、その代わり時間は六十秒に設定します」

 

 こうして、ハジメ達は火属性魔法や土属性魔法、風属性魔法などの初級魔法の検証作業に没頭した。検証中、風属性の魔法だけは本当に威力が上がっているのか、それとも自然風だったのか分からず苦労したが。そうこうしている内にハジメの魔力が尽きたので、幸利に代わりに検証してもらうことにした。

 

「……根本的に、僕の魔力不足なのかなぁ?風は威力が上がってるのかどうかも分からなかった」

 

「魔法陣は間違っちゃいなかったぞ。まぁ、ハジメも知識を蓄えて様々な種類のモノを錬成して、錬成士としての技量が上がれば、自然と魔力量も増えてくる。そうすれば、高度な魔法の調整も出来るようになるだろうさ」

 それによって更に難しい物体を作り上げることも可能になるだろう。錬成士の道は、一日にして成らずなのだ。

 

「それはまぁ…そうなんですけど」

 錬成士としての技量向上をするにあたり、根本的な問題があった。

 

「……何か問題があるのか、ハジメ?」

 

 幸利が土属性魔法を維持しながら聞いてくる。彼にも土属性魔法の適性は無いのだが、戦闘系天職かつ、後衛職であるせいか、魔力量がハジメとは比べ物にならないほど高い。そのためか、魔法の維持は余裕らしい。

 

「ほら、素材は無限じゃないから……」

「……ああ、そりゃあ仕方ないな……」

 

 錬成に使用する鉄鋼も魔石も、当然無限ではない。現在は戦争前の大事な時期でもあり、ハジメが使える素材は限られている。それはその通りだ。誰だって余裕のない状況では、腕の良い錬成師に良い素材を回すだろう。

 

 錬成師たちも仕事をしている以上、依頼には常に納期がつきまとう。限られた時間と資源と人材をやりくりしている以上、ハジメ一人のために貴重な素材をドブに捨てるというわけにはいかない。

 

 勿論、トータス側は見て覚えろと突き放すだけではなく、理論的に錬成の手法や原理を説明して、ハジメが錬成師として活動できるように最大限の努力をしてくれている。このうえ未熟者のために素材をもっと使わせてくださいと頼むのは無理があった。

 

 極めて現実的で、解決できない問題であった。

 

「土属性魔法で増やした土を錬成の素材に出来たりしませんか?」

 駄目もとで幸利が聞くが、当然そんな上手い話があるはずもなかった。

 

「土属性魔法は貴重な鉱石を生み出せる訳じゃ無いからな……」

 イヴァン自身も、世の土属性魔法の使い手たちも一度は考えたことだ。だが、土属性魔法で生み出したり、体積を増やした鉱石も、時間と共に劣化していく。さらに、貴重な鉱石そのものを生み出せるという訳ではなかった。

 

「それが出来れば、今頃騎士団はアーティファクトで溢れかえっているさ。」

「ですよねー……」

「まぁ、世の中そんなもんだ。焦らずに、今はこうやって基本をしっかりと覚えていけ」

 

 そうイヴァンが話をまとめたとき、ハジメ達に話しかける少年が居た。

 ハジメ達には検証に熱中して気付かなかったが、既に皆は夜錬を終えて自室に引き上げ始めていた。彼はそれを伝えに来たのだ。

 

「……よ、幸利、ハジメ。頑張ってるな?」

 

 そして彼が、その問題を覆せる例外だった。

 投影魔法の使い手、衛宮士郎である。




訓練できる時に訓練しておけ
でなければ死ぬぞマジで
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