ある日の、ありふれた高校の屋上。
龍太郎と光輝は、食事を終えて駄弁っていた。
光輝のおっかけのような女子たちは今はいない。女子人気のある光輝でも、四六四中誰かに囲まれているわけではなかった。
「なぁ龍太郎。最近、香織の様子がおかしい……のか?」
「どうしたんだ急に。」
穏やかな春風を受けて背伸びをしていた龍太郎が光輝に尋ね返す。光輝がこんなことを言い出すのは珍しい。
「……いや。南雲くんのことでな。香織のやつ、無理をしているんじゃないかって。」
「ああ。ん、そうなのか……?南雲のやつは清水と仲がいいんじゃなかったのか?なら大丈夫だろ?」
ハジメは最近、幸利とよく話す。
香織は幸利とハジメが居る時は基本的に近づかないが、実は、トイレなどで幸利が居なくなった瞬間に南雲に話しかけている。
「そうなんだけどな。檜山の奴が、変な事を言っていたのを聞いてな。香織が南雲に好意があると言うんだ。それで最近よく話してるって。」
「そりゃあいつの気のせいじゃねぇのか?人のことを気にし過ぎだろう。それを言い出したら、士郎の奴はどうなるんだよ。」
そう龍太郎は言ったが、実は士郎は檜山との一件から、南雲とは話をしていない。
士郎としては、自分が居なくても一人で何とかなるならば干渉はしない。相手の迷惑になっていたなら、する理由がないのだ。
「士郎は士郎だろう?」
「……ま、そうだな。すまん、参考にはならなかったな。」
光輝や龍太郎から見ても士郎は変わり者だったので、今回は考えないことにしたが。
「…それはそうなんだけどな。もしも香織が南雲に好意があるとしたら」
そこで光輝は、ふと言葉を区切る。
「そうだとしたら、俺の胸のもやもやは何なんだろう、と思ったんだ。」
それは、姉離れができず拗ねている弟のようでもあり、幼馴染を取られたくないという少年のようでもあり、恋敵に嫉妬している健全な男子高校生のようでもあった。
「そりゃ、お前。香織に恋してるとかじゃねぇのか?」
龍太郎は素直に思ったことを口にする。
「恋……なのか?このもやもやが?」
龍太郎は、光輝にかなり幼稚な部分があることを知っている。
小学校の頃からの付き合いだが、こと他人からの好意や、人の気持ちを察することは大の苦手ときている。
(それも含めての光輝だからな。)
だが理解できないというだけで、察しようという努力はするのだ。
「そら、子供のころから知ってる相手を好きになるって、恥ずかしいし、ちょっとおかしいって思っちまってブレーキをかけても無理はないだろ?」
龍太郎たち四人は、小学校のころからの腐れ縁だった。成長するにつれてそれぞれの個性を伸ばしてきた結果、この四人についてこれる人間は中学には居なくなった。
龍太郎自身は深く考えたことはなかったが、それは光輝にも責任はある。
彼の正論にまともに付き合える男子はそう居ない。その所為論が、”間違っている”こともあるのだから、猶更だ。
それでなくても、女子の居るグループに混ざろうという男子は限られてくる。
笑って雫や光輝の指摘を受け入れられた龍太郎が、寛容なのだ。
そしてだからこそ。光輝が無意識で他の三人に依存しているところはあった。
「……そうか。これが恋、なのか。」
光輝はどこか納得したように呟く。
恋は。
子供の頃に抱いた純粋なそれより、ずっと醜く、禍々しかった。
「……何だかなぁ。そりゃあ、俺達四人の関係だっていつまでも続くとは思ってなかったけど。早くないか?道が別れるのが。」
「今までが長かったんだよ。」
拗ねた光輝に、龍太郎はそう言った。
「塾を始めたとか、引っ越したとか、部活を始めたとか辞めたとかで……人付き合いが代わる奴はいただろ。今まで、この四人でやってこれたのもスゲェことなんだ。」
「それはそうかもしれないが……!」
実際、この言葉を口にしている龍太郎だって辛いのだ。
高校生活は永遠ではない。
人間関係は絶えず変化するだろうし、付き合っていく友達も普通に変わっていくだろう。
実際、最近は衛宮士郎や、谷口鈴といった、昔からではない友達だって出来かけている。
(……実際俺だって言いたくはねぇけど。)
もし、それが嫌な、最悪な結果になってしまったら。
もし、四人の友情が壊れて、離さないような仲になってしまったら。
だが、親友であるならば。
友たちの幸せを願うなら、親友たちの本気の気持ちをないがしろにしてはならない、と龍太郎は思った。
「……香織に直接聞いてみるのはどうだ?」
「……」
そう言うが、光輝は少し考え込んだあと、こう言った。
「……俺は、香織の気持ちが知りたい。協力してくれるか、龍太郎。」
「おう!で、どうするんだ?すぐ聞くのか?」
「いや。聞くわけじゃない。そうだな……」
光輝は、いつもの笑顔でこう言った。
「今度みんなで、映画でも観に行かないか?」
坂上龍太郎くんは幼馴染四人組の中だと一番常識度と良識度が高いと思う