ごくありふれた正義の味方   作:taiken

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南雲くん編は終了
そろそろ次の展開に入ります



ごくありふれた休日の話

 

 檜山相手に見栄を切った次の日、ハジメは羞恥心と後悔で学校を休もうか、と思った。だが、今更休んで何になると言うのか。

 

 どうせ高校生活に期待なんてしていなかったじゃないか、と半ば自棄になりながら登校すると、予想していた檜山たちからの嘲笑や、衛宮からの報復、クラスからの無視などはなかった。谷口鈴から話しかけられた時は心臓が止まるかと思ったが。

 

 そして、もう一つ変わったことと言えば。

(あれ、冗談じゃ無かったんだ……)

 

 ハジメと、清水幸利という男子生徒が話すようになったことだ。お互い手探りで好きなジャンルやら今週のアニメについて駄弁りつつ、怠惰に休み時間を潰していた。

 一般的に言って、オタクほどオタクに厳しい。好きなジャンルや作品が違えば話が合わないということも珍しくないのだが、とりあえず今は互いに様子見といったところだろうか。

 

(……これで白崎さんが来なければなぁ。)

 

 相変わらず、彼女は必ずといっていいほど南雲に話しかける。そういう時、幸利はクラス一の美人に臆して席を立つのだが、友達だと言うのなら正直見捨てないでほしい。

 

 南雲ハジメの苦難の日々は、まだまだ続くのだった。

 

 そんなこんなで、四月も半ばを過ぎて日曜日がやってきた。ハジメは今、幸利とともに駅近くの映画館にやってきていた。

 

「ありがとうな南雲。一人で映画ってちょっと行きづらくてさぁ。」

「いいよ。僕もCMで気になってた作品だったし。」

 

 今回見る映画は、高校生たちが活躍するアニメーション作品だ。最初の売り上げこそ芳しくなかったが口コミを中心に人気が広がり、ハジメたちの近くの映画館も最近放映するようになっていた。

 

「いやー。俺みたいな奴が見るもんじゃないとは思ってたけど、話題になってるの見ると見たくなってさぁ……」

 幸利はどうやら流行りものにも弱いタイプのオタクのようだった。

 

 券を購入してさあ入場、というところで、ハジメは効きたくない声を聞いた。

 

「……南雲くん?」

(!??)

 

 おかしい。おかしいだろう。どうして彼女がこんな所に居るのか。もしかして自分は、災難に遭う体質だとでもいうのだろうか。

 クラス一の美少女である白崎香織が、ハジメに話しかけていた。

 

 

「こ、こんにちは、白崎さん。」

「こ、こんにちわ……」

「あー!やっぱり南雲くん!清水くんも!すごい偶然だね!!しかも同じ作品!」

 ハジメはいつもの曖昧な作り笑いを浮かべて、幸利はどもりながら香織に挨拶を返す。

 

「じゃ、じゃあ白崎さんもこれを?」

「うん!皆で見ようね!」

「え、皆?」

(皆ってことはやっぱり……)

 

 ハジメの中では覚悟できたことだったのだが、危機管理能力の足りない幸利は意味が分からず香織に尋ねる。

 

 その答えはすぐに明らかになった。

「よっす、ハジメ、清水。二人も来てたのか。」

 

「あ、衛宮?え、白崎さんとデート!?」

 

「何でさ。違うぞ。俺だけじゃないぞ。俺は光輝たちの付き添いだ。」

 

 

 その言葉通り、光輝、雫、龍太郎らも入ってきた。アニメ映画に縁がなさそうな連中の揃い踏みである。いや、光輝などは今回見る映画に出てきそうだ。

 

「ぶ、部活とか大丈夫なの?」

「うちは日曜は休みだからな。」

 

 光輝たちの通う学校は、腐っても進学校。勉学に力を入れる進学校なのだ。運動部でも日曜日は休みという決まりになっている部が多い。剣道と弓道もそうだった。

 

 しかし彼らを責めることは出来ないだろう。アニメ映画とはいえ、かなり一般受けしてしまった作品を見に来たハジメたちにも落ち度はあったのだ。

 

 映画を見る時、白崎さんは何故かハジメの隣の席に座った。ハジメは視線で幸利に助けを求めたが、助けは期待できそうになかった。

 

(…暫く、映画館に来るのはやめよう……)

 

 そう心に誓ったハジメだった。

 

 

 そして。

 映画を見終えた光輝たちは、満足して映画館を後にした。

「いやー。映画も結構悪くなかったな士郎!最後良かったよな!」

「ああ。ハラハラしたけど、報われて良かった。」

 

「また来ようね、南雲くん!」

「あ、はは……ちょっと懐が寂しいんだ。バイトして資金を溜めてからにするよ。」

 

(ああ、俺も会話に混ざりたいのに……)

 哀れなのは清水である。オタクとして作品についてあれこれと話をしたかったのに、相棒は女子と会話をしているというのだから。

 

 それを見かねてか、光輝が清水に声をかけた。

「清水くん、お疲れ様。いい映画だったね。心が洗われるようだった。」

 満面の笑みでそう言われると、はいそうですねと返したくなる。だが清水にはもオタクとしての無駄な意地があった。

 

「いや、俺の心はズタズタだよ……」

 

「えっ?どうしてだ清水くん?いい話だったろ?」

 善良な人が、不幸に見舞われた人を救う。光輝にとっても気持ちの良い話だった。

 

「だって画面の中でもすっげぇ格好いい奴しか居なかったから!映画見て癒されようと思ったら凄く心にきたんだよ!」

 

「そ、そうなのか……?」

(分からないな……人の心って……?)

 

 映画自体は普通に良い話だったので、光輝の困惑は増すばかりである。

 

「まぁ気持ちは分かるわー。いないよねーあんなイケメンは。」

「そう。そうなんです。俺が言いたいのは……」

 

 雫が冗談で返し、幸利がヒートアップしそうになったところで、女性の悲鳴が聞こえた。

 

「ひったくりよ!誰か止めて!!!」

 

 見れば、女性ものの鞄を抱えた男が駆けだしている。

「や、」

 やばっ、という言葉を清水が言い終える前に、光輝と龍太郎は駆け出していた。

 そこからの大捕り物は鮮やかだった。

 予め用意していたであろうバイクに乗ろうとした男に、圧倒的な脚力で駆け付けた光輝がタックルで組み付く。男は抵抗しようとするが、光輝は離れない。

 

「動かないでください!窃盗なんて貴方のためにならない!!」

 

「…っこの!うるせぇんだよガキが!!」

 

 光輝を殴ってどかせようとしたところで、追いついてきた龍太郎と衛宮を見て男は観念した。三対一という多勢に無勢、自分が逃げられないことを悟ったらしい。

 

「……すげぇ。えっすげぇ。」

 その間、ハジメと香織は被害者の女性の様子を確認し、雫は警察に通報していた。気のせいか香織たちは手慣れており、全く動揺していない。

 

 男を警察に引き渡し、周囲の女性からのお礼にも、慣れた様子で

 

「俺は人として当然のことをしただけです。貴方やみんなに怪我がなくて良かった。」

 

 と答える光輝。それを見て清水は、頭ではなく心で理解した。

 

(そりゃモテるよな……)

 

 と。




話題になってる映画の元ネタは想像にお任せします
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