原作の彼とはちょっと違う部分もありつつ根っこは原作と一緒だと思ってもらえるように頑張ります。
ハジメたちが衛宮邸を後にしても、光輝は衛宮邸に残った。
皿洗いと後片付けをするためだった。
「ったく。いいって言ってんのに本当に真面目だな光輝は。」
「自分で汚した者は自分で片付ける。当然のことだろう?」
士郎が相当頑固に帰れと説得しても、光輝は頑として譲らなかった。結局、士郎が折れて皿洗いを任せ、散らかった居間の掃除をすることにした。
そこで士郎は、ちゃぶ台の下に女の子の手帳が落ちているのを発見した。表紙に八重樫と小さく書かれている。
「おい、光輝。これ八重樫のか?」
「ああ、雫の手帳だ。明日俺から返しておくよ。」
「頼む。」
皿洗いも掃除も終わり、光輝がさあ帰ろうか、という段階になって。
「……光輝。今日はありがとな。誘ってもらって楽しかった。映画なんて見たのは何年かぶりだ。」
士郎はふとそんなことを呟く。今回、休日にみんなで映画鑑賞をと提案したのは光輝だった。
「何だ、そうだったのか。実は俺もだよ。映画を観たのは子供の頃以来だ。」
光輝が優等生として好成績を維持するために、学年が上がるにつれてそういった娯楽に触れる機会は減っていった。光輝にとって剣道が娯楽のようなものだったので、それも苦ではなかった。
士郎もそうで、衛宮邸にも士郎の部屋にも、娯楽品の類はほとんどない。将来のことを考えて勉強により力を入れれば、今回のように遊ぶ機会は、これからどんどんと減っていくのかもしれない。
「香織や士郎が、こういうのが好きなのかなと思って選んでみたんだ。楽しんでもらえたなら何よりだ。」
「いや、俺は別にアニメは見ないぞ?」
「・・・そうだったのか?」
光輝はそう首をひねる。南雲と親しくしようという男なのだ。そういうものにも興味があるのかと思ったが、違ったようだ。
(やっぱり、人の気持ちっていうのは分からないなあ。)
人の行動や外面から、その内心を推察する。国語の必須技術でもあるのだが、光輝は国語だけは4だった。
「おう。ま、次は光輝の好きなことにしようぜ。」
「ああ。・・・なぁ士郎。南雲の件が上手くいったのは、お前がいたからだ。助かった。」
「どうしたんだ?急に。
ハジメのことを随分と気にしてるな?」
光輝が弱味を見せるのは、これで二度目だ。どちらも、ハジメに関して。士郎はそれが気になった。
どういうわけか、光輝はハジメをかなり気にしている。特に光輝のような部活をやっているの男子中高校生は、部活や自分の友人関係を優先して、クラス内のことなんてそこまで気を回さないものだ。
最初のハジメのような同級生は放置して、無視するのが普通なのだ。
「昔、似たようなことがあったんだ。」
光輝らしくない言い方だ。表情にも、いつもの輝きが無い。
「似たようなこと?」
光輝の話した内容は、どこにでもあるありふれたものだった。
「俺の大切な友達が、自分が虐めにあっていると俺に相談してきてくれた。その時の俺には分からなかったけど、今思うと、とても勇気がいることだったと思う。だけどその時の俺は、その友達を信じなかった。」
光輝の独白は続く。
「その友達じゃなくて、クラスメイトのみんなの方を信じたし、それが正しいって思っていた。俺はみんなの人気者だったから、そう思った方が楽だったからそう思った。」
士郎は、黙って光輝の話を聞いていた。
「後になって知ったことだが、その虐めの原因は、俺だった。」
「誰だって、間違えることはあるだろ。」
即座に士郎はそう言う。子供なら仕方のないことだ。
「今回もそうだろう?これで二度目だ。俺の正しさを誰かに押し付けて、誰かを傷つけることがある。
難しいよな。俺の祖父なら、もっと上手く出来たかもしれないのに。」
・・・そう話す光輝の姿を見て、士郎は養父の言葉を思い出した。
『誰かを助けるってことは、他の誰かを助けないってことだ』
正義を掲げて何かを守るというなら、それは対立する相手の意見を封殺するということにつながる。今となっては養父の真意など知る由も無いが、あの言葉はもしかしたらそういう意味だったのかもしれない。
社会の法律や正義が、多数派のために作られているならば、法やルールを守ることで少数派が犠牲になることもある。
「光輝の爺さん・・・?」
「俺の祖父は、昔は優秀な弁護士だったんだ。『法律やルールは、大勢の人々のためにあるんだ』っていうのが口癖でね。
『被害者だけじゃなく、間違えてしまった人が、それ以上間違えないようにルールがって、弁護士や検事がいるんだ』とも言っていた。
本当に立派な祖父だったよ。」
「・・・そうだな。」
光輝の祖父は、光輝が小学校に上がる前に他界している。
だから、世の中の薄汚れた現実を知る前に、子供に向けて語られた綺麗な理想だけを光輝は引き継いだ。
しかし。
理想に従って人を助ければ、嫌でも光輝は人の汚い一面を目にすることになった。
溺れている女の子を助ければ、女の子を虐待した両親の存在を知った。
窃盗被害に遭った女性を助け、犯罪者が捕まったかと思えば、その犯人が再犯したことを後で知った。
何一つ非のない女の子を助ければ、その人から愛の告白された。その女の子の告白を断ったとき、光輝は自分も人を傷つけていることを知った。
理由があって出来ないのではなく、ただ怠惰であるとしか思えないハジメのような人も目にした。
光輝と同じように正義を掲げて、それを傘に着る醜さも目にした。
正義を掲げるということは、人を傷つけることもある。
それでも、大勢の人々の幸福のために、祖父のような弁護士になりたい。その理想は今も変わらない。
それとなく雫や両親が諭してくれるのだが、それでも止まらないのだ。
助けを求める声があれば反射的に動いてしまう。
正しいと思ったことは指摘してしまう。
昔と変わったのは、三回同じことがあるまでは、指摘するのを控えることにしたことくらいだ。
「俺は、今の光輝を見たら光輝の爺さんは光輝のことを誇らしく思うと思うぜ。」
士郎はそんな光輝を肯定した。
「・・・どうしてだ?」
「正しいことをするってのは簡単なことじゃねえ。
誰だって自分のことが一番大事なんだ。今日だって、光輝が居なきゃ、あの女の人は不幸なままだったかもしれない。男がもし逃げきっていたなら、また男が犯罪を重ねていたかもしれない。」
悪事に直面した時、それに即座に対応できる人間はそう多くはない。
それを責めることは誰にも出来ない。
それが普通で、普通であることは悪ではない。
そして、普通ではないことが悪だとは言えない。
「確かに、あれは良かった。」
「それが光輝の味なんだよ。出来ないことは、今悩んでやり方を変えりゃいい。間違いがあったら、認めて前に進めばいい。だけど、お前の理想は、きっと間違いなんかじゃない。」
士郎は、自分の理想は、借り物に過ぎないとどこかで諦観している。
養父の言葉に憧れただけの、その言葉の意味すら分かっていない、目指すべき正義の形すら覚束ない理想だ。
「俺の爺さんが昔言ってたんだ。正義の味方になりたかったってな。
でも、諦めちまった。現実は厳しいから、折れちまったんだろうな。」
「そうなのか・・・」
だが、それを聞いて光輝も黙ってはいなかった。
「俺は、士郎の父は弁護士でなくてもきっと立派な人だったと思う。」
「なんでさ?」
「士郎を見ればわかる。」
士郎は何も言わずに苦笑した。
光輝は本当に、ひとが良すぎる。それこそ、悪人に騙されてしまわないか心配になるほどに。
そうやって話し込んでいた二人は気付かなかった。
(・・・バカ・・・!)
自分の手帳を忘れた雫が、衛宮邸に戻ってきていたことに。
そして雫が、光輝と士郎の話を最初から聞いていたことに。
「・・・士郎。話を聞いてくれてありがとう。今後とも、よろしく頼む。」
いつも通り晴れやかな顔で、光輝が衛宮邸を辞する。
「ああ。俺も、祖父のような弁護士を目指すよ。」
「じゃあ、光輝も法学部を目指すんだな。」
「・・・士郎もか?」
驚いて光輝がそう聞くと、士郎は頭を掻きながら答えた。
「ああ。学力が足りねえから、相当勉強しなきゃだけどな。」
そう言う士郎に対して、光輝は微笑んだ。
「なら、一緒に勉強しよう。その方が俺も励みになる。」
天之川光輝にとって、無二の親友が坂上龍太郎ならば。
衛宮士郎は、似た夢を持つ同志なのかもしれなかった。
光輝くんと士郎くんは設定とかで結構似てるところがあると思います。
光輝くんのモデルはFateのアーサー・ペントラゴンらしいので、組み合わせたら面白いことになりそうです。