恋姫†お姉ちゃん日記   作:こんにちわわ

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ちょこちょこ書いてたんですけど原の神やら雀の魂とかもろもろで忙しくてなかなか仕上がらなかったんですが。。。一回0から書き直したりもあったので。。。

そんなのでもなんと評価をつけてくれた方がいまして。そのため超特急で仕上げました。味見してないのであとで見なおしたときに改稿するかもしれませんが悪しからず。

評価うれしいですありがとうございます。


ー孔明ー

 

水鏡女学院、または水鏡塾。

荊州南郡襄陽の山中に居を構えた、司馬徳操――水鏡先生に師事する者の集まる私塾である。

ここには様々な文献や書の写しが保管されていて、兵法、経済、算術、地理、農政など触れることのできる分野は多岐にわたり。

この先乱れゆく世を憂い、各々の目的、野望の為学門に励む官僚の卵たちが多く暮らしていた。

 

そんな、賑わっていたこの水鏡塾も今では、先生本人と私の二人だけとなってしまっている。

 

塾生皆に姉と慕われていた人が旅に出たことを皮切りに、一人、また一人と先生の許を発ち、都や各地の役人になるべく去って行った。

その人は阿呆で脳みそまで筋肉でできていて、人を空に向かって投げるし、何考えてるのか分からないし、狡いし、雑だし、鈍いくせして変に鋭い時があるし、子供っぽいし人の話聞かないし何でも一人で抱え込むし周りに相談もしないしいきなりいなくなるし旅に出てから手紙の一つも送ってこないからどこでなにしているかも分からないしそのくせ先生の体調が悪いとなったら急に帰って来るし雛里ちゃんには帽子や本をあげたのに私には何もないし―――――――こほん。

 

とんでもない人だったけど皆に好かれていて。

彼女がいることで出立を延ばして塾に残っていた子も多かったぐらいだ。

まあ確かにあの人が参加し始めてからのお茶会は楽しかったし。そこそこだけど。

退屈しなかったことは認めてあげてもいいかもしれない。

 

 

 

「朱里ちゃーーーーーーんっ」

 

昼前、川で洗ってきた服を外で干していると、私を呼ぶ声が聞こえてきた。

その方向を向いてみれば、大きな帽子と二つに結った空色の髪を揺らしながらこちらへ向かってきている女の子の姿が見えた。

 

「雛里ちゃん!」

 

彼女は鳳統、字を士元。真名は雛里。私と同じく水鏡塾で学問を修めた子で、一足先に社会勉強として旅に出ていたのだ。

私と年も背格好も同じくらいで、胸に抱く目標も同じで何かと気の合う子で同盟を結んでいる。

いつか立派な体型になってあの人を見返してやろう同盟。

実は単純にそれだけじゃなくって、いろいろとあの人も合わせて複雑だったんだけど、真名で呼び合っている一番の親友だ。

 

「おかえり!雛里ちゃん!」

 

「はぁ、ふぅ・・・・ただいま朱里ちゃん・・・先生は大丈夫なの・・・?」

 

走ったことであがってしまった息を整えながらも、そう心配そうに尋ねられる。

実はつい先日水鏡先生が体調を悪くしてしまったのだ。

突然のことで、急いで各地の塾生に向けて手紙を出したのだが、雛里ちゃんにも無事に届いたようでよかった。

都で務めている子たちは距離も近いから届くことは届くだろうけど情勢からして来る事は難しいかなとは思っていたが、雛里ちゃんのいた幽州に行く場合は今最も荒れているであろう青州を通ることになる。

なのでもしかしたら届かないかもしれないと心配だったのだ。

 

「うん。ひとまずは大丈夫だって。ちょっと熱がでたくらいで大きな病気とかではないらしいよ」

 

「よかった・・・お医者様に診てもらったの?」

 

「ううん。あの人が」

 

「えええ姉様が!?」

 

いつのまに医学を治めていたの、と目を開いて驚く雛里ちゃん。

全くである。昔から知識の偏りが激しい人だったがまさか医学にまでそれが及んでいるとは思ってもいなかった。

 

「姉様は今どこにいるの?」

 

うっ。そんなにキラキラした目で聞かないで・・・。

久しぶりに会いたいのだろう。あの人の話になった途端にすごく期待した様子で、先生の具合を案じていたさっきまでとは別人みたい。

 

命を助けられたこともあり、両親の死で落ち込んでしまったことに加えて、生来の引っ込み思案で人見知りの性格のせいでなかなか馴染めなかった頃から気をかけてもらっていた。

また、髪の色や顔の雰囲気も少しだけ似ていたこともあり本当の姉妹と言われても違和感はないくらいで、いつも一緒に行動していた。

そういったこともあり、あの人に一番懐いていたのは雛里ちゃんだったから会いたいという気持ちもわかる。

しかし期待してるところ残念だけど、もうあの人はここにはいないのだ。

 

そもそも帰ってきたと言っても、こっそり窓から侵入して先生の様子をみたら軽く話して戻るつもりだったらしく、私に見つかった時なんて、ゲッ、っていっていた。許せない。散々文句を言ってしまったけどどうせ聞いてくれやしないのだろう。もうっ。

 

「あの人は―――――」

 

「鳳統さーん」

 

「・・・あわわっ」

 

思い出してつい憤る気持ちを抑えて応えようとしたが、どこからともなく聞こえてきたそんな間延びした声に遮られた。

雛里ちゃんと話すのに夢中になってしまって、人が近づいてきていたのに気づかなかったようだ。

 

「おうおう鳳統の嬢ちゃん。ひどいじゃあねぇか置いていくなんてよぉ」

 

「先生が倒れたということでー気持ちはわかりますがー。急に走り出したら危ないですよー?」

 

「しゅ、しゅみませんっ」

 

「はわわ・・・!?」

 

お人形さんが喋ってる・・・!?

身長は私よりも少し高いくらいだろうか、足元まで届くんじゃないかという波うつような金色の長い髪の女の子と、その頭に乗ってる喋るお人形さん・・・!?

眠たそうな目をしたその女の子もとてもかわいらしくて、まるでお人形さんのようなんだけど、頭の上の喋る小さいお人形さんに混乱してしまう。

 

「おっと、こっちにもかわいらしい嬢ちゃんがいるじゃねぇか。オレは宝譿ってんだ。下の程立ともども覚えてくんな」

 

「どうもー」

 

最初はびっくりしてしまって気付かなかったが、よく見るとお人形さんの喋る時に合わせて程立さんの口がもごもごしている・・・。

 

「わ、私は諸葛亮、あ、字は孔明です!よろしくお願いします!」

 

なんか、かわいらしいけどとても変わった人だな、そんな風に思っている自己紹介していたら、隣の雛里ちゃんが勢いよく頭を下げた。

 

「あ、あのっ。わざわざここまで一緒に来て頂いたのに置き去りにしてしまって・・・本当にすみませんっ」

 

「気にしないでいいですよー。先ほども言いましたがー、先生の体調が悪いということでそりゃあ心配でしょうしー」

 

宝譿さんが最初に言ったのは軽い冗談で、実際程立さんは今の言葉の通りさほど気にしてない様子だった。

どうやら幽州から戻る雛里ちゃんに付き添ってきてくれたようで、わざわざありがとうございますとお礼を言えば、程立さん自身もそろそろまた旅に戻ろうと思ってて丁度よかったらしい。幽州での引継ぎを終えてこの地に来たそうだ。

 

「それでー先生の具合はどうな感じなんでしょうー?」

 

初めて来た水鏡塾に興味があるのか程立さんは辺りをきょろきょろと見回しながら、私のお友達も気にかけてましたのでー、と続けた。

 

「熱が出てしまっていたので大事を取って今はまだ部屋で寝ていますが、大きな病気などではないそうです」

 

「おー。それはなによりですー」

 

「はやくよくなるといいなぁ嬢ちゃんたち」

 

宝譿さんが話すとき、私が口元を見ているのに気付いたのか、手に持っている飴でそれとなく隠しながら声を当てている。

言ってることはいいことなんだけど気になってしょうがない・・・。

 

「あの、もしよかったら中でお茶でも飲んでいってください!」

 

旅の疲れもあるだろうしお礼も兼ねて家の中で休憩していってもらおう、そう思い提案する。決して自身の好奇心からというわけではない。

 

「ぜひどうぞっ」

 

「おいおい両手に花ってやつじゃねぇか。けど悪ぃな、先約がいなけりゃのったんだけどよぉ」

 

「申し訳ありませんがー。鳳統さんも無事に帰れたことですし、積もる話もあるでしょうからお構いなくー」

 

これから街で旅の仲間と合流する約束があるらしく断られてしまった。

宝譿さんのことを聞けなくなったのは残念だけど友人の付き添いで来てもらっておいて何もしないというのは義に反する。

 

「それでしたらお菓子だけでも持っていってください!」

 

この前作った焼き菓子が手つかずなので二人分は余裕であったはずなのでせめてものお礼として持っていってもらうことにしよう。

雛里ちゃんに洗濯物少しの間任せた後、程立さんにすぐ戻りますと告げ、お菓子を取りに中へ入る。

 

先生が休んでいるので大きな音を立てないよう台所へと急ぎ、目的のお菓子を見つけたら手早く数人分を包む。

同じようにして戻り、お待たせしました、と渡した。

雛里ちゃんを見れば、中に入っている間に残りの服も干し終えてくれたようだ。

 

「これはこれはどうもー。ありがたくいただきますー」

 

程立さんは、しばらく受け取ったお菓子の包みを興味深そうに眺めていたが、ふと視線を私たちの方へ戻すとそれではそろそろ行きますね、と言った。

 

「程立さん、大変お世話になりました!い、至らぬところばかりでしたが、いい経験になりましたっ。ほ、本当にありがとうございましゅたっ」

 

「いえーこちらこそ鳳統さんがいてくれて助かりましたよー」

 

我が親友は大事な最後の最後で噛んでしまい消え入りそうなほど縮こまってしまったが、程立さんは何事もなかったかのように返していて思わず笑ってしまう。

 

「ふふっ・・・また機会があったら今度はお茶しましょうっ」

 

「おぅよ、その時を楽しみにしてるぜ」

 

どういう原理かわからないが程立さんが手を振るのに合わせて、頭の上のお人形さんも飴を持った手を振りながら背を向けて歩いてゆく。

ではまたいつかー、という言葉と、何とも言えない空気、動くお人形さんの謎を残して程立さんは去っていった。

・・・糸かなにかで連動させているのかな!

 

「・・・いっちゃったね」

 

「うん・・・」

 

完全に姿が見えなくなった後、そうつぶやいた私に、どこか寂し気な雛里ちゃんが応える。

彼女たちの補佐として実戦で学びながら働いていたのだろう。

先生のことを気にしていた、と言っていた、程立さんのお友達が先生の伝手で雛里ちゃんを頼まれたという人なのだろう。

 

またいつかお茶会ができる状態で会えるといいな、こんどこそお人形さんについて聞こう、とどこかしんみりと思う私の横で、あ、と思い出したように雛里ちゃんがつぶやいた。

 

「宝譿さんにも挨拶するの、忘れちゃった・・・」

 

宝譿さん怒ってないかな、とお人形さんのことを気にする親友の姿の隣で、私は思わず全身の力が抜けてしまい、がくりとうなだれた。

 

 

ええええ・・・・噓でしょ・・・この子、気づいてない・・・。

 

 

 

 

 

▽▽▽

 

 

 

 

あれからなんとか持ち直した私は、程立さんに渡したお菓子の残りをつまみながら元凶である雛里ちゃんとお茶を飲んでいた。

久しぶりに会えたのだ、お互い話したい事も聞きたいことも山のようにある。

お仕事の方は私と同じくらい優秀な雛里ちゃんのことだから心配はしていないが各地の細やかな采配や役人、人材の情報は知っておいて非常に役に立つ。いや、頭に入れておかなければこれからの時代を乗り越えれないだろう。

 

天下に安寧をもたらすことのできる、私たちが仕える人を見極めなければいけない。

それに有力な人物やその内部を今のうちから知っておくことで事前に対策を打つことができる。

孫氏謀攻篇に記されているもので謀略において基礎中の基礎だ。彼を知り己を知れば、百戦殆うからずである。

 

 

「公孫瓚さん自身はとびぬけて優れているわけじゃないけど、しっかり治政を行っていて領地内での評判はよかったよ。でもやっぱり烏桓達からの防衛で結構手一杯で領地内の暴動に関しては南に下るほど手が回らなくなってたみたい・・・」

 

「周りも決して評判がいいところではないからね・・・評判がいいからこそ地方から賊が流れていっちゃうんだろうね。・・・青州のお役人さんは逃げたって聞いたけど本当なの?」

 

「うん・・・みんな数名の部下だけ連れて行方を眩ませちゃったって・・・。そのせいで青州は今本当にひどいことになっちゃってるよ・・・」

 

「今は青州方面からの賊を平原であの劉備さんたちが抑えてるんだよね?」

 

「うんそのはずだよ・・・程立さんと一緒に公孫瓚さんに劉備さんを平原の相にって具申して、町の施工や兵の調練、経済とかについてひとまずの方針を記した書を平原に置いてきたんだ」

 

「劉備さんはどうだった?噂通りの人だった?」

 

「噂通りなんてところじゃなかったよっ。あの人こそ私たちの支えるべき王たる人だよっ」

 

誰にでもすごく優しくて本人は武も智も備わってなくてもそれでも民たちの為に立ち上がる、力を束ねて正しく人のために使える徳の人だった。雛里ちゃんは珍しく興奮したようにそう言い切った。

とても人が良くて民に慕われていると有名な劉備さんを直接見てきた雛里ちゃんが言うなら間違いはないだろう。

 

「決まりだね!二人で劉備さんのところで軍師として志願しよう!」

 

「うんっ。あ・・・でも今回の旅で自分の未熟さを思い知ったからまたここでしばらく勉強しようと思ってたの・・・」

 

「そうなんだ・・・実は私も先生が心配でもう少しの間、ここにいようと思ってたんだ」

 

私は雛里ちゃんに今言った通り、一人になってしまう先生が気がかりでなかなか発つ覚悟が決められないでいるのだ。

今回体調も崩してしまったし猶更その気持ちは強くなってしまっている。

 

「本当?それじゃあ丁度いいね。でも軍師はまだいないようだったから、できるだけ早めに出発できるように頑張るよっ」

 

「あらあら・・・誰が心配だというの?孔明?」

 

待ってるよ、そう返そうとした時、部屋の入り口から私たちの師匠、今寝ているはずの人の声が聞こえてきて思わず止まってしまう。

 

「「先生!?大丈夫なんですか!?」」

 

壁に手をつき支えてる様子から、体調はまだ回復しきってはいないようでつい私も雛里ちゃんも声を荒げてしまう。

だがそんな私たちの声を流した先生は雛里ちゃんに向かってのんきにおかえりと笑っている。

 

「まったく・・・私のことはきにしないでいいの、ってもうこれで三回目よ?」

 

先生は心底呆れたという風に首を振りながら、空いている椅子に腰を下ろした。

 

「劉備に決めたのでしょう?私に構わず行ってきなさい。士元もわざわざ社会にでたのに今更こんなところで学ぶことなんて何もないわよ?」

 

「師というのは弟子の活躍を耳にするのが一番うれしいものなのよ。大体いつまでもそんな調子だと一生伏竜と鳳雛で終わっちゃうわよ」

 

「成らなければ竜は蛇、鳳凰はそこらの鳥となんら変わらないのよ?嫌よ?私そんなのを育てたなんて言われるのは」

 

一人で言うだけ言った後、お茶会をしているなら私も呼んでくれたらよかったのに、と自ら持ってきた器にお茶を注いでいる。

私と雛里ちゃんはもはやそれどころじゃなくて言葉一つすら紡げないでいるというのにこの人は・・・!

この自らの道を突き進む感じ、あの人とそっくりである。

 

「明日、日が昇りきる前に出発しなさいな。もう決まったことだから何を言っても無駄よ。三回も私に同じことを言わせたんだもの」

 

その有無を言わせないような物言いに、ようやく思考が追いついた私はまたも大きな声を出してしまう。

 

「ちょっと待ってください!!」

 

「あわわ・・・」

 

まだ雛里ちゃんは帰ってこれてないようで弱弱しい声をあげて目を白黒させている。

 

「なにようるさいわねえ・・・あ、このお菓子おいしいわね。また腕をあげたんじゃないの?」

 

「す、すみません・・・ありがとうございます・・・っじゃなくて!」

 

もうっ!全然話が進まない・・・。言いたいこともあるけれど、まだ本調子じゃないのだ、とりあえず早く部屋に戻って休んでもらわなきゃいけない。

椅子から立ち上がり先生を部屋に連れて行こうと近寄る。

 

「ほらこれを持っていきなさい。あなたもとっくに一人前なのだから」

 

私が近づくとそう言って先生は、どこからか雛里ちゃんのものと比べると小さめな帽子を取り出して渡してきた。

一人前という言葉と帽子でぐっときてしまい、さっきまでの気持ちがしゅるしゅると萎んでいく。

 

「それからこれも。本人には言うなって口止めされているけど、その扇はあの子からよ」

 

市で並んでたのをあなたに似合うだろうってわざわざ買って持ってきたのよ、さらに羽毛扇を渡しながらそういわれて、私の勢いは完全になくなってしまった。

あの人が私に・・・。きっと私は今すごい顔をしているだろう、恥ずかしくて見られたくなくて今しがた受け取った扇に隠れてしまう。

気に入らない。なんだかんだ私もあの人のことを慕ってるんだってはっきり自覚しちゃうこういう瞬間が。こうして贈り物一つもらうだけでうれしい気持ちでいっぱいになる私が。

 

ふと扇越しに視線を感じたので覗いて見ると、いかにもいいなあっといった感じでこちらを見つめる、いつの間にか再起動していた雛里ちゃんと目が合った。

いや雛里ちゃんは帽子ももらってるしあの人の書いていた本ももらったからこれで同じだよだからそんな目で見ないで。もうちょっと浸らせて。

 

 

「・・・そういえば姉様は今どこにいるの?」

 

雛里ちゃんが未だにこちらから目を離すことなくそう口にしたことで結局有耶無耶になっていたことを思い出す。

そうだ、こんなもので絆されてる場合じゃない。雛里ちゃんにあの人のことで聞いてほしいことがあるのだ。

 

「・・・・・・・・・・あの人は今、袁術さんのところにいるって」

 

「え、ええええ・・・・?」

 

袁術。水鏡塾のあるこの荊州南郡の北に位置する南陽郡太守を務める人なんだけど、正直治安も評判も良くない。

どうせ過保護なあの人のことだから近間に戻ってきているのだろうと思ってはいたがまさか袁術さんのところにいるとは誰も思わない。

耳に入るように水鏡先生が不調だって噂を流してある程度広がればあの人なら帰ってくるだろうと思ってはいたが。

 

一体何をしているの。

 

「ふふっ。まさかまさかよね。袁術の所にいるなんて」

 

笑ってる場合じゃありませんっ。先生は早く部屋に戻って休んでいてくださいっ。そんな思いを込めて視線で訴えるも微笑ましそうにしているだけで軽くあしらわれてしまう。

 

 

「で、でも袁術さんのところである程度の地位にいてくれてれば後々役に立つよっ。大陸の中心に近いからあらゆる方向に手が出せるし、きっと姉様もそうを考えて仕官してるんだよっ」

 

雛里ちゃんがあの人を庇うようにそう口にするが、そもそもある程度の地位。ある程度の地位を得られるならどれほどよかったか。

 

「武官でも文官でもないの・・・袁術さんの侍女をしてるらしいの」

 

「えええええええ姉様!?どうして・・・・!?」

 

さすがに予想外だったらしく目をまんまるにして驚く雛里ちゃん。

そんなのこっちが聞きたいよ!!

なんでそんなことになってるわけ!?武は言わずもがなだけど、文官としてもこの塾で学んでいただけはあるから通用するはずなのになんで侍女!?

しかもお先真っ暗であろう袁術さんのところで!

あの人変に優しいから何かのきっかけで関わり持ってしまって、なし崩し的にやってるのが一番ありそう・・・。

だから私たちと一緒に行こうって言ってたのに!!強いのに戦えないんだから私たちと来て街の護衛とかしててくれたらよかったのに。

基本、自己中心的なのに五常が無駄にしっかりしてて。交友が増えれば増えるほど弱くなるくせして大陸を見て回りたいって聞いた当時思わず耳を疑ってしまった。

 

 

「そういえばあれだけ長かった髪もバッサリ切って男の子になっていたわね。ふふっ。あの子、見た目はとても整っているからそこそこ様になっていて笑ってしまったわ」

 

そうだ、それもあった。もう意味が分からない。本当に何を考えてるの!?

やっぱり切ってしまった髪はもったいないような気がするけど、と・・・先生っ。笑い事じゃありません!

 

「・・・・・姉様が、兄様。・・・・・・???」

 

ああ!?雛里ちゃんがついに限界を迎えてしまった!!

やっぱり、雛里ちゃんの為にも劉備さんのとこに行く前にひっ捕まえてきっちり説明させて。

それから引きずってでも一緒に連れて行かなくちゃ!雛里ちゃんの為にも!

私たちがいないと本当にダメなんだから!!

 

 

私はもらった羽毛扇を握りしめ、一人そう固く誓った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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