オークに育てられた女騎士   作:中島ささかま

2 / 2
前回から少し年数がたち、ビエン、モジローは大人の一歩手前、珍しくオークに生まれた女の子「ユミル」も若者と呼べる年齢になりました。

ビエンとモジローはオークの大人になる儀式に参加する。


オークの生き方

 ユミルが年頃になるころにはビエンに村で勝てる若者もあまりいなくなっていた。父プゴルから鎧なども受け継いでいた。幼いころは光の加減で骨の色も混ざっていた髪の毛はすっかり硫黄色に染まり、ツタのような癖がついている。目はさびた銅のような色になった。

 

 「父さん、村の男どもが勝てないからって苦し紛れに私に悪口を言うの。おまえ、不細工だなって。顔と腕は関係ないっていうのに…父さん、はっきり教えて?」

 

 「むう…正直に言って器量よしとは言えないな。もし我々オークがギーゴンから土地を取り戻し、繁殖のために女をさらうとしてもギーゴンに配慮したあまり悲しまれなさそうな女をさらうことになるのだが、お前がいたら選ばれる筆頭だな。」

 

 「えっ、私みたいな見た目の女の人を選ぶの?」

 

 「うむ。しかしなぜかギーゴンは烈火のごとく怒って追いかけてくることが多い。まあ、さらわれているのだから当たり前だが。しかし、気になることもあるのだ。」

 

 「気になること?」

 

 「ギーゴンの侵攻する神の家に行ったことがあるが、ビエンに似た像や絵が飾られていることがある。我々オークも畏怖の念を与えるために恐ろしい神をあがめることはあるが、このあたりではあまり見ない。しかしお前に似た像はそこかしこにあった。」

 

 「どういうことだろう?」

 

 「もしかしたらギーゴンと我々では美意識や感覚のずれがあるのではないか?ということだ」

 

 「えーそんなことあるかな?私、ギーゴンだけど、みんながカッコいいっていう骨やトゲトゲもカッコいいと思うし、家の紋章になってる藤の花も素敵だと思う。たしか、絡みついて締め上げるって意味があるんでしょう?」

 

「ああ、そうだ。」

 

 「それならやっぱり私たちの感性は近いんじゃない?私はあんまり綺麗じゃなくてもいいよ。でも、ユミルもあんまり美人じゃないよね。いつか魔王軍の偉い方に嫁ぐって言われてるけど、大丈夫なのかなあ…」

 

 「我々オークは武力で他種族に重用されている。見た目だけで判断されることはあるが、大体は侮られたり、気味悪がられることが多い。」

 

 「そうか~たまに来る蜥蜴人の行商人が私をみてぎょっとした顔をするのもそのせいなのかな?この村にギーゴンはいないから。」

 

 「本当のところはわからん。昔、お前がもっと幼いころアイツらにビエンを売る気はないかと持ち掛けられたこともある。まあ、むろん断ったが」

 

 「そっか、労働力にでもするつもりだったのかな?」

 

 「さてな。オークは技量を評価するから戦士として名をあげれるよう頑張れ。それでは今日の狩りについて質問はあるか?」

 

 「いつも通りでしょ?父さん。」

と、そこには自信に満ちた顔をする娘がいた。

 

 

***

 

 

 娘と連れ立って荒野を歩く。一見生物の姿は見えないが、遠くからは鳥の声が聞こえたり、動物が水を飲んでいる姿が見えたりする。ビエンは気配を感じながら娘と並んで進んでいく。

 「何か見えるか?」

 

 「ううん、まだ何も」

と答える顔には少し緊張の色がうかがえるが、むしろ、楽しみにしているようにすらみえる。

 

 「ふむ、今日は少し北の方にも足を延ばしてみよう。」

プゴルの言葉を聞くとビエンは目を輝かせてこちらを見つめてきた。

 「どうした?」

 

 「ううん、なんでもない!早く行こう!」

 荒野を旅していると急な出会いがあるものだ。突然目の前に黒い影が現れ、巨大な蛇が鎌首をもたげる。プゴルは娘の顔を見るが、落ち着いた様子で蛇をみている。

 しばらく蛇とのにらみ合いをしていたが蛇は砂に潜っていく。

 「余計な戦いをしないで済んだね。」

 

 「動きや体格を見れば、あの蛇は腹を空かせていないことはわかるからな。」

 

 「よかった。私の観察も間違ってなかった。でも、父さんにはかなわないな。私なんかじゃ太刀打ちできないくらい。」

 

 「お前は筋がいい。俺が教えることはもうほとんど無いだろう。後は実戦の中で学んでいけばいい。」

 

 「わかった。」

それからは魔物に出くわすこともなく、目的地が近づいてくる。

 「ここだ。ビエン見ろ、ここがオアシスだ。ここから見える景色は最高だろう?」

目の前には岩がゴロゴロ転がり砂地にわずかばかりの水がしみだしている。周りにはサボテンが何本か生えているが、それ以外は何もない砂漠地帯。不規則に生えたサボテンや岩が立ってはいるものの、地平線までさえぎるもののない広大な大地。「わぁ…これがオアシス。」

 

 「ここは命のよりどころ。町から町への大事な中間地点。最短で進んでは決してここへは訪れない。ここに来れば命のつながりを感じられるし、食料にもありつける。」

 

 「そうなの。確かに、すごい場所だね……。でも父さんが言うとおり、きれいな景色。」

 

 「そうだな。」

 

 「ねえ、父さん。こんなきれいな場所なら私達ギーゴンとオークは仲良く暮らしていけないかしら?」

 

 「難しいだろう。お互いの価値観や考え方が違うからな。だが、俺たちは神を信じる心は同じだろう?もし、ギーゴンが攻め込んでこなければいい関係になれたかもしれないが……」

 

 「ギーゴンってどんな神様を信じてるのかしら?」

 

 「前にも言ったが、お前に似ている気がする…さすがにこの辺では見かけないが、大きな街に行くと必ずといっていいほどあるぞ。」

 

 「うーん、見てみたいなあ。あっそうだ、父さん。ギーゴン達って強いのかな?もしも戦うことになった時のために知っておきたいんだけど。」

 

 「ギーゴンは戦士としての技量が高いやつは少ない。しかし数が多い。徒党を組まれて襲われるとオークの軍団もやられることが多い。」

 「そっか~じゃあ私も戦えるようになっておかないとね。ところでギーゴンの神はなんて名前?」

 

 「ああ、それは……」

言いかけてプゴルは言葉を詰まらせる。ギーゴンの神の名前など知らないからだ。

 「どうかした?」

 

 「いや、ギーゴンの神の名は知らなかった。戦争でなければ旅人として聞きに行けたり、やってくる旅人に聞いたりすることも可能だったかもしれんが」

 

 「じゃあ、戦争が終わればまたなかよくできるかな?」

 

 「われわれオークの血の狂騒がギーゴンから恨まれているようだからどうだろうか。」

 

 「血の狂騒って?」

 

 「オークが呪われている証拠だというものもいるな。コレがあるから西の大陸のやつらとは仲良くなれん。」

 

 「そうか~残念だな。」

 

 「そろそろ日が落ちてくる。戻るとしよう。」

 

「うん、父さん。」

 

 

***

 

 

 ビエンは夕食の準備を手伝いながら、先ほどの会話を思い出す。

 (ギーゴンには嫌われてるって言ってたけど、お父さんはギーゴンのこと嫌いじゃないみたい。それに血の狂騒って何だろう。)わからないことも多かったが、知れる喜びが待っていることを考えて楽しみにして眠りについた。

 それからもビエンはプゴルと斧の練習をしたり、狩猟や採取の仕方を習ったり、気になったことを聞いたりして過ごしていた。結局、血の狂騒についてはもう少ししたらとはぐらかされていたが。

 

 ある日村の若者(ビエンと同い年ぐらい)が広場に集められることになる。

 広場には、何度も遠征に出ている大人がちらほらと立っているのが見える。大人も遠征の格好をしていたが、表情が穏やかなことにビエンは違和感を感じる。

 

 村のそこここから来る若者が20人ほど広場に集まると、ミミゲルが高いところに登り話し始める。

 「今まで諸君はそれぞれの家で様々なことを教えられてきたと思う。今回はオーク族全体として教えておくことがあるため集まってもらった。」

 

 村の広場に集まっているのはオークの若い男ばかりだった。ミミゲルの家のモジローが声をかけてくる。

 「ギーゴンなのに…いや、この言い方はよくないな。すまん。お前は来ないと思っていた。」

 

 「今はギーゴンと戦争中だし、父さんが強くなって損はないから行って来いって。」

 

 ミミゲルが話を続ける様子が見えたので会話を区切って説明を聞く。

「今回君たちに集まってもらったのはオークとしての生き方を学んでもらうため集まってもらった。我々は万が一に備え遠征用の装備をしているが、諸君らは荒野のオアシスを目指してもらうだけだ。その間、我々は遠くから見守っているから安心していくように。この中にオアシスに行ったことのあるものは?」

 ビエンを含めて幾人かが手を挙げる。

 それを確かめるとミミゲルは手を挙げた中から何人か選び先導するよう指示する。それが終わると大人に声をかけていく。

 先導に指名された若者は迷いなく先導していくが、周りの表情をみると緊張している様子が見受けられる。

 そろそろオアシスが見えてくるというところでミミゲルがまた声をかける。

「もうすぐオアシスだ。オアシスの付近で巨大蛇を見たことがあるものも多いと思う。アレをみんなには倒してもらう。」

 それを聞くと見たことのない者は普段の狩を思い出したのかやる気になっていたが、ビエンを含めた数人は青ざめる。その様子を確かめるとミミゲルが蛇の説明を開始し、やる気を見せていた若者の顔が曇っていく。

 「以上だ。今までは個人技を習っていたと思うので集団戦を学んでほしい。」

 事前にはオアシスに行くとだけ聞いていた若者たちの間に緊張が走る。ビエンも今まで連携など習ったことがなかったためにうろたえる。さらにあの蛇の大きさを思い出すと気を引き締め、周りを観察するとモジローは割と落ち着いているように見える。

 などと思いを巡らしているとオアシスが見えてくる。先頭を行く者が手を挙げると全体が止まる。ビエンを含めた蛇を見たことのあるものが警戒を強める。

 「あれは……」

 砂丘の一つが動いたと思うと、蛇が鎌首を持ち上げる姿が見える。覚悟を決めていた若者たちは蛇の方へ向かっていく。それは隊形も何もない物だった。各々が手に武器を持ち巨大蛇に向かっていく。

 しかし、蛇が大きな口を開けて待ち構える様子を見てビエンは不安を感じて仕方がなかった。

 蛇の大きさから近くに見えていたが走っても一向に近づいてこないぐらい大きいらしかった。そして蛇の元へ走っているうちに仲間たちの隊形がそろっていく。まるで一つの意志の元動いているように。

 ビエン以外のものの足並みがそろっている。蛇がしっぽを持ち上げたと認識し、避けようと体を動かすころにはほかのみんなは回避行動をしていた。それからも次々と回避行動を取るが、いつまで経っても周りのみんなより一呼吸遅れる。気が付くと他のみんなが手に持った武器を構え、蛇の体に向かって攻撃を加えている。

 「あっ、出遅れちゃった。どうしよう…。」

そんなことを考えている間にも仲間達は次々に攻撃を繰り出している。

 「あっ!」

 蛇もやられるばかりではなくしっぽや口、体を使って攻撃してくる。しかし、蛇の体当たりは塊として受け止め、攻撃も個ではなく全体で行っていく。

 「シギャーーーーーーーーーーー」

蛇が毒を吐き出す。

 ビエンは気づくのに遅れるが、ぎりぎりでよける。まわりの仲間は反撃の態勢に入って二手に分かれようとしていることに気づく。蛇の頭がどちらを追うのかを逡巡するように動く。その隙を逃さず、先頭にいるものが左右同時に切りかかる。後続の仲間たちが次々に切りかかり、ビエンも夢中になって切りかかっていると大蛇はいつの間にか動かなくなっていた。

 ビエンはどっと疲れを感じてその場にへたり込む。腕で汗をぬぐい、目を上げるとみんなの様子がおかしなことに気が付く。周りの若者たちは興奮した様子で小刻みに震え、目が赤く光っている。

 ビエンはしりもちをついたまま少し後ずさる。

「え?みんな?どうしたn…」

 

 次の瞬間、オークたちは大蛇の死体に一斉にかぶりつく。奇声を上げながら、素手で蛇の死体から肉をこそぎ、一心不乱に食べていく。ビエンは恐怖を感じてジリジリと後ずさる。

「…へこい」

 

 遠くから誰かの声が聞こえたような気がして振り向くと、とおくにミミゲルが立っているのがみえた。腕をふりながら何かを叫んでいる。

 

「ちへこい」

 

「ちえこい?」

 腰が抜けて立ち上がることのできないビエンは四つん這いでミミゲルに近づく。気が付くとミミゲルの声がしっかり聞こえるようになる。

「こっちへ来い!!早く!!」

 

「た…立てない…」

自分の声の小ささに驚く。

 勇気を振り絞って叫ぶ「立てないの!!」

ミミゲルはビエンの声を聴いて縄を投げてよこす。

 手元に落ちた縄をつかみ、ミミゲルに伝わるよう引っ張ると強い力でビエンごと引っ張られるのがわかった。荒野の地面は引きずられるのに最適かと聞かれれば違う と断言できると思いながら引きずられていく。

 ミミゲルの足元まで引きずられるとビエンを肩に抱えて走り出し、指笛を吹く。大人の正式な戦士しか乗れないと聞かされていた大狼が遠くから走ってくる。ミミゲルは自分の前にビエンを乗せ、大狼を駆り少し離れて大蛇を食べている若者の軍団が見えるようにする。しばらくビエンはその様子を眺めていいるとミミゲルのほかについてきた大人が同じように大狼に乗って若者の周りにいることに気が付く。

 「あの、ミミゲルおじさん。みんなは何をしているの?それに周りの大人は?」

 

 「血の狂騒という言葉は聞いたことあるな?」

 「うん」

 

 「あれがそれだ。」

ミミゲルは大蛇の死体に群がる若者たちの軍団を指をさす。

 「さらに言えば、お前はわからなかったかもしれないが、大蛇と戦っていた時、みんなが一つの生き物のように動いたり目の色が変わったりしていなかったか?」

 

 「あ、うん。気づいてた。」

 

 「それらが血の狂騒の始まりだ。我々オークは戦闘になると集団が一つの意志の元動いているように戦うことができる。本当に敵と戦って周りの者が傷ついたり倒れたりしても全く気にすることなく戦うことができるんだ。おれは以前戦場でど真ん中に投石機の石が落ちてきても一糸乱れず動き続ける部族を見たことがある。

「ある程度の数になると一塊になれなくなる上に気が付いたらまったく見知らぬ部族の村のそばでだったなんてこともあるから万能ではない。そして一番の問題はアレだ。」

 

 ミミゲルはもう一度若者たちを指さす。大蛇の死体はすでに大半が食べられ哀れな躯がさらされている。しかし若者たちの食欲は収まらないようでまだ死体に群がっている。

 

 「血の狂騒中になって相手を倒すと食べてしまう。それが同族や同じ陣営であってもね。そして…」

とミミゲルが説明を続けている途中で若者たちは大蛇を食べ終えたようだった。そして全員が一つの塊のまま周りのにおいをかいでいる。すぐにある一点に赤い視線を送り止まるが集中する。

 

 

そこはビエンたちのいるところだった。




諸事情によりかけない時期がありましたが、リハビリついでに書き出したらうまいこと書けました。

改めて見ると同じ内容を書いていたり、変な描写があったりしますね。今回もAIに助けてもらい(違うと感じるところは完全に書き換えて)ながら書けました。
こちらもストックがないため次回が投稿できるのがいつになるやら私もわかりませんが、よろしくお願いします。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。