【東方】幻の蛇を追って蛇が幻想入り【鉄歯車】小説版   作:John.Doe

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第三話 BRIEFING

「スネーク、お待たせ」

「これは……」

 霊夢が持ってきたのは皿に大量に乗せられた香ばしい匂いの焼き鳥達。どこぞの鳥の妖怪が(ミスティア)が聞いたら襲ってきそうなメニューである。

「また初めて見るものが出てきたな」

「焼き鳥よ。まあ、鶏肉を串に刺して焼いただけだけど」

 霊夢の言うとおり、下拵えを(新鮮なので臭みなどはないが)する時間はなかったため、串を打って塩をふり、焼いただけではある。

「生よりよほどいい。慣れればむしろ時折恋しくなる味だが……」

 一体どんな食生活をしていたのか……じっとりとした霊夢の視線がスネークに刺さるが、彼は意に介していないらしい。そんな彼らのいる部屋に、紫が(ちゃんとふすまを開けて)入ってきた。

「あら、美味しそうな匂いだと思ったら。どうしたのよそれ」

「スネークが捕ってきたのよ。二羽」

「ああ。捕獲(キャプチャー)には慣れているからな。ソ連じゃ動植物が豊富だから、食事には困らなかった」

「食事、ねえ」

 苦笑いを浮かべる紫の思考は、おそらく先程の霊夢と同一であろう。それもすぐに表情を戻し、紫は本来の目的を告げる。ところで霊夢、と切り出した紫に何よ、と霊夢も返す。

「残念だけど……あなただけが頼りになっちゃったわ」

「どういうこと?」

「歪みを中心に探ったんだけど……当たりはナシ。(スネーク)がどこから来た人間なのか、全くのノーヒントよ」

「……私達にどうしろってのよ。あんたでも解決できない結界関連の問題、他に適任はいないわよ」

「だから、別の角度から調べてほしいのよ。私も結界を片っ端から当たってみるから。冬眠までに間に合えばいいけど」

「……わかったわよ。スネークもそれでいいわね?」

「そうしないと帰れないんだろう? ならやるしかない」

 即答するスネーク。迷いは無い。ボスの教え通り、スネークは一度も「生きることを諦める」ことを考えた事は無い。ここから脱出できないという事は、すなわち「スネークのいた世界で死ぬ」ということだ。

「しかし……どこへ行くべきかしらね」

 霊夢の言うとおり、どこへ行くかは見当がつきにくい。結界に関して幻想郷で専門家といえば、まず霊夢と紫がトップだ。つまり結界そのものを乗り越えることは事実上不可能であるから、別方向から攻めねばならない……が、ではその別方向とは何なのか。幻想郷には確かに様々な住民がいるが……

「そうねぇ、候補としては……魔法使い達か覚り妖怪か運命を操るお嬢様か……希望としては薄いけど、元月の住人を訪れるのもいいかもね」

「……今更かもしれんが、何でもアリなのかこの世界は……」

「外の世界から見たらそうかもしれないわね。もっとも、こちらではありえないことが、あなた達の世界では常識かもしれないけれど。それで、どうする? 最初は」

「そうなのよねぇ……」

 悩む2人。そんな中、スネークがひらめいたことを口にする。

「ところで、こちらの世界には時折外からも入ってくると聞いた。なら、こちらに入ってきて住み着いているような奴はいないのか?」

「ええ、いるわ。あまり好意的な関係とは言えないけど」

 同業者的な意味で、と霊夢は内心皮肉る。しかし次のスネークの発言は、まさに今必要な考えだった。

「だが、そいつらなら出入りの方法を知っているかもしれないんじゃないか?」

「なるほど、確かにそうね。霊夢、どうせなら行ってみたら?」

「行くのはいいけど……」

 何か不安なことがあるらしい霊夢は、少し口ごもる。そして、その不安をぶつけた。

「スネーク、一応聞くわ。あなた、飛べる?」

「飛ぶ? いや、流石に自力じゃ……」

「はあ、しかたない……徒歩で行くしかないか」

 念のため言っておけば、幻想郷でも人間は飛ぶことは基本的に不可能だ。しかしながら圧倒的に人間以外が多いこの幻想郷、飛べないという方が珍しいと言って差し支えないだろう。が、スネークはあくまでも「外の世界の人間」だ。魔法を使うこともできなければ、羽が生えているわけでもない。

 霊夢のあまりにもぐうたらな発言に、紫も少々あきれた様子で返す。

「たまにはいいじゃない。ここでダラダラお茶を飲んでいるんじゃ体にも悪いし暇でしょ?」

「常に半日は寝て冬眠までするあんたに言われる義理はないわね」

 不毛だと断じたのか、霊夢はまあいいかと話を一旦打ち切る。と、突然ところで、と紫がスネークに問い出した。

「あなた、腕に覚えは?」

「無いことはない。こちら(幻想郷)で通じるかどうかは怪しくなってきたがな」

「技術じゃないわ。心の方よ」

 スネークはしばし答えるのに躊躇したが、問題ない、と答える。同じことをボスにも言われた……偶然に思えなかったすねークは、僅かに考え込んでしまったのだ。ならよかった、と安心したように言った紫。霊夢にも話題を振る。

「霊夢、よかったわね」

「何かよくわからないけど……まあいいわ。とりあえずスネーク、ひとつだけ先に忠告しておく」

「ああ」

「これから行くのは、さっき私が行くのを止めさせた山、妖怪の山よ」

「ああ、あの妖怪やら天狗やらがいるという」

「ええ。だから、下手をすれば命を落としかねない……それでもいいわね?」

 霊夢は先程のスネークの即答に迷いが無いことに気付いていた。ゆえに、こうして確認の形をとったのだ。スネークも、その問いに答えを変える程若いわけではない。

「これでもいつ死ぬか分からない世界で生きている。覚悟があるか、と問われれば答えは決まっている。俺に銃を捨てる選択肢はない」

 スネークの答えに覚悟以上のものをどこか感じた霊夢は、わかったわ、とそれを受け入れた。

「それで紫、あんたはどうするの」

「私? (マヨヒガ)に帰って結界を調べてみるわ」

「分かったわ。さて、じゃあ行きますか……」

 

 

 

 

「さて、それじゃ――――」

 霊夢とスネークが神社を出発しようというまさにその時。

「毎度どうも! 清く正しい――――ってあやややや!」

「霊符「夢想封印」!!」

 まるでミサイル迎撃システムのような反射速度で、高速接近してきた烏天狗、射命丸 文にスペルカードを展開した。が、持ち前のスピードを活かして危なげながらもすべて回避して見せる。

「い、いきなりですね」

「いきなり突撃取材に来たのはどこの誰かしら?」

 全部かわしやがって、と心の中で舌打ちをする霊夢。夢想封印は割と広範囲に広がる追跡弾の多いスペルであるがゆえに、回避難度で言えばそれなりのものなのだが。

「あやややや? 私はちゃんと許可をもらいましたが」

「誰に?」

「誰にって、すぐそこにいるじゃないですか」

 そう言って文が視線を送った先をみると――――

「え? って紫!?」

 あら、言ってなかったかしら――――としらばっくれる紫。霊夢はいつものことだと諦めて、次の対策を展開する。

「悪いけど取材ならお断りよ。出かけなきゃいけないから」

「そうですか。ところで、妖怪の山、最近はちょっと危ないですから注意してくださいね」

「はぁ……って、いつ私達がそこに行くって言ったかしら?」

「そりゃもう、スキマから丸聞こえでしたよ」

 取材許可もへったくれもあったもんじゃない。それではただの盗聴である。その怒りの矛先は真っ先に、黒幕たる八雲 紫その人に向いた。

「……紫。後で覚えてなさい」

「あらあら、困ったわ」

 そう言う彼女だが、表情は全く困っていない。まあこのやりとりもまた、毎度のことであった。霊夢はそんな紫を放っておき、先程文の言ったことに質問をぶつける。

「ところで、危ないってどういうことよ」

「最近警備を担当する白狼天狗がピリピリしてるんですよ。なぜかは知りませんけど」

「……だって。どうする? スネーク」

 言外に行きたくない面倒くさいと告げる霊夢。だが、スネークは何度も朴念仁だと言われる位には鈍感である為、それは無意味であった。

「後回しにしてもいいが……一番希望が見えるのはその妖怪の山の中なんだろう?」

「……はぁ。行くしかないか……」

「まあ、行くのはいいんですけど……私も天狗としての役目があるわけで……」

「あらあら、融通の効かないこと」

「手加減はしますから、全力でどうぞ?」

 この一言が身を滅ぼす事になろうとは、文は露ほども考えなかった。せいぜい、先程と同じく夢想封印位が飛んでくるだろう――――そう楽観していた彼女だった。が、霊夢は今鬱憤を晴らせずイライラしていた……それが誤算であったことに気付けなかったのだ。

「あら、そう? じゃ、遠慮なく――――「夢想天生」!!」

「えっちょっ、あやややや!!」

 いきなりラストスペルクラスをぶっ放す。油断していたところに一切の躊躇なくはなたれたそれを、彼女はなすすべなく慌てる位しか出来なかった――――

 

 

 

「さ、行きましょ」

「放っておいていいのか?」

 ズタボロになった文を置いて、霊夢はすたすたと歩き始めた。慈悲のかけらも全く感じない。

「いいのよ。どうせスペルカードルールで死ぬなんて、当たりどころが悪かったとき位なんだし」

「どういうことだ?」

「スペルカードルール。この幻想郷での所謂「お遊び」よ。スペルカードっていうものを使った、「弾幕ごっこ」ね。お互いの地の強さというより、弾幕がいかに派手か、とかきれいか、なんかを重要視するわ」

「なるほど。勝つための、というより魅せるための弾幕か」

 先程霊夢がばら撒いた弾幕が、やたらと広範囲に大量にばら撒かれたのはその概念に沿う為であろうと考える。

「他にも、妖怪に人間が対抗するためっていうのもあるわ。そうねえ、「殺し合い」とかそういうのじゃなくて、ルールの中でやる「試合」とか「決闘」に近いかしら」

 実際のところ、それ以上に逆に、博麗の巫女が手加減する為というのもあるのだが。

「ふぅむ……しかし、さっきのはかなり派手だったが……あれでも死なないのか」

「(多分)死んでないわ。ちなみに、スペルカードルールじゃない限り、殺されないとも限らないわよ」

 というより、恐らく確実に命を狙われる。霊夢が先程言ったように、妖怪相手に勝てる人間はそう多くない。知恵と数でようやく人は対等に戦えるのだ。

「それは恐ろしいな。どうすればいい?」

「あんたもスペルカードを持つ、ってのが一番じゃない? 時間がそれなりにかかるから今は無理だけど」

「そうか……まあ、見つからないよう隠れて進めばいいんだろう?」

「まあね。そううまくいくとは思えないけど」

「それなら俺の本業だ。それに、装備も潜入用なら困らない程度にはあるからな、大丈夫だろう」

「そう。じゃあ、行きましょう」

 そう言って今度こそ2人は歩き始めた。目指すは妖怪の山、守矢神社である。

 

 

 

 

 

 真っ赤に彩られた山の中にて、2人は歩いていた。スネークの後をついていく霊夢は、彼の本業という言葉がハッタリでは無かったことを知る。前にいるスネークは、前方を通り過ぎていく天狗達を観察していた。少数で班を組んでいるようだ。恐らく哨戒を担当しているのだろう。

「霊夢。あの建物か?」

 見え始めていた博麗神社と似たその建築物を指し、スネークが問う。

「ええ。あれが守矢神社……この幻想郷にある神社の一つ、そして……建物ごと引っ越してきた珍しい所よ」

「よし、早速行ってみよう」

「あー……私としては嫌な予感しかしないから行きたくないなぁ」

「そうか?」

「私の勘はよく当たるわよ? そりゃもう適当にふらついても異変の元凶にぶち当たる位には――――とはいえ、今回はあいつら(守矢の三人)が異変の原因じゃないだろうけどね」

「それも勘か?」

「ええ。まあ、前科があるから、無いとは言い切れないけど」

 それを最後に、2人は天狗達が居なくなったタイミングを見計らって一気に走り出した。一直線に守矢神社へと向かって。


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