おりじ☆すとらいくっ!〜私、絶対天敵になります〜   作:あっき54868

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オリジス・エンカウンター

 全国大会当日。

 先に着替え終えた私は、控室のすぐ外でチームメイトを待っていた。

 

 

「なんなんだろ、これ」

 

 ふと、ポケットから取り出したのは昨日の球。

 気づいたらポケットに入れてしまっていて、そのまま大会の会場まで持ってきてしまったのだ。

 

 ひんやりとした手触りと、サイズにしてはずっしりとした重量感はメカのパーツっぽさを感じられるし、実際あんなところに落ちていたのだからそうなのだろう。

 だけど……こんなもの。

 いったいどこに使うんだろうか?

 

「この英語もなんだって話だし。えっと、おーあーる……ぜっと……」

「んにゃ? どったの」

「うひゃあっ!?」

 

 唐突に背後から聞こえた声に、つい球を取りこぼしそうになってしまうが……すんでのところでキャッチ。ついでにそのままポケットへ。

 

 まったく、この子ときたら……。

 

「にゃはは、驚きすぎ」

 

 桃色の髪を揺らしながらケラケラ笑う、小柄な少女――(アズサ)

 

 絶対天敵との(こないだの)戦争終結後しばらくして、私の通う烙銀高校にやってきた留学生。

 

 ――なんだけど、これがまぁーいろいろとトンデモない奴で。

 

「そんなことより、早く約束通りIS学園生んとこ連れてってよ!」

 

「まーた、そればっか。敵のメカでしょ?」

「細かいことは気にするにゃっ♪」

 

 なんとこの子。

 自分たちを散々苦しめたはずの飛行パワードスーツにお熱なのだ。

 

 ISオタクを拗らせて、わざわざ次元を超えて留学してくる程度には。

 

「IS学園に通えばよかったのに」

「それは流石に無理だったって何度言えば……」

 

 嘆息混じりの言葉で、うちを留学先に選んだ理由を思い出す。

 

 烙銀もIS学園も陸上が全国常連。

 だから大会で向こうの生徒と接触を図り、コネを作るためとかいう。

 

「不純な奴め」

「それ相応に頑張ったんだから、文句は言わないでほしいにゃあ」

 

 まぁ、確かに。

 うち強豪校だから大会出るのも大変だし、私と一緒に最後まで毎日居残って練習してたし。

 

 それに、まぁ――。

 

「私も、人のことは言えないか」

「なにが……っと、アレかな?」

 

 梓が前方を指差す先にいたのは――月並みな表現だけど、美少女の集団だった。

 

 ユニフォーム姿が大半だが、ちらほら私服姿の子も見える。応援に来た子達だろうか。

 

「莉瑠、久しぶりっ♪」

 

 ユニフォーム組の一人。

 

 黒髪ロングの子が私に気づき、ぱあっと明るい笑みを浮かべて駆け寄ってくるが――この子こそ。

 あの日から何年も時間が経って、今やしっかりと美少女に成長した私の幼馴染で。

 

 私がずっと――。

 

「う、うん。久しぶり……わひゃあっ!?」

「ほれほれー、私がいなくて寂しかったろー?」

「いや、みんな見て!?」

 

 いきなり抱きつかれて、髪をわしゃわしゃと撫でられて。

 口では抵抗してみたものの、満更ではないというか――顔がめちゃくちゃ熱いというか。

 

「な、ナギそろそろ……!?」

「むー、つまんないなー莉瑠は」

 

 むくれ面で離す姿だけ見たら、本当に倍率一万倍を突破したんだろうかとちょっと疑いたくなる。

 ついでに、もう少し好きにさせてあげてもよかったと後悔もする。

 実際、私も寂しかったし。

 

 だけど、ナギに言わなきゃいけないことがあるんだから。

 お互い普段は離れ離れになって中々機会もなくなったうえ、開会式までもう時間もないんだ。

 

 だから、今日こそ――。

 

「あ、あのナギ……」

 

 心臓がバクバクいう中、意を決して口を開いた途端。

 

「ねえ見てよ莉瑠!」

 

 狙い澄ましたかのようにナギが遮ってきて、手を見せてくる。

 

「え、指輪? なにこれ、いくらしたの?」

「むー、専用機だよっ!? 待機形態!」

 

 残念ながらナギの言葉は、多分凄いということ以外わからない。

 ただ――着けてる場所が場所なだけに。

 これから言おうとしていた言葉が言葉なだけに。

 

 なんか、複雑な気分ではあった。

 

「分かりやすく言えば、これで私も超勝ち組だってわけなんだよ。ま、莉瑠には分かんないかもねー、アホだし」

「あ、あほ言うなし……」

「いーや、莉瑠はISの希少性から分かってないから。今何個コアあるかも言えないでしょ?」

 

 うんうん頷きまくっている梓に、確か700くらいでしょと頭の中で考え――ってそうじゃない!

 

 ああもう、こんな時にややこしいのが口挟んできたなぁ。最初っから隣にいたけども!

 

「ところで莉瑠、そっちの子は――」

「はじめまして、梓・スプリガンです! 好きなものはIS! 留学動機もIS! 三度の飯よりISが好きで好きで好きで――」

「うー、わかったから! もうっ!」

「にゃはは、ごめん。つい舞いあがっちゃって」

 

 その後はもう、あっさりと馴染んでナギどころか周囲の子達とも談笑している姿を見ながら。

 猫みたいな子だよなぁ本当に、笑い方といい。なんて思ってしまう。

 うちの高校でも、転入直後から友達たくさん作ってたし。

 

 私なんかと、違って。

 

「集合時間だから、ごめんそろそろ」

「う、うん」

「んじゃ、また後でね! 莉瑠!」

 

 一人悶々としていると、最後にまた頭を撫でてくれてから。

 手を振って、先を歩くチームメイトの列へとナギは加わっていった。

 

 ほんっと、いつも向こうにペースを握られるよなぁ私。友達になってからずっとそう。

 でも、だからこそ。

 私、あなたに――。

 

「多分あれ嘘じゃないかなー、多分専用機持ちじゃないよ」

 

 感慨に浸りながら。

 見えなくなるまで手を振っていた私を現実に引き戻したのは、急に真面目な顔をした梓の辛辣な言葉だった。

 

 IS好き好き人間の言うこととはいえ、ちょっとそれにはムッとする。ナギが頑張って成果出したかもしれないでしょ。

 

 難易度知らないけど。

 

「陸上部はみんなつけてて、応援に来たであろう私服の子は着けてなかったからさ」

 

 ま、学園の看板背負ってるやつは狙われるかもって判断だろう。

 続けて付け足す梓の言葉に納得はしつつ、少しだけ落胆していた時だった。

 

「と・こ・ろ・でぇ……あのナギって子の事、もしかして好き(ラブ)なのかにゃあ?」

「んな、なななななななっ!」

 

 いきなりニヤニヤしながら煽られて、全く覚悟していなかったから。

 すっとんきょうな声が通路に反響して、周囲にジロジロと見られてしまう。はっずかしい……。

 

「隠さなくていいのに」

 

 にゃはは、と楽しそうに笑う梓は全部お見通しと言わんばかりだったし。それにこの子相手なら良いと思って。

 少しだけ間を置いてから、告げる。

 

「ナギとはその、あれ……小1から知り合って……」

「なるほど、幼馴染と」

「んで、小3の時に友達なって、中学の時から……」

「もちっと前にはもう、じゃないかにゃあ?」

 

 あぁもう、時期までこんなあっさりと――だったらもう開き直る!

 

「本当は友達なったのと好きになったのがイコールですっ!!」

 

 顔に熱が溜まっていく感覚がする中、視界の先の梓は満足げに何度もウンウンと首を縦に振っていた。

 くっそぅ、あれ完璧面白がってるでしょ……。

 

「なーるほど。いやぁ、一途で結構。青春ですにゃあ!」

「う、うっさい……」

 

 ただまぁ、口とは裏腹に。

 この子のこういうところは嫌いじゃない――むしろ好きだとも思っている自分がいたりもする。

 

「だったら早く告りなよ。相当レベル高いしあの子。もたもたしてると誰かに取られちゃうぞ?」

「わ、わかってるよ! そんなこと!」

 

 でも、女の子同士だし。ナギに引かれないかちょっぴり怖いし。失敗したらもう、友達でもいられないかもだし。

 

 もしあの子に拒絶されたら――もう友達でもいられない。そばにいてくれないかも。

 なんて、思ってしまって。

 

 今まで踏ん切りがつかなかったのも事実で。

 

「だから今回、優勝したら話があるって言おうとしてて……」

告白遠慮系女子(ラノベヒロイン)かにゃあ!?」

 

 かなりの大声で突っ込まれてしまってから、しばらくの沈黙。

 それから溜め息ひとつつき、梓は私に向き直った。

 

「あのにゃあ、好きならさっさと言わないと人生の浪費。早く言えばそれだけ早く、あの子とデート出来るんだよ?」

「で、でもタイミングが――」

「ばーか。ここから先、もっと悪くなるかもしれないでしょ? 例えば向こうが本当に専用機持ちになったら、会える時間だって限られるし」

 

 言われてみれば、確かにその通りだ。

 

 考えてみれば中学時代も、言うタイミング考えて考えて。でもアクシデントやナギに話す内容に関して先を越されて――。

 

 結果、離れ離れになって今に至ったんだもんなぁ。

 ああもう、こういうとこだけはあの日から変わってない気がする!

 

 もういい――だったら!

 

「よし、じゃあ次会った時に言おう!」

「ま、それが一番だにゃあ♪」

 

 嬉しそうに肩をぽんぽん叩きながら、ガンバレと応援してくれる梓を見て。

 この子が言うと説得力あるなぁ、なんて思ってしまう。

 なにせ。

 

絶対天敵(ぜったいてんてき)なのにIS好き公言してるしねぇ」

「何をいきなり!? あと絶対天敵(そのまま)読みするなぁ!? 私は誇り高いイマージュ・オリジス次元の人間なんだからね!?」

「あー、そんな読みだったっけか」

 

 誇り……敵の武器にラブコール送ってるのに? なんて考えてた時。

 何かが繋がったような気がした直後に、その正体に思い当たる。

 

 確かあの球に書いてあった文字。

 その、最初の部分は。

 

Orizis(オリジス)?」

 

 まさかと思い、梓に球を見せようとした瞬間だった。

 突然の爆発音と共に、スタジアム全体が大きく揺れたのは――。

 

 

 IS学園のISが迎撃に出たとアナウンスがあったにもかかわらず。

 地下シェルターの中は、恐怖と混乱が充満していた。

 

 白騎士事件以降は公共施設に設置が義務付けられていたとはいえ、実際使ったことがある人なんてほとんどいない。

 こんな非日常の塊みたいな場所に閉じ込められれば、無理もなかった。

 

「なんでこんな!?」

 

 遠くから聞こえてきた叫びは、この場にいた全員の代弁にも思えた。

 ――いや、ただ一人を除いて。

 

「ふぅ、やっと繋がった」

 

 ここに着くなり高速で端末を弄り続けていた梓が言うや、空中に映像が投影されていく。

 監視カメラでもハッキングしていたのか、映し出されたのは外の様子。早速交戦状態になっているらしく、銃声や金属音が耳をつんざく。

 

 ほんの少しすると、ナギ達が戦っている相手が映し出されたが――。

 

「これって……あんたンとこの!?」

 

 そこにいたのは、カマキリめいた小型機械。

 数ヶ月前まで、テレビで見ない日はなかった異次元の兵器であった。

 

「よく見て」

 

 首を振る梓に促されるまま再確認すると、確かにどこか違和感を覚える。前見た時はもっとこう……。

 

「なんか、歪なような?」

「残骸からレストアしたんだろうね。足りないパーツは通常(じまえ)ので、強引に補って」

 

 自分達なら、絶対にこんな使い方はしないと付け足す梓の声の直後。でかでかと機体側面に描かれたマークが映し出されていく。

 

 ハロウィンのカボチャと、その下で交差するライフル銃の紋章。

 間違いない、このマークは反女尊男卑団体の……!

 

「魔怖帝……!」

 

 アホな私でも知ってるほどの集団で、その実態はただのテロリスト。

 男女平等のために動いてた団体に爆破テロを起こすほどに、見境のない最低の集団。

 

 そんな奴らと、ナギが戦っている――最悪の未来を連想し。でも何もできない自分に歯噛みしてしまう。

 

「仮にISがいたとしてもヒヨッ子とお守り程度。なんとかなるって考えて踏み切った感じかなー」

「何を呑気なこと……!」

「だってそりゃあ……ま、見てれば分かるから」

 

 焦りと怒りに突き動かされ、反論しようとしたその時。画面の向こうで爆発音がする。

 見れば、教師の指揮のもと。次々と絶対天敵がスクラップに変えられている真っ最中だった。

 

「あれ、ザコい?」

「というより、下級なんてこんなもんなんだよ」

 

 奇襲や数の暴力でもない限りIS相手だと、弾を消耗させるのが精々と梓は続けていく。

 あらかた対等に戦えるメカが出てきたと舞い上がり、碌に調べないで投入してきたんだろうにゃあ、とも。

 

 余裕だとわかり、気持ちにも焦りがなくなってか。

 

 シェルターの中はいつの間にか、まるでスポーツ観戦でもしているかのような雰囲気になっていた。

 ナギの近くにいた応援組が最前列を陣取って、画面に向かって声援を送っている姿なんてまさしくそれだろう。

 

「いっけーナギ!」

「やっちゃってよ、そんなガラクタなんか!」

 

 声援の中、画面は順調に敵をスクラップにしてくナギたちの姿が映し出されていて。

 このままいけば、鎮圧も時間の問題だろうと梓も口にしていて。

 

 私も、胸をなで下ろしたい――はずなのに。

 理屈は、画面に映る状況と合っている。そのはずなのに。

 

 何故か、不安を拭えないままだった――そんな時だった。

 

 たった一撃で形成逆転が起きる瞬間が、起きたのは。

 

 突如として鉄拳が文字通り飛んできて、壁を貫き。指揮をしていた教員のISへと直撃する。

 そんな映像が、画面に大きく映し出されていた。

 

 あまりの光景に、スタジアム内も私たちも呆気にとられる中。

 拳の持ち主は、姿を現した。

 

 水を滴らせているのは、近くの海中に潜んでいたからか。

 我が物顔でスタジアム内を闊歩する、ゴリラめいた大型の二足歩行マシン。

 

 そいつが戻ってきた拳を再接続する光景が、モニタには堂々と映っていた。

 

 教員はスタジアム外にまで勢いよく飛ばされ、姿が消えていった。生死は不明だけれど――少なくとも、もう戦えないのは素人目に見ても明らかだった。

 

 指揮官を失い、大パニックに陥る戦場。

 その空気は、地下のシェルター内にも伝わっていってしまった。

 

「お、おいコレって」

「あのゴリラ……ノクターン級はパーソナライズされた量産ISとも引けを取らない性能……たとえ、中古品(キズモノ)でも」

 

 続く梓の、最寄りの軍基地からISをマッハで飛ばしても、多分という言葉。

 

 それが聞こえて、何も考えられなくなる。

 

 ナギのクラスメイト達は絶句したり泣き叫んだり……反応こそ様々だったが、皆一様に取り乱す中。

 

「このままじゃ……ナギが――――!」

 

 その中の一人が叫んだ言葉と、ふいにぶり返してきた、さっき抱き着かれたときのナギの温もり。

 それらが私を、放心状態から引き戻させていった。

 

「な、何か!? 戦える機体とかないの!?」

 

 梓だって絶対天敵でしょ!? 一体くらいロッカーの中に小型化して隠してるとか言ってよ!?

 完全に支離滅裂、アホ丸出しなことを言っている自覚はあった。

 でも、今はそう叫ぶしかなくって。

 

「こっちに来るのに、そんな兵器なんて持ってこれるわけないでしょ!!」

 

 首を横に振って。私の手を振り払いながら、叫び返した梓の言葉に。再び、頭が真っ白になっていく。

 

「量子生体移植(インプラント)タイプなら、話は別かもしれないけど……アレのコアなんてまだ……」 

 

 その直前に、聞き取れた発言の中にあった単語――コア。

 

 それを聴いた直後、気づけば梓に再び掴みかかっていた。

 

「コアって何!?」

「今それはどうでも」

「よくない!」

「それに話したところで――」

「いいから!!」

 

 私が手を離すと数度梓はむせ込み、それから続ける。

 

「IS側のデータをフィードバックした最新式で量子展開が可能なタイプだよ。だけどまだ解析不十分で試作段階。小型のコアを身体に入れて適合させないとダメで――」

 

 

 言葉の途中で、それを遮るように。

 私がポケットから取り出した例の球を見た途端、梓の目が驚きで見開かれる。

 

「どこでそれを――」

 

 懇切丁寧に答えてもいいのかもしれないけど……何となく分かる。今答えたらタイミングを逃すと。

 もしかしたらこのまま奪われて、梓がやってくれるのかもしれないけどさ。

 

「それじゃ、意味ないんだよ」

 

 つい声に出してしまったが、それが私の本心だ。今はもう、あの日みたいなうじうじ莉瑠じゃあいられてない。いてたまるか。

 

 それにさ。

 やりたいことはなんでもささっとやる。

 

 ――でしょ? 梓。

 

「ごめん」

 

 この後の私を案じてくれたのか、制止しようとしてくれた梓に謝ってから。

 私は大口を開けて、勢いよく球を丸ごと呑み込んでいく。

 埋め込み方は分かんなかったけど、イチかバチかだ。

 これでダメなら生身で突撃してやる。

 

 なんて思っていた――瞬間。

 

 ドクン、と。強く心臓が跳ねて。身体が痙攣する。

 

 全身が、熱い。

 つうっと、鼻から血が垂れ出ている感覚もする。

 

「莉瑠、その肌――」

 

 呆然と見てくる、梓とIS学園生たち。

 

 何が起きてたのか分からず、右手を視界に入れると、どういうわけか、肌が浅黒いけど。

 

「ん、ああ……まぁ、気にしないで」

 

 我ながら適当な受け答えだと思うが、今は肌色の豹変(さまつごと)に構っているヒマなんてなかった。

 

 頭の中には、現在進行形で膨大極まりない情報が流れ込んでいたのだから。普段頭使ってなくてよかった、使ってたら入らなかったよ……なんて、思うくらいにはすごい量だ。

 

 基本制御起動とか操縦法から、対IS戦闘術に至るまで。

 

 それらすべてが植え付けられた瞬間、ひときわ大きな衝撃が外からして。

 大きな揺れとともに、天井の照明が消えた直後。

 

 額に怪しげな紋章が灯ったと思ったら消え、一瞬の間だけ闇を照らし出していった。

 

「……インストールは完了ってとこ?」

「行ってくる、もうここも危ないし」

 

 それに、ナギはもっと。

 続く言葉は胸の内だけで発しつつ、出口へ向かって歩き出すが。

 

「待って」

 

 呼び止められたと同時、追ってきた梓が何かを手渡してくる。

 今は時間がないんだけど……。

 

「今の莉瑠に経験と策はないでしょ?」

 

 渡されたのは梓のサブ端末。

 

 自分のはロッカーの中だし、言われた通り無策だったしで……ニヤリと笑う彼女の手から受け取り、すぐさまメイン端末へと通話状態にしておく。

 

「ありがとう」

「いいから行って……三番出口の方に向かうのが、おそらく一番近い」

 

 二回目の礼の言葉は背を向けながら、端末に向けて言って。

 

 扉を出てから、思う。

 

 まさかナギに恩返しできる場面が、こんな形で来るなんて、と。

 まったく、いい友達に恵まれ続けてるよ、私は……と。

 

 それから一度だけ、目を瞑ってから決意を固めていく。

 

「行くよ――」

 

 勢いよく見開きながら、身体に宿った相棒へと声をかけていく。

 本来の命名測から外れた絶対天敵(イマージュ・オリジス)。その名も――。

 

「『灰燼(バスタード)』級ッ!」

 

 

 せめて自分だけは、冷静でいようと決意して。

 

 狂乱に支配されそうになる意識を必死に繋ぎ止めながら、ナギは戦場を駆け巡っていた。

 

 出来るだけノクターン級の攻撃を回避しつつ、残存していた下級絶対天敵を撃退して回る。

 既に味方の大半はパニック状態で、ろくな回避行動さえ出来てない者までいる始末だった。

 

 おまけに意識はノクターン級に向いているせいで、雑魚からの機銃は面白いように装甲に当たり、カンカンと音を立てていく。

 

「足を止めないで! せめて、せめて小さいのだけでも!」

 

 仲間への通信は、半分自分に言い聞かせたようなものだった。

 

 今の自分達に状況を打開する切り札はない。

 さりとて、このままではさらなる脱落者が出るのも時間の問題。

 

 ならば、今できることを最大限にやって耐え凌ぐのが最善。

 

 一年からレギュラーなだけあり、ナギのそれは冷静な判断であった。

 

「ほぅ……貴様はやるようだな」

 

 自らの行動が裏目に出たと知ったのは、ノクターンの鋭い眼光(ツインアイ)に射抜かれ。

 

 外部スピーカーの声とともに尻尾が動き、先端に仕込まれた銃口を向けられた時だった。

 

 背筋を嫌な汗が伝って、体が今にも震えを訴えてくる。

 

 だけど、それに囚われてしまっては終わりだと思って、ナギは数瞬で決意を固めていく。

 

 今出来ること。

 それはこいつの注意を自分が引きつけ、時間稼ぎに徹すること!

 

「私がこいつの相手するから!」

 

 短くオープンチャネルで伝えると、倒したばかりの下級絶対天敵から刀を引っこ抜くのさえも諦めて。

 

 ブースター全開。一目散にナギは逃げ回りはじめる。

 実弾ライフルで迎撃を試み、倒された残骸を遮蔽物に。そして敵の攻撃の合間に、それを踏みつけ跳躍。

 

 ありとあらゆる手を用い、ほんの一秒でも長く。

 尻尾の機銃や増設された銃座(ターレット)、さらに生き残った機械昆虫の攻撃に晒されながらも。

 ナギの打鉄は、縦横無尽にスタジアムを駆け巡っていく。

 

 しかし、徐々にシールドエネルギーは被弾と共に減衰していき。

 ついには。

 

「万策尽きたな」

 

 壁際に追い込まれ、まともに砲撃を浴びせられてシールドが尽きて打鉄から煙が上がり。

 活動限界を迎えたナギを、機械仕掛けの巨人は嘲っていく。

 

「では、狩らせて貰おうか、貴様のISを! 小娘、お前ごと!」

 

 興奮した男の声を、ナギはまともに聞いてはいなかった。どうせ大したことは言ってないだろうと。

 

 ただ、鉄拳が飛んでくる光景に目は瞑ってやらない。

 怯えた獲物になんてなってやらないと、最後の意地を振り絞る。

 

「ごめんね、莉瑠」

 

 こんな時に思い出したのは、ついさっき再開したばかりの幼馴染。

 

 出会った頃はいつも自信なさげで。ぶすっとしていて。

 友達になってからも、ずっと自分の後ろばかりついてきた少女。

 高校生になって、自分と別々の学校に通っても明るいみたいで安心したけれど。

 

 でも、もし。

 

 自分がいなくなったら、またあの頃に逆戻りなのかな――なんて思ったら、蓋をしていた気持ちが溢れ出してきて。

 視界がどんどんと、滲んでいく。

 

 嫌だ、まだ、こんなところで――終わりたくない。

 

 終われない。

 

「死にたくないっ!」

 

 叶わぬ望みと知りつつも、思いの丈を叫んだ――瞬間だった。

 土埃を舞い上げながら強烈な破壊の音が周囲一帯に響き渡り、ナギの声をかき消していく。

 

 その願いを叶えるとでも言わんばかりに。

 

「絶対天敵……!?」

 

 砂塵を巻き上げ、地面から這い出てきたのは「銀」の巨体。

 鋼鉄の脚で大地を割りながら踏みしめ。叩きつけられた尻尾はナギのすぐ真横の客席を破壊して。

 全身各部から、眩くも鋭い赤の残光を迸らせるそれは。

 

 ナギのすぐ目の前で、放たれたノクターンの拳を受け止め。それを両腕で力強く握り。

 

 そして――返すと言わんばかりに。

 巨腕を鈍器にして、もともとの持ち主へと叩きつけていく。

 

「――ッ!」

 

 衝突と同時。

 ISの音響補正すら貫通するほどの大音響が辺り一帯に轟き、わずか一撃でノクターンを撃破。

 スクラップと化した巨体が地面に倒れ伏し、再び爆音が支配する中。

 

 「銀」が振り返り、相貌でナギを見つめていく。

 

「ドラゴン型……?」

 

 それは、見たことも聞いたこともない機体だった。

 赤く光る棘の生えた、銀色の竜型絶対天敵。襲撃者と敵対しているということ以外、機体も所属も何も分からない。

 

 どうして地下から現れたのか。

 何故、このタイミングまで沈黙していたのか。

 どうして襲撃者と敵対しているのか。

 そして――誰が、操縦しているのか。

 

 何も分からなかったが――その光景を見て、ナギは呆然と呟いた。

 後から思い返しても、どうしてそう、分かったのかは不明なのに。

 

「――莉瑠、なの?」

 

 




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