おりじ☆すとらいくっ!〜私、絶対天敵になります〜   作:あっき54868

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絶天の血盟

 ハッチが開く機械音を目覚ましにして、ゆっくりと瞼を開けていく。

 

「んぁ」

「目ぇ覚めたかにゃあ、寝ぼすけさん?」

 

 コクピットに足を踏み入れてくる梓の背景は、なんだかやけに暗い。

 側面のモニターに表示された時計で確認すると、ギリギリ日を跨ぐか跨がないかという時間だった。

 

「ま、寝てたんなら展開しっぱなしでよかったのかも。風邪ひいても困るし……なんて。にゃはは」

 

 隙を見て回収したのか、梓が投げ渡してきた荷物。それを受け取りつつ、意識を失う前のことを思い返していく。

 

 ノクターンを倒して、生き残りのザコを全滅させた直後、がなり立てるレーダーが軍の輸送機の接近を告げだした。

 流石にもう一戦交える体力も技術もなかったから、梓の指示通りに一目散に逃げだして。

 

 絶対天敵戦争の戦地跡である、この廃墟エリアまでたどり着き。

 半壊した教会跡を見つけて隠れたところまでは覚えているけれど……それ以降は、さっぱりだった。 

 

「あの後、どうなった?」

 

 逃げるのに精いっぱいで、ぶっちゃけ他の事考える余裕がなかったし。

 

「すぐ、軍のIS部隊がやってきて鎮圧完了。終わってみれば結局、死者は出なかったよ――あのノクターンのクソバカは死んでおけばよかったのに」

「そっか、あの吹き飛ばされてた先生も無事だったんだ」

 

 馬鹿正直かつ、ちょっと過激な梓の感想につられて。

 

「あったり前だにゃあ! 搭乗者保護機能の凄さ、これで莉瑠のアホにも少しは分かったでしょ!?」

「う、うん……まぁ」

 

 私も、思ったままの感想を口にしたのが拙かった。

 これ完全に梓のIS好き好きスイッチ入れちゃったと気づいたのは、彼女がものすごい勢いでまくし立て初めてからだった。

 

 あっちゃー……こうなると長いんだよなぁ。

 前なんて昼休み中延々と、非固定なんとかがだの絶対なんとかだのと理解不能の単語をマシンガンのように連射したりしてたし。

 

「しっかし第二世代(量産機)でこれなら第三世代機なんてもっと……何なら第四世代(あかつばき)……そういえば、ルクーセンブルクにも第四世代が確認されたって話も……いやぁ、あれだね! ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!!」

 

 まぁでも、以前と同じように接してくれるってのは、なんというか、凄く――。

 

「今、なんて? 強制送還とか……聞こえたけど」

 

 感慨に耽っていた私の意識は、ふいに梓が紡いだ不穏極まりない単語で現実へと引き戻されていく。なんでこの子が責任をおっ被されなきゃいけないの?

 疑問と憤りに支配されていく私を、梓は優しい顔で眺めてから……ふっと笑って。

 

 

「ま、絶対天敵人間を逃がす手伝いをしたんだもの。それくらいは甘んじて受け入れるとするにゃあ」

「そんな、私なんかを逃がしただけで」

 

 所詮この力は八坂莉瑠のものじゃない、機体側のもの。訓練だってなんか受けたわけでもない。

 球さえ呑み込めば別に誰だってできることなわけなんだし……。

 

「あのにゃあ」

 

 ただでさえイレギュラーだらけなのに……まぁ莉瑠に言っても仕方ないかも、アホだし。

 なんてさりげなくディスられた気もしたけれど、梓はしっかりと教えてくれた。

 

 絶対天敵はISと互角ないしそれ以上に戦えるうえに、男でも女でも使える。

 おまけに生体移植タイプは本来、適性のある人間を対象に専用の手術で埋め込むもの。吞み込んだだけで適合できるなんて普通じゃない。

 

 現代の国防はISで十中八九決まっている時代の真っ只中に、こんなものを手に入れた人間が現れた。

 

「絶対天敵次元は惑星単一国家だから憶測も入ってるけど。もう、ここまで言えばわかるでしょ?」

「ごめん、えっと……一言で言って」

 

 うっわ、物凄い呆れ顔で見てきてる……溜め息もすごいし。

 でもまぁ、こういう時もしっかり答えてくれるのが梓。ちゃんとアホが分からなかったとき用の答えも用意してくれていた。

 

「今の莉瑠の価値、女版織斑一夏」

 

 流石に私でも分かるレベルの超絶ビッグネームを出されたら、あまりの事態の大きさに気圧されそうになってしまって。

 ついでに今年の冬頃、さんざんテレビで取り上げられた際の話とかも思い出してしまった。

 

 確か男性操縦者の謎を突き止めるためにDNA検査がどうとか、研究所送りだとかIS委員会の本部に監禁されるとかなんとか――待って、あの時言われてた中には……。

 

「解剖されて、ホルマリンに入れられる!?」

 

 それは考えうる限り最悪のケースだったし否定してほしかったんだけど、梓は驚きで目を見開いていて。

 

「ホルマリンは知ってたのか……」

「いや突っ込むとこそこ!?」

「化学は私が教えなくても赤点回避できそうだし、いやぁ負担が減って何よりにゃあ」

 

 今話すことかよぉ!? なんて思いながらも。負担言うなら今、私の手助けしているほうがはるかに大きいのに……なんて感じたら、ますます事の深刻さが私にも分かって。

 

「悪い事ばっかりじゃないって思ってるから、平気」

 

 そんな事態に巻き込んだことを、まず謝ろうと口を開く直前。まるで見透かされたように、梓は笑いながら先回りしてきたものだから……なにも、言えなくって。

 

「このまま逃げ続けたらISを相手取ることになるし……そうしたら、特等席でIS学園の専用機とかも見られるかもだし。結果オーライだにゃ」

 

 にゃはは、と笑いながら言い放たれた言葉。それは何一つ納得できない代物だったけれど。

 

「それに……友達助けられなかったら、そっちのが後悔する」

 

 なんて殺し文句を突きつけられたら、もう。謝ったら許されない気もしてきて。

 

「ありがとう……本当に、感謝してもしきれない」

「いいっていいって! 気にしないで!」

 

 私の気持ちを知ってか知らずか。

 梓はいつも通りの明るい声で言ってから、下の方へと手招きしていく。すると装甲を足場にして上っているんだろう。カンカンという音が聞こえてきたかと思うと。

 

「誰か、他にもきているの?」

「んー、一言で言うと……スペシャルゲスト?」

「莉瑠、大丈夫?」

 

 要領を得ない梓の言葉に、頭の中に疑問符が浮かんでくる中。開きっぱのコクピットハッチの向こうに見えてきたのは――私が、命がけでも守りたかった人で。

 

「え、ナギ……なんでここに?」

 

 無事なことを、この目で確認できたのは正直……舞い上がっちゃいたいレベルで嬉しい。

 でも反面、わざわざ危険を冒してまで私なんかに会いに来てくれたのか……とも思ってしまって。

 

 固まってしまった私は、これだけ口にするのが精いっぱいだった。

 

「お礼したいんだって。にゃあナギ?」

「うん。だから、梓に無理言って、いっしょにね?」

「無茶するなぁ」

 

 もう名前呼びになるほどあっさり仲良くなれるとことか、思い立ったら即断即決なところとか。

 ほんっと、そういうとこは子供の頃からなんにも変わってない。

 こんなになっても、私のことを放っておいてはくれないみたいだし。

 

 でも、今回は――今回ばっかりは。

 

「さぁーて、と。邪魔者は退散するとしますかにゃあ」

 

 一つ伸びをしてから梓は立ち上がると、私へと身を乗り出して。

 

「泣かせるにゃよ?」

 

 その声音は、からかい半分マジ半分。

 それだけ耳打ちしてから、梓はそそくさと機外へと出て行ってしまった。しばらくは私とナギも沈黙が続き、カンカンという装甲を蹴る音だけが遠く響くだけだった。

 

 多分、私と梓の話が外まで聞こえてきていたんだろう。その間も、ナギはずっと、こっちを心配げに見つめてきていた。

 

 そうさせたのは私なのに――そんな顔、見たくないのにって思ってしまう。

 何か声をかけたいのに……残念ながら、気の利いた言葉一つ頭に浮かんでこなくって。

 

 ほんっと、自分のアホさがイヤになる。

 

「あのね、莉瑠」

「どしたのさ」

 

 だけど、せめて。

 少しでも気負わせないようにと、何事もまるでまるで起きてなかったかのように応じる。

 その程度しか、今の私にできることはなかった。

 

「ありがとう、助けてくれて」

「これくらい別に、当たり前。今までさんざんナギに助けられてたし」

「でも、こんな事になって……それに、肌だって」

「あぁいいよねこれ、あざも目立たなくなったし。将来の白髪も気にしなくて良くなったし……なんちゃって」

 

 本心からの言葉に空元気の笑顔をチューニング。さらに微妙な出来の自虐ネタまでトッピングしたんだけど。

 どうやら、ダメだったみたいだ。ナギの顔、よけいに悲しそうな色を帯びちゃってる。

 

 本当は私だって、大丈夫だよと言いきりたい。そう言ってあげたい。

 

 でも……現在進行形で手伝ってくれている梓や、こうしてリスキーなのに来てくれたナギにも悪いけど――国や軍隊が相手なんだ。

 

 最後まで逃げ続けるなんて、私なんかじゃきっと――。

 

「気にしないでよ。あなたのおかげで私……今日まで、生きてこられたんだから」

 

 だから言えることなんて、精々これくらいが限界だったし。実際あの日、ナギが助けてくれなければきっと享年9歳だっただろうし……。

 

「長生き、できたしね!」

 

 だからそんな、泣くの我慢してる顔なんてしないでよ。

 あなたは何も持ってなかった私に、たくさん綺麗なものをくれた人。

 

 私に、命をくれた人なんだから。

 

「それにさ、ほら! IS学園にもたくさん友達いるみたいだし」

 

 大丈夫とは言えないけど、大事なあなたがそんな顔をするのだけは耐えられなくて。下手なの承知の上で。

 

「あの時、ほらノクターン来た時! みんなナギの事心配してたよ? みんないい子達じゃん!?」

 

 ナギの頭を撫でながら、なんとか慰めてみようと試みる。

 

「それにほら、地元にだって……響とかさ、優奈とかいるじゃん!? 夏休みくらい、こっちに帰ってこいよ……なんてぼやいてたよ?」

 

 きっと、ううん。絶対あなたは一人じゃないんだよ。

 辛い時や悲しい時、あの日の私と違って助けてくれる人はたくさんいるんだもの。

 

 だからさ――あぁもう、ここから先の言葉を口にするのが怖いなぁ。

 だって本当は、こんなこと言いたくないんだもの。

 告白よりも勇気、いる気がする。

 

 ――でも、言わなきゃ。

 

「だからさ、ナギが私なんかを気にする必要ないんだって!」

「莉瑠……」

 

 時間をかけたらきっと、途中で私が泣く。そしたらナギに迷惑だろうしと、お熱モードの梓並のマシンガントークで誤魔化していたのに。

 

「私一人いなくたってさ、ナギは全然一人じゃないんだし! あの日の私とは違ってさ、だから――」

「バカッ!」

 

 勢い任せの言葉はだけども、ナギの怒鳴り声でせき止められていく。

 

 ――やってしまった。

 

 後悔先に立たずなんて良く言ったものだ、なんて。ふたたびなんか静かになったコクピットの中で思う。

 

 今にも泣きそうな――いや、ちょっと涙出てるなぁ。

 そんな顔、似合わないし見たくないのに。

 

 私が、泣かせた。

 

「……ごめん」

 

 半ば条件反射的に謝ったのは、それしか言えなかったのもあるけれど、続く言葉も良いアイデアもなかったからというのがあって。

 

「あの、さ。昨日、じゃなかった。もう一昨日の夜なんだけど」

 

 このままじゃ埒が開かないと思って、沈黙を破ると私はナギへと経緯を話していった。

 

 倍率一万倍勝ち残った(IS学園に受かる)くらいだし、なにより。

 あの日みたく、ここから抜け出す手段をナギなら、きっと。

 なんて、思ってしまって。

 

「……ってわけ」

 

 それとワンチャン、喋ってる間になにか思いつかないかと期待してはいたけれど、そっちは無理だったな。最初から望み薄だったとはいえ。

 まぁ、アホすぎるアイデアでまた泣かせるよりは……いくらか、マシかもだけどさ。

 

「拾ったところ、行ってみる……とか。あの時の砂浜だよね?」

 

 沈黙の中。堂々巡りする思考を断ち切ったのは、そんなナギの提案だった。

 

 アレを拾ってからもう二日。何日前からアレが漂着していたかも分からない。

 さらに言えば、結構な頻度で軍の廃品回収がやってきて定期的に掃除もされている。

 

 着いた時には、残ってるものなんて何もないかもしれない。

 

 けど――止まったら。あの日みたいなうじうじ莉瑠に、今なったら。

 きっと、いや、間違いなくナギを泣かせる。

 

「……なるほど、うん。当面の方針は決まりだね」

 

 だからさ。

 少しでも可能性があるなら、見つけたのなら。それを信じて突き進んでいく。罠があるなら罠ごと叩き潰してやるって心構えでgo! だ。

 

 どうせ頭なんて良くないんだから、それで私はいい。

 

「ふふ、いつもの莉瑠で安心した」

「そ、そうかなあ」

 

 微笑んでくれるナギを見て、あらためて思う。

 その笑顔のためならば……私、どこまでも頑張れるんだよって。

 今はそれで――いや、違うな。

 

 ずっと八坂莉瑠(わたし)はそうだったし、それでいい。

 他人からしたらくだらない行動理由かもしれないよ? でも、私にはこれしかないし、これがいいんだ。

 

 さて……目的地ははっきりと決めたんだ。

 あとは。

 

 深呼吸して、気持ちを落ち着かせて。

 

「あの、ナギ……」

 

 向こうの立場も事情も何も考えてないけど、それでも……っていうワガママは。

 

「そっか、じゃあ気をつけてね」

「……うん、梓と一緒に頑張る」

 

 やっぱり、言えないよ。そこまで巻き込むわけにはいかないし。

 

 手を振りながら、背を向けコクピットから出ようとしていた、ナギに視線を向けていって。

 

「またね、ナ……わぷっ!?」

「なーんて、言うと思ったかぁ!!」

 

 と、思ってたのに。

 急に振り返ってきたナギは私の手を取って。

 

「ばーかっ、私も莉瑠と同行するに決まってるじゃん!」

「え、あ、えっと……いい、の?」

「もちろんっ!」

「……そっか、ありがとう」

 

 先、越されちゃってんな……色んな意味で。

 ほんっと……昔からこういうところはあなたに敵わないなぁ、私。

 

 でも、いつかは私。

 

「追いついて、みせるから」

「えー、何? 陸上の話?」

「あ、いやえっとですね――」

「んふふー、莉瑠ってばいちども私に勝てたことないもんねえ」

「勝つ、勝つからまったくもうっ!」

 

 私の叫びの直後、センサーがけたたましいアラートを鳴り響かせていって。

 

「まずい、敵襲! 昼間のテロ屋の仲間が性懲りもなくやって来た!」

 

 梓からの通信が入ってきて。

 

「ごめんナギ、いくよっ!」

「え、ちょ莉瑠!?」

 

 コクピットのハッチを閉じていって。

 第二ラウンドが、幕を開けていったのであった……。




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