鳩と柿
実のところこのふたり、意外と一緒にいることは多かったりする。
「木檜! 悪い、待たせた!」
「お~
大学とボーダー本部基地のちょうど中間にある隠れた雰囲気の喫茶店。ジャズの流れる店内には、ブリキのオモチャやレトロな雑貨がちりばめられている。ぜんまい仕掛けの小さなロボットが飾られている窓際のテーブルが、木檜と柿崎の定位置だった。
午前の講義を終えた昼下がり、ふたりはいつものようにこの店で待ち合わせをしていた。時間前に店に着いていた木檜は、さっさと自分の分の珈琲をオーダーしている。
おれも珈琲で、とカウンターでカップを拭くマスターに声を掛け、柿崎も荷物を置いた。
「キャンパスで風間さんに引きずられる太刀川さんに遭遇しちまって」
「あ~一ヶ月に一回くらいみるやつ。太刀川さん勉強しねえなら進学やめときゃ良かったのに」
「いや、まあ……そこはいろいろあるんだろ、うん」
しれっと言い放った木檜に、少しばかり堅い笑顔で言葉を返す柿崎。
誰に対してもあまり遠慮をしない木檜ではあったが、特に太刀川に対しては妙に容赦のないところがある。木檜曰く「別に嫌っているわけではない」らしいが、「個として普通に強いから技術屋的にあんまり興味が湧かない」とのこと。しかし柿崎としては未だに「鳩時計」と呼ばれていることも要因なのではないかとちょっと思っている。木檜はそう呼ばれるのを嫌がる様子は見せないが、呼ばれ続けるのを喜んでいるわけでもないことは何となく察していた。
まあそれはいいやと木檜はごそごそと鞄を漁り、黒いファイルケースを取り出す。
「とりあえず先に渡しとくね、この前の講義のノートのコピーとレジュメ。課題についてもノートに書いてあるから。参考文献のリストも付けといた」
「マジで助かる。いつも悪いな」
「何の何の、お互いさまだって。急な防衛任務はしゃーない」
「よりにもよって厳しい教授の講義のときに来なくてもいいだろ
「あのひとボーダーの人間相手でも甘くないって聞くよね~」
選択している講義の大半が被っているふたりは、よくこうして講義のノートをやりとりしている。
ボーダーの隊員に対してはある程度融通を利かせてくれる大学ではあるが、それでも勉強をしなくていいわけでは決してなく、テスト期間が近くなると頭を抱える学生も多い。
木檜はよほどの大規模侵攻でない限り緊急に呼び出されることはないが、戦闘員である柿崎はそうもいかない。自身でも真面目に勉強はしていたが、木檜のノートにはかなり助けられていた。
「課題ってレポートか?」
「そだよ、来週まで。
「あ、おれも食う……今日は予定ないのか?」
のんきにメニューをめくりだした木檜に、柿崎はノートを片手に不思議そうに顔を上げた。確かにもう今日は講義は入っていないはずだが、暇が出来れば食事を取る暇も惜しんでボーダーに向かうのが木檜理鳩というエンジニアだった。
自他ともに認める機械バカは、大袈裟にため息をついて眉根を寄せる。
「そうなんだよ。最近こもりすぎだからって今日一日出禁食らってさ。ひでーと思わねえ?」
「いやまっとうだと思うけど」
「
「たまにはゆっくりしろってことだよ。おれにもメニューみせてくれ」
へいへいと不機嫌顔の木檜はメニューを柿崎のほうへ向ける。おれはもう決めたからゆっくり見ていーよと肘をついた。
「木檜は何食うの?」
「ハンバーグステーキセットとジャンボパフェ」
「……今トリオン体?」
「いや、生身。おれの食欲を舐めないでください」
「その身体のどこにその量が入るのかおれは不思議で仕方がない」
「チビでも頭使えばエネルギー消費が激しいんですぅ」
そうはいってないだろ、いや言ってんじゃん、と軽口を叩きながらふたりは昼食をオーダーする。
同世代の人間といると面倒を見る側にまわりやすい柿崎と、ふざけるときは徹底してふざける木檜。このふたりが一緒にいるとなれば柿崎の苦労もかくやと誤解されがちだが、木檜の悪戯心に火を付けるやつさえいなければ意外と常識人なのだと柿崎は知っている。近くに生駒や迅や嵐山さえいなきゃ静かなくらいなんだよな、と肉の塊を頬張る小柄な友人を見つめた。
「なに、
「まだ食うのかお前。って食うの早」
小柄な身体でも食べ盛りは食べ盛り。ぺろりとハンバーグステーキどころかセットのサラダやパンまで食べきった木檜は、物足りなさそうにパフェが来るのを待っていた。こういう顔見てるとただの同い年のやつにしか見えないんだけどなあ、とつい柿崎は苦笑する。
ボーダー本部でも指折りの
「……木檜」
「ん?」
「メシ食った後予定ないんだろ? 開発室出禁だし」
「うるせーやい。ないよ」
じゃあさ、と柿崎は最後のひとくちを口に放り込んで笑う。
「パフェ食い終わったら課題やろーぜ。さっさと終わらせて夕飯はカゲんとこでお好み焼き。どう?」
「ひゃっはは、昼飯食ってるのに夕飯の話? 賛成~」
じゃあこれ食ったらうちでやろう、と運ばれてきたパフェに目を輝かせた木檜に、柿崎も笑って返した。
「木檜、おれにもパフェひとくち」
「やだ。……こら