硝子の兄は海月になりたい   作:ふみどり

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自己解釈満載注意。


ふたりの「最強」

 俺の目の前には今、イイ笑顔をこちらに向ける特級クズが二匹。俺の座っている椅子は両側からがっしりと固定され、逃げようにも退路を完全に塞がれている。

 

「ね~クラゲさん、僕だと思うよね?」

「いいんですよクラゲさん、悟に気を使わなくても」

 

 にこにこと笑顔をつくる大男二匹の後ろには、まじごめんと冷や汗をかきながら両手をあわせる虎杖の姿があった。謝っても吐いた言葉は戻らねえんだよクソガキが。

 事の発端は、この虎杖の何気ない一言だ。

 

『先生たちよく最強って言うけどさ、ぶっちゃけクラゲさんはどっちのが強いと思う?』

 

 いや、何気なくとは言ったが俺からすれば全然何気なくなかったし、正直嫌がらせかと思った。何でそれをわざわざ特級クズ二匹の前で聞くのかと。どっちも大人げないうえにプライドが死ぬほど高いことくらいわかってんだろ虎杖この野郎。

 ちなみに伏黒と釘崎はちゃっかり部屋の隅に避難し、すぐにでも部屋を出られる位置をキープしている。ふざけんな俺も逃げたい。

 

「クラゲさんてばシンキングタイム長くな〜い?」

「はは、即断即決のクラゲさんが珍しいな」

 

 本当に悟に気を使わなくてもいいんですよと肩に手を置く夏油、俺の肩で自慢の握力を発揮すんな。術式に逃げないでねと六眼を覗かせた五条も何でそんなマジになってんだ馬鹿じゃねーの。いや馬鹿なんだよな知ってる。

 脅されなくたって術式を使うまでもない。俺はこの状況から逃げられないし、どっちだと答えてもその後に死ぬほど面倒なことが待っている。

 どうしろってんだ、と俺は深い深いため息をついた。

 

「……どっちが強いかとかそんなもん勝手に殴り合えよ。俺に聞くな」

「何言ってんの。悠仁も言ったでしょ、僕らが聞いてんのはクラゲさん的にどっちなのってハナシ」

「ええ、実際はもちろんやってみないとわからないでしょうが、クラゲさんが私たちをどう評価しているのは気になるな。そんなに怖がらなくてもどんな答えでも怒ったりしませんよ。そうだろう、悟?」

「モチロン。も~クラゲさんてばいつまでも子ども扱いすんだから~」

 

 いや未だにお前の精神年齢は六歳から更新されてない、と反射的に口から転がり出そうだったのをすんでのところで飲み込んだ。代わりに噛みしめた歯の隙間から「虎杖この野郎」の一言だけが絞り出る。視界の隅で赤いパーカーが深々と土下座をしていた。

 何でこういうときに限って硝子も七海くんも灰原くんも伊地知くんもいねえんだよ、と我が身の不運を呪いながら眉間の皺を指でのばす。

 

「……思うに、」

 

 どちらが強いのかと問われても、俺には判断ができない。なぜなら、こいつらの「最強」はそれぞれベクトルが全く異なるからだ。

 

「まず、夏油の強さの要は手数の多さだ」

 

 夏油が呪霊操術によって取り込んだ呪霊の数は数千に及ぶという。数の暴力だけでも脅威だというのに、ひとつの呪霊の特性を攻略してもまた別の呪霊が出されるだけ。手札の呪霊も蠅頭レベルから一級相当、あるいは特級。そのうえ一度に出せる数に限りがないとくれば、まず呪霊操術を正面から破るのは不可能に近い。

 

「もちろん全ての呪霊を使いこなすだけアタマがあることが前提だが、まあそこは高専時代にめちゃくちゃ試行錯誤してるの見たし」

「余計なことは言わなくていいんですよ」

「お前マジでひとに努力するとこ見られるの嫌いだよな。筋金入りのかっこつけ」

「わかる、傑はその辺ちょー頑固。とんでもない目立ちたがりのくせにさ」

「悟?」

 

 五条と同時にさっと目線をそらす。本当のことを言われて怒るのはガキの証拠です。

 ごき、と鳴らされた拳に、しかもこいつ体術も普通にイケるやつだからな~と息を吐く。

 偏見じみたセオリーとして「式神使いは術師本人を叩け」なんて言われるが、夏油についてはそれは全く当てはまらない。どちらかというと呪霊よりも自分の拳で敵を殴り飛ばしたい脳筋野郎なのだから、つくづく人間性と術式は一致しないものだと思う。

 高専時代から普通に五条と互角に殴り合っていたやつが「一般家庭出身」の「趣味特技・格闘技」とかふざけてんのかと心から思うんだけどどういう育て方したんですかご両親。やっぱりちゃんと聞いときゃよかった。

 数千の呪霊と、術師本人。手札の数で言うなら間違いなく呪術界最多と言えるだろう。

 

「対して五条の強さは、限りなく質の高い『矛』と『盾』があること」

 

 六眼によってその力を完璧に発揮できる無下限呪術。その強さは歴史が証明しているといってもいい。過去、幾人もの優秀な呪術師がこの「最強」の前に敗北を喫してきた。

 

「生身の人間を軽く消し炭にするレベルの攻撃乱発してくるうえに攻撃はあたらねえ、当たったところで反転術式で端から治る。ただでさえ多い呪力量に、六眼でロスもないとなりゃ呪力切れも狙えない」

 

 正直、まじで付けいる隙が見つからない。術式の力押しだけでも十分だというのに、ムカつくくらい頭も切れる。呪術に関する知識も呪力操作も体術も含め、呪術師に必要と思われるあらゆる才覚を十二分備えているのだ。

 コイツの場合、シンプルな強さなだけに「何故強いか」と言葉を尽くす必要もない。攻撃の破壊力がヤバイ。こっちの攻撃は当たらない。まかり違って当たっても傷はすぐに治る。ただそれだけ。それだけだからこそ、打つ手がない。

 目隠しの下でドヤ顔決める五条は何とも腹立たしいが、その傲慢を裏付けるだけの実力があるのは確かだった。

 

「……これで人間性さえ備えてたらなぁ……」

「いやいや、人間性を備えてたらそれはもう悟じゃないですよ」

「誰に言われてもクラゲさんと傑だけには言われたくないんだよね」

「それは聞き捨てならないな。クラゲさんはともかく」

「俺の人間性をお前らと同列で語んな頼むから」

 

 そういうわけで、と迂闊な質問を投げてきやがった虎杖に目を向ける。さっきまでひとりだった正座が何故か三人に増えていた。お前ら仲良いな。

 

「多彩な手札で戦況を有利に運び、相手の強みを発揮させない、言わば戦略的な『最強』なら夏油。大抵の敵を打ち破れる矛と大抵の敵には打ち破れない盾をもつ、オーソドックスな『最強』なら五条だ。『最強』の意味合いが違うだけに、単純比較は難しい」

 

 そもそも、このふたりの強さを比較することにあまり意味はないと思う。それは剣と銃を比べてどっちが強いか答えろと言っているようなもので、そんなもん結局のところ使い手の力量次第、状況次第。下手をすれば判断するやつの好みの問題だ。

 

「まあ、夏油の手札に無下限をかいくぐれるような術式もちの呪霊がいるかどうかがひとつの鍵になるだろうな。極ノ番や領域展開含めた話になると俺は知らん。見たことねーし」

 

 わかったかと言葉を投げれば、赤パーカーはこくこくと頷く。三人揃ってやけに目を輝かせているのだが何かあっただろうか。

 三人の様子を見てくっくっくと肩を揺らした五条は、しょうがないな~と頭の後ろで手を組んだ。そんな相棒を見て、夏油もまた肩をすくめる。

 

「この答えで許してあげるとしようか、悟」

「あんまりイジメても可哀想だもんね」

「満足したならいい加減出てけよお前ら。俺の作業の邪魔すんな」

 

 え~とかうだうだごねるガキどもを何とか部屋から追い出し、ようやく落ち着く。虎杖はあの年頃にしてはちゃんとしたやつではあるのだが、たまにとんでもないことを言い出したりやらかしたりするので油断が出来ない。別に質問してくるくらいは構わないが、あの特級クズどもの大人げなさをちゃんと理解してものを言って欲しい。今回はあの程度の答えで逃げ切れたが、いつもそうとは限らないのだ。まじクズはクズ。

 それにしても、「どちらの方が強いのか」とは。ふう、と自分で思うよりも大きなため息が出た。

 ただの喧嘩ならそれこそ星の数くらいしてきたふたりだが、さすがに本気で殺し合ったことはないだろうと思う。「喧嘩するほど仲が良い」を地で行くふたりであるし、互いが互いの唯一であり最大の理解者であることは嫌と言うほど理解しているだろう。自分の片割れともいえる相手の命を狙う理由なんて、あのふたりに生まれるはずもない。

 だが、もし。銀河の中のほんの星屑くらいの可能性として、このふたりが殺し合わなければならない場面が来るのなら。本気で相手を殺すと覚悟を決めることがあるとしたら。

 そのときは、……きっと。

 

「……知らね」

 

 もしもの未来を考えるなんて俺らしくもない。浮かんだ想像を振り切るように、俺はキーボードに指を伸ばした。




さて、海月の結論はどちらでしょう。答えはちゃんとあります。
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