硝子の兄は海月になりたい   作:ふみどり

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特級クズの憂さ晴らし

 高専に用事があったついでに、何となく深海へと足を向けた。私たちが卒業したあともクラゲさんは何ひとつ変わらず、こうして薄暗い部屋で数の海を泳いでいる。

 いつも通り迷惑そうな顔のクラゲさんの態度など気にすることもなく、腐った上層の嫌味に付き合わされた鬱憤を晴らすように適当な世間話を振り続ける。七割ほど無視されたが、気にせず話しかけ続けていると少しずつ相槌を打ってくれるようになった。今回も根負けしてくれたらしい。

 

「……五条といいお前といい何なのマジで。少しもこっちの都合を考えやしねえ」

「最終的にはクラゲさんが折れてくれるって知ってるからでしょうね。優しいなあ」

「折れるまで退かねえからだろクソ迷惑なガキどもめ」

「私たちは『最強』ですから。退くなんて負けるのと同義でしょう」

「最強アピールうざ」

 

 もう帰れよという顔を隠しもしないクラゲさんだが、そういう対応をされるからこそ絡みたくなるというか。今日は時間もある、もうしばらくクラゲさんに付き合ってもらおうと頭の中で話題を探った。

 そういえば、とまた話を振るとクラゲさんの眉間に皺が寄るのが愉快でならない。

 

「最近クラゲさん、若い術師のなかで人気があるんですって?」

「……まじで何の話?」

「あれ、知りませんか? 硝子が言ってましたよ。ほら、悟のせいで外に出ることが増えたでしょう、学生の相手したり、実習や任務の引率をしたり。それで存在が知れ渡ったせいか、妙にクラゲさんの話を聞きたがるひとが増えたって」

 

 正直ウザい、と自覚の薄いブラコンが酒を片手にわりと荒れていた。まあ家族のことを根掘り葉掘り聞かれれば気分がいいはずもない。

 少し考えるように視線を浮かせたクラゲさんだが、思い当たることがあったのかすぐにモニターに視線を戻す。

 

「……硝子の兄で、お前や五条と繋がりがあるのが公になればまあ当然は当然か。そういや妙に知らねえやつに話しかけられたような気もするわ」

「一緒に任務に行きたいという申し出があったと伊地知も言ってましたよ」

 

 クラゲさんが強いことも評判になってるそうですから、と付け加えれば、なら俺のかわりに行けよ暇かよ、と身も蓋もないことを言う。何を言ってるんですかと、私は素直な気持ちを口にする。クラゲさんのかわりが務まる呪術師がそうそういるわけないでしょうと、心から。

 

「一級の術師の中なら、クラゲさんは限りなく最強に近い」

 

 私としては心の奥底から褒めたつもりだったのだが、返ってきたのは大きなため息。

 

「……ずいぶん斬新な煽りだな。マジで褒めてるつもりなのがタチ悪い」

「褒めてるでしょう」

「正確に評価しようとしすぎた結果マウントになってんだよ」

 

 どうでもいいけど詐欺師してんだからもうちょい言葉選べるようなれって誰が詐欺師だ策を立てたのはクラゲさんだろ、というのはさておいて。

 実際、一級の中でもクラゲさんは強い方だ。それはまあ私や悟に敵うべくもないが、大抵の相手に後れを取ることはまずないだろう。術式や呪力といった基礎的な戦闘の能力以上に、その一瞬の最良(ベスト)を選び取るだけの冷静さと度胸が頭抜けている。どうせいつぞや見せた「奥の手」以外にも隠し球はあるのだろうし、何ならクラゲさんは死ぬくらいならさっさと逃げると公言しているひとだ。

 私や悟の強さが「勝つ」ことにあるならば、クラゲさんの強さは「負けない」ことにある。方向性の違いはあれど、その強さがあるからこそ私たちも安心してこのひとに無茶ぶりが出来るのだ。どんな厄介ごとを押しつけても何となくどうにかしてくれるうえに自力で生き残ってくれる、大変有り難いひとだと思う。

 何かろくでもねーこと考えてるだろ、と胡乱な視線をにっこりと笑ってかわす。

 

「いえ、クラゲさんが人気だと私も鼻が高いなと」

「お前どの立場からもの言ってんの? いややっぱ言うな、何言われても多分ムカつく」

「やだなあ、そんなひとが味方で嬉しいって話ですよ」

「俺は何であんな軽率なことを言ったのか、わりと頻繁に後悔している」

 

 大人なんだから自分の発言には責任をもってくださいね、といつぞやの言葉をそのまま返したときの、クラゲさんの顔と言ったら。

 これだからこのひとに絡むのはやめられないな、とついつい肩を揺らした。

 

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