硝子の兄は海月になりたい   作:ふみどり

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奇縁極まれり

「あらイイ男発見♡」

「毎回毎回それやめてくんねーかラルゥ」

 

 キャラの濃すぎる人間にはとっくに慣れたが、それでも何となく微妙な気分になるそれ。何度言ってもこの「挨拶」をやめようとしないラルゥにため息をつきつつ、夜分に悪いな、と門をくぐる。

 

「構わないわよ、傑ちゃんの呼び出しなんでしょう?」

「用があるのは自分のくせに呼びつけるとか何様なんだよって感じだよな」

「教祖さま夏油さまでしょ」

「うわ」

 

 いやそうなんだけど、と遠い目をすれば、くすくすとラルゥは愉快そうに笑う。

 旧盤星教を取り込み組織作りを始めて以降、夏油の周囲にはそれなりの人間が集まってきている。このラルゥもそのひとりで、極めて常識的且つ冷静な判断ができる術師だと思う。少々腹の底が読めないところはあるが、術師ならそんなものだろう。夏油は彼を信頼しているようだったし、俺も別に思うところはない。

 こっちよ、と施設の中を案内してくれる横顔は、悪意のある人間のものではなかった。

 

「あら、なーにクラゲちゃん、私の顔に何かついてる?」

「ちゃん付けするくらいなら呼び捨てにしてくんねーかな。……いや、」

 

 何でもない、と言った俺に、ラルゥはぱちりとウインクで返す。

 

「ごめんねクラゲちゃん、私傑ちゃんの方が好みなの♡」

「それは良かった。今後も心変わりしなくていいからな」

「あらいけず。クラゲちゃんてそういうところ可愛くないわよ?」

 

 俺が「可愛い」を望む人間に見えるのかと投げてみれば、ひとを見た目で決めつけちゃいけないと思うのよねと軽く返してくるラルゥ。このマイペースと返し方、何か九十九さんに似てるんだよなとため息をついた。平たく言えば俺にとっては苦手なタイプだ。

 とはいえ、マイペースを崩さないということは流されないということでもある。夏油の思想と言葉に引きずられない人間がいるというのは良いことのように思えた。きっとラルゥはこの組織の柱のひとりになってくれるだろう。

 この調子でひと増やしてとっととお役御免になりたいもんだな、とぼんやり視線を浮かせれば、くす、と隣から小さな笑い声が聞こえた。薄暗い廊下の先から視線を外すことなく、何だよ、と言葉だけを落とす。

 

「いいえごめんなさい、夏油ちゃんが貴方を頼りにするのもわかると思って」

「使われてる覚えはあっても頼りにされてる覚えはねーけどな」

「素直じゃないわね本当に。茶化してるつもりはないのよ」

 

 クラゲちゃんが夏油ちゃんの傍にいてくれて、本当に良かったと思ってるのよ。

 静かな廊下に、ぽつりと落とされた言葉。確かにラルゥの声色に茶化したような色はなくて、本心からの言葉だということは疑いようがなかった。

 だが、だからこそ。そう、だからこそだ。

 俺はおもむろに袖をめくり、左腕をラルゥの眼前に差し出す。

 

「ラルゥ、見ろこれ」

「あら、何?」

「めっちゃ鳥肌」

 

 きょとんと目を丸くしたラルゥは、次の瞬間には堪えきれないというように噴き出していた。堪えようにも堪えきれなかった笑いは廊下に響き、それを聞きつけたらしいそいつがひょっこりと近くのドアから顔を出した。

 

「ラルゥがそんなに笑うなんて珍しい。何があったんですか、クラゲさん」

「聞かない方がいいぞ。俺は笑えなかったし多分お前も笑えない」

 

 あーうすら寒い、と袖を戻した俺に、風邪でも引いたんですかと夏油は不思議そうな顔。ああ笑ったと涙を拭いたラルゥは、何でもないのよとドアに向けて俺と夏油の背を押した。

 

「縁は異なもの、味なものってやつ?」

「それ基本男女の縁についていうやつだからマジやめて」

「クラゲちゃんお願いこれ以上笑かせないで」

 

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