まあ熱くらい出したでしょ。
「……鍵掛けてんだから入ってくんなよクズども」
「だったらせめて硝子のメールにくらいは反応すべきでしたね」
「クラゲさん顔真っ赤じゃんウケる」
熱い身体に、回る視界。いつもの椅子に深く腰掛け、今日ばかりはモニターに目を向けずに背もたれに首ごと身を預ける。
こんな姿を誰にも見せるわけにも行かず鍵を掛けて閉じこもっていたというのに、まさかドアを蹴破って入ってくる馬鹿どもがいるとは。
横から伸びてきた見慣れた手が、俺の視界を塞ぐように額に乗せられる。
「はい高熱~。呪力も全然回復してねーし、昨日はしゃぎすぎたせいじゃん?」
そいつらのせいだろうがよ、と流し込まれる呪力に目を閉じる。
夏油の卒業後の進路の話で特級クズどもが大喧嘩したのが昨日のこと。調整が面倒な「帳」に通常通りの術式の展開、しかも奥の手の領域展開まで使わされれば、ただでさえ少ない俺の呪力じゃ足りるはずもなく。呪力切れも一日休めば治るかと思ったが、どうやら甘かったらしい。
呪力切れによる倦怠感だけでなく、術式の使いすぎによる脳への負荷。久しく感じることのなかった発熱と頭痛は、じわじわとした不快感となって押し寄せてきた。
硝子の手のひらから流れ込む呪力が、冷たい水のように脳に染みこんでいく。
「ま、メールに返信がなかった時点でそんなこったろーとは思ったけどね。兄貴昔からこういうの絶対言わないじゃん。顔見りゃ一発でバレるのに」
「誰にも見られたくないから鍵掛けて籠城って、子どもじゃないんですから」
「まじやせ我慢じゃん。とっとと硝子に診てもらばいーのに」
「るっせえんだよ……下手に知られる方が面倒だ」
敵が多い自覚はある。できれば死んでくれと呪われている自覚もある。気まぐれに呪いを送りつけられることもざらな俺だ、わざわざ弱っていることを周囲に教えてやる必要もない。そう思って引きこもっていたというのに、本当に空気の読めない馬鹿どもめ。
反転術式によって、脳にかかっていた負荷が少しずつ軽減されていくのを感じる。切れていた脳細胞が再び繋がっていくような感覚に、う、と小さく声が漏れた。
よし、と硝子の手がそのまま俺の額をはたく。
「じゃ、連行よろしく」
れんこう、と聞こえた言葉に飛び起きようとしたが、どこぞのグラサン白髪特級クズにがっしりと頭を掴まれた。
「男子寮でいんだろ?」
「ああ、今七海から連絡がきた。ベッドの準備は完了、看病の用意も万端だそうだ」
「お、……い待てお前ら、」
ばっと五条の手を引き剥がすと、今度はずいっと夏油の笑顔が眼前に迫る。大人しくしてくださいね、とまるで聞き分けのない子どもに言い聞かせるかのように夏油は続ける。
「抵抗するなら今すぐここに灰原を召喚します。目立つと思いますよ、彼に横抱きで運ばれるのは」
「……何で横抱き限定」
「面白そうでしょう。ちなみに大人しく運ばれてくれるなら私が呪霊を提供します。夜蛾先生の許可はとったのでアラートも鳴りませんし、誰にも見つからないように寮まで運んでみせますよ。まあ私としては灰原に抱っこされているクラゲさんがとても見たいのでどちらでも構いません」
どうしますかとか言ってやがるが、どこに選択肢があるんだよと。せっかく良くなった頭痛がまた悪化したような気がして、またぐったりと背もたれに身を預ける。さっと親指をたてた妹、お前体調戻ったら見てろよ。
「まー安心しろってクラゲさん、元気になるまでちゃ~んと俺たちが守ってやっから♡」
「謹慎ついでに寮で看病してやれって先生からも言われてるので、お気遣いなく」
「さっそくこいつら謹慎食らってんの。ウケるっしょ」
何もウケねーよと言い返す元気もなく、俺はただただ深いため息をついた。