この気持ちを忘れないでおこう。そう、脳に刻み込む。
ひどく気持ちの悪い薄ら笑い。平易な言葉を選びながらも、肝心なところは曖昧で難解な表現を選び、こちらの疑問には答えているようで答えていない。そして自分たちは味方だ、君たちを評価している、その力が必要だ、そんな見え透いた世辞で本音を隠し、俺たちを動かそうとしている。
子どもだからと舐められているのだろう。実際、確かに俺たちは子どもだ。だが、それでもわかることはある。感じ取れるものはある。
平等に視線をやっているように見せているが、わずかに姿勢が一方に寄っている。俺たちがもつ力についても、詳細まで興味が見えるのは一方だけ。ここまで来ると、さすがに確信を持って言えた。
硝子には、ひとの傷を癒す力があるらしい。確かに心当たりは多大にある。しかも、それは呪術の世界とやらでも相当希少であるようだ。
目の前に座るそのひとたちをよくよく見れば、袖口から見えた手首や、シャツから覗く首元には古傷のあとがあった。なるほど、呪術師が傷の絶えない仕事であるのなら、傷を癒す力は何としても欲しいところだろう。ついでに視える兄もいたからこっちも懐柔してスカウトしとくかって腹か。何ともわかりやすい。
静かに話を聞いていた硝子が、きゅっと俺の服の裾を掴んだ。まだ小学生の硝子だって、決して馬鹿ではない。こいつらの腹のうちにあるものを、わからないなりに感じ取っているようだった。そんなことも察せられない馬鹿な大人はいまだに笑顔を貼り付けているが、完全に逆効果だ。硝子の手が、小さく震え始めた。ここらが限界だろう。
「……すぐにはお返事できません。両親とも話しあわないと」
それはもちろん、とさらに言葉を重ねようとするそいつらを適当にかわし、さっさとご退場願った。見ず知らずの大人の言葉を聞いてやっただけ感謝してほしい。本来通報ものだぞ馬鹿じゃん。
本当に、なんて馬鹿なやつらなんだろう。震える硝子の背を撫でながらしみじみと思う。
こちらを子どもだと舐めてかかかり、あんなに見え見えの取り繕いで誤魔化したつもりでいるなんて。子どもだろうが何だろうが、ちゃんと脳は機能しているというのに。それを理解して俺たちに接していれば、俺くらい軽く騙して操れたかもしれないのに。
やっぱ大人だから馬鹿じゃないとは限らないんだなとよくよく理解した俺は、年齢でひとを判断する人間にはなるまいと心に誓ったのだった。
*
「……というわけで、俺は年齢で人間を判断しません。歳上だろうが何だろうが、馬鹿だと思ったら遠慮なく馬鹿にします」
「なるほど、呪術界の重鎮に暴言を吐いた言い訳は以上か? とりあえず正座しろ、説教が終わったら歌姫に謝っておけ。お前の後ろで蒼白になってたぞ」
「あれ、アイツ案外度胸ないですね」
「……歌姫が気の毒でならない……」