何ヶ月かに一度、私たちの家に来てくれるふたりがいる。
ふたりは私たちほどではないけれどとてもよく似た顔をしていて、気だるげな感じや目の下の隈までそっくりな、私たちをいじめたりしない、とても優しいふたり。
勉強を見てくれるクラゲさんと、私たちの話を丁寧に聞いて健康診断をしてくれる硝子さん。このひとたちは大丈夫だよと夏油さまが紹介してくれたその日から、私たちもふたりのことが大好きだった。
「何だ成績良くなってんじゃん。何、
クラゲさんはわからないことを馬鹿にしない。わかるようになるまで何度だって説明してくれるし、怒ったこともない。私たちもそうだったけれど、ここに来る子の中にはそれぞれの事情で勉強が遅れている子も少なくなかった。学校の勉強にはなかなかついて行けない子にも、クラゲさんは優しい。
「自分のペースで出来るようになっていけばいーんだよ。勉強なんてちゃんと積み重ねれば誰だって出来るようになる。それが早いか遅いかなんて大したことじゃない」
いつもそう言って、何かひとつ出来るようになるたびにちゃんと認めてくれる。
気まぐれに掌に置いてくれる飴が、私たちにとっては何より誇らしかった。
「ごはんはちゃんと食べてるか? ……身長も伸びたな、大きくなってる」
ひとりひとり、そう言っては頭を撫でてくれる硝子さん。
煙草の匂いはするけれど、私たちの前で吸うことは一度もなかった。他のひとにはなかなか言えないことだって、硝子さんになら言えた。いつも私たちの言葉を最後までちゃんと聞いて、それから私たちが自分の答えに近づくのを手伝ってくれる。
「夏油みたいな男が学校にいない? いやいてたまるか。……いや、そうだな、……いろんなひとと関わって世間を知るのは大事だ、とだけは言っておくよ」
将来が心配、と何故だかよく嘆いていたけれど、それでも私たちの言葉を否定するようなことは絶対になくて。何だって相談できる、とてもいいお姉さん。
私たちにはもうお互いしか血の繋がりのある家族はいないけれど、クラゲさんや硝子さんのことは本当に兄や姉のように思っていたし、夏油さまも私たちのことを家族だと呼んでくれる。本当に、──―本当に、それが嬉しくて。泣きたいくらい、嬉しくて。
もう電気も消してまっくらの部屋、私たちは同じベッドの中で誰にも聞こえないように話した。
「たのしい」
「うん、たのしいね。やさしくて、うれしい」
「うれしい、……あったかい」
「あったかくて……ええっと、きっと『しあわせ』だね」
「うん、すごく、『しあわせ』」
明日はまた、クラゲさんと硝子さんが来てくれる日。
算数で満点を取ったテストを見せたら、クラゲさんはまた褒めてくれるかな。
嫌いな野菜もちゃんと食べられるようになったよって言ったら、硝子さんは喜んでくれるかな。
夏油さまが絶対にそうだよって言ってくれたから、きっとそうだと思う。
「そしたら、ねえ、みみこ、」
「うん、ななこ」
ありがとうって、だいすきって、ふたりにちゃんと言わなくちゃ。そう言って私たちはくっつきあって、真っ暗闇のなかでくすくすと笑った。
はやく、明日が来ればいい。