「結局、口ほどにもなかったな」
漂う酒の匂いに、床に転がる死屍累々。下戸の自覚のある五条はもちろん、弱い方ではないと豪語していた夏油や七海くんでさえも真っ赤な顔で転がっている。ほどほどイケますと元気に笑っていた灰原くんもまた、のんきな顔で寝こけていた。
酒を飲みましょうと最初に言い出したのは誰だったか。大量の酒をもって俺の部屋に乗り込んできたこの馬鹿どもは、いつものごとく床に座り込んで呑めや歌えやの宴会を繰り広げた。
俺も最初のうちはうんざりしながらも放って作業をしていたのだが、何せとんでもない絡み酒がひとりいて、俺を宴会に引きずり込み、後輩たちにもしこたま酒を飲ませた。大口を叩いていた夏油や七海くんが潰れたのも、ひとえに硝子の膝で爆睡している奴のせいである。こいつのめんどくささと言ったら筆舌に尽くしがたく、仕事が終わらず巻き込まれずに済んだ伊地知くんが心底羨ましかった。
「相当呑ませられてたからね。酒の入った歌姫センパイまじ最強」
「こいつの絡み酒まじで何とかなんねーの?」
「無理じゃん?」
「即答すんな」
ため息と一緒に手元の酒を喉に流し込む。そこそこの度数の日本酒だが、残念なことにまだシラフだった。同じようにグラスを傾ける硝子も、酔っている様子はない。妹もまた、酒に強い家入の血をちゃんと継いでいるらしい。
にしても、と硝子はどこかしみじみと言った。
「何かここまできたら酒に強いのも損な気がしてきた」
「言いたいことはわからんでもないが、醜態さらしたくないなら控えろよ。庵なんて酒飲むたびに俺に土下座してんだからな」
「ウケる。歌姫センパイはまじで兄貴のこと好きすぎ」
「正直わりとまじで困るから懲りてほしい。後輩に土下座をさせる趣味はない」
そんな趣味あったらまじで兄妹の縁切ってるわとか言いながら、硝子はまた自分のグラスに酒をつぐ。いったい誰の金なのか、それなりの値段の酒だ。続けて、ん、と酒瓶を差し出されたので、仕方なしに俺も空になったグラスを向ける。とろりと流し込まれたそれは、確かに芳醇な香りを放っていた。
そしてまた、かちり、とグラス同士のぶつかる音が響く。
「ちなみに兄貴、今酔ってる?」
「全然」
「えー。結構呑んだよね」
「ちゃんと水は挟んでるしな」
「チッ、ちゃんとしてやがる」
「何なのお前」
どんなふうに酔うのかと思って、と言った硝子の目は据わっていた。これは面倒な予感。お前もその辺にしとけよと言っても、硝子は胸に抱いた酒瓶を離そうとはしない。
確かにうちの家系は遺伝的にアルコール分解酵素が多いが、かといってもちろん絶対に酔わないわけでもなく。というか酔っていようが酔っていまいが、面白そうと思えばとりあえず行動してしまうのが俺の妹なわけで。
「兄貴の酔ったところが見たい」
この好奇心に忠実な感じ、まじで俺の妹なんだよなと。急かすように差し出された酒瓶にため息をつきつつ、俺は手元のグラスをひといきで空にした。
「一応言っとくけど、酒がなくなったら諦めろよ」
「お、強気じゃん。上等」
仕方なしにグラスを差し出した俺に、愉快犯の妹はにやりと笑った。
この後どうなったかって、まあ俺が負けるはずもない。
結末はタイトルの通りです。