ネタバレとか言われても責任はとりません。
本誌のすぐ後なのか、数十年後なのか。
イフの話。
まず目に入ったのが「最強」の特級クズふたりだったあたり、俺の日頃の行いってそんなに悪かったかなとつい眉間に皺が寄った。
「おっクラゲさんじゃ~~~ん元気~~~?」
「お久しぶりですクラゲさん、クマがないほうがやっぱり健康的でいいですね」
「心臓止まったあとにする会話じゃねえな」
どうやらここは空港に似た空間のようだった。なぜだか窓の外には飛行機まで見える。
妙にリアルなせいで実感は湧かないが、自分の状況は理解していた。立って歩けるのに自分から心臓の音が感じられないし、何より死んだはずのクソガキ二匹が本当に「クソガキ」時代に戻っている。
はたと気付いて自分の姿に目を向ければ、俺の胸元にも高専のボタンが光っていた。ということは、俺もあの時代の自分に――、
「海月、」
それは、よく知っている声だった。
記憶の奥深くに沈んでいたブラックボックスが消えていることに気付く。俺のなかの「何か」が触れるなと主張し続けたもの。俺の手で、誰かのために、確かに仕舞い続けたソレ。
呪いが解ける。すべてが蘇る。
いまの俺の多くを形作った、ほんの数ヶ月間の青い春。
「――、」
顔を上げる。俺の眼前に立つそいつの顔を見る。記憶のままの顔で、口の端をあげて立っている。血の海はもう見えない。
とっさに開いた口が勝手に動いていた。
「……どちらさん?」
視界の端でロビーのソファに座っていた馬鹿どもが「ぶふっ」と派手に噴き出した。
一瞬硬直したそいつは、いつものようににっこりと笑っていない笑顔で俺の喉元につかみかかる。その手は不自然に震えていた。
反射的にさっと目をそらす。
「言うと思ったこのひねくれ者!! 根に持ってるな!? 根に持ってるだろ!!」
「な~~~んも覚えてねえわ何の話~~~? そういやどっかのクソ野郎が死に際に自分のこと忘れろとか言いやがった気がするけど、忘れろって言われたから忘れちまったわ~~~」
「完っ全に思い出してんでしょ俺が悪かったってば!!」
悪かったよ、と。
繰り返された言葉に、首元の手が緩んだ。
逸らしていた目を正面に戻せば、悔しそうな顔が目に入る。
「……何だよその顔。今さら後悔されても困んだけど」
「……後悔はしてない」
「嘘つけよ。いーよ別に、呪いにすらなってない呪いを勝手に抱えてたのは俺だ」
なあ、皓。
その名前は、ひどく口に馴染む。
久し振りの親友の目には、らしくもなく薄い涙の膜が張って見えた。
「ずっとここにいたのか?」
「……いたよ。見てた」
「ずいぶん都合のいいシステムなんだな。ここタイムリミットある?」
「知らない。たぶんないんじゃない?」
「じゃあ俺もしばらくここにいるわ。暇つぶし付き合えよ」
「わかってるよ」
皓の向こうに、クソガキ二匹だけではない、多くの見知った顔が見える。資料のうえでしか見たことのない顔も少し見えた。
これが妄想なのか、いまがどういう状況なのか、まったくわからないけれどどうでもよかった。頭を使うなんて面倒なことはもうしたくない。
もう、終わったのだから。ようやく首元の腕が外される。
「妹ちゃん、待つんだろ? ところでマジで似てんね。びっくりしたわ」
「似なくていいところまで俺に似やがってな、あいつ」
「またそんなこと言って~~~。無駄だよクラゲさん、もう僕たちがさんざんクラゲさんのシスコンエピソード喋っちゃったから」
「ちなみにネタはまだまだありますけど聞いてくれます? 皓さん」
「聞く聞く。ちなみに海月の高専時代のエピソードもまだまだ山盛りあるよ。ねっ先生」
「そうだな」
「おいこら担任」
「あ、私も入れて欲しいです。結界術教えてあげたときの家入くんがまた良い子でね、」
「アンタまでいんのかよ」
自分も自分も、といつの間にか酒もないのに宴会のような。
参加したことはないが、おそらく同窓会というのはこういう感じなのだろう。賑やかというよりは騒がしい空気だが、終わったからこそと思えば悪くない。
心残りはある。悔いもある。でももうできることは何もない。だったら嘆いたって仕方がない。ここからどんなに想ったって、きっと届くことはないのだろう。
だったら不謹慎だろうが何だろうが、ただここに在ることを許して欲しい。誰に許しを得る必要があるわけでもないのに、そう思う。
ただ、だから、できることなら、思うことは、――そう、たったひとつだけ。
――お前はゆっくり来いよ、硝子。どれだけでも勝手に待ってる。
きっと最強たちも硝子を待ってる。ずっと。
硝子はきっと、泣いてない。まだ早い。そう思いたい。
まあイフなので好き勝手に。
この話をしたいがために「ブラックボックス」を書きました。