やりたいかと言われれば心底嫌に決まってんだろ殺すぞと言いたいところだが、これも俺が自分の研究に没頭するため。あの子たちの性格の悪さと諦めの悪さは育ての親譲りなのだから、さっさとミッションクリアしてしまった方が絶対に労力は少なく済む。
そう自分に言い聞かせながら、高専の一角、呪術師たちが待機に使う一室に足を踏み入れた。ソファに座って新聞を開いていたそいつは、すでにほうぼうで祝われてきたのだろう、でかい図体に「本日の主役」と書かれた安っぽいタスキを掛けている。
クラゲさん、と機嫌の良い声に応えることなく、俺は深々とため息をついた。
「何ですか、人の顔を見てため息なんて」
「ため息つきたくもなるわ、何で俺がお前なんぞのために真っ昼間に出歩かなきゃなんねえんだよ」
ほら、と放り投げたそれを夏油は軽く片手で受け止めた。俺がよく糖分補給に持ち歩く飴玉だが、夏油もそこそこ気に入っているらしく、たまに俺の部屋にくると必ずいくつか奪っていく。心底自分で買えよと思う。
手の中のそれをまじまじと見つめた夏油は、まさか、と信じられない顔で呟いた。
「……これ、誕生日プレゼントですか?」
「お前双子にどういう教育したんだよ、お前の誕生日祝わねえと部屋に居座って騒ぎ続けてやるって脅してきやがったぞ」
いったいどこで聞きつけたのか、あの夏油命の双子と来たら俺が夏油(と五条)の誕生日を祝ったことがないと知って朝から俺のところに飛び込んできたのだ。文字通りずーっと夏油様ゲトウサマとぴいぴい鳴き続けるものだからさすがの俺も耐えかねた。
しかもわかったわかったと白旗を上げれば、じゃあプレゼントは、と注文まで付けてきたのだからマジでいい性格をしていると言える。プレゼントなんて飴で十分すぎるだろと言いたいのを堪え、ほぼほぼヤケになって右手をのばす。
癖が強く見える髪も、双子たちの懸命の手入れのおかげか意外と触り心地は悪くない。
「……誕生日おめでと。毎日頑張ってて、まあ、……偉いよ」
頭を撫でて褒めてやれってお前ら、夏油を何歳だと思ってんだと。
五条すら撫でたことあるのに夏油様を撫でたことがないなんて有り得ないって、五条を撫でたのだって別に何か褒めたわけじゃねえと何度言っても聞きやしなかった。
とっくに成人しているうえに俺よりタッパのある野郎を撫でるというミッションを達成し、もういいだろと手を下ろす。
そのとき、はたと気づいた。
「……顔赤くねえ?」
「……うるさいんですよ」
「もしかしてお前嬉しいの? マジで?」
「そんなわけないでしょう、冗談はやめてください」
「いや俺はどうでもいいけど、いいのか? 最近奮発して画質いいやつ導入したらしいぞ」
え、と夏油は俺が指さした方へ視線を浮かせる。その先にあったのは、黒いカバーのついた防犯カメラ。
エベレストより高いプライドを誇るカッコつけ野郎の顔色が一瞬で変わる。
「あれ、ダミーじゃないやつ。職員室でモニターできて、もちろん録画してる」
まず夏油はいつもなら術師の数人くらいいるこの部屋にひとり残された時点で疑うべきだったし、双子が今ここにいないことに違和感をもつべきだった。ついでに夏油と俺がいるなら絶対絡んでくる五条が乗り込んでこないことにも、だ。
「油断したな、夏油」
刹那、視界から夏油が消える。同時に呪霊侵入のアラートが高専中に鳴り響く。
壁ごと叩き割られた窓の外に雪がちらついているのを眺めながら、やっぱり何歳になっても破壊癖って治んねえんだなあとしみじみと思ったある二月三日のこと。
*
「海月、何でお前はわざわざ被害を大きくするんだ」
「腹いせと八つ当たりですが何か?」
*
「聞いて夏油様、確かに頭なでなではうちらがクラゲさんに頼んだけど!」
「私たち、物をあげてとは言ってないの」
「だからその飴は、本当にクラゲさんからのプレゼントってワケ!」
*
「ねえ僕の誕生日は!? とっくに過ぎてるんだけど!!」
ごじょさんの誕生日を祝う日はくるのでしょうか。