正直を言えば、今回ばかりは私の肩を持ってくれるのではないかとちょっと思っていた。
決してふたりの選択を否定するつもりはないのだが、それでも手放しに応援してやることはできず、どうしても少々の苦言を口にしたくはなってしまう。苦難どころか地獄が待っていると断言できる道をあえて進まなくてもいいだろう、と。
妹が高専に進むのを複雑な気持ちで見ていたであろうこのひともきっと、そう思ってくれると。
「へえ、高専くんのお前ら。物好き」
あまりにもあっさりと受け止めたクラゲさんに、つい片手で目元を覆った。
物好きって言わないで、ともう中学も三年生になった双子たちはきゃいきゃいと騒いでいる。はいはいとそれを軽くいなした無気力な瞳は、何だよと私を見返した。
「止めて欲しかったのか?」
「……そういうわけでは」
「あるだろ」
クラゲさんは自分たちの味方だと理解したのか、その言葉を聞いてさっと二人はクラゲさんが座る両脇を陣取り、じとりとした目線を私に向けた。
こういうことは滅多にないだけに、何とも言いがたい気分に駆られ、きゅっと唇に力が入る。
「夏油さまさぁ、うちらのこと心配してくれてんのはすっごくよくわかるけど、いつまでも子ども扱いしすぎ!」
「私たち、ちゃんと考えたの。考えて、呪術高専に行きたいって思ったの」
いやまだまだ子どもだから子ども扱いはする。だがきちんと考えられる子たちであることもわかっている。生半可な気持ちで進路を決めたわけではないことも、「呪術」に関わることそのものに、多大なリスクがあるということも。
この子たちは、幼少の経験からそれを誰よりも知っている。それでも呪術の道を選ぶのは、ーー少なからず、私の存在があるからだ。
守られていればいい。
手を汚さなくていい。
それなのにこの子たちは、私に恩を返したいのだと笑うから。私の力になりたいなどと、健気で愚かなことを望むから。
美々子、菜々子、と口をついて出た声を、夏油、といつもより少し強い声が遮る。
「
はっとその顔に目を向ければ、いつも通りの無表情の奥に見えたわずかな呆れ。
お前さ、とクラゲさんは椅子をぎしりと鳴らす。
「極論、選んだ理由なんてどうでもいいんだよ」
何を見て、何を聞いて、何をきっかけに、何から影響を受けて、何のために、ーー誰のために?
んなもん結局、突き詰めりゃ全部「自分のため」なんだから、とたった四つ上のくせに、妙に達観したそのひとは頬杖をついた。
「大事なのは、自分で考えて選んだってことだ」
違うか、と見返す視線は射貫くと言うほど鋭くはなく、しかし逃げることを許さない程度には真摯だった。
「自分で選んだなら責任はすべて自分にある。それくらいわかってんだろ、美々子も菜々子も」
「トーゼン!」
「うん」
「なら、たとえ保護者だろうがそれに口出す権利はねえよ。いい加減子離れしろ夏油、普通に気持ち悪い」
「その言い方やめてもらえますか。というかシスコンに言われたくない」
「あ? 俺は硝子の進路に口出したことはねえよ。そっちこそ一緒にすんな」
心配性なパパだね~~~~~キッショ、と片頬をあげるクラゲさんに、つい掌の中で呪霊が渦を巻いたが双子が両脇をかためている今は手を出せない。というかそれを見越した上で煽っているとしか思えないこの野郎。
ところで、やっぱクラゲさんなら説得してくれると思ったんだよね、やっぱりうまくいったね、とこそこそ話している美々子に菜々子、あとでちょっとお話があります。
とはいえ、確かにふたりの選択を阻む権利は私にはない。かつてこの子たちを傷つけ、閉じ込め、自由に生きる選択のすべてを奪った猿どもと、同じことをしてはいけない。
わかったよ、と大きなため息とともに白旗をあげると、ぱあっと顔を輝かせたふたりは歓声をあげてクラゲさんに飛びついた。揺らすな椅子が壊れる、とクラゲさんは嫌そうな顔をしているが、されるがままになっているところを見ると結局この人もこの子たちに甘い。
ねえねえと目を輝かせたふたりは、楽しそうに「小さい頃から何だかんだ面倒を見てくれる優しいお兄さん」を揺らし続けた。
「呪術高専きたらクラゲさん先生やってくれるよね!?」
「なわけねえだろ。五条で我慢しとけ、五条になるか知らんけど」
「ええ……嫌すぎる……」
「呼ばれて飛び出て!!」
「来んなクズ」
「やだやだやだぁ! 五条に先生とか絶対言いたくない!」
「やっぱり呪術高専はやめておくかい?」
「私たちはやめないから五条が辞めて」
「相変わらず僕には辛辣だね~照れ隠しカナ? 絶対僕の生徒にしてやるからな」
「こんな担任マジで嫌すぎるな。まあでも、」
それがお前らの選んだ地獄だよ。
しれっと突きつけられた現実に、双子はがっくりと肩を落とした。
そして五条さんはそれを指さして笑っています。「べろべろば~~~」とか言って舌出して煽るので夏油さんに殴られて終わります。