いやー、実際あせったね。
私みたいな善良な一般人は家に警察が来たらホイホイついて行っちゃうのは仕方がないとして、よくよく話を聞いてみれば確固たる証拠がないときたものだ。
まぁ、私がスリをしていたことなんて確かめようのないことなのだから。
そもそも私はただのスリじゃない。
ターゲットに接触なんてしなければ、財布を盗むこともない。
離れた位置から財布の中身の紙幣だけをピンポイントで盗んでいる。
そう、たとえ警察が主張するように被害者が発生した場所の監視カメラに私の姿が複数回確認されていても、被害者と数メートルの距離がある以上私を容疑者とするのは無理があるのだ。
私を映していた監視カメラこそがそれを証明してくれる。
とは言っても、現場にいた私を怪しいと思っている以上簡単には諦めてくれない。
だから私は監視カメラの映像を盾にゴネる作戦を取ることにした。
「だから、やってないって言ってるじゃないですか!カメラ見たらわかりますよね?お金なくなったって言ってる人と私はなれてますよね?盗めるわけないじゃないですか。そもそもお金がなくなったって本当のことですか?ただの勘違いじゃないんですか?自分の所持金額なんて正確に覚えてる人ってどのくらいいるんですかね?たまたま現場にいた私に話聞きたいのは分かりますけど、もっと別にすることありますよね?」
証拠が出てくることなんてありえないし、人の記憶は風化していくものだ。
警察だっていつまでも勾留していられるわけじゃないだろう。
時間は私の味方だ。
相手の追求を知らぬ存ぜぬで交わし続けていたが、部屋の前に女性が二人やってきた。
交代要員のようだが少し気になる事がある。
今まで取調べをしていた警察官が所持していなかった拳銃を持っている。
ついでに一人めちゃくちゃでかいな。
身長190あるだろ。
……物騒過ぎるし部屋に入る前に拳銃どっかに置いてきてもらえませんかね?
そんな想いも通じることなく二人が部屋に入ってきた。
「取調べを交代する。下がってくれ」
二人のうちロングボブの方が言った。
多分上司がロングボブで後ろに控えているでかい方が部下だろう。
デカ女はあからさまに敵意剥き出しなのに対してロブの方はやけに落ち着いているように見える。
うーん、なんか嫌な流れな気がする。
このタイミングで交代するってことは私を追求するための『何か』を持っている可能性がある。
ここは何を言ってきても下手な反応をしないように気を引き締めよう。
ロブの方が表情を変えず口を開いた。
「まずは自己紹介といこう。私は
両國ラヴって言った?
名前すごいなオイ。
本名なの?親が力士だったりするの?
「あんたの親って力士なの?」
「黙れ犯罪者!」
やば、口から出てた。
めちゃくちゃ怒ってる。顔真っ赤じゃん。
でも出会って早々に犯罪者扱いはどうなんですかね。
どんな教育受けてきたら初対面の人間を犯罪者扱いできるのか気になりますよ。
親の顔が見たいものだね。二重の意味で。
「まぁ、ラヴは少し落ち着け。怒ってばかりじゃ話が進まない。
……それで、君の名前は春夏秋冬廻でよかったかな?」
「あ、はいそうです」
インパクトが凄すぎて気が抜けてしまった。
これ狙ってやってたらかなり策士だろこの人。
気を引き締めないと。
「挨拶も済んだことだし事件の話をしたいところだが、君は何も知らないということでよかったね?」
「そうですね。何度も言っているように無実です。何も知りません。疑いがあるのは耳にタコができるほど聞きました。でも証拠がないんですよね。もういい加減疲れてきました。証拠出して下さいよ!」
まぁ、出るはずもないが。
心の中でほくそ笑みながら相手の出方を待っていると椿が話し始めた。
「なるほど、では少し切り口を変えよう」
「君は魔法や超能力といった不思議な力がこの世に実在すると思うかな?」
「もしそんな力があるのなら、一切の物理的な証拠を残さずに離れた場所から財布の中身だけを盗み出すことも可能だ」
「君はどう思う?」
……嘘でしょ。
椿は何を知っているんだ。
いや落ち着け、相手の言っている通り物理的な証拠がない以上その追求は空想と変わらない。
今まで通りシラを切るだけだ。
「馬鹿げた空想ですね。確かにそんな力が実在すれば可能でしょう。でもそんなことを考え始めたらキリがないでしょう?そもそもそんな不思議な力を確かめようもない」
「君のいう通りだ。確かめようがない。科学で解明できない事が起こったとき警察は無力だ」
「そして、それを悪用する相手が現れた時取り締まる方法がないんだ」
「だから実力行使といこう」
椿は目の前の机に座りそう言ったはずだった。
しかし次の瞬間には私の横でこめかみに拳銃を突き付けていた。
「は?今、どうやって……、え?」
高速で移動したわけじゃないだろう。
特に服も乱れてなければ空気が動いた様子もない。
それこそコマ落ちでもしたような変化だ。
銃を突き付けながら口を開いた。
「君は特別な力を持っているようだが、その力を他人も持っていると考えたことはなかったかな?」
「その力を悪用しなければ長生きできただろうに」
「さようなら、春夏秋冬廻」
「ちょっと待」
こちらの静止を聞かずに引き金を引くのを感じ取り、咄嗟に銃弾を抜き取ってしまった。
「うん、弾がなくなっている。君が盗んだな?」
カチカチと引き金を引いていた椿が話しかけてきた。
「頭おかしいでしょっ!え、警察ってこんな簡単に発砲しようとするの!?ドン引きですけど!」
「弾がないし怪我もしなかっただろうに」
「
すると満足そうに椿が口を開いた。
「やはり君にもあるらしいな。不思議な力とやらが」
「いかれてる……!」
私に「窃盗の才能」なかったらどうしてるつもりだったんだよ!
「(そのまま撃たれればよかったものを)」
ボソッと言っても聞こえてるんだよ!
ラヴは黙っておけよ!
「それじゃあ、お互いのことが少しわかったところで改めてお話ししようか」