椿たちの拠点は警察署から車で20分ほどの場所にある寂れたビルだった。
幸いビルの内部は外観ほど汚れていなかった。
先導されて入ったビルの一室はどうやら事務所のようだった。
部屋に入った椿が声をかけてきた。
「好きに座ってくれ。何か飲みたいものはあるかな?」
「あー、なら水かお茶で」
口の中ベタつく飲み物嫌いなんだよね。
「そうか、ラヴのミネラルウォーターがあったな。使うわせてもらうよ」
「いえ、自分が入れますので座っていてください。椿さんはコーヒーで良かったですね」
椿が礼を言って席についた。
「ずいぶん仲がいいですけど、あなた達のお仲間って他にいないんですか?」
「あと二人いるがそれで全員だ」
「4人ですか少ないですね。もしかして左遷部署か何かですかここ」
「以前はもっと大所帯だったさ。何度か増員したが最近ではラヴしか残らなかった」
「その理由って聞いても構いませんよね」
「構わないが先に能力の話をしよう」
そのタイミングで両國が飲み物を入れて戻ってきた。
どうやら飲み物に一服盛られていることはなさそうだ。
両國が席につくと椿が話し始めた。
「それじゃあ、まずは私の能力から話そうか」
「私の能力は時間停止。取調室で一瞬で君に銃を突きつけたのも能力によるものだ」
ラスボスみたいな能力持ってるじゃん。
瞬間移動か何かだと思っていたけどかなりやばいな。
いや瞬間移動でも大概だけど。
「ちなみに、どれくらい持続できるんですか?」
「具体的に調べたことはないが……今までで最長は二日くらいかな。時間が止まっているから体感でだけどね」
「……」
声が出なかった。
チートかよ。
そんなのレギュレーション違反でしょ。
時間停止能力は最長で九秒くらいにしとかないとダメだよ。
「質問がないなら次に行こう」
そういうと両國に目くばせした。
「では次は私が。私は体を炎状のエネルギー体に変える事ができる」
こっちは悪魔の実かな?
「炎状のエネルギー体っていうのは?」
その疑問に対して両國は手のひらを突き出してきた。
「こういう事だ」
そういうと手のひらが炎に包まれた。
いや手の実体がなくなって手のひらを模した炎に変わっている。
でもこれは炎そのものになっているのでは?と思っていると両國が言葉を続けた。
「これは炎のようだが正確には炎ではないらしい」
「水をかけても消えることがなければ、燃えているように見えて酸素を使ってもいない。ただ熱はあるし紙でも触れば簡単に火がつく」
「だから炎状のエネルギー体ということになっている」
「今後正確なことがわかるかもしれないが今はこんなところだ」
「なら炎になってる時って痛みとかあるんですか?」
他意はないが念のために聞いておこう。
「いや、その間の痛みはない」
なるほど、物理無効になるってことね。
こっちも大概だな。
いや、何かする予定はないけど念のためね。
なぜか敵視されてるし。
「それで、お前の能力は?」
「お前じゃなくて、春夏秋冬廻ね。とりあえず仲間(仮)になったことだし少しは仲良くしましょうか」
敵意を示されても受け流して距離を詰めてあげる私って優しすぎるな。
「……春夏秋冬、お前の能力はなんだ」
「はいはい、私の能力ね」
うーん、どこまで話すべきか悩みどころかな。
仲間になる以上ある程度は素直に話す必要があるだろう。
でも能力の詳細を全ては話すのはリスクがある。
全部説明するとそれを前提に仕事を振られる可能性がある。
協力はするけど極力楽したいし伝える情報は制限しておこう。
「私は相手の持ち物を盗む事ができます。それが能力です」
「能力の範囲は?」
「私を中心におおよそ半径三メートル。その中にあるものは大体盗めます」
「春夏秋冬君は盗む対象をどの様にして特定している。さっきも拳銃の中にある弾を盗んだろう。目視というわけじゃなさそうだ」
まぁ、そこは突っ込まれるか。それは別に構わないけど。
ただ……
「説明が難しいなぁ。なんというか、能力が届く三メートル内にある『手で触れることができるもの』はわかるんですよね」
「あなた達も何か触れたらざらざらしてるとかスベスベしてるとかわかりますよね。私の場合、その触覚が手から離れた位置にもあるって感じですかね」
「箱の中身を見ないで入ってるものを当てるゲームがありますよね。その要領で何があるかわかります」
「春夏秋冬、お前は確かスリの時一万円を狙って盗んでいただろ。それをどうやって区別していた」
「千円札と一万円札だと描かれてる模様も違うじゃないですか。手触りが違うんですよね」
「手触りって」
「私って繊細なので」
何か言いたそうだが事実なのだから仕様がない。
「ふむ、面白い能力だ。ところでその能力は生き物には作用するのか?」
それも聞いておきたいか。
「いいえ、生き物には作用しません。生物を盗むことはできませんし、漫画のキャラみたく人間の心臓を抜き出したりもできませんよ。ああ、あとは液体なんかの掴めないものは盗むことはできません。触れることはできますけど」
ここまで話したらもう充分でしょ。
あまり話を広げられたらボロが出るかもしれないから話題を変えよう。
「今はいない残りの二人はどういった能力で?」
椿が疑問に答えた。
「一人は能力者ではない。情報収集を行なっている。基本的にはメールや電話でのやりとりが中心で、かなりの人嫌いだから会うことはしばらくないだろう。機会があれば改めて紹介する」
「もう一人は記憶を操作する能力だ。基本的に目撃者などの後処理が中心になる。次の仕事の現場で顔を合わせることになるだろう。その時はラヴ、紹介してやれ」
記憶操作ってかなり危険では?
「すでに操られてたりしないですよね」
「問題ない。少々怠惰な癖はあるが善人だよ」
嘘はついてないっぽいし信じるしかないか。
というより話聞いてたら気になることが出てきた。
「情報収集と後処理ってことは現場で動くのは二人ってこと?少なすぎでしょ」
「今日から三人になった。いやぁ、助かるよ」
「増やしましょうよ。あ、前は人多かったんですよね。また増やしましょう」
首を振って椿が答えた。
「残念だが組織のしがらみ的にも引っ張ってくるのは無理だな。説明していなかったが、我々の所属は怪事件捜査係となっている。表に出ることはないから知らないだろうが。あぁ、怪事件とは科学的捜査で解決不能と判断された事件のことだ。例えば、家の中で急に同居人が行方不明になったとか、不審死が多発する土地の捜査とかな」
「そして事件の捜査中、過去に何人もの仲間が死んだ。春夏秋冬君が起こした事件のように人為的なものであれば、ある程度事件を起こすに足る理由の推測もできるし危険をあらかじめ予測できる。しかし超自然的な現象だと推測はほぼ無駄になるし予測も無意味になりがちだ」
「その結果、人員の増加はまず不可能となった。増やした側から死んでいくからな」
「じゃあ、あなた達二人が生きてるのって」
「そう、私は何かあれば時間を止めて安全圏まで撤退できる。そしてラヴは炎になれば外界の影響をほぼ受ける事がない。生存能力は群を抜いている」
なんだこいつら。
私ってあなた達と違ってベースは一般人なんですよね。
やったことはチャラにしてこの話はなかった事にしてほしいかな。
「あ、もしかして私も後方で情報収集とかでした?焦ったなーもう」
「さっき現場が三人になるって話しただろ。春夏秋冬、お前も現場だよ」
「いや無理でしょ。私ただの素人ですよ!?能力だって生存に特化してないですし」
それに対して両國が同意した。
「その通りだ。椿さん、本人もそう言っていますしやっぱり無理ですよ」
いいよ両國!もっと言ってやって!
「そもそも何をしでかすかわかりません。犯罪者に背中を預けるのも不安です。椿さん思い直してください。始末しましょう」
やっぱり黙っててもらえる?
「いや、春夏秋冬君のポテンシャルはなかなかのものだよ」
「それにラヴとは相性も良さそうだ」
目か頭のどっちか悪いんじゃないの?
そして私の評価がやけに高い。え、昔会ったことあったっけ?
顔の造形も肌の質感も覚えがないし多分初対面のはずだけど。
「相性?いえ、椿さんがそういうなら……」
両國は納得するまで早すぎじゃない?上司に忖度しないでもっと噛みついてもいいんだよ。
「本気で現場行かせる気ですか」
「もちろん。その方が向いてそうだ。それに危険手当もかなりつけるよ」
!
そういう話が聞きたかった。ちょっと詳しく話しましょうか。