俺「以外」の全員が「2周目」は流石に鬼畜仕様過ぎる。   作:夢泉

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6話 魔王エイジ“A√”

 旅の途中の休憩、そこで俺はホースに彼の知る「前」の事を尋ねた。

 すると。

 

「最初に言っておくね。おじさんが持ってる記憶はエイクだと思うよ、多分」

「多分?」

 

 という、妙な答えが返ってきた。

 ちなみに、口調は怪しまれないよう、敬語を止めて砕けた口調にした。

 共に旅をしていて会話が固いのも変だからな。

 

「何て言えば良いのかな。……大筋がエイクに似てるからエイクと判断するしかない、みたいな?恐らくだけど、同じエイクでも皆少しずつ違うんだと思うんだよね」

「1つとして同じ「未来の記憶」はないかもしれない、ってことか?」

「そうそう。長いヒトでは何十年もの記憶が巻き戻ってる。当然、全部を明確に覚えておくことは無理だよね。だから、細部の違いは記憶違いとか勘違いで片付けられたりもしてるんだよ」

 

 そう述べた後、彼は「全部推測だけどね」と締めくくった。

 そして、話は本題に入る。

 

「ま、ともかくだ。おじさんの知ってる魔王エイジの物語を語って聞かせるよ。そうだな、まずは――」

 

 

◇◇◇

 

 

 エイジ・ククローク。

 その男の名が最初に轟くのは人歴1431年。神聖ヒルア帝国の大都市「オーロングラーデ」を襲撃したことから始まる。より正確には、都市の中心にあった「聖女の離宮」を襲撃した。

 この離宮について語るには、まずオーロングラーデという都市について語らねばなるまい。

 オーロングラーデはヒルア帝国において5本の指に入る巨大な都市で、周囲の豊かな自然と、それに調和する街並みが有名な都市。資源に恵まれ、様々な輸出品で潤っていた。

 ヒルア帝国及び帝国を牛耳る教会にとって、オーロングラーデは重要な要所。故に、歴史的に「聖女」が1人配置される慣習となっていた。離宮とは、その聖女の住まいであり、また大規模な都市防衛魔術の要となる施設である。

 しかし、当時の大陸情勢はまさに一触即発。従来の大国家同士のパワーゲームに加え、領土問題や資源問題に歴史問題など課題は山積。そこに加え、「ヒト」と「亜人」の根深い確執が存在した。

 転生者の中には種族の壁をなくそうと尽力した者も多くいた。だが、その転生者自体が長らく「魔法の使えない者」として差別される側。その差別が無くなったのも最近の事である。

 そう、この世界は発展しているように見えて、まだまだ過渡期。

 魔法・魔術という便利な力を用い、異世界「地球」の進んだ文明を取り込むことで急速な発展を遂げた世界。しかし、その速すぎる発展に人々の心や考え方、社会制度は全く追いついていなかったのである。

 そのため、大陸中央に位置し周囲を他国に囲まれているヒルア帝国は、人歴1425年、最大戦力たる4人の聖女を各国との国境付近に配置することに決めた。これにより、国土の内側に存在していたオーロングラーデから聖女が去ったのだ。

 その状態が6年続いた人歴1431年、エイジ・ククロークはこの聖女不在の隙を突いて離宮を襲撃したとされる。

 都市周辺の森を燃やし、悪辣な発想で大自然を武器とし、当時わずか16歳だった少年は、たった一人で離宮に侵入した。

 しかし、まさにその時。神の加護とでも言うべきタイミングで新たな少女「メレリア」が聖女として覚醒し、エイジが引き起こした周囲の騒乱を瞬く間に鎮める。

 これにより、都市に駐在していた教会騎士たちがエイジを捕らえんと迫ることに。たった1人の少年に何が出来るわけもなく、捕らえられる――ことはなかった。

 普通であれば、どれほどの実力者でも1人で離宮を襲撃して、全ての教会騎士から逃げることなど不可能。しかし、エイジ・ククロークは、後に「魔王」と呼ばれる少年は普通では無かった。

 彼は、教会騎士100余名及び都市防衛戦力1,000余名の追跡を見事に振り切って見せたのである。

 後に「魔王エイジ」と戦った者は口を揃えて言う。その強さは、魔法でも魔術でも腕力でも無い。彼の強さとは、類まれな判断力と冷徹極まる決断力、そして逃走の巧みさにこそあった、と。

 その後、北の地へと向かったエイジ・ククロークは北の国で差別されていた種族を自らの手勢とし、北の国の大都市「レウコンスノウ」を急襲、占領した。

 そこから「ヒト」と「亜人」という2つの勢力を中心として、大陸は戦火に包まれていく――

 

 

◇◇◇

 

 

「――んで、ここから遂におじさんが登場するんだけど……」

「待ってくれ。アンタは「前回」の時にオーロングラーデにはいなかったのか?」

 

 俺は5年前も、そして今も。オーロングラーデ周辺でホースと遭遇している。

 だというのに、「魔王エイジ」がオーロングラーデを襲撃した時、彼自身の話は出てこなかった。

 

「おじさんは聖女不在の穴を埋めるために派遣されてきたんだけどね、「魔王エイジ」が離宮を襲撃する1年前に離れていたんだ。暗部も国境に回さなきゃいけない程に、国際情勢がヤバかったらしいね」

 

 なるほど。だから、「前の俺」と「前の彼」はその時点では会わなかったのか。

 

「もう1つ聞かせてくれ。なぜ「魔王」は聖女の離宮を?」

「さぁ?何でだろうね?」

「……どういうことだ?」

 

 コイツは異端審問官……教会の裏側に所属する男。しかも、その序列3位だ。

 その男が、全ての始まりである「魔王」の離宮襲撃の理由を知らないだって?

 

「聖女関連の情報は全て教皇と「ゼシドラル」が管理してる。たとえ異端審問官の序列3位とはいえ、現場の人間ごときに知らされる内容では無いからさ」

 

 成程な。

 確かに、No.3はあくまでも強さや便利さの順位。彼らは徹頭徹尾、実働部隊の「駒」でしかないということか。

 「ゼシドラル」……通称「大魔聖堂(だいませいどう)」または「魔聖堂」。教皇直属の人員が構成する教会の最高権力機関だ。

 どうやら、全ての秘密を握るのは教皇とその周辺とみて間違いなさそうだな。 

 

「……そうか。話を遮って悪かった。続けてくれ」

「いいよー。といっても、ここから先はありふれた話なんだけどね」

 

 

◇◇◇

 

 

 撤退戦の上手い軍は強い。当たり前の事だ。

 魔王エイジは、見極めの絶妙さと撤退の巧妙さで自軍の何倍もの軍を常に翻弄し続ける。

 彼の用いた虚実綯交ぜの情報戦と軍略が、混沌極まる戦況を描き出す。

 教会の神託によって「勇者」とその仲間たちが選び出され、「ヒト」の中心的存在となった後も、戦況は混沌としたままだった。

 そこで、俺が抜擢される。俺は自らの感情を色として見抜く力を活用して魔王エイジの作戦を看破する役割になった。

 もっとも、この魔法は射程距離が長くはない。故に、俺は常に最前線に行かされるわけで。当然、魔王エイジと剣を交えることも多かった。

 

 

◇◇◇

 

 

「戦い、追い詰め、逃げられを繰り返す内、俺は直ぐに魔王エイジの虜になったよ」

「うげ、気持ち悪……」

「今でもぞっこんさ。「魔王」以外の標的を殺すことに価値を感じないくらいには」

「うわぁ……」

 

 

◇◇◇

 

 

 しかし、全ての物事には終わりがある。

 長かった戦いにも、やがて終わりが見え始めていく。

 元々、長期戦になれば、広大な国土と盤石な国家体制を有する「ヒト」が優勢になるのは明らかだった。

 そして、勇者一行が遂に魔王の元へ辿り着き――

 

 

◇◇◇

 

 

「――悪逆非道の魔王は勇者の剣によって討伐されました。めでたしめでたし」

「なぁ、「前回」でアンタは俺に殺されたはずでは?」

 

 「前の俺」と「前の彼」が戦い、「彼」が死んだ。その、彼なら絶対に外さないだろう内容が今の話には含まれていなかった。

 

「お、気付いたんだ。良いね、おじさんの言葉を覚えてくれてて嬉しいよ」

「悪ふざけはいらない。質問にだけ答えてくれ」

「つれないなぁ……ま、その一番の盛り上がりはここからさ。俺はね、勇者に斬られて業火に飲まれていく魔王に「嘘の色」を見た」

「嘘の色、ってことは……」

「そう。実は、魔王エイジは勇者に討伐なんてされてなかったんだよね。これは、世界で魔王と俺だけが知っていることさ」

 

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