俺「以外」の全員が「2周目」は流石に鬼畜仕様過ぎる。   作:夢泉

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6話 軍師と魔王

 は?

 あまりにも想定外の内容に黒の駒を持つ手が止まってしまう。

 今、彼は何を言った?

 魔術が使えない?

 人魔王……「カルツ」の「魔王エイジ・ククローク」は魔術が使えなかった?

 

「そんなことが――」

「まぁ、ありえないだろうね。なにせ、魔力とは生きとし生ける存在全てが有する力。だからこそ、生きている限り魔術は使えるんだから」

 

 その通りだ。

 魔法が魂の力であるならば、魔術とは肉体……物質の力とも言える。

 地球に魔力なんてモノは無かったが、この世界では存在して当然の世界の理。

 進化の果てに水から陸へと進出したとか、葉緑体を獲得したとか、そういう次元の話ではない。生物が進化の過程で魔力を獲得したのでは無いのだ。

 この世界の全ては、「創造神」と「神々」が「創造魔法」と「交換魔法」で産み出したモノ。即ち、魔力から産まれた存在が俺たちである。

 故に、魔力を持っていることが絶対の法則。

 生物は生きている限り魔力を生み出し、魔力があるから生きることが出来る。魔力を持っていなければ、生きていくどころか誕生すら出来ない。

 そして、魔力があるならば魔術は使える。術式を習得して魔力を流し込めば発動するのが魔術。出力に個人差はあれども、大抵の魔術は使えるようになる。

 その「魔術」を人魔王が使えなかっただって?

 

「人魔王が剣技に優れていた、という話を聞いたことは?」

 

 落ち着け。

 荒唐無稽すぎる話だが、「記憶事変」なんて事態がそもそも馬鹿げている。ならば、否定するには早計。

 思考を整理しながら、黒の駒を動かす。動揺しようとも、指し手を誤ったりはしない。

 

「あります。まるで剣だけに生きてきたかのようだった、とも聞きました」

 

 そもそも、大きな疑問ではあったのだ。エイクやビクト等の「魔王エイジ」は魔術の器用さが話題になるのに、カルツの人魔王だけは剣技が達人クラスだったなんて。

 俺だって師匠の下で必死に修行したが、魔術修行も並行して行っていた。手を抜いたわけでは無いが、「剣だけに生きてきた」なんて称される領域には至れない。

 しかし、それが仮に……

 

「私はそれに関して少し異なる見解を示している。彼は「剣しか無かった」から剣を極めただけではないのか、とね」

 

 ……魔術が使えないから、剣だけの修業をしていたとしたら?

 何百年と研鑽を積んできた師匠から、剣だけを教わり続けたとしたら?

 間違いなく、今の俺よりも剣技では上の領域へと至っていただろう。

 

「そもそも、あらゆるものを利用して活路を見出す。それがエイジ・ククロークの基本戦術だ。ならば、使える魔術を鍛えずに剣だけを極めるなんて奇妙だろう?」

 

 その通りだ。俺ならば使える手は何だって使ったはず。魔術も剣も十分に活用できる領域まで鍛え上げたはずだ。

 逆に言えば、魔術が使えないのであれば、残された剣技の方を徹底的に鍛えようとするだろう。

 

「確かに、そう考えることも可能かもしれません。しかし、その一点だけで魔術が使えなかったと判断するのは早計では?……それとも、他にも根拠が?」

 

 攻勢に打って出たオルトヌスの手に対しカウンターの手を打ちながら、考えを整理していく。

 例えば、人魔王が魔術を最後の奥の手として隠し続けた可能性はあるだろう。

 或いは、保有する魔力量が人より少なく、出力が弱くなってしまうので使わなかった……ということも考えられるかもしれない。

 

「無論、こんな馬鹿げた説を唱えるのに、根拠がこれだけなんて事はないさ」

 

 彼の苛烈な攻めが続く。ここが攻め時と見切ったのだ。

 堅実な守りを基本としていたが、打って変わって攻めに転じる。まるで人が変わったかのようでさえある。

 元々そういう二面的な戦い方を得意とする人物……というわけではないだろう。

 

「「前回」の私は人魔王の戦いを分析し続けていた。人魔王が勇者によって討たれた後も、「やり直し」が起きる直前まで。私はいっそ狂気的なまでに魔王エイジを研究していたんだ」

 

 この戦略は後天的なモノだ。

 魔王に敗北し続けた「記憶」を元に自らを変革した結果。敗北を糧に編み出された戦術。

 

「そして、それは今も変わらない。「記憶事変」以降も私は毎日のように彼を分析し続けてきた。他の「未来」における魔王の情報も取り入れながら、彼と戦った全ての戦いを思い出し、脳内で戦いを繰り返し続けたんだ」

 

 実際に兵や民の命を預かっている時には、臆して選べなかった選択肢。

 かつて人魔王に対して取れなかった手段を、彼は盤上で再現している。

 ……まるで。かつてのリベンジを果たそうとするかのように。

 

「あらゆる条件を検証したよ。1つ1つの戦いの地形・気象条件・兵力差なんてものは勿論、考えられる限り全ての要素を検討した。思考した。そして、その果てに至った結論こそが――」

 

 白の一手が盤面に突き刺さる。

 「前回」と「今回」。「軍師オルトヌス」が2つの「人生」を経て辿り着いた至高の一指し。

 「人魔王」を倒すことだけを考え続けた果ての一手。

 

「人魔王は魔術を使えなかったという結論だったわけですか」

「肯定しよう。私の知る限り、彼が魔術を使えたなら絶対に使ったはずの場面が12回あった」

 

 そうであるならば、受けて立つ。

 俺は俺として、彼の研鑽に立ち向かう。

 ここで味方を犠牲に王を逃がすのが「魔王エイジ」の手であったならば。

 俺は「彼」を超えなければならない。

 黒の王の駒を前に。

 選ぶは、王による攻めの一手。

 大切なモノを全て拾いきると決めた俺の選択。

 

「……む。そう来るか。……それでね。人魔王が魔術を使えなかったと仮定すれば、それ以外の検証も驚くほど上手くいったんだ。……もっとも、目に見える証拠があるわけでは無い。敗北軍師の妄想と言われてしまえばそれまで。根拠としては弱すぎる。それでも――」

「それでも、貴方は確信しているのですね。かつての宿敵として。因縁の相手として」

「その通りだとも」

 

 会話しながらも互いに駒を動かしていく。

 一手、二手、三手。

 そして四手目。これを指したことにより――

 

「……っと。これは詰みだね。私の敗北のようだ。……あの一手を返された時点で勝敗は確定していたわけか」

 

 ――決着はついた。

 この盤面でオルトヌスに打てる手は無い。

 

「ははは。完敗だ。最後の最後まで、ただの一度も。実戦であろうと盤上であろうと。私は()()()に戦で勝つことは出来なかった。けれど――」

「……っ!」

 

 瞬間。俺の周囲が青く透明な壁で囲まれる。

 これは……!

 

「――戦に負けても、勝負には勝てたようだ」

 

 彼の言葉が終わった時。俺の身体は結界魔術によって拘束されていた。

 

 

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