俺「以外」の全員が「2周目」は流石に鬼畜仕様過ぎる。   作:夢泉

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7話 ピース

 

◇◇◇

 

 

「覚悟するんだね、兄ちゃん! 今度こそ私の勝ちだよ!」

 

 思い出すのは、いつだって無邪気な笑顔。

 

「ふっふっふ。妹より優れた兄なんて存在しないってことを教えてあげる!」

 

 俺の事を「兄」と呼び慕う女の子。何かと理由をつけては俺の傍にいようとする少女。

 

「ふははははは! 残念だったな、ウア! ここで発動、伏兵カード! 俺の勝ちだ!」

「なんで初めてのゲームで勝てるのさ!」

「兄より優れた妹など存在せんのだ! クハハハハハ!」

「むきー!」

 

 そんな少女()を、俺はーー

 

 

◇◇◇

 

 

 俺の目の前に書かれた“メレリア・ククローク”の文字列。

 そして――。

 

「……備考。“魔王”エイジ・ククロークは実兄。魔王は聖女を“解放”すべく戦いを始めたと推察される……教会の支配を揺るがす恐れ大。最重要機密として扱うべし……」

 

 これは罠だ。教会は俺が此処に潜入する事を読んでおり、俺を動揺させる為に嘘の記述を用意したのだろう。

 ――それなら、教会騎士やら勇者一行やら執行官でも配置して仕留めてしまうべきだ。

 

 或いは、ラドロヴォールが裏切者……というか獅子身中の虫だったというのはどうだろう? 奴が教会側に連絡し、それを受けた教会は戦力の手配が間に合わず、急遽、嘘の情報を遠隔で書き込んだ。

 ――それなら、ここに閉じ込めるとか方法は幾らでもある。第一、俺がこの書を取ったのは偶然だ。予め予想できる類の事ではない。

 

 あぁ。クソっ。

 ウアを疑いたくなんて無いのに。俺の理性が、染み付いた思考が、状況を冷酷に分析していく。

 全ての違和感が氷解していく。見えなかった道が見えていく。

 

 ずっと何か重大なピースが欠けていると感じていた。

 ウアが妹ではないこと。

 聖女が妹であること。

 表裏一体の2つの事実が探し求めたピースなのだとしたら。

 

 そもそも、奇妙な話だったのだ。

 集めた情報を整理する限り、全ての1周目(ルート)において魔王エイジの始まりは共通している。

 それこそが、故郷の街オーロングラーデの強襲。

 奇妙だったのは、ただ一点。

 強襲を実行に移したこと、では()()

 あの街が選ばれたこと、でも()()

 それらは疑問ではあっても奇妙では無かった。

 

 ただ1つ。奇妙だったのは。

 “エイジ・ククローク”が聖女一人に追い返されたということ。

 

 別に自惚れているわけではない。これは冷静な判断の結果だ。

 根拠なんて1つだけ。“エイジ・ククローク”は“花葬の魔女シムナスの弟子である”という事実。

 師匠は正真正銘の魔女。魔女としての圧倒的な力を、数百年の生の中で研ぎ澄まし続けて来たヒトだ。武も知も妥協することなく極めてきたヒトである。

 そんな人から6年も修行をつけてもらっていた少年。俺のように“記憶事変の謎を探る”なんてフワッとした目的では無く、たった1つの明確な目的を掲げて走り始めた少年。

 ……そんな少年が、聖女とはいえ、たった一人に追い返された。

 

 “魔王エイジ”は勇者一行を長年苦戦させ続けていた存在。当時は魔王軍という戦力を有していなかったのは事実だが、その程度で勇者一行の1メンバー程度に後れを取ったとは考えにくい。しかも、聖女メレリアは力が開花して直後だったというのに。

 これは幾ら何でもオカシイ。

 

 “エイジ・ククローク”であるならば、万全なんて言葉では生ぬるい準備をして実行に移しただろう。

 ヴァルハイトから聞いた話では、エイクルートでは街周辺の森を焼き払ったらしい。当然、無関係な犠牲者が大勢出る事態も想定していた筈だ。……つまり、覚悟はガンギマリ。腹を括っていたと解釈できる。

 今みたいに俺以外が2周目なんて鬼畜モードでもなく、師匠の下で修業を積みながら1つの目的の為に6年間も準備をして。

 それでも失敗した。失敗したのだ。

 そんな事が起きるとしたら。それは。

 

 ふと、つい先ほど読んだ教会騎士の独白を思い出す。

 ――救いを求めぬ者を、救う事は出来ない。

 

 聖女メレリア。彼女が。彼女こそが目的だったのなら全てに納得がいく。

 救うはずだった存在に攻撃されたのならば。

 

 

◇◇◇

 

 

 その後しばらくして。ラドロヴォールの「そろそろ出た方が良い。侵入がバレたら詰みだ」との助言を受け入れ、俺たち3人は禁書庫から出る事を決めた。

 地下に張り巡らされた回廊。その薄暗い道を走り抜けながら、考えるのは1つ。

 

 ……あの後、幾つもの禁書に目を通したはずだが、不思議と内容が頭に残っていない。

 特に役立ちそうな情報と出会えなかったから、というのも理由の1つだろう。だが、一番の理由は――

 

「おいおい。どうした魔王様。この世の終わりみたいな顔しやがって」

 

 脱出の最中、ラドロヴォールがそんなことを言った。クリスも不思議そうに俺の顔を覗き込んでいる。

 ……そうか。今の俺はそんなに絶望した表情をしているのか。

 

「困るんだよな、そういう表情は俺様に最も大切なモノを奪われた時にしてくれないとさ」

 

 最も大切なモノ。俺にとって一番大切なモノ……。

 

「……ラドロヴォール。現状、お前が考えている標的……俺の最も大切なモノってなんだ」

「それ教えたら対策を練られちまうだろうが」

 

 ……コイツは絶対何か知っている。 

 俺が此処に来ることを予測できた理由。“前回”にてコイツが得たという“独自の情報”。それが深く関係している。そう考えた方が辻褄が合う。

 だが、それを敢えてはぐらかしているのだ。

 それがコイツの性格だというのは既に理解した。理解したが、今の俺には余裕がない。さっさと会話を進めさせてもらう。

 

「……なら良い。当ててやる。……聖女なんだよな?」

「…………成程。どうやら、わざわざ禁書庫まで来たのは無駄じゃ無かったらしいな」

 

 告げれば、ラドロヴォールはニヤリと口角を上げて答えた。

 やはりコイツは知っていた。知っていながら様子見をしていたのだ。

 

「少し前までは俺様もそう考えていた。テメェを妹と完全に決別させてやろうってな」

 

 “決別”。仲間の聖女を殺すという意味では無いだろう。

 恐らく、裏も何も無く言葉通りの意味。“前回”にて何があったか知らないが、“魔王”と“聖女”として争った兄妹。……しかも、少なくとも“魔王”の側は“聖女”を嫌っていたわけでは無く。むしろ助けようとしていた節がある。

 思い出すのは、いつぞやの靴磨き中に聞いた話。エイク、ビクト、カルツ。知られている限り全ての“前回”において“聖女”が死んだ事は無い。最後まで生き残っていたという話。

 成程。それが敵対しても捨てきれない肉親の情だったとしたら。そうだとしたら、その仲を決裂させることは小さくないダメージとなる事だろう。

 しかし――

 

「だが、テメェが聖女と相対した時の反応をジジイ……賢者から聞いて考えが変わった」

 

 それは、俺が聖女を大切に想っているという前提があって初めて成り立つ。

 

「“今回”では、聖女が俺の一番大切な存在じゃないかもしれないってことか」

「あぁ。少なくとも、今のテメェにとって聖女がどういう存在か見極める必要があるって考えたのさ」

 

 だから、彼は此処に来た。

 ……間違いなく、コイツにだって俺を憎む理由がある。この飄々とした男が背負って行くと決めた憎悪は、きっと決して軽いモノではない。

 それこそ、大切な誰かを俺に殺されたとか、その辺りだろう。

 それでも、彼は。

 己の美学に沿って復讐を行うと決めて。間違った“盗み”を行う事が無いよう、こうして俺の事を手伝ってまでいる。

 あぁ、コイツは――

 

「……お前って口調も格好も肩書きもオラオラしてるのに、意外と一番常識人だよな」

「何を言いやがる! 俺様は天下の義賊、ラドロヴォール・ゴールド様だぜ? 常識なんてモンに囚われねぇトリックスターが俺様だよ」

 

 ――“義賊”か。

 言い得て妙だ。

 或いは。魔王も勇者一行も何も無く。絡まった因果の全てが存在しない、そんな夢のようなIFが存在していたとしたら。

 俺はコイツと良い友達になれたかもしれない。

 

「聖女について聞きたい。聖女は俺の――」

「あぁ。聖女は魔王エイジと血を分けた実の妹だぜ」

 

 即答。もう隠す必要は無いから……というよりは、最初から隠し通すつもりでも無かったのだろう。

 

「……やっぱり、そうか」

「へぇ? 意外と動揺しねぇんだな」

「今は1つの情報として受け止めるしか無いって腹を括った。……それより、あと幾つか聖女について聞きたい。聖女は――」

 

 ともかく、深く考えるのは後だ。今はまず少しでも情報を。

 そう思って問いを発した、直後。

 

「――っ!?」

 

 凄まじい“()()()()”。

 ()()()()()()()()()()という確信。

 

「エイジ様っ!」

 

 咄嗟に双剣を構えることが出来たのは奇跡に近い。

 こういう奇襲搦め手は、実力差のある師匠から一本を取るために俺が多用した手だった。

 当然、使うからには対処法も特訓しておく。だから対応できた。それだけだった。

 

「っ…ぅ……」

 

 首前に構えた双剣。滑らせるように前へ。

 同時。身体を下方に。

 ギャリギャリと金属同士の擦れあうような音が耳の至近で轟く。

 

「……ぅらああああああああああああああ!!」

 

 そのまま、全力でソレを上方へと逸らす。

 それこそは、鋭利に研ぎ澄まされた風の刃。

 不可視の刃は音も無く、ぴったり俺の首の高さに忍び寄っていた。

 “俺を殺す”という絶対の意思を感じる一撃。

 これまでで1、2を争う強烈な殺意。殺意の刃。

 飛ばしたのは間違いなく――

 

「見つけました。魔王エイジ・ククローク。いえ……」

 

 ――そこに居たのは少女。

 両目を覆う目隠しで顔の上半分は隠された、黒髪の少女。

 車椅子に座る、その少女こそは――

 

「……兄様、お覚悟を。身内の穢れは私が消し去ります」

「聖女、メレリア……っ!」

 

 

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