僕、進研ゼミのおかげで“何でも“出来るようになったよ! 作:隼
進〇ゼミとは月額8600円(税込)と通信教材にしては結構割高だが、列記とした――神の書である。
なぜなら、それを手にしたものは願いを叶える力を手に入れることが出来るからだ。
ある者はテストで毎回100点をとり、ある者はスポーツやライブで大活躍し、またある者は宝くじを当てたとダブルピースをして語る。
そんな進〇ゼミを世界中の人々が求めるのは必然的であった。瞬く間に進〇ゼミは世間へ爆発的に浸透し、日常へと変わっていく。
願いも祈りも届かないこの残酷な世界で、進〇ゼミだけが天からもたらされた蜘蛛の糸であった。
……少なくとも、この世界の人間はそう思っていた。
※ ※ ※
「――あっ!この問題、進研〇ミでやったところだ!」
とある中学校の2年A組。学期末の定期テスト中に1人の少年が叫び声を上げた。
「おい、沢田!テスト中だぞ静かにしろ!」
教師が声を荒らげて注意する。
いつも素行の悪く、テストも毎回1桁の点数が当たり前の沢田健太にはどの教師も目をつけていた。
(まったく、テスト中に寝たり、落書きしたりするくらいは大目に見てやっていたが、奇行までするとは……流石に見過ごせん)
ズカズカと健太に近付く教師。そしていつも通り白紙であろう答案をちらりと見て――息を呑む。
キラキラとした目で答案に次々とシャーペンを動かす健太。問題児であるはずの彼が、正解を目にも止まらぬ速度で書き殴っていくのだ。
(これは……なんの冗談だ?あの何度言っても下品な笑いで誤魔化そうとするクソガキが、俺が嫌がらせで用意した難関国立大の入試問題まですらすら解くなんて……!)
その後、クラスに掲示された学年の点数ランキングには、満点で堂々の1位を飾る『沢田健太』の名前があった。
教師たちは顔を青ざめて、教頭からの職員会議という名の呼び出しに、ぷるぷる震えながら、集合場所である視聴覚室に入っていった。
※ ※ ※
家に帰った沢田健太は定期テストを手に、リビングに駆け込んだ。
「ママ!見てよこれ!」
「なぁに?そんなに慌てて」
そう言いながらも、母は自慢げに健太が見せてくる答案に目を止め――点数を見て、固まった。
「……あらあら?健太ったら、頑張ったのね……?」
この子ったら、いつも2点とかなのに……。いきなり100点だなんて……。
「うん!これも進〇ゼミでバッチリ予習したおかげだよ!」
「あらそう!進〇ゼミを始めて大正解だったわね!」
「うん!」
その時、ドアが開く音。そして、リビングに健太の一つ下の弟――康太がどこか恥ずかしげに顔を覗かせる。しかし母と健太の姿を見て表情を変えて、
「……なに?2人して抱き合ったりして」
「あら、康太帰ってきたの?実は健太がね――」
「――見ろよ、康太。オレ100点とったぞ!」
「は、はぁっ……??」
健太が自慢げに見せる答案を見て絶句する康太。
「100点って……お前が勉強してるところ、僕は見たことないよ?」
「ふふん。進〇ゼミなら重要なポイントだけを抑えられるから、1日たった10分の勉強でいいんだ!」
「はあ!?何言ってんだお前。10分かそこらで満点なんて取れるわけないだろ?」
ましてや万年最下位の兄が……と言う言葉を飲み込む康太。
健太は自慢げに胸を張った。
「進〇ゼミなら『何でも』できるんだ!そう――不可能を可能にだってね!」
あの漫画に書いてあったことをそのまま言う健太。
「ふざけるなッ!」
納得できない康太は怒って、母の引き止める声も聞かず、2階の自分の部屋へと上がっていく。
ひらりとなにかの紙が落ちた。拾う母。
それは、健太と同じく100点のテスト。
しかし、答えだけが書かれた健太の答案と違い、計算式や解き直しの跡が隙間なく書かれた努力に塗れたテストであった。
※ ※ ※
健太は過去を思い返す。今から少し前、自分が進〇ゼミと出会った頃の自分を――。
「なにこれ!」
いつも通りの帰り道。健太は道端に薄い本が落ちているのを見つける。
近付くと手に取り、恐る恐る中を開いた。
中はカラーで描かれた少女漫画風の綺麗な漫画。主人公は健太と同じ中学1年生の少年だ。
ストーリーは、勉強もスポーツもパッとしない彼が、デキる友達の誘いで『進〇ゼミ』を始め、それから学校のテストで毎回満点を取ったり、バスケでダンクシュートを決めたりなど、文武両道に大活躍し、誰からも賞賛の声を浴びる話。
いつしか健太は主人公に自分を重ねていた。
康太の才能に憧れている健太。ちやほやされ、弟の康太を見習いなさいと言われる屈辱。自分と同じ境遇の主人公が次々理想を叶えていく快感。
興奮しながら読んでいるうち、あっという間に読み終わった。そして最後のページには、
『僕がこうなれたのは進〇ゼミを始めたおかげだ!さあ、キミも今すぐボクと一緒に始めよう!』
と爽やかな笑顔でピースする主人公の姿。
「オレも、進〇ゼミを始めたら、こんな風にカッコよくなれるのかなぁ……」
そう言って空を見上げる健太の目は、希望に充ちてキラキラと輝いていた。
「よぉーし!そうと決まったら、こうしちゃいられないや!」
思い立ったらすぐ行動がモットー。
健太は気合を入れ、駆け足で家に帰ると、すぐにリビングに向かうと、大きく息を吸って――。
「ねえママ!オレ『進〇ゼミ』をやってみたいッ!!」
そう思いの限りを叫んだ。
※ ※ ※
あら、と目を丸くし、進〇ゼミってなあに?と首を傾げる母に、健太は拾った漫画を見せて熱弁していた。
「ほら、凄いでしょ!?こんな素晴らしい教材が月額8600円(税別)なんてめちゃめちゃお得すぎるよ!!」
「そんなこと言って、健太ったら、前も通いたいって言ってた学習塾、すぐ辞めちゃったじゃない。……また辞めちゃわない?」
「『ゼミ』なら絶対大丈夫!!だって、『ゼミ』なら、1日たった10分の勉強で要点を抑えて定期試験対策を完璧にできるんだ!しかも塾と違って自分の好きな時に自分のペースで勉強できる!」
「しかもねママ!今『ゼミ』を始めれば、なんと!『新生活お助けbook』と『図書カード2000円分』がついてくるんだ!だから始めるなら、今しかないんだッ!!」
「あら、そんなに色々あるのね?」
「うん!オレ、進〇ゼミを初めて絶対に頭が良くて運動もできるカッコイイ人間になるんだ!これで康太を見返してやるんだ……!!」
「あらあら、ずいぶんやる気になったのね……」
母はしばらく迷う素振りをしていたが、やがて健太の熱気に押されるように困った顔をしながら少し嬉しそうに、
「もう……分かったわ健太。けど、今度こそしっかり頑張りなさいよ?」
「うん!やったあ!」
飛び上がって頭上に拳を突き出す健太。
明るく楽しい、どこか新しい生活が始まる予感がしていた。
そして、その一週間後。沢田健太の元に『進〇ゼミ』7月号が届いたのだ。