鷹を守りたい雀の話   作:ふみどり

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エピローグとして。デク視点。


鷹と友だちになった雀の話

 濃い茶の髪をフードで隠す寡黙なヒーローは、何故だかあまり目を合わせてはくれないひとだった。

 初対面が独りで立ち向かわなければと気を張っていたときだったから、僕の態度が失礼だったのかもしれない。気を悪くさせてしまっただろうかと思っていたのだが、ホークスにはそういうんじゃないよと軽く手を振られてしまった。

 

『立場的に()()()()()()()()()()()()()()()ことにあんまり慣れてなくてね。デクのことも嫌ってるとかは絶対ないから』

 

 スズメも今いろいろ考えてるみたいだから、ちょっと待ってやって、と。

 そのときはどういう意味なのかよくわからなかったが、少し後になってスズメがどんな仕事をしてきたのかを知り、何となくその意味がわかったような気がした。

 嘘を操り真実を塗り替え、(ヴィラン)の内側で血と泥を浴びてきたヒーロー。彼がやってきたことを間違っているとは思わない。けれど、もしかしたら誰よりも彼自身が、自分のことを「ヒーロー」だとは思っていないのかもしれない。それはただの直感だったけれど、だからこそスズメに話を聞きたいと思った。

 ちゃんと、彼が見てきたものを知りたかった。スズメさえ、それを許してくれるのなら。

 

「……あーいや、頭は下げなくていい。デクのせいじゃないのはわかってる」

 

 復興が進み、僕らの傷がある程度癒えたころ。ホークスにダメもとでスズメの話が聞きたいと頼んでみれば「いいよ!」と本人の了承も得ずにOKされ、それをどこからか聞きつけたA組のみんなも一緒に話を聞くことになり、「ちょうどいいから授業ってことにしておこうか!」という根津先生の一言でスズメは講師として雄英高校に招かれ。嘘よけだというヘッドホンをして雄英を訪れた彼は、それはもう、心底嫌だという顔をしていた。

  今日は本当にすみませんと頭を下げた僕に、前よりは少し……何と言うのだろう、気のせいでなければ気安い雰囲気で、彼はそう言った。そのとき初めて、彼の瞳が赤みがかった茶色をしていることを知った。

 

「話を大きくしたのはホークスと根津先生だろ。俺に何聞きたいのか知らんけど、まあ聞かれたことは答えるから」

 

 よくわからんけど仕事のこと話せばいいんだろ、気分のいい話にはならないと思うけど、と続けられた言葉通り、スズメの話は容赦がなかった。

 きっと僕たちをただの「学生」だと思っていたら話してくれなかったような、今まで公安の指示を受けてこなしてきたあらゆる任務の詳細。

 たとえば、単身で詐欺集団に潜入し、ボスを疑心暗鬼に陥らせ組織を内部崩壊させた話。たとえば、捕まえた(ヴィラン)たちを徹底的に取り調べで追い詰め、「囚人のジレンマ」を完全再現してそれぞれの罪を自白させた話。もっと血生臭い話も、隠すことなく。

 どう考えても守秘義務的な意味で聞いてはいけなかったと思うのだが、スズメは「もう俺を処罰できるやついないからいいんじゃねーの。公安崩壊したし」と全く笑えないことをさらりと言うだけ。ちなみに相澤先生はいつもの寝袋に入っていました。あれは絶対に狸寝入りだったと思います。

 スズメがこなしてきた任務の内容にショックを受けていた人もいたけれど、決して安易に否定してはいけないことはみんな感じていたと思う。平穏を守ることがどれだけ難しいか、乗り越えてきた今だからこそ痛いほどよくわかる。

 潰されそうな重い空気に包まれた教室を見渡したスズメは、ふうん、と少し首を傾けて口を開いた。

 

「……俺はヒーローとしては相当な例外だから、偉そうなことを言うつもりは一切ないし、その資格があるとも正直思ってない。俺がしてきたことを正当化するつもりも当然ない。……だから、」

 

 ()()()()()()()()()()()()()()

 もう、お前なんて必要ないと。汚れ役なんていなくても社会の平和と秩序は保たれると。そう証明してくれと。

 その言葉に僕は反射的に手を挙げ、ほとんど無意識に言った。

 

「……スズメは、」

 

 なぜ、ヒーローを。

 苦痛を伴う“舌切り雀(こせい)”を積極的に使い、(ひと)を騙し、操り、傷つけた。それを望んでいるふうにも見えなければ、使命感に駆られている様子もなく。淡々と話す中にも、どこかーー罪悪感が滲んでいるようにすら見えるのに、それでもスズメは公安直属のヒーローであり続けることを選んだ、理由は。

 口にしてから聞くべき質問ではなかったと気づいた。受け取り方によってはこの上ない失礼になりかねない。いつのまにか目を開けていた相澤先生が「緑谷、」と咎めるのを、特に気にした様子もないスズメが片手を上げて制す。

 すみませ、と口をついて出た謝罪も、いいよ別に、というスズメの軽い囀りで遮られる。

 そうだな、と少し考える様子を見せた彼は、今日初めて緩やかに頬を緩める。少し苦笑気味の、どこか観念したような、何となく諦めを含んだささやかな微笑みだった。

 

「……憧れのヒーローがいるんだ」

 

 何それ俺知らん!! と勢いよく教室に飛び込んできたホークスの額に、白いチョークが砕けて消える。

 




「なんっっっでここにいんだよ仕事しろ公安委員会会長!!」
「いっっったいんやけど何チョークってこんな痛いもん!? いや普通見に来るやろ親友の晴れ舞台!! それはそれとして憧れのヒーローとか何俺聞いたことないんやけど!!」
「絶対言わん」
「何で!?」

仲良いんだなあ、とA組のみんなはしみじみと思いましたとさ。
それはそれとして二人はしっかりと相澤先生に怒られたと思います。

お付き合いありがとうございました。
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