8月18日 2:00
南西諸島 防衛ライン前
朧「…周囲に敵影、見当たりません」
古鷹「了解…こっちも敵影は見当たりません。
偵察機はどうですか、鳳翔さん?」
鳳翔「…ラインの向こうには想定内の敵艦隊の姿は確認できたわ」
吹雪「不気味ですね…敵の撤退が思ったより進んでいるとか?」
摩耶「…」
五十鈴「みんな、こういう時は最悪の事態を常に考えておかないと。
でしょ、摩耶さん」
摩耶「…だな。お前ら、ぬかるんじゃねえぞ!」
敵数の確認を終えた摩耶達は、岩陰から姿を現す。
そのまま進軍、防衛ラインを通過するところまで来た。
鎮守府で随時報告を受けている勇も、緊張が走っていた。
赤城「…提督、艦隊の速度を落とし敵の動向を探った方が…」
後ろにいた赤城の助言に、勇は頷く。
そして、勇が艦隊に指示を与えようとしたその時。
吹雪たちの視界が突如煙幕で覆われ始めた。
艦隊「!!?」
朧「な、何だ!?」
摩耶「チッ、先に行動してきたか!
複縦陣だ、あたしと古鷹が前に出る!
他の三人は鳳翔さんを中心に、周囲を警戒しろっ!」
吹雪・五十鈴・朧「はい!!」
摩耶の指示通り艤装を構え、周囲を警戒する五十鈴たち。
鳳翔「上空から状況を確認します!発艦してください!」
鳳翔の左肩の甲板から零式水上偵察機が発艦する。
しかし、その直後に煙幕の中から駆逐ハ級型、軽巡へ級型が飛び出してきた。
五十鈴「こちらの接近が分かっていたの!?クッ!」
へ級と五十鈴が同時に撃ち合う。
五十鈴はへ級の頭部を破壊し、撃墜するが右肩に砲撃を掠めてしまう。
吹雪「五十鈴さん!?」
掠めた右肩より出血し、それを抑える五十鈴。
吹雪が五十鈴に様態を心配し接近するが、五十鈴はそれを手で制した。
五十鈴「馬鹿っ、人の心配してる場合じゃない!
…来るわよ!」
徐々に煙幕が晴れ、視界が見えてくる。
その目の前には、先程ラインの向こうにいた敵艦隊が急接近しているのを確認した。
古鷹「あのくらいの敵なら…!」
古鷹が率先して敵の迎撃に当たる。
続いて朧・吹雪も砲撃を続けながら、敵に肉薄していく。
3人の砲撃を抜けてきた深海棲艦は、五十鈴と摩耶が撃沈させていった。
―戦闘が始まって30分。
周囲の敵艦を全て撃沈し、周囲の警戒を行う摩耶たち。
あれから目立った被害もなく、戦闘はこちらの勝利に終わった。
古鷹「…手の込んだことをして来たと思ったら、
案外大したことなかったね」
砲身に弾を補充しながら、古鷹は摩耶を見る。
摩耶「ああ…帰還するぞ、お前ら」
鎮守府に向けて振り返る摩耶達。
その時、後方で今まで聞いたことのないような巨大な砲撃音が鳴る。
振り返る間もなく、砲撃は摩耶達の足元に直撃。
五十鈴や朧は衝撃で吹き飛ばされてしまった。
朧「うわぁっ!!」
五十鈴「きゃああああっ!!!」
吹き飛ばさた二人は勢いよく海面に叩きつけられる。
一瞬の出来事だったので、摩耶達は動くことが出来なかった。
古鷹「な…!?」
摩耶が振り返ると、海面には黒髪でロングストレート、
黒いスーツのようなノースリーブの服、戦艦を彷彿とさせる艤装を両手に構えた
深海棲艦が姿を現していた。
鳳翔「戦艦級ル級…!こんな海域に…?!」
摩耶「チッ!大盤振る舞い、にしちゃ意地悪すぎだろ!」
再びル級の砲撃が始まる。
摩耶は砲撃を寸前で躱すが、先ほどと同じく海面の着弾の余波でバランスを崩す。
吹雪「摩耶さんっ!!」
吹雪が摩耶の救出に向かおうとすると、吹雪の後ろから錨鎖(アンカー)が
海面から数本飛び出した。
吹雪「…えっ?」
飛び出した錨鎖は吹雪の身体や艤装を雁字搦め(がんじからめ)にし、
身動きを取れなくする!
吹雪「…っ!!…あっ…!!」
身体をガッチリと拘束され、呼吸もままならない吹雪。
その錨鎖の先には、先日現れた重巡級リ級型と名付けられた黒い深海棲艦だった。
吹雪(く、苦しい…!それに…振りほどけない!!)
何とか腕の力で外そうとするが、リ級との力の差もあり錨鎖はビクともしない。
そのまま強い力で引っ張られ、リ級型は防衛ラインの外に吹雪を連れ出す。
鳳翔「!摩耶、吹雪ちゃんが!!」
摩耶「何っ!?」
艦載機が上空から吹雪が連れ去られそうになるのをいち早く確認した鳳翔。
すぐに九七式艦攻を発艦するが、リ級型と一緒に来たと思われる軽巡ト級型に落とされる。
そのままト級型の群れは、リ級型の逃走経路に集まりだした。
五十鈴「ま…まずいわ!こいつら、吹雪を連れ去る気よ!」
古鷹「勇司令官、状況を伝えます!現在…」
古鷹の報告を聞いた勇は、早急の決断を迫られていた。
勇(…完全に状況は不利…ここから、逆転は望めない。
くっ…これ以上犠牲を出さない為には…)
勇は通信機を手に取り、撤退の合図を告げようとする。
しかし、金剛が前に出てきて勇の通信機を持つ手を制した。
驚いた勇は金剛を見上げると、金剛はいつもは見せない鬼気迫る顔をしていた。
金剛「テートク…ワタシならトバして10分でヘルプに行けるヨ。
出撃許可をプリーズデス」
勇「金剛…」
金剛「お願い」
強い意志のあるの瞳で勇を見る金剛。
スッと勇と金剛の間に入る赤城。
赤城「…金剛、貴女のような大型艦クラスの出撃は政府の手続きに乗っ取った上で
許可が下りなければ出来ないわ。
確かに貴女なら間に合うでしょうけど、違反を犯しての出撃は
提督の立場が大きく危ぶまれてしまうのよ」
金剛「…!
だが、このまま黙ってミテロってノカ!?」
赤城「少し落ち着きなさい!!」
金剛「!」
赤城が金剛の肩を持って動きを制する。
その赤城の表情は怒りに満ちているが、金剛の肩を持つ手は震えていた。
金剛「オマエ…」
赤城「…私だって行ってあげたいわよ…
でも、それでは勇提督が…」
黙ってその様子を見ていた勇は、ゆっくりと立ち上がり赤城の手の上に
自分の手を重ねた。
振り返る赤城。
勇「…もう十分だ。
そこまで俺の心配をしてくれてありがとう、赤城さん」
赤城「提督…」
赤城に笑顔を見せた後、勇は金剛に振り向く。
勇「…金剛。
何をしているんだ!早く救援に行くんだ!」
金剛「!い、勇…」
勇「ただし絶対に皆を助けてくるんだ。
…頼んだよ」
勇の覚悟の表情を感じ取った金剛は、心から奮えた。
振り向き、一歩、二歩と歩いた後走り出し、宿舎から飛び出す金剛。
金剛(…みんなが何故テートクに惹かれてるのか…少しワカッタヨ…!)
司令室の窓から金剛の姿を見送る勇。
赤城は心配な表情で、勇を見つめる。
赤城「提督…」
勇「これでいいんだ。
責任は俺が取る。
この仕事は…俺にしか出来ないからね」
再び場は南西諸島の戦場に戻る。
敵の砲撃を避けつつ反撃している古鷹は、勇からの指令を聞くと摩耶に伝えた。
古鷹「…摩耶!
司令官が援軍をこっちに回してくれるって!
…あと10分持ちこたえるようにっ…て!」
報告を聞いた摩耶は頷く。
摩耶(勇…ありがとな!)
摩耶は吹雪が攫われた方向へと反転する。
摩耶「鳳翔さん!
ここは任せたぜ、あたしはあいつを助けに行くッ!」
鳳翔「え…
摩耶、一人では無理よ…摩耶、待ちなさい!」
鳳翔の呼びかけも聞かず、摩耶は軽巡ト級型の群れに飛び込んでいった。
摩耶「どけぇええええッ!!!!」
そして、修羅の強さの如く、複数ト級の攻撃を避けては砲撃し次々と轟沈させていく摩耶。
途中、一つの砲撃が腹部を掠め、衣服を破り肉を削るが摩耶は怯まず進撃する。
摩耶(いってぇ…
…くそ、もう二度と…失うかよ…
…なぁ、鳥海…ッ!!!)
ト級の群れを進み抜け、ようやく摩耶の視界に吹雪を連行し進んでいるリ級型を確認する。
摩耶「見つ…けたぁっ…!!!」
腹部から多量の出血を出しながら、摩耶は速度を落とさず
20.3cm連装砲を強く握りしめるのだった…
第十六話 「勇の覚悟」