吹雪(何とか、ほうげ、きを…!
だ、駄目!両手も鎖に縛られて…!)
吹雪は何とかもがき脱出を試みようとするが、錨鎖はガッチリと身体に
絡まってビクともしない。
段々と吹雪に焦りや恐怖の感情が湧いてきた。
目にじわりと、涙が浮かんでくる。
吹雪「…や、やだよ…
い…勇提督ッ…!」
吹雪の心に映ったのは、勇だった。
勇の暖かい笑顔を思い出し、遂に吹雪は泣き出してしまう。
吹雪「や…だぁああーーー!!
やだぁーーーーーー!!!」
摩耶「吹雪ぃーーーーーーーッ!!!」
吹雪「…?!」
もう聞けないと思っていた声がした。
吹雪は泣くのをやめ、身体を捩って何とか後ろを見る。
すぐ後ろに、摩耶が急速でこちらに接近していた。
吹雪「ま…摩耶さんっ!!!」
摩耶「つっ…!」
先ほど被弾した腹部から出る痛みと出血を左手で抑える摩耶。
出血により眩暈がし、意識が飛びそうになるが歯を食い縛って耐える。
追いつくのが無理と判断した摩耶は、20.3cm連装砲を構える。
狙いは、吹雪を繋いでいるリ級型の錨鎖。
摩耶「…!」
狙いを付けて、摩耶は20.3cm連装砲を撃つ。
弾道は綺麗な弧を描き、リ級型の錨鎖に辺り破壊する。
吹雪が反動で摩耶の方に二回転ほどして吹っ飛んでくるのを受け止める。
バッと摩耶の顔を見上げる吹雪。
摩耶「…おいおい、なんつー顔してんだよ。
可愛い面が台無しだぞっ」
二カッと笑顔を見せる摩耶。
その笑顔を見て、吹雪はぶわっと涙が出てしまう。
―その直後。
怒りの表情を見せるリ級型が摩耶の後ろにまで接近していた。
摩耶の背中に砲身を当て、ゼロ距離で発砲。
1発、2発、3発。
摩耶の背中の艤装は破壊され、砲撃は摩耶の体を貫いた。
摩耶「――――――ぐ、は―――――――ッ!!」
吹雪「摩耶さっ…!!!?」
身体の内部から逆流してくる血を吐き出した後、
摩耶は振り返りリ級型の頭部に向け砲撃した。
リ級型の頭は吹っ飛び、そのまま海面に叩きつけられ沈んだ。
吹雪「摩耶さんっ!!」
吹雪は摩耶の安否を確認しようとするが、錨鎖が身体に絡まっているため
身動きできない。
そんな様子を見た摩耶は、心配させないように吹雪に笑顔を見せる。
摩耶「…へ、へへ。
だい…じょうぶ、だ。
こんな程度じゃ、あたしは参らねぇ」
吹雪を背中に抱え上げ、鎮守府の方に走る摩耶。
摩耶「…帰るぞ…あたしらの、帰りを…待ってる奴が、いる…」
場所は防衛ラインに戻る。
既にル級の攻撃を受け、大破した五十鈴と朧は鳳翔に介抱されていた。
古鷹「こ…のぉっ!!」
辛うじて戦闘を継続しているのは残った古鷹。
ル級の攻撃に一歩もひるまず攻撃を続けてるが、敵の装甲が厚くどれも決定打にならない。
ル級は古鷹に接近しだす。
古鷹は間合いを取ろうと反応するが、先ほどまでのト級型との戦闘により疲労していたため
足が思うように動かなかった。
古鷹「嘘ッ…!?」
もう古鷹の目の前まで接近しているル級。
古鷹はギュッと目を瞑り、覚悟を決めた。
その時古鷹の後ろから誰かの蹴りが飛び出し、ル級を吹っ飛ばした。
態勢を崩し倒れるル級。
古鷹が振り返ると、そこには肩で息をしながら、怒りの表情の金剛が立っていた。
古鷹「金剛さん!」
金剛「はー、はー…Narrow escape(間一髪)。
大丈夫カ、お前ら?」
ル級はすぐに起き上がり、金剛に向かって接近する。
金剛はル級を一睨みした後、古鷹の前に立ちはだかる。
金剛「…お前カ。
ワタシのシスターズを苛めてくれたのハ」
艤装を構え、35.6cm連装砲を砲撃する。
ル級の右艤装に直撃し、バラバラに破壊した。
金剛「今日のワタシはとっても怒っているヨ…!!」
更に砲撃。今度は左艤装に直撃させ、ル級を追い込む。
三発目の砲撃で、ル級の腹部に当て、ル級を撃沈させた。
沈んでいくル級が、完全に沈黙するまで見届ける金剛。
その後、古鷹に振り返る。
金剛「古鷹、ワタシはあの二人のレスキューに行ってくるヨ。
この場は鳳翔と任せタ!」
その頃、摩耶達は防衛ラインまでもう少しのところまで来ていた。
太陽が昇り、朝日が二人を照らしていた。
吹雪「…摩耶さん、本当に…ありがとうございます。
摩耶さんが来てくれなかったら、今頃…」
摩耶「…」
吹雪が摩耶に話しかけるが、返事がない。
吹雪「…摩耶さん?
って、うわっ!?」
突如摩耶がバランスを崩し、速度が徐々になくなっていく。
そして、摩耶は吹雪を背負ったまま海面に前のめりで倒れた。
吹雪「ま、摩耶さん!?
どうし…」
そこで吹雪は初めて気付いた。
自分を背負って走ってきた摩耶の後には、海面に血の道が出来ていること。
吹雪は背筋が凍りつく。
動機が激しくなり、呼吸がままならない。
吹雪「――――!!
摩耶さんっ!摩耶さん!!!」
吹雪は自分が出せる限界以上の声で叫んだ。
摩耶の目の光が、段々と無くなっていく。
摩耶「……ふ、ぶき」
摩耶は残った力で吹雪に話しかける。
摩耶「…お前は…かえら、ないと」
吹雪「嘘…こんなの、嘘ですよね!?
しっかりして下さい、摩耶さん!!!」
摩耶「…気に、すん…な。
こん、どは…あたしの、番だった…だけさ」
吹雪「摩耶さん、起きてっ!
目を!目を閉じちゃ駄目です!!
摩耶さぁああああん!!!」
急速に薄れ行く意識の中、摩耶はかつて自分を庇って沈んでいった
笑顔の鳥海の姿を見ていた。
そして、泣きわめく吹雪の姿を見て。かつて自分の妹を失った時の自分の姿と重なって。
すぅっと、摩耶の目から一筋の涙が流れた。
…そして、摩耶はゆっくりと目を、閉じた。
第十七話 「摩耶」