海面を走る一人の少女。
深海棲艦の群れを蹴散らし、翻す漆黒のマントの姿は。
まるで、疾風怒涛。
だが、今日の彼女はいつもの冷静な感じはなく
珍しく感情的になっていた。
木曾「はぁああああッ!!」
それは、摩耶の死を心の中ではまだ受け入れられていないからか。
海面を滑り、突撃してくる軽巡へ級型。
へ級型の突きつけた砲塔を右手で払い、顔を蹴り上げる木曾。
その後、腹部に向かって25mm三連装機銃を放つ。
眼が瞑りそうな大きな爆発が起き、深海棲艦を撃沈する。
その比類なき強さに、残りの深海棲艦は本能的に怯みだす。
木曾「…どうした、怯えたのか。
そんなんじゃ、俺を倒すなんて夢の又夢、だな」
残りの深海棲艦を見回し、フンッと息をつく木曾。
艤装を構え、砲撃しようとする。
刹那、そう一瞬の油断。
木曾に強烈な砲撃が命中する。
木曾「…がっ…!!?」
木曾(直撃!?俺が…艤装がやられた…!?
前方の敵に意識を集中しすぎたかっ…)
背中の艤装がバラバラになり、木曾は衝撃で空に浮く。
砲撃の合ったほうを見ると、被弾の際の煙のせいでよく見えなかったが
人型の深海棲艦が一隻立っていた。
木曾は気力で着水し、バランスを取る。
胃から込み上げる、不快な血が喉を通る感覚。
耐えきれず、木曾は吐血する。
木曾(この俺が、これ程のダメージを…!?)
口から零れ落ち、受ける手が真っ赤に染まる。
ギュッと拳を握りしめたあと、人型の深海棲艦を睨みつける。
??「…」
人型の深海棲艦は木曾を見て、一瞬辛そうな目をした。
その後、深海棲艦は無表情に戻り、再度砲撃する。
木曾は残った力を振り絞り、後方に下がって直撃を免れた。
砲撃による着弾の余波に木曾は巻き込まれ、その戦場から姿を消した。
人型の深海棲艦は特に追おうともせず、周囲の深海棲艦に撤退の合図をし、振り返る。
??「キソ…コンカイハ ミノガス…」
その場にいる深海棲艦は、全部旋回し海域から撤退した。
身体も動かず、ただ海に流されながら木曾は人型の深海棲艦の目を思い出していた。
木曾(あいつの、あの目…まさか…あの人、なのか…)
―鎮守府上空―
吹雪と芳佳はネウロイに攻撃を続けていたが、吹雪が空中戦での砲撃に慣れていないため
コアへの攻撃に手間取っていた。
ネウロイはその間も前進し、鎮守府の軍事基地にレーザーを放っていく。
建物は破壊され、辺り一面は火災が広がっていた。
吹雪「いけない…!あのネウロイを、これ以上進めちゃ…
芳佳さん、私どうしたら!?」
芳佳「諦めちゃ駄目だよ!出来る限り接近してみるから、
もう一度やってみよう、吹雪ちゃん!」
焦っていた吹雪だが、芳佳の言葉に気を取り戻し頷く。
芳佳はストライカーユニットの出力を上げ、ネウロイのコアに向かって飛ぶ。
だが、後方より別のネウロイが現れ芳佳たちにレーザーを発射してくる。
芳佳「くっ…!」
紙一重のところで避ける芳佳たち。
新たに現れたネウロイは、芳佳たちに向かって急接近していた。
吹雪「そんな、まだ来るなんて!」
芳佳「…!」
その絶望的状況を下から見下ろしていた勇たち。
勇「吹雪…!」
赤城は加賀に視線を送る。
加賀は黙って頷き、勇から一歩離れる。
勇は二人に振り返り顔を見ると、赤城と加賀は戦うものの眼になっていた。
赤城「勇さん、あの子達を援護します。
艤装の装着を許可してください!」
加賀「あの敵に対しては私たちの九七式艦攻が有効です」
二人の提案に、勇は黙って頷いた。
勇「…二人とも、頼んだ!」
瑞鳳「そういうことなら、私たちも出番ですねっ!」
後ろにいた瑞鳳、大鳳も赤城と加賀の横に立つ。
大鳳「着任して初任務が、こんな大事な局面だなんて…
頑張るわ!」
意気込んでいる大鳳に対し、勇や赤城たちは「誰この子…」という表情をしていた。
しかし、現在は非常事態なので一先ず置いておくことにする。
鳳翔「そういう事なら、私も参加しないといけませんね」
勇「鳳翔さんも…」
騒ぎが大きくなったため、勇のことが心配になり様子を見に来た鳳翔。
五人はそれぞれ顔を見回し、お互いの意思を確かめ合う。
そして、五人は艤装を取りに行くため、ドックに向かって走って行った。
しばらく見送っていた勇は、吹雪たちの方に視線を戻した。
先に現れ進行していたネウロイが反転し、芳佳たちに挟撃を仕掛けてきていた。
前後からのレーザー攻撃に、芳佳は巨大な防御シールドを展開し受け止める。
芳佳「くっ…!」
しかし、疲労が未だ回復していないため魔力に底が尽きかけ、
徐々に防御シールドが小さくなってきていた。
吹雪「芳佳さん…!」
芳佳「諦めない…!
私は、絶対に諦めない!」
自分と変わらない小さな少女なのに、この絶望的な状況で折れない強い心を持つ芳佳に
吹雪は心底驚いていた。
が、とうとう防御シールドの厚みも薄れていき、突破されようとしたその時。
??「宮藤ーーーーーーッ!!」
上空から、夜空に光る扶桑刀を振り下ろしながら少女が急降下してきた。
片方のネウロイの翅に切りかかり、両断する。
芳佳「坂本さん!!」
その眼帯の少女を見て、芳佳の顔がパァッと明るくなる。
坂本と呼ばれた少女も、芳佳と同じストライカーユニットを付けていることから、
吹雪は彼女がウィッチであることが分かった。
坂本「宮藤!無事か!」
坂本は振り返り、芳佳に声をかける。
坂本「何があったかは後で聞く!
ミーナたちも来ているが、新しく現れたネウロイの迎撃に向かった、
先ずはネウロイを叩くことが先決だ!付いてこいっ!」
そう言って、坂本は再びネウロイに向かって飛び扶桑刀を振り突撃する。
更に、赤城たちが放った多くの九七式艦攻が援護に間に合い、
上手く連携してネウロイを翻弄する。
芳佳「…行こう、吹雪ちゃん。
大丈夫。私たちなら、きっと出来るよ」
すでに額に多量の発汗も見られ、明らかに力の限界が来ていた芳佳だが、
吹雪を見る目は死んでいなかった。
それが吹雪の心を打ち、震わせたのだった。
吹雪「…はい!行きましょう、芳佳さん!」
そして芳佳たちは、ネウロイに向かって飛ぶ。
坂本が眼帯を取り、じっとネウロイを見る。
彼女の眼帯がしているほうの目は、ネウロイのコアの位置を見分けることが可能なのだ。
坂本「…見えた!宮藤、私が奴の腹を叩き切る!その先にコアがある!
行くぞぉおおおッ!!!」
坂本は大きく咆え、ネウロイの腹の下に回り表面を切り裂いた。
そして、切り口からまるでルビーのように赤く輝く結晶が露わになった。
これが、ネウロイのコアだった。
芳佳は残りの魔力を振り絞り、ネウロイのコアまで急接近する。
合わせて吹雪も12.7cm連装砲の狙いを付け、構えた。
零距離。
芳佳「吹雪ちゃん!!」
吹雪「いっけぇえええええ!!!」
吹雪は全弾ぶち込む形で、砲撃をする。
コアは一発一発着弾するたびに弾けていき、4発目でガラスが割れるかのごとく破裂した。
そして、コアの破裂とともに、ネウロイも身体全体が光の欠片となって弾けた。
鎮守府の夜空に、雪のように降り注ぐネウロイの破片。
吹雪はその美しい景色に見惚た。
瞬間、もう片方のネウロイも同じように弾ける。
そこには、何人かのウィッチーズが空を飛んでいた。
芳佳「やったぁ、吹雪ちゃん!!」
芳佳はこれ以上ないほどの笑顔で、吹雪を抱きしめる。
吹雪も暖かくそれを受け入れ、芳佳をそっと抱きしめたのだった。
そのまましばらく、二人は抱きしめあっていた―
―1時間後、宿舎―
宿前には、勇と艦娘たちと第501統合戦闘航空団・通称「ストライクウィッチーズ」が対面していた。
ミーナ「ミーナ・ディートリンデ・ヴィルケ中佐です。
勇提督、お久しぶりです」
勇「お久しぶりですね、リーネ中佐。
以前、軍のパーティでお会いしたのが最後でしたか」
ミーナ「はい、あの時は将官でしたね…
この度は宮藤 芳佳軍曹が、そちらの艦娘の方に救助して頂き
ありがとうございます」
勇「いえ、こちらこそ彼女には助けられました。
いい部下をお持ちですね、ミーナ中佐」
勇と「501 STRIKE WITCHES」の隊長ミーナは握手を交わし話を進める。
勇「本当にもう発ってしまうんですか?
出来ればお礼に食事を振舞おうと思ったんですが…」
坂本「すまんな、勇提督。
気持ちは嬉しいが、この後にまだネウロイ討伐の任務がある。
後日改めて伺わせてもらうよ」
勇「分かりました。
その際には、坂本少佐におススメの鎮守府の温泉にご招待しますよ」
坂本「はっはっは、それは大いに楽しみだなぁ!
…勇提督、摩耶は残念だった。
正直、未だに信じられない」
勇「…坂本少佐、摩耶さんは一人の艦娘を救うために
立派に戦って死にました。褒めてあげてください。
俺は、彼女を誇りに思います」
坂本「…そうか、惜しい奴をなくしたな」
ミーナ「今回、勇提督に課せられている処分の件…
大森元帥や、私からも政府に進言し、
今回に限り追及は無しになりました」
勇「!本当ですか!?」
ミーナ「はい、ですのでこれからも通常通り勤務を続けてください。
私も、この仕事は貴方にしか出来ないと思っていますから…」
勇「ありがとうございます、ミーナ中佐。
今回の防衛の件も含めて、後日こちらから改めてお礼をさせて頂きます」
勇とミーナたちの会話が終わり、ウィッチーズが飛び立とうとする。
そこに、芳佳のもとに吹雪が駆け寄る。
吹雪「芳佳さん!」
芳佳「吹雪ちゃん!私たち、もう友達だよ!
今度、遊びに行くねー!」
吹雪「はい!
また、芳佳さんと空を飛びたいです!」
芳佳「うん!また何かあったら駆けつけるからー!」
赤城も前に出てくる。
芳佳「あ、赤城さん!あの時はお世話になりましたー!」
赤城「また助けられちゃったわねー、宮藤さーん。
今度来た時には、美味しいお菓子用意しておくからー」
芳佳「はーい!
それじゃあいってきまーす!」
第501統合戦闘航空団ストライクウィッチーズは飛んでいき、一気に見えなくなる。
それを見送っていた加賀に、赤城がピッタリと身体にくっ付いてきたので加賀は驚いて身を引いた。
加賀「な、何ですか赤城さん」
加賀の質問に、赤城はニコニコしている。
そして、加賀の耳にそっと近づいて囁く。
赤城(…これからは、お互い恋のライバル、ね)
加賀「!!!」
かぁ~っと顔が赤くなる加賀は、さささと勇に近付き、勇の右腕にしがみ付いた。
加賀「…ここは譲れませんから」
そして勇に聞こえないように、ジト目でボソッと一言赤城に宣告するのだった。
第二十二話 「また、あの空で」