ドック作業員「艦が帰ってきたぞーーー!!」
19:00
戦闘を終え、帰還した四人。
慌ただしく作業員たちが持ち場に走り、作業の準備を始める。
誘導者が四人をドックに赤ランプで誘導する。
その中で無表情だが、少し怒った表情の加賀が腕組をして待っていた。
ドックに入った途端、朧と若葉は疲れ切っていたのか、へたり込んでしまった。
その様子を見て、吹雪と摩耶は顔を見合わせる。
吹雪「…お疲れでしたね、朧ちゃんに若葉ちゃん。
摩耶さん、入渠の準備が整ってるみたいなんで、連れて行ってあげましょうよ」
摩耶「ったく、しょうがねぇなー…
おい、朧。立つぞ」
吹雪は若葉を、摩耶は朧を立ち上がらせて、肩を組む。
そして、そのまま一緒にドック(船渠)まで歩いていく。
若葉「すまないな、迷惑をかける」
吹雪「ううん、気にしないでよ。
本当に無事で良かった」
摩耶「確かにな。
あたしらが来たから何とかなったが…
お前ら、ドックから上がったら演習だからな!」
朧「う…分かりました、朧…頑張ります
…あ、加賀さん」
四人の前に腕組みをして加賀が待っていた。
加賀は朧と若葉の身体の状態を見た後、じっと目を合わせる。
加賀「…貴方達に言いたいことがあるけど…
今はドックに入って休んできなさい。」
加賀はそう言うと振り返り、宿舎に戻っていった。
摩耶「…報告書はキチンと上げとけよ?
加賀さん、ちょっと怒ってやがる」
とその後、摩耶は加賀に聞こえないように苦笑して二人に忠告した。
-勇の宿舎-
鳳翔「…では、夕食を作って参りますので、提督はどうぞお風呂へ。」
鳳翔はエプロンを羽織り、一階へと降りて行った。
その立ち振る舞いや雰囲気は、まるで「お母さん」であった。
鳳翔に言われた通りに、勇も着替えを用意し一階へと降りていく。
一階に降り、左を曲がる。
そこで、胸の辺りに何かがぶつかると同時に、
「きゃっ」と可愛らしい声が聞こえた。
ゆっくりと下に視線を下してみると、
摩耶とは違うセーラー服を着た少女がこちらを見上げていた。
その少女は、右目は金色の瞳を、左目は輝いた瞳をしていた。
勇「あ…すまない、考え事をしていたもので…大丈夫?」
??「いえ、大丈夫です。
…もしかして」
少女は勇に近付き、背伸びのようにつま先を上げ、勇の顔を覗いてきた。
その無防備で愛らしい少女の仕草に、勇はなぜか照れてしまう。
??「失礼ですが…間違ってたらごめんなさい。
竹田 勇…司令官ですか?」
勇「え…そう、だけど?君は?」
勇が司令官だと分かった少女は、ニコッと微笑み、二・三歩下がった。
??「初めまして司令官、わたし『古鷹』と言います。」
そうしてゆっくりとお辞儀をする。
どうやらとてもしっかりした子のようだ、と勇は感心した。
勇(古鷹、か…じゃあ、この子も…)
勇は先ほどの鳳翔との会話を思い出し、表情が曇る。
古鷹「その桶や着替えを見たところ、今からお風呂ですか?
入浴場でしたら、このまま真っ直ぐ行っていただいて、
突き当りの右側の方を入ってください」
方向を手で指して、丁寧に教える古鷹。
ハッと我に返った勇は、お礼を言い古鷹の言った通りの道に進む。
古鷹は、その後姿をじっと見つめていた。
古鷹(あの人が…
私たちの運命を救ってくれる提督…
後で加古にも挨拶するように言わなくちゃ)
-宿舎 大浴場-
カコーン…と気持ちの良い桶を置く音が聞こえる。
他にも、湯が静かに流れる音も途切れ途切れに聞こえてくる。
浴場の湯気の中で、3人の女の子が入浴していた。
加賀「ふう…」
??「あー生き返るー、風呂が命の洗濯とはよく言ったわー」
??「そうだねー…ん?加賀さん、どうかしたの?」
加賀「…いえ、別に。
加古、瑞鳳。
貴方達、そろそろ上がったら?
随分長い間入っているけど」
加古・瑞鳳「えっ」
瑞鳳「いや、加賀さんは瑞鳳達より10分以上早く入ってましたよね?
…むしろ加賀さんの体のほうが心配なんですけど」
加古「うんうん」
加賀「…そうね、言われてみればそうだったわ」
加古「そうッスよー。
…あ、でも古鷹が待ってっかな。
やっぱり先、上がるわー」
『加古』という名の活発そうだが気だるそうな少女は、湯から上がる。
瑞鳳「瑞鳳も、鳳翔さんの夕食のお手伝いに行かなきゃ…
それじゃ加賀さん、先行くね」
そういいながら、湯で蛸みたいに赤くなっていた『瑞鳳』という少女も湯から上がった。
二人が出て行ったあと、加賀は物憂げな表情で立秋の月を見上げる。(露天風呂なのだ)
加賀(製油所地帯沿岸に出撃した赤城さん達がまだ帰ってこない…
何かあったのかしら…)
2日前に発った一艦隊が、まだ帰還していないことを心配しているようだ。
加賀(それに思った以上に敵の進行が速い。
竹田 勇提督と作戦会議を開いて、今後の案を聞かないと)
ようやく加賀も風呂から上がる。
バスタオルで体を巻き、タオルで頭を包んで、扉をあける。
…そして、同じタイミングで服を脱ぎタオルを腰に巻いた勇が、扉の前に立った。
目が合う二人。
勇「え」
加賀「!」
二人とも今の状況が頭の中で処理できず、動けなくなってしまった。
勇は、背筋が凍りついた。
顔からもそれが判断できるほど、青ざめた表情だった。
加賀も普段のキリッとした釣り目の表情ではなく、完全に目が大きく開いており、
風呂の余熱で顔がほんのり赤くなっていた。
勇「…」
加賀「…」
お互い沈黙が続く。
勇「…てくれ」
加賀「え?」
勇「…すまなかった、一発叩いてくれ。
けじめをつけたい」
なるべく加賀の裸体を見ないように、視線を横にずらしている勇。
加賀「え…は、はぁ」
加賀はとりあえず勇の言うとおりに、一発平手打ちをした。
乾いた音が、
浴室内に響く。
加賀「あの…そ、それでは失礼します」
加賀はそうして頭を下げた後、そそくさと更衣室へと逃げて行った。
勇(綺麗だったな、加賀さん…
しかし、古鷹ちゃん…
後でどういうことなのか聞いとかなくては)
俗にいうラッキースケベ(?)というものがあったので
勇はそんなに怒っていなかった。
そうして浴室に入ると、後ろから加賀の声が聞こえてきた。
加賀「勇提督…あ、あの
この後歓迎会を用意してますので、なるべく早く来てください」
そう言うと、加賀は部屋から出て行った。
勇(加賀さん、テンパってたなぁ…
可愛かった)
先ほどの加賀を思い出し、少しニヤニヤしてしまう勇。
しかし、そのニヤニヤも長くは続かなかった。
浴室の扉が開かれる。
吹雪「ふー、初めての実戦で、緊張して汗かきました…」
摩耶「初めてにしちゃ上出来だったぜ。
お前、雷撃戦の才能あるかもなっ!」
朧「うわぁっ、摩耶さん!?う、後ろから胸を掴まないで!」
若葉「百合か…悪くない」
勇(えっっ!!!!?)
勇の長い初着任の一日は、まだまだ波乱が続きそうであった…
第五話 「提督、艦が帰還しました!」 完