8月 12日 明朝6:00
-出撃前、宿舎裏-
作戦前に勇は時雨に、宿舎裏側に呼ばれていた。
時雨は勇に顔をなかなか合わせられず、三つ編みをいじいじしていた。
勇はゆるやかに微笑み、声をかける。
勇「どうかしたのか、時雨。
作戦の質問かな?」
ビクッとして時雨はこっちを見る。
そして目が合ってしばらくしてから、視線をずらす時雨。
時雨「…あ、あのさ勇司令官。
どうして僕なんかを旗艦に選んだんだい?」
絞り出すように声を出して話す時雨。
勇「…んん、そうだね。
…まず、時雨はしっかり状況を判断することが出来る。
極めて仲間のフォローも上手だしね。
戦いの場ではこちらの想定外のことも起きるだろうから、
時雨なら冷静に、臨機応変に対応出来ると思ったんだ」
時雨「持ち上げすぎだよ…」
勇の言葉に困惑の表情を見せる時雨。
勇は構わず話し続けた。
勇「…あと…
時雨、君は仲間を本当の意味で大切に思っているはずだ。
そんな君だからこそ、任せたいんだよ」
勇の言葉にハッとなる時雨。
時雨(勇司令官、もしかして僕の過去の記録を…)
しばらく黙っていたが、時雨はチラッと勇の顔を見る。
時雨「…分かったよ、勇司令官。
僕…やってみるよ」
勇はニコッと微笑み、時雨の肩を二回叩く。
時雨「勇司令官。
…僕は霞と深雪が心配だよ。
旗艦に選ばれなかっただけじゃなく、選抜にも…」
時雨は間宮から飛び出した二人のことが気になっていた。
二人がなりたかった「旗艦」という座を、自分が奪い取ってしまったと
感じているようだ。
勇「そのことについて時雨が落ち込むことはない。
確かにあの二人は旗艦にもなれず、選抜にもいれられなかった。
実力はあるんだけど、その分個人プレーに走って連携を崩しかねないからね。
でも、そんな彼女たちにはちゃんと別の任務を用意してるんだ」
時雨「別の任務…?」
-8:00-
霞は、自室から出撃する彩花艦隊を見送っていた。
その表情は怒りでなく、悲しみに満ちた表情であった。
霞(あたし、どうして選ばれなかったの…)
見送ることしか出来ない自分に、憤りも湧いてこず
ただただ、疑問と悲しみだけが頭の中を巡っていた。
五十鈴「霞、入るわよ」
そんな時、軽く二回ほどノックした音が聞こえ、五十鈴が入ってきた。
霞は妙な顔をして振り返る。
五十鈴「…まだいじけていたのね」
五十鈴のストレートな物言いにカッとなる霞。
霞「うるさいわね!
そもそもあんたや那智が提督に時雨の推薦さえしなければ、
あたしが旗艦に選ばれたはずだったのに!」
大きな声で怒鳴られても五十鈴は平然としていた。
一つ、ため息をこぼす五十鈴。
五十鈴「…どうして選ばれなかったのか
まだ理解できていないようね」
霞「!」
五十鈴「これは戦争よ。
霞、貴女随分腕に自信があるようだけど、
貴方一人で頑張ったところで勝てるものじゃないの」
霞「な…」
五十鈴「むしろ、そういう慢心が自分は愚か、味方まで危険にさらすわ。
そんな子が旗艦になって、みんなを纏められると思う?」
霞「…」
五十鈴は腕を組んで話を続けた。
五十鈴「司令官は貴方達の慢心を見抜いていたのよ。
だから、選抜にも入れなかった。
覚えておきなさい、勇司令官は戦争に勝つだけじゃなく、
全員が生きて帰れるよういつも考えているのよ」
霞「…あいつが、そこまで…」
自分のことしか考えていなかったことにようやく気付き、霞は反省した。
黙って唇を噛みしめている霞に、五十鈴は近づく。
そうして、霞の頭を撫でる。
五十鈴「大丈夫よ、霞。そこに気付けたんだから…
次回は、きっと貴女が旗艦に選ばれるわ」
優しい五十鈴の顔。
泣きそうな顔を五十鈴に見られないように、霞は顔を下に向けていた。
五十鈴「さ、行きましょ。
司令官が貴女と深雪に話があるそうよ」
霞「提督が…?」
霞は五十鈴と一緒に、3階の作戦司令室へと向かうのだった。
一方その頃、彩花艦隊が鎮守府正面海域を超え、南西諸島沖にたどり着いた。
情報通り、軽巡ホ級一隻に駆逐イ級が三隻の小隊や、
駆逐ロ級、駆逐イ級による混合小隊が数多く南西諸島沖に待機していた。
時雨たちは、敵に悟られないよう孤島を利用して、
姿勢を低くして敵に接近する。
会話もなるべく小さな声で行うよう気を付けていた。
陽炎(何か…敵の数が聞いてたのより多くない?)
望月(うぁー、うぜー、気持ちワリィー…)
雷(毎日同じ奴らが屯(たむろ)してる訳ないじゃない。
多少の数の変化はしょうがないわよ)
白露(うーん…吹雪、急に帰りたくなってきた
どーしよう?)
吹雪(白露さん、こんな土壇場で言っても無理ですよ!
…時雨ちゃん、どうすしよう?)
時雨(…アタッカーとフォロー、二人一組に分かれて、
なるべく皆が離れなすぎないようにしよう。
確かに数は向こうが上だけど、上手く連携すれば
僕たちだけで何とかやれるよ)
時雨の提案に5人は了承し、頷く。
時雨(アタッカーは吹雪・雷・白露が担当して。
残りの人たちや僕は全力で3人をフォローする)
吹雪・雷・白露・望月・陽炎(了解!)
時雨「…行くよ!全員、突撃っ!!」
6隻の駆逐艦が孤島から飛び出す。
敵は気付いておらず、時雨たちは敵陣の中央に集中砲火を浴びせる。
鎮守府海域奪還作戦が、今幕を広げた…
第九話 「提督、彩花艦隊出撃します!」 完