なお、メインヒロインは……

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☆注意事項
・現在、マガポケで更新されている最新話まで読了済みの方推奨になります。
・単行本にしか載ってない情報は知りません。
・登場人物の過去を捏造しています。
・キャラ崩壊?注意でお願いします。

 久々に書きたくなったので投稿です!



トモダチゲーム終了後、友一君がマリアちゃんとお喋りする話

 

 

 トモダチゲームは終了した。

 今回の、という意味ではなく、真の意味で崩壊し、今後二度と開催されることはないだろう。主催者は消え、関係者や運営も解散したのだから。

 

「あーあ、これからどうしよっかなぁ」

 

 駅の改札口をキャリーバッグを転がしながらスマホを片手に操作して抜けて、水瀬マリアは呑気に呟く。

 幸いお金には困っていない。ゲーム運営側で散々な真似をしたが、こんなことがあるかもしれないと準備だけはしていたのだ。備えあれば憂いなし、世の中お金が全てと言っても過言ではないと、マリアは心の底から実感している。

 

「先輩たちもさっさと自分の道に進んじゃうし〜、なんか私だけ取り残されちゃった感じー」

 

 最後のトモダチゲームでマリアが付き添っていた月野も玉井も、「もう会うことはないでしょう」「じゃあね」と恐ろしく淡白な別れをした。あの二人はマリア以上に将来を考えていたのだろう。

 

「でもなぁ、いきなり他にやりたいことって言われても……」

 

 マリアはドSで快楽主義者で刹那的な人間だと自己分析している。その点、トモダチゲームの運営での仕事は天職だと思っていた。とにかく愉しかったから。

 最後のトモダチゲームは特に愉しくて面白くてワクワクした。

 最初は第一ゲームで終わるかと期待せずに見守っていたのに、とある一人の活躍もあってゲームはどんでん返しの見本市で、最終的にはこの理不尽なお祭りを終焉にまで導いたのだから。

 

「ふふっ、何度思い返しても友一君は凄かったなぁ」

 

 片切友一。

 トモダチゲームを終わらせたバケモノ。後で知ったが、彼がそもそもの原因で全ての中心にいたらしい。だとしても、あの悪辣な数々のゲームを乗り越えた手腕は本物としか言わざるを得ないだろう。

 マリア個人も直接交流することがあったし、その歪んだ人間性を運営側では最も近くで触れ合ってきたと自信がある。

 

 出来ることなら、もっとずっと彼の行く末を見てみたかった。

 

「……あっ、そうだ!」

 

 マリア、天啓を得たり──!!

 思い立ったが吉日とは私の為にある言葉とマリアは信じて揺るがない。

 長い将来設計なんてクソ喰らえ。

 刹那的な快楽を求めることこそ人生の醍醐味。

 

「よーし、友一君を探しに行こう!!」

「えっ?」

「ん?」

 

 おー! と拳を挙げて宣言したら、すぐ側で聞いたことのある声がした。

 マリアが即座に視線を走らせれば、被っているパーカーのフードを力の限り下へと引っ張っている中肉中背の男性が一人。口許しか表情が見れないが、明らかに失敗したといった雰囲気が醸し出ている。

 

「……友一君?」

 

 パチパチと瞳を瞬かせること数秒、マリアは笑顔を輝かせた。

 

「友一君!!」

「人違いです」

「友一君だー!!」

 

 探しに行こうとした瞬間に目の前に現れた。

 もはや運命的ななにかを感じ、マリアは嬉しすぎて人目を憚らず男の腕に抱き付いた。

 

「わー、友一くーん! すごい凄い! 友一君にこんなすぐに会えるなんて」

「いや待てマジで放してくれ! 今目立つのは本当にまずいんだ!」

「えー、私は友一君と会えてこんなに嬉しいのにー。それに、いくら私でもそんなつっけんどんな態度は傷付いちゃうなぁ。悲しくて悲しくて大きな声で泣いちゃうかもよ?」

「コイツ……」

 

 ニヤニヤと今一番相手が嫌がっていることを仄めかす。マリアだってトモダチゲーム関係者なのだ。この程度の駆け引きとも言えない脅迫は造作も無い。

 

「ふふふー、友一君はゲームの時だとあんなに頭が回るのに、日常生活じゃ気が緩んでるんだねー。それでどうするの? 私のこと、まだ知らんぷりしちゃうの?」

「…………」

 

 駅前ということもあって既に注目は集まりきっている。これ以上の騒ぎは悪手でしかない。

 フードを被っていた男──片切友一は重々しく溜め息を吐き、マリアへと視線を合わせた。

 

「久しぶりだな、マリア」

「うん! 久しぶり、友一君!」

 

 

 

 

「そう思えば友一君、なんでこの街にいるの? 友一君の地元から大分遠いと思うんだけど」

 

 再会後、とりあえず落ち着ける場所で話そうとなり、近くのファミレスに入ったマリアと友一は向かい合って座っていた。

 安物の炭酸飲料をストローで飲みながら、マリアはまず思っていた疑問を口にして顔を上げる。

 

「どうしたの? そんな苦虫を百匹は噛み砕いたような顔して」

「いや、……ちょっと色々あってな」

「えー、なになになになに! ちょー聴きたい!」

 

 テーブルを乗り出す勢いでマリアは話に食い付いた。

 あの友一が、トモダチゲームにおいて数々の偉業とも悪行とも言える行いを平然と、むしろ嬉々としてやってきたあの友一が、見るからに疲弊しているのだ。一体どんな色々なのか気になって仕方がない。

 

「……はぁ」

 

 マリアの愉快そうで晴れやかな笑顔に友一の顳顬には青筋が浮かぶが、ここでマリアに八つ当たりしても何も良いことがない。

 だからと言って話す義理もないのだが、正直なところ友一はかなり参っていた。精神的に、これ程までに追い詰められたのは久々だと断言できるぐらいには。

 

 友一にとってマリアは、出会った当初は敵側の人間だった。しかし、トモダチゲームの運営を潰すにあたって、友一は本当のクズ以外は見逃していた。マリアは性格はまぁ終わっているが、性根までが腐った人種ではない。

 

 ようは、マリアはある程度友一たちの事情を把握している丁度良い距離感の他人なのだ。鬱憤を一時的に吐き出す相手として悪くない、かもしれない。

 もしここで話さなかった場合に、勝手に場を荒らされでもしたら最悪だ。むしろこの女は嬉々として参戦してきそうで想像するだけで気が滅入る。

(いや、コイツは上手く利用できるか……?)

 

 友一の中で一つ、マリアの利用手段が思い浮かぶ。

 短絡的で一時的な逃避にしかならないだろうが、時間稼ぎにはなる。マリアならどんな目に遭わしても良心が痛まないというのが更に良い。

 

「そうだな、俺も少しこの気持ちを吐き出したいと思っていたところなんだ。聞いてくれるか、マリア」

「うんうん! 私が友一君を慰めてあげるから!」

 

 わくわくわくわくと顔に書いてあるかのようなマリアの満面の笑み。絶対に慰める気なんてない。

 友一は悪どいと散々言われた笑みを隠しながら、トモダチゲームが終わった後のことを思い返していた。

 

 

 

 

 友一がトモダチゲームで失ったものはあったが、得たものもまたあった。

 

 最も大きな喪失は四部誠という友達を失ったことだ。第二ゲームで一度袂を分かち、その後のゲームで仲直りかは分からないが一緒にいれたが、最終ゲームで修復不可能なほどに亀裂が深まった。

 友達という関係性でいうのなら心木ゆとりもまた失ったと言えるだろうが……。

 

 その代わりという言い方は不適切だが、友一は美笠天智と沢良宜志法、紫宮京という掛け替えの無い友達を得た。多くの苦難を共に乗り越えたこの三人は、友一にとって何よりも大切な人となった。

 

 また、彼らとは別に少し特殊な繋がりも出来た。

 

「片切、お前刑事になる気はないか?」

「は? 俺が刑事? 正気ですか、海堂さん?」

「あぁ、俺は冗談でこんなことは言わない」

 

 海童司。

 トモダチゲームを潰すために潜入捜査していた刑事であり、友一と協力関係を結んでいた男だ。人の良い立派な大人の親という、友一にとっては毒にも薬にもなるような人である。

 そんな人から呼び出しを受けて喫茶店に入ってみたら、呆気に取られる提案をされたのだった。

 

「なんで俺を? 刑事というなら沢良宜だし、なんなら天智や京の方がよっぽど向いているでしょう」

「あの三人にも声を掛けたさ。それぐらい魅力的な能力を持ってるから」

「俺一人だけ誘わないのが可哀想とかですか?」

「ははっ、まぁお前はそう言うだろうな。だがな、俺としては本命はお前なんだ」

 

 海童は堅気には到底見えない容貌でありながら、朗らかな笑みを浮かべる。友一からしてみれば疑念は増すばかりだ。

 友一が海童に見せてきたのは紛れも無く闇や悪といった一面だ。間違っても正義の象徴である警察とは相容れない存在だろう。

 この人に限って友一を騙そうとしているとは思わないが、真意が掴めない為に余計なことを考えしまいそうになる。

 

「お前は優秀な男だ。単純に頭が良いという意味じゃないぞ。その点だったら美笠や紫宮の方が優れているのは分かる」

「じゃあなんで……」

「一言でいうならあれだ、蛇の道は蛇ってやつだ」

「…………」

 

 黙り込む友一に、海堂はゆっくりと話し始める。

 

「勿論、ただ単に邪悪な奴なら刑事になれなんて言わない。そもそもそんな輩は刑事になんてなれはしない。一応面接試験だってあるからな。俺たち本職の目を掻い潜って合格なんて有り得ない」

 

 付け焼き刃で身に付けた嘘や虚勢など、面接の数十分で丸裸に出来る。たかが学生であれば尚更だ。

 もしそんな試験を難なく潜り抜けられるのであれば、その人間はきっと長年に渡って嘘を突き通してきたバケモノぐらいだろう。

 

「片切、お前は確かに歪んでいるのかもしれない。あのゲームを通して少なからずお前のことは見てきた。だが、だからこそ言えることもある」

 

 海童は穏やかに、まるで手の掛かる息子を励ますように微笑を浮かべた。

 

「お前は優しい人間だ。お前を育てた先生とやらとは違う、人との繋がりを大切にできる人間だ」

「っ!」

 

 ギュッと、友一の眉間にシワが寄る。

 これがただの他人、例えば学校の先生などに言われたものなら、友一は眉一つ動かさなかっただろう。

 だが、海童は違う。友一の本性を、歪んだ二面性を知り、それでもなお人の親として接することを辞めなかった海童の言葉は、友一の心に深く突き刺さった。

 

「……嬉しいです。あなたにそんなふうに言われて」

 

 隠してきた内面を吐露するように、友一は静かに言葉を紡ぐ。

 

「だけど、俺は……」

 

 過去は変えられない。

 自分の行いはいつか未来の自分が償うことになる。

 人殺しには、それ相応の末路が相応わしい。

 

(片切、お前はやはり……)

 

 目の前で葛藤する友一を見て、海童は己の、正確には娘の予想が正しかったことを察した。

 そしてそれは、絶対に止めなければならない未来だということも。

 

「片切」

 

 先程までとは異なる、硬く真剣な声音に友一は俯いていた顔を上げる。

 

「お前、死ぬつもりか?」

「なっ、……なんで」

「やっぱりか……」

 

 額に手を当てて海童は唸る。当たってほしくは無かったが、最悪の展開を潰せる機会を得れたことは僥倖であった。

 友一は歪んだ側面を持つが、根が真っ直ぐな青年だと海童は信じている。でなければ、トモダチゲーム開始前の時点で学校生活は破綻していただろう。

 クラスの皆からも評価も海堂は調査していた。

 

 当たり障りも無い普通の青年。

 

 特に評判が良いという訳では無い。だが、悪事を働いたなど聞いたこともない。苦学生で、バイトに追われ授業中は寝ていることも多かったらしいが、悪い噂はとんと聞かなかった。

 

 海童は友一の幼少期の話を聞いた上で改めて感心したものだ。

 自己を律するその強い自制心は、驚嘆とともに友一が決して手遅れではないことを確信させるに十分なものだったから。

 

「片切、俺もそれなりに修羅場を経験してきた。それに伴って多種多様な人とも触れ合ってきた。お前の目は、終わりを渇望する人間の目とよく似ている」

 

 暗く澱んだ生気の失われた瞳。

 過去に何度この目を見て、己の無力を嘆いたか。

 

「しかもお前は、償いとして他人からの罰を受けることを望むタイプだろ。……聞いたぞ、四部君のところへ謝罪に行ったと」

「……ははっ、まさかそこまでお見通しでしたか……」

 

 ここまで真摯に、慎重に向き合ってくれたのだ。友一も誠実に対応しなければ、人としてまた大切なものを失ってしまうだろう。

 それにこの場の裏にはきっと、天智や志法、京に海童の娘である聡音も絡んでいるのだろうから。

 

「四部は本当に良い奴なんです。あんな過去を聞いても、俺を一発殴るだけ。友達には戻れないけど、これで無かったことにするって」

「……それで自分で終わらせようと思ったのか? 美笠君や志法ちゃんに何も残さずに」

「…………」

 

 今の友一にとって唯一の弱点。

 悪辣な試練を幾度も共にして育まれた友情を楔として打ち込むのは海堂としても心は痛むが、そうでもしなければ取り返しが付かない

 

「片切、今からお前の嫌いな綺麗事を言う」

 

 これが駄目ならもう止められない。

 

「友の為に生きろ。罪の意識があるならなお生きろ。お前にとっての罰は生きることで、そして未来において償いを果たせ」

 

 そう覚悟しているからこそ、海童の言葉は重く、容赦が無く、そして暖かなものだった。

 

「…………はぁ」

 

 重苦しい息が友一から漏れる。

 どうしてこの人は自分なんかの為にここまでするのだろう。

 片切友一という人間は救いようが無い存在の筈なのに、その過去や本性を知ってなお、どうして親友とも呼べる存在が出来てしまったのだろう。

 

 友一には分からない。

 

 友達というストッパーが無くなり、己への嫌悪感が際限なく膨れ上がって、破滅願望だけが最後に残った。

 それを見透かして、海童は言ったのだ。生きろと。友の為に生きて、これから為すことで償えと。

 

 答えは未だ出ていない。

 それでも、この想いには応えたいと思った。

 

「分かりました」

「本当かっ!」

「そんな嬉しそうに驚かないでくださいよ。とりあえずは、です」

「あぁ、今はそれでいい。俺は嬉しいぞ」

「全く、傷心中の子どもに対して遠慮が無さすぎなんですよ、パパは」

「はっは! それいいな。本当に俺の子になるか? 聡音っていうお姉ちゃんがお前に出来るぞ?」

「アレが姉は嫌だなぁ」

 

 ギャンブル狂の姉がいては更生できるものも出来なくなる。何より友一は聡音と相性が悪過ぎる。

 

 緊迫していた空気が解れ、二人は暫しの間談笑を交わした。トモダチゲームが終わって凡そ二週間、後処理に追われていた各々の近況報告もあったのだ。

 その中で一つ、やらなければならないことを友一は覚悟する。

 

「心木君に会いに行く?」

「はい。本当は死に場所を求めていたので会うつもりは無かったんですが、パパの所為で気が変わったので」

「それは何よりだが、……大丈夫なのか?」

 

 海童もことの顛末は既に知っている。

 トモダチゲームの発端も今回の因果も全ては目の前の青年が理由ではあったが、彼等友達の中の本当の裏切り者が誰だったのかも。

 心配を隠そうともしない海童に友一は苦笑を浮かべ、すぐさま真剣な眼差しで向き合った。

 

「アイツは俺と似てると思うんです。詳しくは聞いてませんが、親に恵まれず、環境に恵まれず、金に振り回されて歪んでしまった。そんな心木の本性を知っても、別に嫌いにはなってません。確かにゲームの最中は敵対していましたが、今はなんともないですし。それで、何とかしてあげたいって思うんですよね……おかしいですかね?」

「……いや、そんなことはない。すぐに行ってこい。……あの娘も、早くしないと手遅れになる」

「はい」

 

 席を立ち、金を払おうとする友一を大人に払わせろと叱った海童は、店を出て行く背中を見て心底安堵する。

 やはり友一は優しい人間だ。友達を大切にしろと母親に言われ、それをある意味呪いだと友一は認識しているが、決してそんなことはない。

 

「とりあえず、聡音に連絡しておくか」

 

 勝利報告とは違うが当面の間は大丈夫だろうと考えて、海童はスマホを取り出して耳へと押し当てるのだった。

 

 

 

 

 心木ゆとりから見た片切友一の第一印象は、気遣い上手な優しい青年だった。

 

 高校生になるまでのゆとりの人生において、周りにいたのはクズばかりであった。

 

 酒に溺れ、頻繁に暴力を振るう母親。

 生まれてこの方、一度も見たことがない父親。

 母親が自宅に連れ込む、父親ではない何人もの男たち。

 

 幼少の頃、つまり物心ついた頃から、ゆとりは家のどこか隅っこで息を殺しながらただ時間が過ぎるのを待つのが日時であった。

 声を出せば殴られる。

 姿を見られれば蹴られる。

 痛みで満足に寝ることも出来ず、顔以外の場所に傷や青痣が増えていく毎日。

 

 学校行ってもその毎日は大して変わらなかった。

 同年代とはいえど環境が悪過ぎた為に他人にはまず恐怖を覚え、打ち解けることなんて叶わなかった。

 孤立すると先生が善意の行動という名の公開処刑を行い、ただの一人ぼっちがいじめの標的へと早変わり。無邪気だからこその邪悪な差別がゆとりの心をより一層軋ませた。

 

 それは年を経るに連れて悪化する。

 

 ゆとりは同年代で最も早く女性らしく成長したからだ。ろくに食事も摂れていないのに、女性らしい膨らみだけは顕著に現れた。

 男子も女子も段々と色気づく年頃において、ゆとりの容姿はまさに毒でしかなかった。男子には絡まれ、女子からはやっかみを受け、名前もネタにされていじめは留まるところを知らなかった。

 

 学校に行っても、家に帰っても、ゆとりに救いなんて無かった。

 

 そして、ゆとりが小学校の最終学年になった時、母が連れ込んだ男に襲われた。

 気持ち悪くて、触られるだけで怖気が走る。泣き叫んで助けを求めたが、母が手を差し伸べてくれることは無かった。

 

 その日知ったのは四つ。

 死んでしまいたいという絶望。

 全てを壊し尽くしてしまいたいという衝動。

 自分の身体はお金を生み出せるという事実。

 お金さえあれば人すらも買えるという残酷な現実。

 

 母はゆとりを売った。実際に金と変えたのではなく、家に来る者の相手をさせられたという意味だが、ゆとりにとっては地獄に違いなかった。

 唯一の利益は得たお金で十分な食事を食べられるようになったことだが、この生き地獄と等価交換なのかと言われれば有り得ない。ゆとりの歪みはこの日から明確に形を成していった。

 

 何故自分は生きているのだろう?

 何故自分だけがこんな目に遭わなければならないのだろう?

 死にたい。でも死にたくない。嬉しいことも楽しいことも何も無く、何の意味も見出せずに死にたくない。

 憎い。全てが憎い。力が無い自らの無様に憎悪を覚える。

 

 中学生になってからもいじめは変わらず、学校ではボロボロになる生活。

 変わったことといえば、トモダチゲームで暴露された援助交際を始めた事。家に帰るのは寝る為の最低限になった事。

 第二ゲームの時に友一に訴えた叫びは殆どが事実だった。小学生の最後の一年間で金の稼ぎ方と自分の使い方を学び、中学での援助交際では身体を売るまでいかないように暮らせたからだ。ただ一つ嘘なのは処女だということだけ。それが散ったのは中学生よりも前なのだから。

 この頃になって、初めて自由に使えるお金というものができた。密かに憧れていたテレビを購入してハマったのがアニメというのは、きっと現実逃避の思考もあってのことだろう。

 

 その後も身一つでお金を稼ぐのに慣れたが、一度だけ加減をミスして犯される寸前までいった。

 命の危機すらも感じながら逃げ惑う羽目になり、路地裏に追い詰められもう駄目かと諦めたその時、あの男と出会った。

 

「手をお貸ししましょうか?」

 

 斯波真次。蛇のような目をした青年だった。雰囲気は穏やかで面貌は優しげなのに、人の闇に触れてきたゆとりには分かった。これは危険な存在だと。

 しかし、状況は切迫していて選択の余地はなく、ゆとりは真次の手を取ることにした。制圧は一瞬で、武力においても真次は隔絶したなにかを備えていることを理解する。

 

 見返りとして何を要求されるのかゆとりは戦々恐々の思いであったが、提案された取引は意味不明なものであった。

 

「貴方に力をお貸しいたしましょう。その代わり、貴方にはある方々と友誼を結んで欲しいのです」

 

 危険だと、何が待ち受けているかも分からないと心では理解していたが、ゆとりはその契約を結んだ。

 

 力が欲しかったから。

 圧倒的な力が。他者を自分と同じ地獄に叩き落とす力が欲しかったから。

 

 ゆとりの復讐が始まった。

 学校でゆとりをいじめた人間は全員ゆとりと同じ目に陥れた。日頃からお金を渡してご機嫌取りをしていたため誘い出すのは容易で、真次と繋がりのあった反社会組織の男のクズどもに女子は売り払った。

 

「くふっ、ふふふ、あはははははははははははっ!」

 

 目の前で泣き叫びながら犯される同級生を見て、ゆとりは人生で初めて心から嗤った。

 それと同時に、自分が超えてはいけない一線を超えて、嫌悪していたクズと同じところまで堕ちてしまったことを自覚した。ゆとりは益々壊れていった。

 

 最終的に中学でのいじめはなくなった。ゆとりをいじめていた者は全員学校から消えてしまったから。静かな毎日はゆとりが初めて得た平穏であった。

 家でも母を虐げる立場へと成り代わり、ゆとりの人生はゆとりからしたら順風満帆なものとなる。

 

 だというのに、ゆとりはより一層の虚無を抱く事になった。

 

 自分は何の為に生きているのだろう。

 どうして自分のようなクズが生きているのだろう。

 このまま力に溺れられる生活を愉しめれば、どれだけ良かっただろうか。

 

 果ての無い空虚を心に隠したまま、真次との契約を果たす為に指定の高校に入学し、およそ一年の待機時間を経て、ゆとりは四人の男女と仲良くなった。

 

 沢良宜志法。

 美笠天智。

 四部誠。

 片切友一。

 

 あの真次が名指しで指定するのだから一体どんな人間なのだろうと身構えていたゆとりは、結果としては拍子抜けを超えて訝しんだ。

 普通だった。普通に良い人たちだった。自分の醜さを見せ付けられるような。

 学校では気が弱くてお人好しで友達思いの優しい女の子を演じているゆとりだが、本性を表せば到底仲良くなど出来ないと断言できるほどに、四人は善良な人間だった。

 

 特に友一の側は過ごし易かった。

 志法や四部はクラスの中心に位置取れる人望もあって元々合うタイプではなく、ゆとりがいじめを受けていたのもあって最初は少なからず同情が含まれていたが、友一は微塵もそんな素振りを見せずただ友達として寄り添ってくれた。天智にも同情などは無かったが、何処か一線は引かれていた態度であった。

 

 なんでこの四人なのだろう。

 日に日に思いは強くなっていく中で、転機は突然に訪れた。高二になって一月ほどで、女生徒が一人転入してきたのだ。

 彼女はゆとり程ではないが捻じ曲がった本性を隠していると察し、恐らく碌でもない何事かを企んでゆとり達五人に接近してきた。

 

 そんな彼女を見る友一の瞳に、ほんの一瞬だけ闇が宿ったのをゆとりは見逃さなかった。

 

 その時見た友一がどうしても気になって、ゆとりはバレないように後を付ける。残忍な行いは何度も経験したのに、ストーカー紛いのこの行為には特別にドキドキした。

 

 そして、ゆとりは見たのだ。

 友一の闇を。

 学生生活では巧妙に隠されていた、友一の新たな側面を。

 

「……はぁ、……はぁ、……はぁ! 何これ、何これぇ……っ♡」

 

 自分の部屋に辿り着いた時には、ゆとりは抑え切れない感情に身体が熱くなっていた。どうしようもなく興奮し、自分自身がまるで制御できない。

 

 知りたい。友一のことが知りたい。

 あんな眼をする友一がもう一度見たい。

 あんな顔で嗤う友一がもう一度見たい。

 

 止まらない激情に従って、ゆとりは友一の情報を集めに走った。しかし成果は芳しくなく、一人暮らしの苦学生という誰もが知ってる情報から先に進まない。

 悶々とする毎日の中で見透かすように真次が現れて、遂にゆとりは知った。

 

 友一の過去を。友一の優しさを。友一の闇を。友一の歪みを。友一の苦しみを。友一の所業を。

 

 友一の全てを。

 

「──くふっ、ふふふふふふっ♡」

 

 昂ぶる感情と身体の熱が収まらない。

 ゆとりと友一は似ている。親に恵まれず、環境に恵まれず、お金の本当の価値と恐ろしさを知り、超えては行けない一線を超えて、それでも仮面を被って生きている。

 唯一違うのはゆとりは更生などとうに諦めているのに、友一は真っ当な人生を歩もうと努力しているところ。

 

 それが堪らない。堪らなく嬉しい。

 だって、きっと友一なら、ゆとりの願いを叶えてくれるから。

 

 身を焦がしたのは強烈な破滅願望。

 

 友一に酷いことをされたい。

 友一に暴力を振るわれたい。

 友一に滅茶苦茶に犯されたい。

 友一に残忍な方法で殺されたい。

 

 ──友一の心の傷となって、友一の中で一生生きていきたい。

 

 自分のようなクズなんて死んだ方がいいのに。

 それでも何も残せずに、誰にも覚えられずに死ぬのが嫌で。

 これまで生まれた憎しみを纏った欲望とは異なる、ゆとりだけの確かな願望。

 友一なら叶えてくれるかもしれない。心木ゆとりというバケモノを殺してくれるかもしれない。

 そしてその傷を、友一なら一生抱えて生きてくれる。

 ゆとりが生きた証と意味を、友一が残してくれる。

 

 ──なんて甘美な未来なんだろう……

 

「友一ぃ……友一ぃ♡」

 

 恋なんて初心で煌びやかなものでは断じて無かったが、この想いはゆとりが抱いた初めての愛だった。

 誰にも愛されるはずのないバケモノが、同じバケモノに愛を抱くなんて。

 淫靡な声で最愛の人の名を呼びながら、ゆとりは下腹部の更に下に手を伸ばして自慰に耽る。

 これほど幸せな気持ちになれたのは生まれて初めてだった。友一はゆとりに初めてを沢山与えてくれる。世界の巡り合わせに心から感謝したのも初めてだった。

 

 ゆとりは歪な願望を胸に時を過ごす。

 そして、友一の名を騙った手紙が家に届いた日、ゆとりは歓喜に打ち震えた。

 

 こうしてゆとりは、入念に用意された友一を中心とする因果の結末が待ち受ける舞台へと上がるのだった。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

 

「此処、だよな?」

 

 心木と書かれた表札が塀に付けられたかなり古い民家の前で、友一はおっかなびっくりインターホンを押してみる。

 友一がゆとりについて知ってることは実はそれほど多くはない。あの本性が育つに至った経緯も詳細は耳にしていないし、何より最終的には裏切り者としてトモダチゲームで対立する羽目になったからそこまでの余裕が無かったのだ。

 だがこの家を見る限り、少なくとも貧乏で自分でお金を稼ぐしかなかったというのは真実なのだろう。

 

「……はい、どちら様ですか?」

「こんにちは、自分は……」

 

 現れたのはゆとりによく似た、歳を経ればゆとりはこう成長するのかなと想像できる女性だった。

 

「片切友一と言います。心木ゆとりさんの……友達です」

 

 友一は過ごしの間を空けてそう言う。

 

「…………」

「えーっと……心木のお母さんですよね? ゆとりさんはご在宅でしょうか?」

「…………」

 

(えっ、……なんで何も言ってくれないんだ?)

 

 友一の言葉に対しての反応がない。

 以前志法に聞いた話では強い酒の匂いがしたそうだが、今は酔っ払ってはいないはずだ。だからかは不明だが、何故か真剣な眼差しで友一を上から下まで観察している。

 しばらく間無言が続き、気まずさのあまりゆとりと会う決心すら鈍りそうになった頃、目の前の女性はぱぁっと顔を綻ばせた。

 

「まぁ! あなたが友一君なのね! 名前だけは聞いてるわ、どうぞ上がって! あっ、私はゆとりの母で間違ってないわ」

「え、あはい、お邪魔します」

 

 思わぬ反応に友一はやや面食らう。

 ゆとりが母親とどんな関係なのか正直よく分かっていないが、良好なものではないと推測していた。だがこの態度を見る限り、少なくとも最低限の情報共有はしているのかもしれないと思い直す。

 友一は知らない。ゆとりの母にとって友一とは、ゆとりの部屋から聞こえるお楽しみの最中に漏れた名前だと。

 

「ゆとりちゃんは最近ずっと部屋に引きこもっているの。お友達のあなたとならお話してくれるかもしれないわ。勝手なお願いだけど、頼んでもいいかしら?」

「はい。自分は、えっと……その為に来ました」

「……ありがとうございます。──じゃあ、私は出掛けてくるわ!」

「……えっ!?」

 

 唐突な離脱宣言に友一は僅かに反応が遅れる。

 幾ら友達とはいえ一人娘を年頃の男と一つ屋根の下二人きりするつもりかと喉まで出掛かっていたが、ゆとりの母のあまりの行動の早さに完璧に出遅れた。

 気付いたら扉の取手を掴んでいたゆとりの母は、最低限の荷物を持って振り向いたところだった。

 

「ゆとりちゃんの部屋はそこだから あと、今日は私帰らないから、ゆとりちゃんをよろしくねー!」

「いや、ちょっと!!」

 

 宙に手を伸ばすも時既に遅く。靴を半脱ぎにした状態の友一一人がそこに残されていた。

 

「……はぁ」

 

 盛大に出鼻を挫かれた気分だが、友一は大きく一息だけ吐いて切り替える。むしろゆとりと一対一で話すには都合が良かったかもしれないと、友一は尻込みしそうな気分を前向き捉えることにした。

 

「よしっ」

 

 友一は教えてもらったゆとりの部屋の前に立ち、気合いを入れて扉をノックする。

 

「心木、えーと、片切友一だ。少し話がしたいんだがいいか?」

 

 声も掛けてみるが、部屋から物音はしない。母親の話ではいるらしいので、友一はもう一度ノックしてみる。

 すると、中から脚音が聞こえてきた。つまり最悪な展開──部屋で命を絶つような行為はしていないのだと分かって友一は安堵する。

 どんな顔して会えばいいのかなど分からないので、とりあえず自然体でいこうと友一は一歩足を引いた。

 

「なんだクソババァ!! 私に構うなって……」

 

 勢い良く開かれた扉から出てきたのは、声を荒げ顔を怒りに染めた未だに見慣れないゆとりの姿。ヘッドホンを首に掛け、肩と胸元が大きく開かれた寝巻きのままで、仮面を被っていないありのままのゆとりの素が垣間見えた。

 視線がかち合った二人は瞬きを三回。唐突な不意打ちに友一は上手く言葉が出せず、ゆとりはゆとりで目の前にいるのが母親ではない事に呆然とする。

 

「ゆ、友一。な、なんでここに……」

「いや、お前と話がしたくて。……邪魔したんならお暇するけど」

 

 顔を真っ青に染めたゆとりはおもいっきり狼狽えていた。それも仕方ないだろうとここに来て逆に冷静になった友一だが、扉がバンッ! と締められる音にビクンと跳ねる。

 

「ちょ、ちょっと待ってて!」

 

 ドタバタと慌ただしげな音が鳴り響く。

 悪いことをしたかもと反省する友一は手持ち無沙汰な時間を壁に寄り掛かって過ごす。女子の身支度には男が想像も付かないほどに時間が掛かるものだと聞いたことがあるから。

 

「ごめん、お待たせ。……入っていいよ」

「あ、あぁ。お邪魔します」

 

 着替え終えたゆとりに誘われて、友一はろくに警戒もせずにゆとりの部屋へと入った。其処がどれだけの歪んだ愛が渦巻いているかも分からないバケモノの腹の中だとも知らずに。

 部屋の中は家の外見とは異なって多くの物に満ちていた。高性能なテレビにパソコン、何冊もの漫画が詰められた本棚、大きなベッドに豪奢な革製のソファーもあり、此処だけ見れば裕福な家の子どもだと勘違いするだろう。

 

(あれ、そう思えば、同級生の女子の部屋に入ったのって初めてだ……)

 

 年相応の緊張が急に胸に押し寄せてきた友一は深呼吸しようと思うが、それはそれで気持ち悪いのではと思考の堂々巡りが始まる。

 

「友一?」

「あっ、いや、何でもない。悪いな、急に来て」

「ううん、嬉しいよ。……もう友一は私なんかと会ってくれないって思ってたから」

「心木……」

 

 並んでソファーに座り、互いに俯いて無言が続く。友一はどう話題を切り出そうか考えていたのだが、実際に会ってみると何から話せばいいのか分からなかった。

 

「それで友一、裏切り者のクソ女の私に何の用なの?」

 

 悩んでいた友一を慮ったのではないだろうが、ゆとりは諦念が滲んだ歪な笑みを浮かべて問う。

 ゆとりは失敗したのだ。唯一胸に抱いた願望は終ぞ果たせず、虚無に塗れてこの時まで過ごしていた。現実逃避に溜まったアニメを流し見ても何も思わない。生きる執着も死ぬ希望も失った己は何をすればいいのか。

 終わってしまった関係で今更何を話すのかと、ゆとりは滑稽な自分に自嘲を零した。

 

 友一はゆとりと向き合って、その瞳に映る闇を真正面から見詰める。

 

 自分と同じ、バケモノの眼。

 

「知りたいって思ったんだ、心木のことを」

「……えっ?」

「だって不公平だろ? 心木は俺のことをよく知ってるのに、俺は心木のことを知らないなんて。だから教えてくれ、お前のことを」

「…………」

 

 友一の言葉に嘘はない。

 知りたかったのだ。ゆとりが何を思い、何を感じ、結局は分からずに終わってしまったが、何が目的でトモダチゲームに参加したのかを。

 救いたい、なんて英雄気取りの思いはない。

 ただ、手を差し伸べるぐらいはしたいと思った。

 

 片切友一にとって、心木ゆとりは友達だったから。

 

「……うん、わかった。友一が聞きたいなら」

 

 そう言って、滔々と語られたのは一人の悲惨な人生を歩んだ女の子の話。

 暴力を、差別を受けて育ったこと。

 母親に売られて汚されたこと。

 段々と自分を形作る何かが歪み、壊れ始めたこと。

 お金を稼いで得た初めての趣味のこと。

 命の危機を感じた時にあった出会いのこと。

 復讐を成し遂げたこと。

 完璧に壊れてしまったこと。

 自分がどうしようもなく醜い存在だと自覚したこと。

 友一たちについて知ったこと。

 死にたいと、思っていたこと。

 友一に、殺してほしいと思っていたこと。

 

 友一ならきっと、覚えていてくれるから。

 

 最後の特大の暴露を含めて、ゆとりは全てを打ち明けてくれた。

 

「そうか、そうだったのか……」

 

 話し終えたゆとりに対し、友一は多くを喋らなかった。

 気休めなんてゆとりは求めていない。これがゆとりなりの最後の誠意なのだと分かったから。

 

 ゆとりが裏切り者だと知り、友一は確かに傷付いた。

 今まで側にいた友達が、ずっと自分を騙していたことは悲しかった。

 やっぱり自分なんかに友達なんて、出来るはずがないんだと自嘲した。

 

 それでも、友一に残ったものだってあったのだ。

 三人の親友を得た。

 立派な大人の良き理解者を得た。

 

 こんな自分でも、救われることはあったのだ。

 

 だからせめて、伝えようと思ったのだ、自分の気持ちを。

 

「心木、俺はお前が裏切り者だと知って、後になってだったけどやっぱり悲しかった」

 

 いつの間にか膝に顔を埋めていたゆとりは、友一の言葉に動くことはない。だけど、とても静かにだが、嗚咽を我慢するように鼻をすする音だけは聞こえた。

 

「だけどな、お前のことが嫌いになったかと言われれば、そうじゃないと断言できる」

「っ!!」

 

 伏せていた顔を上げて、ゆとりは友一を見る。

 涙で滲んだその瞳に目を合わせる。

 どうしてかは分からないが、友一は自然と、穏やかに笑えていた。

 

「言っただろ、心木。俺はお前にどんな過去があっても、離れるなんてことはしないって」

「ゆ……友一っ!」

 

 胸元に飛び込んできたゆとりを、友一は幼子をあやすように抱き留めた。

 

「ごめん、……ごめん友一! 私、どうしても、どうしても死にたくて! でも、何か遺したくて、どうすればいいのか分からなくて! だから、だからっ!」

「……いいんだ、心木。お前の気持ち、よく分かるから」

 

 歪みの全てを吐露するゆとりを背中を撫でて落ち着かせようと試みるも、少女の懺悔と慟哭は収まらない。

 

「心木、俺も同じだ。トモダチゲームが終わってからついさっきまで、死に場所を探してた」

 

 お金よりも大切なものがある。

 その言葉をよすがに友一は生き永らえていたが、やはりバケモノである自分には贅沢過ぎたのだ。

 何人もの人生を壊してしまった。

 自分が生きてたら、また誰かの人生を壊してしまう。

 

 なら、消えてしまいたい。

 

 なんて我儘な考えなんだろうか。

 結局、自分一人で死ぬことも選べなかったのに。

 

「心木、俺たちは弱い人間なんだと思う。なんて言うのかな……こんな人になりたいとか、将来こうなりたいとか、俺は思ったことがないんだ。ただ漫然と、生きる為に生きているだけ。生きたいって意志が弱いんだ。だから、平気で死を求めてしまう」

 

 ゆっくりと、ゆっくりと優しい手付きで友一はゆとりの背中を摩り、伝えたい想いを口にする。

 

「このままじゃ駄目なんだと思う。俺が心木に言ったことだけど、俺たちの弱さは周りを傷付けるだけで何もいいことなんてない」

「……じゃあ、どうすればいいのかな……」

「そうだな……心木」

 

 嗚咽を漏らしながら、ゆとりは真っ赤に泣き腫らした瞳を友一へと向ける。

 

「一緒に強くなろう」

「一緒に?」

「あぁ。心木が挫けそうなら俺が支える。俺が挫けそうな時は心木が俺を支えてくれ」

「……いいのかな、私なんかが生きてても」

「それは俺には分からない。だけど、俺は心木を失いたくない」

「……友一はなんでそんなに優しいの?」

「……そうありたいって、思うからじゃないか?」

「……ふふっ、友一らしいね」

 

 涙が引いたゆとりはこれまで演じていた頃のように淡く微笑み、再び友一の胸元へと顔を寄せる。

 落ち着いた素振りで会話を交わしていたゆとりだったが、内心は盛大にテンパっていた。

 

(え、え、え? 告白されてるよね? 私、友一に告白されてるよね!?)

 

 ゆとりは他人から愛されたことがない。

 恋愛など以てのほか、経験も耐性も全くない。

 知識としてあるのはアニメや漫画で描かれる、綺麗だけど現実味の薄い創作の恋愛だけ。

 だがしかし、ゆとりにとってはそれが聖書であり真実。

 

 そしてこの状況は、非現実的な恋愛模様で描かれていた。

 

「ゆ、友一!」

「うん?」

 

 緊張と恥ずかしさから声が大きくなってしまったゆとりは、熱を冷ますように大きく深呼吸を繰り返す。

 心臓が張り裂けそうな程に鼓動を打つ。

 一世一代の大勝負。

 耳まで真っ赤になっているだろう顔で、ゆとりは上目遣いで友一を見詰めた。

 

「友一は、私とずっと一緒に生きてくれる?」

 

 友一は微笑し、深く考えずに返答した。

 

「お前がそれを望んでくれるなら」

 

 ……友一は、他人の心理を読むことには長けていても、女心というものを分かっていなかった。

 このやり取りを聞いた第三者がいたのなら、間違いなくこう思っただろう。

 

 プロポーズが成功した、と。

 

 当人たちにとっての不幸は二つ。

 一つは男側にそのつもりは一切無く、ただ相手を元気付けたいだけだったこと。

 そしてもう一つは、女側が最後の理性で押し留めていた愛情を、取り返しが付かなくなるほどに爆発させてしまったこと。

 

 歪んだ破滅願望すら塗り潰す狂気に満ちた愛。

 

 心木ゆとりは完全に、片切友一に壊されてしまった。

 

「好き」

「友一が好き」

「好き好き好き好き好き好き好き好き」

「大好き」

「愛してる」

「友一」

「友一」

「友一友一友一友一友一友一友一友一っ!」

 

「……えっ?」

 

 ドンッと押し倒された。

 突然壊れたラジカセのように友一への慕情を吐き出し始めたゆとりが、友一に馬乗りになって笑っている。

 状況の急展開に頭が追い付いていない友一だったが、ゆとりの顔を見て一刻の猶予も無いことを悟った。

 

「友一が、友一がいけないんだよ? 私なんかと、一緒に生きてくれるなんて……嬉しい、嬉しいよぉ♡ 友一、友一ぃ♡ 好き……好きぃ♡」

 

 

【挿絵表示】

 

 

 恍惚に彩られたゆとりの容貌。瞳からは正気が失われて、過度の興奮からか頬は上気し、はぁはぁと荒々しい吐息を漏らしている。

 ゆとりは今、疑いようもなく発情していた。

 

「こ、心木。落ち着こう。ほら、深呼吸して」

「はぁ、はぁ、はぁ……っ♡」

 

 ゆとりは友一へとしなだれかかり、その大きな乳房が友一の胸板で潰される。友一の声がまるで届いていない。

 

(こ、心木が急におかしくなった!?)

 

 ──いやお前の所為だろ、と言ってくれる者はいない。

 

 友一はトモダチゲームのように戦略を立てて他人を出し抜いたり陥れることに関しては絶大なセンスを持っていたが、はっきり言ってこの場では全く役に立たない。論理が通じない相手に対して、友一は途端に劣勢へと傾くのだ。

 力付くでの脱出が考慮にないのは友一が持つ確かな善性であったが、結論からして悪手極まる。辛うじて両肩に手を添えて行動の阻害を試みるも、愛に狂い暴走した女は止まることがない。

 

「えいっ!」

「ぁがっ!?」

 

 バチ、バチチと雷電が鳴り響く。

 どこに隠し持っていたのか、ゆとりが左手に握っていたのはスタンガンであり、死角から脇腹に撃ち込まれた友一はビクンッと大きく身体を跳ねさせる。

 

「こ、ここ……ろ……」

「大丈夫、安心して友一♡ よくお母さんに使ってるから、上手く加減出来たよ! 最近になって急に母親面してくるのがウザかったけど、初めてお母さんが役に立ったかも!」

 

 発言一つにこれでもかと歪みが盛り込まれているが、はっきりと言えるのは何一つ安心など出来ないことだ。

 

(これは……かなり、マズい……)

 

 友一はこの窮状を脱する術を求めるも、身体の痺れと思考の鈍りが酷くてろくに頭が回らない。

 

 そんな友一の様子を見て、ゆとりは蠱惑的な笑みを口許に刻む。

 

「友一……」

 

 気付けば、目の鼻の先にゆとりの顔があった。

 

「んっ……」

「っ!!?」

 

 ゆとりは友一の頬を両手で固定して、甘い吐息を漏らして口付けをする。

 

「んっ、ちゅっ、はぁ……っ♡ んちゅ……んっ……♡」

「っ……んむっ! ちょ、んっ……っ!?」

 

 口を開き、舌を懸命に伸ばして、まるで貪るようにゆとりは友一の口内を蹂躙する。

 柔らかい。唇が、舌が、押し付けられる胸が、滅茶苦茶に柔らかい。それなのに確かな質量をもって、友一の身体にその感触を伝えてくる。只でさえ鈍っていた思考に、混乱と性的興奮が混ざって頭がおかしくなそうだ。

 情熱的な口付けが終わり、ゆとりの顔が離れていく。二人の間には混ざり合った唾液が橋となって垂れて、友一のシャツがぽつぽつと濡れていった。

 

「うわぁ……なにこれ、なにこれぇ♡ すごい、すごいよ友一ぃ……っ♡ はじめて、こんなのはじめて……これが幸せって気持ちなのかなぁ♡」

 

 真っ赤に染まった頬に手を当てて、ゆとりは蕩けた表情を浮かべ全身で悦びを表現する。

 体感したことがない心の躍動と身体の疼き。ゾワゾワと快感が全身に駆けずり回って、一度味わってしまえばもう二度と元には戻れない。

 

 ──だから、もっと欲しい。

 ──この先の先まで、もっともっと欲しい。

 

「友一……」

 

 ぱち、ぱちりと、ゆとりはゆっくりとシャツのボタンを外し始めた。

 

 その光景に、友一は茹だっていた頭が一気に覚醒する。

 

 裸の男。裸の女。

 血に塗れ、地に伏して。

 目の前で息吹が消えて、そして──

 

「こ、心木っ!」

「きゃっ!?」

 

 最大級のトラウマが脳裏を過った友一は強く名を叫び、痺れる身体に鞭を打ってゆとりの両肩に手を添える。

 高揚していた感情が水を差されたように落ち着いたゆとりは、その時になって友一の顔が若干青褪めているのを認識した。

 

「あっ、……ゆ、友一……」

 

 動揺からされるがままとなったゆとりを友一はゆっくりと上体を起こしながら腹部から移動させ、太腿の上に乗る形で視線を合わせた。

 

「心木」

「ち、違うの! これは、どうしても、私、でも、私じゃ……だから、でも違くてっ!」

「落ち着いたか?」

「えっ? ……う、うん」

 

 思わぬ対応に拍子抜けしたような声で返事をするゆとりに、友一はなんとか動く手でゆとりの髪を撫でた。

 

「お前は俺の過去を知ってるんだよな?」

「う、うん……」

「……情けない話だが、トラウマなんだ。特に、無理やりとかだと、フラッシュバックするぐらいには」

 

 友一だって男だ。性的欲求は備えているし、異性にちゃんと欲情だってする。

 ゆとりはその点、同年代の中でもかなり魅力的な容姿をしているのだから、普通の男子高校生だったら両手を挙げて喜ぶことだろう。

 だが、その魅力以上に、友一のトラウマの方がまだ大きかった。

 

「心木が嫌いとかじゃないんだ。ただ、こういうのは、な、その、なんだ……」

「……友一、それって」

 

 いつかは受け入れてくれるってことだよね……? とは口に出せなかった。

 それでも、どうしても想いが止められなくて、頬を紅く染めながら上目遣いに聞いてしまう。

 

「期待しても、いいの?」

「…………」

 

 その言葉に、友一は喉が詰まる思いを飲み下し、身体が触れない程度の柔らかな抱擁を交わすのだった。

 

 

 

 

「……うん? その流れでなんで友一君は地元から離れることになったの?」

 

 一通りのあらましを聞いて、まず第一にマリアをそう思う。

 歪ながらも甘酸っぱいラブストーリー(笑)に色んな意味でハラハラしたのに、一体全体どういうことかとマリアは言外に友一を問い詰める。

 途端、重苦しい空気を醸し出す友一だったが、諦めたように溜め息を溢した。

 

「海童さんが俺と別れた後、聡音に俺が心木のところに行くって報告したんだ。その時、天智と京と沢良宜が一緒にいたらしくてな。それで……」

「……まさか志法ちゃんがゆとりちゃん家に乗り込んできたとか?」

「……よく分かったな」

「えっ、マジ?」

「マジだ」

「うわぁ、それは修羅場だねぇ」

 

 発言とは裏腹にニタニタと笑うマリアは実に愉しそうだった。

 

「ねぇねぇ、どんな感じだったの?」

「……まず心木がブチ切れてスタンガンで沢良宜に襲い掛かろうとして、それを俺が咄嗟に沢良宜を庇う形で食らって、それにブチ切れた沢良宜が心木に腹パンをお見舞いしてた」

「想像以上にデンジャラスッ!!」

 

 女子高生がスタンガンを武器にするのがまずヤバい。そしてマリアは身をもって知っているが、志法の戦闘能力は銃を持っていても太刀打ち出来ない程だ。ゆとりからして暴力ゴリラ女と称されるその脳筋具合は伊達ではない。

 

「俺は沢良宜に背負われて心木の家の玄関で気を失ったが、最後に聞こえたのは沢良宜への怨嗟に塗れた心木の怒声だった」

「怖すぎる」

「その後沢良宜の家で目が覚めたんだが、心木の家で何があったのかを説明してたら段々と沢良宜の目が据わってきて、心木に奪われるくらいならって押し倒されて、そのタイミングで今度は天智たち三人が沢良宜の家に乗り込んできた」

「おぉ……」

「天智と京が命懸けで沢良宜を羽交締めにしている隙に聡音が運転する車で海童さん家に移動して、事情を説明したら海童さんが遠い目になって、ほとぼりが冷めるまで旅でもしてろってお金とスマホを渡された」

「友一君、今から大爆笑してもいい?」

「殺すぞ?」

「あははははははははははははははははははっ!!」

 

 他のお客様の迷惑になります! なんて注意が飛んでくるまでマリアは爆笑した。

 

「んぐ、げほっ、ごっほ! ん、んん゛っ、んっ、……はぁ落ち着いた」

「笑い過ぎだ」

「だってこんな面白い話なんだもん。思いっきり笑わないと勿体ないよ」

 

 何度も咳き込んでやっとのことで平静を取り戻したマリアは友一に向き直り、不意に表情を改める。

 

「友一君、とりあえず率直な感想を言ってもいい?」

「……ああ」

「女心を弄ぶとか割とマジでクズだから。そのつもりが無かったとかいう言い訳は一番最悪だよ」

「…………」

 

 真剣な蔑みとはこういうものなのか。

 マリアの、近すぎない第三者からの客観的な意見に、友一は反論一つ許されず黙り込むしかなかった。

 

「志法ちゃんはまぁともかくとして、ゆとりちゃんは同じ女として不憫でならないかな。初手スタンガンは流石にアレだけど、普通勘違いするよ」

「……天智たちにも「どう考えてもお前が悪い」「友一先輩……幾らなんでもそれは……」「死ね黒パーカー」って言われた」

「うん、それが正解」

 

 既に仲間から絞られていた友一は反省してるのか声に力が無い。マリアからしたら罵倒が甘々だが、一先ず女代表としての矛は収めることとする。

 それよりも聞かなければならないことがあると、マリアは瞳をキラキラと輝かせた。

 

「それで〜、実際のところっ、どうなの? 友一君は的にさっ! 本命は!?」

「……二人とも嫌いではない」

「その回答は乙女的には0点どころかマイナスを下回っているんだけど?」

「分かってるんだよそんなことは」

 

 一瞬の怒気がマリアから発せられるも、太々しさを取り戻した友一も素気無く返す。

 せっかく面白くなってきたのにぃ、と不満を露わにするマリアはむぅと唸るが、話題に事欠かないのはマリアとしては大歓迎で、せめて行き着くところまでは見守っていきたく思う。

 ならば打てる手は限られてくる。

 

「友一君、連絡先交換しよっ! そして進捗を私に教えて!」

「いいぞ」

「えっ、ホント! ありがと〜!」

 

 思わぬ好反応にマリアは喜び、素早くスマホを取り出す。

 窓際の席のために日光が画面に反射して見にくいが、テーブルを横切る影をこれ幸いと利用して画面を操作する。マリアは若干身を乗り出して、扱い方が未だぎこちない友一に指示を出しながら会話アプリの連絡先を手に入れた。

 

「んふふ〜、これでいつでも友一君と連絡が取れるっ! ありがとね!」

「……いや、俺の方こそ礼を言いたい。ありがとう、マリア」

「……ん?」

 

(今、友一君にありがとうって言われた?)

 

 何かがおかしい。友一がこんなにも素直に、しかも自分に益の無いことでお礼を述べるなど。

 マリアは油断していたのだ。日常生活でならあの友一も、女の子の気持ちも察せないただの初心寄りな青年に過ぎないのだとこの短時間で刷り込まれてしまったから。

 

 雰囲気が一変した友一に、マリアは冷や汗が流れた。

 

「……あれ? もしかして私、何かミスした?」

「まぁ、ミスと言えばミスなのかもな。日常生活で緩むのは俺だけじゃないってことだ」

 

 悪どい、とは若干異なる引き攣った友一の笑み。よく見れば冷や汗すら流している気がする。

 

(な、なに!? 何をやっちゃったの私は!?)

 

 動揺が増幅し、緊迫感が場を支配する。

 これまでの流れを思い返してみるも、マリアはミスというミスの心当たりがない。唯一あるとするならば……

 

(多分だけど、連絡先をゲットしたこと。でも、それがどうして……)

 

「なぁ、マリア」

「な、なにかな、友一君?」

 

 すっ、と指差されたのは、テーブルの上。

 

「何か違和感は無いか?」

「えっ……」

 

 違和感、と言われても、特別変なものはない。

 置いてあるのは喉を潤すための二人分の飲み物のみ。

 あと在ると言えるのは、テーブルを横切る影くらいで。

 

(……あれ、この人影。そう思えばさっきからほとんど動いて──)

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

(──なっ!??)

 

 呼吸が、止まった。

 もしかしたら時間すら止まったのではないかと錯覚する程の重圧と静寂。

 

(ひぃいいっ!? 怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖いっ!!)

 

 気付かなければ良かった。

 気付いてはいけなかった。

 

 そうすれば自分は、少なくともこの場では楽しく過ごせたのに。

 

「い、いつから……」

「それなりに前から、とだけ」

「なんで、……だって友一君は逃げてる最中なんじゃ」

「言っておくが、それは本当だ」

「じゃあどうして!?」

 

 心臓が握り潰されそうな威圧を一身に受けて、マリアは自然と声が大きくなってしまう。

 余裕の無くなったマリアを憐れむ目で見詰めながら、友一は刻んだ笑みを完全な苦笑へと変えた。

 

「心木曰く、俺がいる場所はすぐに分かるらしい」

「……は?」

「この数週間、俺は絶え間無く移動してる。誰にも相談しないで適当に目的地を選んでいるんだが、絶対に心木に追いつかれるんだ」

「盗聴器とかGPSが仕掛けられてる!?」

「機械には詳しくないがそれくらいは知ってる。当然確かめたさ」

「……無かったってこと?」

「ああ、でも心木は来る。愛の力らしいぞ」

「おぉぅ……」

 

 怖すぎる。

 なにが怖いってもうなにもかもが怖すぎる。

 

 ストーカーも真っ青の追跡能力に、マリアは冷や汗がドバドバと止まらない。

 ようやく自分が、奈落の落とし穴に自ら踏み込んだことに気が付いた。

 

「これまでの経緯をこんな簡単に話したのは」

「現状把握と時間稼ぎだな」

「私と連絡先を交換したのは」

「決定打を撃つためだ」

 

 友一は乾いた笑いで決して窓の方は見ない。

 

「沢良宜に俺を奪われたと思った心木はもう歯止めが効かないみたいでな、こんなこと自分で言いたくないけど、天智たちが言うには俺への愛が天元突破してるらしい」

 

 恥ずかしげも無く言い切る友一は普段だったら痛々しいことこの上ないのだが、マリアはそれどころではない。

 女だからこそ分かる。

 向けられている視線に乗せられた、極黒の殺意。

 七つの大罪の一つに嫉妬が含まれている理由を、マリアはこの絶死の窮地にて真に理解する。

 

「さて、そこで問題だ。愛に狂っているらしい女Aの前に、対象である男にすり寄る顔見知りの女Bが現れた。女Aが次に取る行動はなんだと思う?」

「……如何なる手段をもってしても女Bを排除する」

「大正解だ」

 

 ぱちぱちと楽しげに拍手する友一とは対照的に、女Bの立場にいつの間にか立っていたマリアは顔色が青を通り越して白くなる。

 

「友一君、今からでも遅くないから、ゆとりちゃんにプロポーズしよっ? それで全部丸く収まるから!」

「そんな適当な気持ちで女性に告白なんて不誠実だろ」

「正論がこんなにムカつくなんてっ!!」

 

 マリアは頭を抱えてテーブルに突っ伏す。

 現状のヤバさが過去一だ。目の前の男はマリアを嵌めた張本人であり、窓の外で此方を見詰める女は狂愛に身を焼かれた異常者。常識が通じない二人に説得など通じるはずもなく、内なる焦燥の悲鳴が鳴り止むことがない。

 

(あれ、これ詰んでる……?)

 

 知らず地雷原に踏み込み、外堀を埋められ、自ら奈落の底に落ちて、蜘蛛の糸すらも垂れてこない。

 

 完全なる詰みの盤石が完成していた。

 

 取り得る選択肢は、逃げるか戦うかの二択。

 どちらにせよ、生き残れる可能性はないに等しい。

 

「友一君、お願い、助けて」

「……俺は、少しの間だけでいいから、一人になりたかったんだ。自分の過去と気持ちに向き合う時間が欲しかった」

 

 だから、と続く友一の言葉。

 マリアが見上げた先には、友一の悪どい笑みが刻まれていた。

 

「マリア。精々頑張ってくれ、餌役をな」

「いやぁああああああああああああああああああああッッッ!!!!???」

 

 水瀬マリア、ヤンデレ(から逃げる)ゲーム一回戦の始まりだった。

 

 

 

 

 






心木ゆとり
本作のメインヒロイン。原作でもヒロインがしちゃいけない顔をする。
過去については完全捏造(私が知る限りまだ分からないから)。本作では原作のこれまでの発言から破滅願望持ちとなり、友一君の所為で取返しが付かない唯一無二のヤンデレ属性を手に入れた。

なんやかんやあった後に友一君と結婚すると思う。

沢良宜志法
本当はこの子も友一君が好きになった経緯とかヤンデレ化とか色々書こうと思ってたけど、あまりにもゆとりちゃんが強烈過ぎて出番を奪われた子。ごめんね志法ちゃん。
マリアとのお喋り中の頃に志法ちゃんがどうなってるのかはゆとりちゃんに聞いてください。

片切友一
やらかした主人公。
ゆとりちゃんの非科学的な追跡能力に頭を悩ましていたところに鴨がネギ背負ってやってきたのでラッキー。天智君たちは巻き込みたくなかったので本当に困っていた。マリアちゃんは見捨てても全く心が痛まない。

なんやかんやあった後にゆとりちゃんと結婚すると思う。

水瀬マリア
トモダチゲームという作品におけるメインヒロイン(個人の意見です)。めちゃかわ。声が付いて更にめちゃかわになった。
この度、不憫可愛い美少女の地位を確立し、ヤンデレゲームへの参加権を手に入れた。好奇心は猫をも殺すを素でいく女の子。
まずこのファミレスからは全集中の呼吸ばりの覚悟で逃げ出す予定。



なお、決してCVうえしゃまを可哀想な目に合わせたかったという理由から本作が生まれたわけではない。


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