尊様SS   作:筆狐

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6月です。梅雨をテーマに書いてみました。
よろしくお願いします。


尊様と雨上がりの散歩

 大きな雲が浮かぶ、青く晴れた、空。

 所々がぬかるみ、水溜りが出来た、道。

 

 雨上がり。

 相入れないはずの2つの要素が混じり合い、補強し、強調し合う不思議な空間。

 濡れた際の独特な匂いを不快に感じる者、混じりあった雰囲気を綺麗だと感じる者、そして、いつもの事だと何も感じない者……見る者によって様々な感想を持つことになる……不思議な、時間。

 

 そんな日の午後に、あなたはある人物と連れ添って歩いていた。

 朝から雨が降り、何処にも行けずにいたのだが、午後になってからの快晴。

 しかし、今から何処かに出かけるのも難しい……ならば少し散歩にいかないか?と、あなたが彼女に提案した。

 

「うーん!やはり外は良いのう……」

 

 そう言って伸びをするのは、あなたの隣を歩く鬼の女王……竜胆尊。

 彼女は小さな体をうんと伸ばし、太陽の光を全身に浴び、雨に濡れた匂いを胸いっぱいに吸い込んでいた。

 雨上がり故に足元は悪いのだが、そんなことは関係ない、とでも言うように、まるで跳ねるように軽快に進んでいく。

 

「ふんふふん、ふーん♪……あ!虹じゃ!」

 

 機嫌よく歩いていると、景色の隙間に虹が掛かっているのを見つけ、感嘆の声を上げる鬼の女王。

 そうして目を輝かせる姿は、一国を治める女王には見えず、まるで少女のようで。

 そんな姿を見て、やはり誘ってよかった、と思ったあなた。

 一緒に虹を眺めようと、一歩前に――

 

――ズルッ!

 

 という感触と共に、あなたの視界がブレる。

 地面の泥に足を取られたのだ。

 

 ズルリ、と後ろに倒れこんでいくあなたは、咄嗟に踏ん張る事に失敗した。

 そのまま濡れた地面に体を叩きつけられ――。

 

「――おっと……大丈夫か?お主?」

 

——る事なく、そっと、体を支えられる。

 気が付けば、鬼の女王に体を支えられていた。

 とっさにあなたを抱えたにも関わらず、小さな鬼の体は全くぶれず、危なげがない。

 鬼の女王はそのままの体勢で、あなたの顔を心配そうな顔で覗き込む。

 

「……大丈夫そうじゃな?足元が悪くなっておるから、気を付けて歩くんじゃよ?……立てる?」

 

 そう言って、あなたが立てるようにそっと腕を引いてくれたので、足元に気を付けながら体のバランスを取るあなた。

 そして、助けてくれたことへの感謝を彼女に伝えた。

 

「なに、気にするな。お主が無事ならば、よい。」

 

 と、笑顔であなたの礼に応えた。

 その顔は、あなたの身になにも無くて良かった、とほっとしているように見えた。

 そして。

 

「では、お主。手を繋いで歩こう?」

 

 と、あなたに告げた。

 どうしてそうなった、とあなたは唐突な提案に混乱し、狼狽する。

 しかしその手は、あなたがこけてしまいそうになった時から、しっかりと彼女の手を握ったままだ。

 そんなあなたを見て、鬼の女王は心底楽しそうに笑う。

 

「なんじゃ?わらわはただ、足元が悪いので、このままお互いに支え合って歩こう、と言っておるだけじゃよ?……それとも、嫌?」

 

 と、首を傾げる鬼の女王。

 言葉とは裏腹に、その表情はまるでいたずら好きな少女のようで……言外に「お主はそんなこと、言わぬよな?」と言っているようなもので。

……そして、あなたはその期待に、応えないつもりもなかった。

 そんなあなたを、鬼の女王は目を細めて見つめる。

 

「ふふふ……わらわ、お主のそーゆー素直な所、素敵じゃと思うよ?……さ、行こ?」

 

 そう言って、あなたの手を引く鬼の女王。

 あなたは引かれるがままに彼女の後ろをついて行く。

 

――足元には太陽を反射して光る水たまり。

 遠くには空にかかる大きな虹。

 青く晴れた空を流れる、大きな雲の下をふたりで、歩く。

 

 彼女とあなた、お互いの手の温もりが溶け合い、混じり合う。

 そんな状態が心地よく、そして気恥ずかしい。

 あなたは、自分の顔が熱くなっていることを自覚していた……しかし、決して嫌ではなかった。

 

 ふと、あなたを導く鬼の女王に目を向けてみる。

 よく見ると、彼女の長い耳の先端、そこがほんのりと赤くなっていて……。

……あなたは、顔をそっと横に向ける。

 

――クチナシの花が咲いているのが、見えた。

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