尊様SS   作:筆狐

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7月です。まだ8月もあるのにどんどん暑くなってきましたね……。
そんな日の夜のお話です。
よろしくお願いします。


尊様と熱帯夜

 暑い。

 そう呟き、あなたは眠りに着くことを諦め、布団から抜け出した。

 

 ここはとある国のとある城、その一室。

 あなたはある用事のため、この城にやってきていた。

 

 粛々と用事をこなしていたあなただったが、思っていたよりも時間がかかってしまい、終わる頃には夜も遅い時間になってしまっていた。

 そうすると、今から帰らせるのも心苦しいので、今日はこの城に泊っていけ、と、その城の主人に誘われたあなた。

 断る理由もなかったので、あなたはその言葉に甘え、割り当てられた寝室で体を休めることにした。

 

 そして、いざ寝ようとしたのだが……今夜のこの国は一等暑かった。

 まだ夏と呼ぶにはいささか早い時期なのにもかかわらず、じめじめと蒸し暑く、寝苦しく。

 とても静かに眠りに着ける状態ではなかった。

 

 あまりに暑いので、もう少し眠気がくるまで風当たりのいいところに涼みにいくことに決めたあなたは、蒸し暑い割り当てられた寝室から脱出し、静かで暗い城の廊下を進み始めたのだった。

 

 

――そうして、当てもなく広大な城内をさまよっていたあなたは、ついに目当ての場所を見つけた。

 

 そこは城の中庭が一望できる縁側。

 周りが開けているため風通しがよく、また、庭に流れる小さな川のおかげか、他の場所と比べてかなり涼しく感じることができた。

……そして、その快適さに引き寄せられたのは、あなただけではなかったらしい。

 

「……ん?おお、お主も来たのか。」

 

 そうあなたに声を掛けてきたのは、今宵、あなたにこの城に泊まるように勧めてきたこの城の主人、鬼の女王、竜胆尊。

 そんな彼女だが、流石の鬼の女王もこの暑さには敵わないらしく、普段の凛とした雰囲気は消え失せ、気だるそうに扇子で自身を扇ぎながら、縁側にだらりと寝そべるように座り込んでいた。

 

「ほれ、お主もそんなところで立ってないで、こっちに来て座ると良い……多少は涼しいぞ?」

 

 涼しいと聞けばそれを求めて歩き回ったあなたに否と言う理由もなく、そそくさと鬼の女王の隣に座りこむ。

 夜風に当たり続けた廊下は少し冷えていて、座り込む事で少しだけ体の熱が逃げていっているように感じられた。

 しかし。

 

「はぁ~。暑いのう……最近暑くなってきたと思ってはいたが、流石に暑すぎるぞ……。」

 

 風通しが良い場所とはいえ、やはり暑いものは暑い。

 じわりと滲むように出ていた汗も、ここに来る事である程度落ち着いたものの、再び寝床に戻ることで、この場の恩恵を受けられないとなると眠りに着ける自信はなく。

 さらに、鬼の女王の起こす風のおこぼれを受けられるとあっては、あなたはこの場を移動する理由を見つけることができなかった。

 

……と、あなたは何の気なしに、隣に座り、この暑さにへばってしまっている鬼の女王へと目を向けた。

 

 彼女もあなたと同じく寝床から退避してきたようで、寝巻である襦袢姿だ。

 どうやら夏用に生地の薄い素材になっている襦袢のようで、そのせいか、汗をかいている部分に少し生地が張り付いてしまっていた。

 さらに、その襦袢の胸元を大胆に開け、それどころか肩まではだけさせてしまっており、脚は太腿までさらけ出し、その脚を廊下に投げ出すかのように崩してしまっていた。

 そして、右手は扇子を扇ぎ続けていて、左手は胸元に添え、襦袢の襟の部分を押さえ、それ以上ずれないようにしていた。

 

 ……髪は、暑さをしのぐために高い所でまとめられ、首筋をさらし、風通しを良くしようとしているようだった。

 しかし、毛量が多いこともあって、髪全体がしっとりと汗で濡れてしまっている。

 そんな濡れた髪が頬や首筋に少し張り付いてしまっていて、暑苦しそうに見えた。

 

 首筋を流れる汗、しっとりと濡れた肌、張り付いた衣服や髪、投げ出された脚、はだけた寝巻、そして気だるげな表情。

……あまりにも無防備な姿をあなたの前に晒していた。

 あなたは何かをごまかすかのように、彼女から目を逸らし、中庭に視線を向けた。

 

「……なーに見てないふりをしとるんじゃ……すけべ。」

 

……どうやら、ごまかせなかったらしい。

 しっかりと彼女のことを見つめてしまっていたのだから、当然と言えば当然なのだが。

 

 振り向いて彼女の顔を見ると、先程の厳しい言葉とは裏腹に、実に楽しそうに笑いながら、あなたを横目で見つめていた。

 あなたは目を合わせられず、しかし、彼女の他の部分を見る訳にもいかず、視線をさまよわせ……結局、中庭へと視線を逃がした。

 そんなあなたを見て、鬼の女王はくすくすと楽しそうに笑う。

 

「くくく……まったく、お主はからかいがいがあるのう?」

 

 そうですね、と答える訳にもいかず、また、違うと言う為の言い訳も思いつかないあなたは、居心地を悪そうにしながら、少しうつむいておいた。

 尚、視線は中庭に向けたままだ。

 

「ふふふっ、すっかり目が冴えてしまったな……そうじゃ、お主。折角じゃし、これから深夜の酒盛りをせぬか?お互い、この暑さでは寝付けそうもないじゃろう?」

 

 そう誘いながら、意味ありげにあなたに視線を送り続ける鬼の女王。

 

「やさしいお主は、まさか断りはせん、よな?ふふふっ。」

 

 当然じゃよな?と言外に伝えながら、あなたを見つめ、口の端を上げる鬼の女王。

 そのお願いを断れない理由が先程出来たあなたに是非はなく、おとなしく首を縦に振ることで自分の意思を伝える。

 

「では、決まりじゃ!」

 

 そう言って手を叩き、服を着直しながら立ち上がる鬼の女王。

 先程までの気だるげな姿は消え去り、その声は嬉しそうで、表情はとても楽しそうだ。

 

「それでは取ってくるから、そこで待っておれなー?」

 

 そう言って、目当てのものがあるのであろう場所に、軽快に向かっていく鬼の女王。

 この城の構造をまだあまり理解できていないあなたは、おとなしくこの城の主を待つことにした。

 

 ひとり残された縁側は、とても静かで、暗くて、相変わらず蒸し暑い。

 そんな寝苦しい夜だが……たまには、本当にたまになら、そんな日も悪くない。

 顔を手で扇ぎながら、そんなことを思うあなたなのであった。

 

……あつい。

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