よろしくお願いします。
どうしてこうなった。
これまでのあなたの人生において無縁な、聞くことはあっても使うことは無かった、おおげさな言葉。
そして、これからも使われることはないだろうと思っていた言葉だった。
しかし今、あなたはその言葉を使わざるをえない事になってしまった……なぜなら。
「次、行きますよ?はい、あ~ん……。」
……目も眩むような美少年にその手ずから、彼の手料理を食べさせてもらっているからである。
少年があーんとあなたの口に運んでいるのは、彼が作ったおいしそうなミートボール……恐らく、あなたに食べさせやすいようにとこの料理をチョイスしたのだろう。
そしてそんなことをされてしまっているあなたは色々な意味でいっぱいいっぱい……しかし等の少年は眩しい程の笑顔だったりする……顔が良い。
……本当に、どうしてこうなった……。
「どうですか?おいしいですか?」
そう言って、あなたの顔を覗き込む少年。
急な顔の接近に、あなたは壊れたおもちゃのように首をコクコクと振り続ける。
もちろん味なんてわからない。いや、おいしいことは間違いないのだが、味覚以上に視覚聴覚その他もろもろへの刺激が大きすぎて、すっかり舌の感覚が麻痺していた。
と言うかさっきからずっと顔が近い。それと料理とは別の良い匂いがする……気がする。
「あの……僕の料理、ちゃんと味わってますか?さっきからずーっと上の空……ですよね?」
と、そんな風に料理以外の事に気を取られてしまっていると、その心の内を彼に見抜かれてしまった。
首を傾げ、かわいらしくも不満そうな表情を作る目の前の少年。
彼の名前はみこと。
鬼の女王、竜胆尊の分身であり、色々あって自我を得るにいたった、ウォッカをたしなむ年齢不詳の美少年である。
あなたと少年の二人は、あなたの部屋に集まっていた。
今日は趣味が料理だと言う彼が、いつも良くしてもらっているお礼にと手料理を振舞いたいと申し出てきたのだ。
その話を聞いたあなたは、一も二もなくその提案を快諾し……結果、この状況である。
さて、頬を膨らませながら顔をどんどん近づけてくる彼に対して、大げさな身振り手振りを加えて問題ない事を伝えるあなた。
しかし、どうやら少年の疑念は晴れないようで、ふくれっ面のまま、あなたの顔をにらみ続ける。かわいい。
「そうですか……でも、僕はそう思いません。」
そう言って、未だ不服そうな顔で……いや、途中から何かいいことを思いついたような顔をしてから、そのまま近づいてくる。
どんどんどんどんどんどん……近い、近すぎる。
そうして、お互いの呼吸が当たってしまう距離まで近づいてやっと、彼の進撃が止まる。
その近さは少年のまつ毛の長さを感じられ、さっきから早鐘を打ってさっぱり静まらないあなたの心臓、その鼓動が彼に聞こえてしまうのではないかという懸念があなたの頭で生まれる程で……その距離で静かに見つめ合う。
もう、あなたの目の前にはみことくんしか映らない。
そうして彼はーー
「ーーふふふ、付いてますよ♪」
そう言ってすっ、とあなたの唇の端を指先ですくうように撫で上げる。
すると彼の指先にはミートソース……あなたの口の端に付いていたのだろうそれ。
それを。
「うん、我ながら中々いい味です……この料理、あなたの為に作ったんですよ?」
と、ぺろりとあなたに見せつけるように自分の指を……あなたの唇に触れたところを口に含む少年。
その艶めかしい所作に、あなたは彼から目を外せなくなる。
「だから、ちゃんと味わってくれないと嫌です……ね?じゃあ改めて……はい、あ~ん。」
そう言って再びあなたの口にミートボールを運び始める少年。
あなたは引き続き、鳥の雛のように口をぱくぱくしながら、口元に運ばれてくる料理を待つ。
そうしてあなたの口に入るミートボール。
相変わらず味は分からないにも関わらず……なんだかさっきよりも甘く感じる気がする、あなたなのだった。