しかし最後はちょっとダークな「シンデレラ」
とある国に「エラ」という娘が居た。とても可愛らしい娘だったが、鋼のメンタルの持ち主で誰にでも言い返し、言い返し方は冷静にかつ嫌味っぽく言うのが得意で、口調は知的な男に近く、おまけに「僕っ娘」だった。
そんなエラは幼い頃に母親を亡くしていた。エラは父親と再婚相手の継母、連れ子の姉二人と暮らしていた。しかし継母達は家事はエラに任せきり、引き換え自分達は優雅な生活を送るというこれ以上ない程の意地悪親子だった。エラは毎日家事や掃除に追われ休む暇もなかったが、仕方なく継母達に従いイライラしながら仕事をこなしていた。
とある日、いつものように押し付けられた暖炉の掃除をしていたエラ。するとそこに姉二人が現れ、こんな会話を始めた。
「ちょっと見てお姉様、エラってばこんな姿になって。まるで頭から灰を被っているみたい!」
「本当ね。そうだわ! 今日からこの子は灰被りのエラで『シンデレラ』って呼びましょう」
「さすがお姉様、天才!」
そんな会話を聞かされたエラは怒りをとにかく掃除にぶつけた。
暖炉の掃除を終えた報告のため、エラは継母の部屋へ向かった。
「|継母様、暖炉の掃除終わりました」
「なら次は窓拭きをしなさい」
「それはさっきー」
「もう一度やるのよ! それくらい理解しなさい!」
仕方なく「はい」とダルそうに返事をし、エラは継母の部屋を後にした。
(はぁ、面倒だな。『もう一度』って馬鹿の一つ覚えみたいに繰り返して。ほんっとつまんない生き方してるよね)
エラは雑巾とバケツを取りに物置に向かう途中、自室の前を通りかかった。すると誰もいないはずの部屋から楽しげな声が聞こえてくる。なんとなくというかもう何が起こっているか確信したエラは自室の扉を開けて言った。
「おい、僕の部屋で何してるんだい?」
部屋の中では姉二人がおり、エラの部屋を好き放題物色してはアクセサリーやドレス等を身につけはしゃいでいた。エラは構わず声をかけた。
「おーい、もしもーし、聞こえてますかー?」
エラの呼び掛けに耳を貸さない姉達だったが、それでもエラは続けて声をかけた。
「おーい! 耳が遠くて聞こえないんですかぁ?」
「うるさいわね! 今忙しいんだから話しかけないで!」
「はははっ、呼んだだけでそんなに怒るのかい? まるで更年期じゃないか」
やっと返事をした次女にエラは軽く笑って言った。
「っ! アンタねぇ」
次女は怒りで体を震わせながら言った。
「やめなさい。シンデレラにムキになることないでしょう? それにしても随分生意気な口をきくのね」
長女は両腕を組んで見下すような視線をエラに向けていた。
「君達みたいなクズ姉に払う敬意なんかないよ。というか、早く出てってくれ、ここ僕の部屋だから」
「別に盗られても構わないけど」と小声で付け加えてエラは言った。
「何言ってるのよ、ここは私達の部屋よ?」
「え?」
姉二人の言葉にエラは間の抜けた返事をしてしまっていた。
「そうよ、変なこと言うのね。あの部屋は私とお姉様には狭すぎるの。それにこんなに素敵なお部屋、アンタには勿体ないわ。私達に使ってもらった方がお部屋も嬉しいに決まってるもの」
次女が言った。この時点でもうイライラしていたエラたったが、いつもと変わらぬ態度で冷静に言った。
「義姉様達にはあの部屋で充分だよ、あれでも吟味して良い部屋選んであげたんだよ? ほら、さっさと出てってくれ」
「黙りなさい! シンデレラ風情が私達に口答えするんじゃないわよ!」
「そうよ! アンタは大人しく暖炉の中で灰でも被ってればいいの!」
すると次女は何処からか中に灰が入った瓶を手に取り、エラに投げつけた。
「くっ・・・・・・」
腕でガードはしたものの、瓶は割れ、中の灰はエラに全て降りかかってしまった。
「あはは! やっぱりアンタには灰が一番似合ってるわ!」
「ちょっと、私達の部屋を散らかるでしょう。高価なものかもしれないんだから、物を安易に投げないで頂戴」
「ごめんなさーい、お姉様」
「これも貴方のせいよシンデレラ、片付けておきなさいよね」
姉二人はそう言って部屋を出ていった。
「はいはい、わかったよ。やればいいんだろ、やれば」
理不尽な仕打ちに更にイラついていたエラは独り言をブツブツ良いながら瓶の破片を片付け、雑巾とバケツを持って窓拭きを始めた。
(父さんが居ればこんなにムカついたり、面倒な仕事任されたりしないのに。何であんなのと再婚するかねぇ。しかも仕事だとか言って僕だけ残して・・・・・・)
そんなことを考えてながら窓を拭いていると遠くから馬車が走ってくるのが見えた。エラは雑巾を床に叩きつけた。
「おいおい、勘弁してくれよ。何でこんな気分最悪なタイミングで帰ってくるんだ」
文句を言いつつも父親を出迎えないわけにはいかず、玄関へ向かった。
「父さん、お帰りなさい」
「ただいま、我が最愛の娘エラ」
父親は久しく会う愛娘を懐かしむように抱き締めた。しかしエラは静かに呆れていた。
(テンプレ通りのセリフ。本心と建前の狭間で言ってるんだろうけど)
エラは本心を本心を押し殺し、本音が溢れ出ないように父親に顔を埋めるふりをして口を塞いだ。
父親が帰ってきたことに気付いて継母達が部屋からバタバタと玄関に向かってくる。彼女達のお目当ては父親が買ってきたお土産だった。
「お帰りなさいお継父様! お土産沢山買ってきて下さった?」
「早く早く! お土産見せて!」
「コラ、はしたないわよ。まずは私から選ばせてもらうわ」
「えー、お母様ずるーい」
父親は買ってきたお土産を順番に出した。テーブルに並べられた宝石、アクセサリー、ドレスに継母達は目を輝かせていた。継母は一つ一つを吟味するようにしげしげと注意深く眺め、一番高価な物を選んで手に取っていた。姉二人は奪い合いをしていたが、最終的には気に入ったものが手に入りご満悦そうな顔で部屋に戻っていった。
エラは結局余り物を押し付けられることになってしまった。
「すまないエラ、でもお前なら気に入ってくれると思ったんだ」
そう言って父親はエラに小さな木箱を手渡した。それは小物入れで、開くと蓋の裏には鏡が付いていた。
「それとこれもだ。本物の宝石じゃないがお前にに似合うと思ってな。お前の目と同じ色を選んだんだ」
父親は青緑のガラス玉の付いた指輪もエラに渡した。
「父さんありがとう。でもこんなので僕の機嫌をとれると思ってるのかい?」
「え?」
エラは小物入れと指輪からパッと手を離した。床に叩きつけられた小物入れからは蓋が取れ、鏡が割れた。指輪のガラス玉は粉々になってしまった。
「エラ!? 何をするんだ! せっかく買ってきてやったんだぞ?」
「僕がこんな目にあってるのに一言も心配してくれないんだね。ドレスも宝石も全部あの人達の目の前に出して、一つでも隠し持って後から渡してくれるかもなんて期待した僕が馬鹿だったよ。まぁクズを気に入るクズがそんな気遣いするなんて、よくよく考えればあり得ないよね」
エラは言いたいことだけ言って家を出て行った。
行く宛もなく、ボロボロの服のまま街を歩いてエラはとある川の橋の下にしゃがみ込んだ。
「はぁ~」
長いため息を吐いたエラだったが、家を飛び出してきたことを後悔することもなければ、戻る気もなく、何よりあんな家に戻るなんて御免だと思っていた。
(川の橋の下って捨て猫みたいだ。地面に座り込む捨て娘・・・・・・家出少女の方が正しいか)
そんなことを考えながらクスクスと一人で笑っているエラの前に突然キラキラとした光と共に魔法使いの女性が現れた。
「こんにちはお嬢さん」
「・・・・・・どちら様?」
「はじめまして、私は魔法使いです」
魔法使いは優雅に頭を下げた。
「それで、僕に何か?」
「どうやらお困りのようでしたので、お声掛けさせて頂きました」
「特にそこまで困ってはいないけど。というか魔法使いって変な宗教勧誘じゃないだろうな・・・・・・」
エラは魔法使いと名乗る女性が怪しい人物にしか見えなかった。しかし魔法使いの女性は言った。
「私は貴方のその簡単には屈しない強い精神力に呼び出されました。そこで微力ながらですがお力添えをできればと、声を掛けた次第です」
エラは半信半疑で言ってみることにした。
「なら魔法使いさん、魔法でこの服を新しい物にして欲しいんだ。靴も穴だらけだし、それと寒いから上着も欲しくて」
「お任せ下さい」
魔法使いはニコリと微笑み杖を振った。するとエラのボロボロだった服はたちまちお洒落で暖かい色のドレスへ変わり、穴だらけの靴はドレスによく似合う落ち着いた色の編み上げブーツに。肩にはエレガントなケープがかけられていた。しかしエラは気に入っていなかった。
「とてもありがたいのだけれど、ドレスみたいな服じゃなくて・・・・・・あ、あの子みたいな」
エラは通りかかった少年を差して言った。
「それはご注文も聞かず失礼致しました」
魔法使いは再び杖を振った。ドレスはたちまち白いシャツと濃紺のベスト、黒のブレザーとお揃いのハーフパンツに変わり、ブーツは白いハイソックスと革靴に変わった。更に髪型もショートカットになり、エラは富裕層の少年を思わせる見た目になっていた。
「やっぱり僕にはドレスなんか性に合わないんだよ、こんな服を一度着てみたかったんだ。ありがとう。それとさっきは疑ってしまってすまなかった」
「気に入って頂けて何よりです。そのように素直に謝ることができる心の美しさも、私を呼び出すきっかけになったのかも知れませんね」
続けて魔法使いは言った。
「お嬢さん、申し上げにくいのですが、もう一度家に帰ってごらんなさい」
「え、何であんな所に」
「お嬢さん、今日だけの辛抱です。明日、貴方は解放されるでしょう」
「・・・・・・今日だけ?」
エラは魔法使いが口にした単語に興味を示した。
「本当に今日だけ我慢すれば解放されるのかい?」
エラが聞くと魔法使いは笑顔で頷いた。その笑顔に妙な説得力を感じたエラは帰ることにした。
「魔法使いさんがそう言うなら、何があるか知らないけど」
エラは帰路を歩き始めた。
「貴方には幸せが待っています」
魔法使いはエラの背中に向かってそう言うと、またキラキラとした光と共に姿を消した。