シンデレラ(強)   作:裂紅

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第3話

継母達は帰ってくるなり、即効で自室に行き、眠ってしまったようだった。エラは起きていたが、何もせずただ屋根裏部屋に籠っていた。すると父親が屋根裏部屋の扉をコンコンとノックしてきた。エラは顔を出した。

「また仕事?」

「そうなんだ、ごめんな。それで提案があるんだ。お前さえ良ければ一緒に来るか? 辛い思いをしなくて済むだろう?」

「……遠慮しておく、継母様達が飢え死にしたら困るし、死体処理なんて面倒な仕事はごめんだから。餌の準備係くらいならやってあげてもいいかな」

「そうか」

エラは「明日、この家に居る必要はなくなる」と言う言葉を信じ、父親の提案を断った。

 

翌朝、エラはいつも通り朝食の準備をしていた。

「あら、今日はちゃんと仕事してるのね」

「昨日のは何の真似だったのかしら」

二人の姉は寝ぼけ眼で言った。そんな姉達にエラは満面の笑みで言った。

「おはようございます義姉様。今日の朝食は腕を振るってシンデレラ特製を作ろうと思って。楽しみにしてて下さい」

「え、何よ、急に」

「ね、義姉様ですって? 気安く呼ぶんじゃないわよ」

姉達はエラの態度に困惑していた。

「お姉様、シンデレラってば何か企んでるのかしら」

「わからないけど、気味が悪いわね」

姉達は小声で話していた。

「あの、何かおっしゃいました?」

エラの声に二人は肩を震わせた。長女が恐る恐る振り返ると、そこには満面の笑みでフライ返しを持つエラの姿があった。

「な、何も言ってないわ。それよりも早く朝食にして。飢え死にしちゃうわ」

「はーい、もう少しですから。せめて生きて待ってて下さいね」

そしてエラが運んだのは目玉焼きの乗ったごく普通のトーストだった。

(いつもと変わらないじゃない。怯えて損したわ)

エラに気味悪さを感じていた姉達は拍子抜けしていた。すると今度は継母が起きてきた。継母にもエラは姉達にしたのと同じように挨拶した。

「おはようございます継母様。すぐ継母様の分もできますからね」

しかし継母は少し動揺したものの、またいつもの高圧的な態度で言った。

「それより紅茶。私の1日は紅茶から始まるっていつになったら覚えるの」

「そうでした、ただいま」

エラは継母に紅茶とトーストを運び、姉達にはスープを運んで言った。

「今日はスープも作ったんです、お腹も温まっていいかなって。良かったらどうぞ」

「たまには気が利くのね、丁度飲みたかったの」

嬉しそうに次女はスープを1口飲んだ。

「え、やだ、何これ、美味しいじゃないの」

そう言った次女を見て、長女もスープ飲んだ。

「本当……美味しい」

長女は今まで味わったことのない美味しさに固まっていた。

「お気に召されたようで何よりです。実は隠し味を入れていて。ちなみに継母様の紅茶も今日は僕特製ブレンドなんです」

エラは胸の前で手を合わせ、ご機嫌な様子で言った。

「確かにこの香り、茶葉だけじゃないわね……ハーブかしら」

「さすがは継母様、正解です」

「ふん、私の舌と鼻を見くびらないで頂戴」

継母は優雅に紅茶を飲み続けた。

「……わかったわ! 何か香辛料でも入れた?」

今度は次女がスープの隠し味を答えた。

「惜しいです」

「私に任せなさい」

今度は長女が答えた。

「鳥かしら? 異国の調味料じゃないの?」

「正解です! 今朝買い出しに行ったらたまたま見つけて、安くてお得だったので買ったんです」

エラは鶏が描かれた調味料の缶を持って、続けて言った。

「実は隠し味は1つじゃないんです。もう1つ、何だと思いますか?」

「お母様の紅茶にも私達のスープにも合うの?」

「そんなの聞いたこともないわね」

「…………」

考え込んだ3人を確認してエラは答えた。

「正解は『灰』です!」

答えを聞いた3人は目を見開いてそれぞれ外へ飛び出した。少し経つとゲッソリしながらも鬼のような形相で戻ってきた。

「ふざけないで! 灰ですって!? なんてもの食べさせるのよ!!」

「灰なんて食べられるわけないじゃない!」

「シンデレラ、貴方ただで済むなんて思ってないでしょうね」

ハンカチで口元を拭いながら言う3人に、エラは平然と言った。

「何が変なんだい? だって義姉様達が言ったんだろう? 『あんたは暖炉の中で灰でも被ってればいい』『灰が一番お似合いよ』って。ずっと暖炉の中で灰を被ってるんだ、食事に入ったって仕方ないだろう?」

3人は顔を真っ赤にして怒鳴ったがそれはもう言葉になっておらず、何を言っているかさっぱりだった。エラは驚くことも怯えることもなく余裕な口調で言った。

「言ったはずだよ、今日の朝食は『シンデレラ特製』って。紅茶も『僕特製ブレンド』だってね。頭のいい3人ならわかると思ってたんだけど、話聞いてなかったのかい? それに少量の灰を口にしたって死にはしないさ……まぁ知らないけど」

言い終えたエラは掃除用具を持って地下室への階段へ向かいながら言った。

「じゃ、これから掃除と洗濯するから。まだ吐くなら外で頼むよ、僕の仕事を増やすのだけは勘弁してくれ」

それだけ言って階段を降りていった。

(あー最高にスッキリした。今頃また僕への仕返しでも考えてるんだろうな。まぁ、魔法使いさんが言うには今日でこんな家とおさらばって話だったし、今までの仕返ししてから出てってやる!)

エラはそんな事を考えながら部屋の細かい部分を掃除してくれているネズミたちを見て言った。

「僕には大勢味方がいる。君達も外で歌っている鳥達も。本当に有能な仲間で心強いよ」

エラが掃除を終えて戻ると3人は自室で大人しくしているらしく家の中は静まり返っていた。特に気にする様子もなく、エラは洗濯物を持って庭に出ると口笛で鳥を呼んだ。

「やぁ、おはよう。悪いけど洗濯物干しを手伝ってくれるかな」

鳥は何羽も仲間を呼んでエラを手伝い始めた。

「やっぱり君達が居ると面倒な仕事も楽しく感じるよ」

エラはネズミや鳥と仕事をしている時が1日の中で一番楽しいと言っても過言ではなかった。この動物はエラが幼い頃から触れ合い、一緒に育ってきた言うなれば変わった兄弟のようなものだった。そのせいか今では会話も出来ている。

エラが洗濯物干しを終えると同時に家の前に馬車が停まった。しかしそれは父親ではなく、お城から大臣を乗せてきたようだった。玄関の扉をノックする大臣にエラは声をかけました。

「あの、何かご用でしたら僕が承ります」

「では、こちらを」

エラは大臣から封筒を受け取り馬車を見送った。中を見ると舞踏会を開くといった内容の手紙と招待状が入っていた。

(舞踏会ねぇ……どうせ結婚相手探す顔面選別会みたいなものだし、興味ないけど。とりあえず継母様に報告っと)

エラは継母の部屋の扉をノックすると明らかに不機嫌な顔を覗かせる継母に封筒を手渡し、屋根裏部屋へ引っ込んだ。中身を確認したとたん今まで曇っていた継母の表情が変わった。そして生き生きとした顔で姉達の部屋へ入って行った。エラは仕事も終え暇をもて余しながら屋根裏のベッドに寝そべっていた。

しばらくすると屋根裏部屋の扉を叩かれ、エラは扉越しに返事をした。

「何の用だい」

「舞踏会に行く準備を手伝いなさい」

「はぁ? 子供じゃないんだ、それくらい自分でしてくれ」

エラはため息混じりに言った。

「貴方も準備しなさい。付き添いとして連れて行ってあげるわ。ま、それ相応の服があればだけれど」

継母はさも当たり前のように言うと去っていった。

「あーーー! もーーーー!!」

エラは枕に顔を埋めて叫び、足をバタバタさせながらベッドの上をのたうち回っていた。ゴロゴロし疲れるとただ天井を眺めていたが「シンデレラは!?」という姉の声が耳障りだと思い、渋々降りていくことにした。

「んもう何してたのよ! 遅れたらどうしてくれるの?」

「何でもいいわ。とにかく私達の靴、綺麗に磨いて」

エラは仕方なく準備を手伝い、すぐに屋根裏へ戻った。日が暮れてくるとガラガラと馬車の音が聞こえ、継母達は明るい声を残して家を後にした。エラはそんなことよりいつどのタイミングで家を出ていくことが出来るのか考えていた。

(今からでも荷造りして出ていくべきかな。それにしてもどこにって話だけど)

魔法使いが言っていたことに疑念を抱き始めると、エラの耳に聞き覚えのある声が聞こえた。

 

 

 

 

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