シンデレラ(強)   作:裂紅

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最終話

「お久しぶりですお嬢さん♪」

エラは驚いてベッドから飛び起きた。声の方へ目を向けると魔法使いの女性が立っていた。

「あの時の!」

「はい、あの時の魔法使いです」

女性はペコリと頭を下げた。エラはハッとして言った。

「あの、本来なら今日この家を出ていけるんですよね。それはいつなんですか?」

「それは今です」

「ならー」

すぐにでも出ていきたいとエラが言おうとすると魔法使いに遮られた。

「ですが、完全に出ていくには正しい手順を踏まなければなりません」

「手順?」

「難しいことではありません、たった1つです。貴方はお城に行かなくてはならないのです」

「え? でも僕はドレスも持っていない……というより着たくもない。そもそも舞踏会に興味もなくて」

エラは困惑し、不安な声で言った。すると魔法使いは明るい声で言った。

「何も参加しなくて良いのです、ただお城に行くだけ。後は導きのままに」

「本当にそれだけで良いのかい? でも……」

「ドレスアップなら私が居ます! あの時の魔法をお忘れですか?」

エラは以前、少年のような服装にしてもらったことを思い出した。

「そうだった、最近はこのボロワンピしか着てなかったから忘れてた。魔法使いさん、今回はー」

「お任せ下さい、貴方の好みに合わせてお城に相応しい服装に変えて差し上げます」

魔法使いの妙に説得力のある自信満々の声をエラは信じ、身を任せることにした。魔法使いは杖を振った。するとエラの服はみるみるうちに立派な燕尾服に変わった。

「どうでしょうか?」

「これが……僕?」

鏡に映った自分の姿は燕尾服を纏った青年にしか見えず、流石のエラも目を丸くしていた。燕尾服に黒い革靴、おまけに手には真っ白な手袋まではめてあった。王子様というより執事に近い服装で鏡の前で半硬直状態のエラに魔法使いは言った。

「では行きましょうか! 幸運を祈っております」

魔法使いはその言葉を残し、エラをお城の庭園に瞬間移動させた。

「この格好は王子様というより、まるで執事じゃないか。でもまぁ、悪くないね」

再度自分の姿を確めたエラはとりあえず庭園をウロウロすることにした。庭園は思ったよりも広く、中央には綺麗な噴水があった。庭園一杯の白薔薇は月明かりを反射してキラキラ輝いているように見えていた。

(それにしても今日は星も綺麗だなぁ。いつも屋根裏から見ていたけど、なんだか今日は一段と綺麗に見える気がする)

エラが星を眺めていると足音が聞こえてきた。音の方を見ると足音の主は王子様だった。王子様はどうやら落ち込んでいるらしく、噴水近くのベンチに腰を降ろすとため息を吐いていた。

「はぁ、どの女性もダメだ……。でも選ばないとまた父上がうるさい……」

「あの」

エラの声に王子様は声に気付くと立ち上がり、先程までの落ち込んだ顔を隠すように凛々しい表情で言った。

「どうされました?」

「えっと」

「もしかして迷われてしまいましたか? 良ければ大広間までご案内致しますよ」

丁寧な対応をエラは断り言った。

「いえ、大丈夫です。ただ落ち込まれていたのでどうされたのかと……」

「ああ、バレていたのですね。執事の方に見られてしまうなんて、お恥ずかしい」

王子様は苦笑いをして再びベンチに腰を降ろした。エラはちゃっかり隣に座り、話を聞くことにした。

「僕でよろしければ話して頂けませんか?」

「……では、お言葉に甘えて」

王子様は実は遠い国の遠征から帰国したばかりだった。しかし彼の父親である国王は「息子がいつまで経っても結婚しないのが心配だ」と言い出し、王子の帰国パーティーと称して舞踏会を開き、国の娘の中から花嫁を選ばせることにしていた。何も知らずに帰ってきた王子様は突然舞踏会に参加させられ更には花嫁を選べと言われ驚いたが、王子として舞踏会に出ないわけにはいかず渋々挨拶を済ませ、抜け出してきたとのことだった。

「ですが、失礼ながらあまり惹かれる女性は居なくて……だからといって選ばなければまた父上にうるさく言われると思うと気が重くて……」

「その、こんな立場の僕が王子様に言うのは恐れ多いのですが、無理に選ぶ必要は無いのではないでしょうか?」

「え?」

王子様はキョトンとした顔をエラに向けた。

「そんな中から無理矢理選んでも真実の愛は手に入らないと思います。それに本当に愛した人でなければ幸せはおろか、支え合っていく事も叶わないのではないでしょうか?」

この発言にはエラ自身も驚いていた。何故なら普段の自分ならここまで優しい言葉をかけることは不可能だからだ。

(魔法で少し性格も変えられてたりして。だとしたら勝手すぎだろう、魔法使いさん?)

王子様は少し考えて言った。

「……確かにそうだ、愛も大切だ。父上に相談してみます、ありがとうございました」

「お力になれたなら何よりです」

「それにしても貴方を雇った方は見る目がありますね。こんなにも的確で大切なことに気付かせてくれる執事だなんて」

「え? えっと、僕は執事ではありませんよ?」

「え?」

王子様はエラを誰かの執事だと勘違いしていたようだった。

「ああ、これは失礼しました! てっきりどなたかの執事かと」

「いいえ、僕こそ申し訳ありません。こんな格好ですから間違えても仕方ありません。……ところで戻らなくてよろしいのですか?」

「あ、そうでした。一緒に戻りませんか? ここから大広間に戻る道は迷う人が多いので案内します」

「ありがとうございます」

王子様とエラが二人で大広間に戻ると女性達がヒソヒソし始めた。

「王子様の隣の方は執事さん? 随分若いわね」

「美少年で素敵じゃない? まるで女の子みたいだわ」

「やだ~、王子様も素敵だけど執事さんとも踊って欲しくなっちゃう」

どうやらエラのことを話しているようだった。エラは自分に視線が集まっていることに気付いていたがずっと王子様の隣に居り、端から見れば完全に専属執事に見えていた。王子様が戻ってきたことで舞踏会の再開すると、エラの元に何人が女性が集まり踊って欲しいと言ってきた。エラはワルツなど踊ったことがなかったが見よう見まねでステップを踏み、なんとか乗りきっていた。そろそろ舞踏会もお開きの時間が近づき、女性達がパラパラと帰り始めた頃、国王様が王子様に話しかけた。

「どうだ? 花嫁は決まったか?」

「父上、それがどの女性も惹かれず」

「お前はまたー」

「ですが、大切なことに気付いたのです。私が本当に愛せる人を見つけるまで待っていただけませんか? 本当に愛し合っていなければ支え合ってゆく事も叶わないと気付いたのです。ですので、どうかもう少し時間を下さい」

「ふむ…………確かにそうだな。私は焦り過ぎていたのかも知れん。良いだろう、お前に良い縁が巡ってくることを願っておるぞ」

王子様は父親に納得してもらえたことに安堵していた。改めてお礼を言おうとエラの姿を探し、大広間の出口へ向かう彼女を呼び止めた。

「あの! そこの方!」

「王子様? 何でしょうか?」

「改めてお礼を言いたくて。父にも納得して頂けました。今日は本当にありがとうございました」

「いいえ、そんな。僕はただ正しいと思ったことを言っただけです」

「それで、お名前を教えて頂けませんか?」

「僕ですか? エラと申します」

エラが名乗ると背後から怒鳴り声が聞こえた。

「ちょっとそこのアンタ! 聞こえたわよ! 今エラって言ったわね!?」

それは長女だった。続いて次女と継母も姿を現した。

「執事のふりをして王子様に近づいたの? 性別を偽るなんてそいつは魔女なんだわ!」

「今朝のことでは飽きたらず、私の娘を差し置いて……顔だけ良くてなんて卑怯な女なのかしら」

義姉の姿を見た瞬間、魔法が解けたようにエラの中に怒りが湧き、いつも通り冷静な口調で反論することにした。

「僕は正真正銘のエラさ、それがどうしたって言うんだ。それに執事のふりは意図したわけじゃなくて、お城に来れる服がこれしかなかっただけ。それに魔女っていつの時代の話だい? というか、一昨日も男装してたの覚えてないのか? 僕は女性らしい服よりこっちの方が好きなだけなんだよ。それに卑怯だって? お前達みたいな救いようのないクズに言われたくないね」

エラは3人の暴言に全て言い返した。しかしこの状況に一番困惑しているのは王子様だった。

「どういうこと、ですか? 性別を偽った……? まさか」

「王子様、そいつは女です! それに家ではいつも灰を被っているようなみずぼらしい女なんです!」

「それに今日なんか食事に灰を入れたんですよ!」

姉達は間髪入れずに家でのエラの姿を暴露した。

「それは本当ですか?」

「ああ。義姉様達が言っていることは全部本当さ。どうだい王子様、僕の本性はこんなもんさ。本当はあんな言葉を吐けるほど優しくはないんだよ」

鋼のメンタルを持つエラでもこればかりは諦めるしかないと思っていた。少しでも王子様と結ばれ、2度と家に戻ることのない夢を見た自分を殴ってやりたいとさえ思っていた。しかし王子様はエラにひざまづいて言った。

「私は貴方の本性がどうであろうと、貴方が卑怯者だと魔女だと言われても私は貴方の心の奥底にある優しさを知っています。あの言葉は演技で口に出来るようなものではないはずです。貴方は本当に大切なことを私に教えてくれた。貴方のおかげで気付けたのです」

王子様はエラの瞳を真っ直ぐ見つめて言った。

「もう私は貴方以外など考えられません。たとえ先程までの貴方が偽りであったとしても、貴方と共に支え合って行けるのならどんな結末も受け入れる覚悟です。私と結婚して下さいませんか?」

継母達は発狂してエラに襲い掛かろうとしたが、待機していた衛兵に取り押さえられ城の外に追い出された。エラは3人を見送り王子様に言った。

「こんな僕でもよろしければ」

エラの返事をもらった王子様は大臣に報告を頼んだ。国王様は大喜びで、すぐにでも式を挙げたいと言い、張り切って準備を始めようとするのを止め、式は明日にしようとなった。

翌日、エラと王子様の結婚式が挙げられた。ドレスを着たくないエラが白いタキシードで式に臨んだせいで、「昨日の執事が王子と結婚した」とちょっとした騒ぎになった。

そうして式は無事に終わるかと思いきやエラは参列者の中に継母達の姿を見つけた。継母達はエラが相当気に入らないらしく、豚の血を溜めた桶を隠し持っていた。エラは人々の歓声に紛れて口笛で鳥を呼んだ。エラの元には王子様との結婚を祝福するように白い鳩がやって来たが、その後ろでは他の鳥達が継母達の目をつついて潰していた。

(まぁ自業自得だよ。王子様、本当に僕と結婚して後悔しない覚悟はあるのかな?)

エラは目を潰された継母達の姿を見ながらそんなことを考えていた。

 

END

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