それは、燈が呪術高専からの報酬を受け取るようになったころのこと。
もともと燈の存在は、僕や傑、硝子との繋がりからある程度呪術界に認知されていたが、この報酬によって一般人に過ぎない燈と呪術高専に直接的な繋がりができる。そこには大きな意味があった。
「その意味はわかるな」
わざわざ僕たち三人を呼びつけて、そう言った夜蛾学長。呪力をもたない一般人がこの世界と繋がりをもつ意味。その、危険性。それを、わかっているのかと。
高専を卒業した今でも恩師面をしたがるこの人は、相変わらず重々しくて回りくどい言い方を好む。もはやそれに慣れ切っている僕たちは、気の抜けた返事で声をそろえた。
「……本当にわかっているのか?」
「というか、彼に報酬を受け取らせたのは私たちではなく七海なんですけどね」
「七海ならそう勧めるとわかっていて会わせたんだろう、傑」
即座に言い返されても、何のことだかと言わんばかりに傑は笑顔を返した。それを見て、く、と喉で笑う。実際、その通りだろう。もともと燈にはちゃんと報酬を受け取るようにずっと言い続け、画策してきた。さすがの燈も、そこに含まれる意味までは気づかなかったようだけど。
「……彼は確かに呪術界にとって有用な存在になるだろう。すでにいくつもの呪物や呪霊を発見した功績もある。だが、その功績が彼にとって良いものであるとは限らない」
すでに彼に目をつけている呪術師もいると聞く、と低い声が響いた。へえ、と初めて知ったように僕も笑ってみせる。
「それは知らなかったな~! ちなみにどこのどいつです? ちょっとお話にいかないと」
「悟、」
「おや、愉しそうだね、悟。是非私も同行したいな」
「傑!」
「
「硝子、お前もか……」
がっくりと肩を落とした学長に、三人揃って同じ顔で笑った。残念なことに、とっくにその選択肢は消えていた。
「心配しなくても、叶木燈のことは責任もって守りますよ。そもそも危機察知能力は高いし、危ない橋は絶対に渡らないタイプなので、そう苦労はしないと思います」
「石橋目の前にしたら『俺この橋渡りたくねーからそっちから来て!』って平気で言うやつだよねアイツ」
「そのくせ相手が石橋渡ってる途中に何かあったら『いや俺渡んなくてよかったわ~』って普通に笑うタイプのクズだな」
硝子の言葉に、傑とふたりで「言えてる~」と声を揃えて笑った。そう、燈はそういうやつだ。弱いことを逆手にとって、何か上手いこと世の中を渡っていくやつ。ほっておいてもそう簡単に死ぬタイプではないうえに、僕たちという最強のカードまで持ってしまっている。そんな燈に
「そもそもこっちの世界に飛び込んできたのは向こうのほうですよ。こっちは別に情報提供してくれなんて頼んだことないし」
引き返すチャンスはいくらでもあったのに、それでも
だから仕方なく、本当に仕方なく、近くにおいて守ってやろうというのだ。いや~燈クンは優しい僕たちに心からの感謝をするべきだよね。護衛のメンツ豪華すぎでしょ何様?
「……ずいぶん仲良くしているようだな」
「うげ、やめてくださいよ学長、その言い方」
「はは、腐りきって切れなくなった腐れ縁ですよ」
「アンタが言うと別の意味に聞こえるね、夏油」
「? どういう意味だい?」
わかんないならいい、とニヒルに笑う硝子に、不思議そうな顔をする傑。どちらの顔にも迷いはなくて、当然ながら燈に対する罪悪感なんて欠片もない。もちろん僕にもそんな感情は一切なかった。
友人なら危ない世界に巻き込む前に縁を切るべき? 残念、そんなまともな思考回路なんて端から持ち合わせてはいない。
「ま、学長もその誰かさんに言っといてください。叶木燈に手ェ出したら僕たちが黙ってないってね」
ハイお話終わり~と大きく伸びをすると、悟、とまた名前を呼ばれる。構わず、学長に背を向けた。傑と硝子も、僕に続く。
「自分らのもんくらい、ちゃんと守りますって」
ほら僕たち最強だから、とそれだけ言い残して部屋を出る。背後の大きなため息には聞こえなかったふりをした。