夏油の友だちのパンピーの話。   作:ふみどり

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げとさんはぴば。


最後の夜を積み重ねる

 では、と俺はビールジョッキを高く掲げる。

 

「また一年うじうじと結論を出さないまま歳を重ねた傑くんの誕生日を祝いましてェ」

「こらこらこら」

 

 かんぱ~い、とやる気なく続ければ、同じくやる気なく乾杯、とジョッキをぶつけてくれた硝子ちゃん。傑もしぶしぶと言わんばかりにジョッキをぶつけはしたが、その頬は見事に引きつっている。

 

「はい傑誕生日オメデト~。プレゼントは今日の飲み代な」

「オメデト。次に怪我してきたときは何時に叩き起こされても文句言わずに治してやるよ」

「何でそう素直にありがとうと言わせてくれないのかな君たちは」

 

 自業自得じゃんという声が綺麗に揃い、言い返せない傑はきゅっと口を噤む。

 二月三日、夏油傑という人間がこの世に生を受けた日。幼馴染みとして祝う気持ちがないわけでもないのだが、せっかく今日は悟が任務でいないのだから少しくらい苛めてやってもバチは当たるまい。

 

「で、俺はそろそろ終活にも飽きてきたわけですがどう思いますか硝子ちゃん」

「十年以上終活やってるだけ偉いと思うね、私は。遺言何回書き直したんだ?」

「それね~。最初の数年くらいは内容変わるたびに書き直してたんだけど、もう面倒になって一言で済ませるようにしちゃった。『俺の血縁には一円も渡すな』こんだけ」

「恨み深いじゃん。呪いにすんなよ」

「うーん、恨みより無関心に近いから大丈夫だと思ってんだけどどうなんかなぁ」

 

 とりあえず早くケリつけてほしいんだよねえ、だよなあ、と二人して目を向けた先では、傑が視線から逃れるようにビールジョッキを空にしている。おかわりお願いしますとか言ってんじゃねーんだわこの優柔不断野郎。

 ノリのいい硝子ちゃんはにやにやと笑いながら枝豆に手を伸ばす。

 

「生命握られてる側がこんなに開きなおってんのに、肝心の生命握ってる側がこれじゃねえ。お前も気の毒だな叶木、宙ぶらりんのまま十年以上」

「まあ傑だし時間掛かるだろうとは思ってたんだけどさ、ここまでだとは思ってなかったよね。これマジで俺の寿命がくるほうが早い説あるな」

「仮にも特級呪術師に生命狙われてるやつが天寿全うとかウケる」

 

 ウケないよ、とここでようやく傑が口を挟んだ。その顔には決まりの悪そうな表情が乗っている。日頃はうさんくさい笑顔を外さないやつであるだけに、たまにこういう顔をさせるのはひどく愉快だった。

 あのね、と続ける傑は、まだ俺の顔を見ようとしない。

 

「取り返しのつかないことだから簡単に決めないようにしてるんだよ。そもそも燈、お前がちゃんと考えろって言ったんだろ」

「人間いつ死ぬかわかんねーからその前に決めろとも言ったけどな、俺は」

「……」

「はい叶木の勝ち。私日本酒頼むけど、叶木は?」

「あ、俺も。熱燗がいいな」

 

 何で誕生日にこんな話をされてるんだ、と愚痴をこぼす傑に笑いながら、ドリンクのメニューを覗き込む。酒を適当に選び、ついでにつまみもいくらか注文した。

 傑も何か食うかと尋ねれば、任せるから適当に頼んでくれと拗ねた声が返ってくる。まあ傑の食の好みくらいはとっくに把握しているから構わないのだけど。

 

「はっは、まあそう拗ねんなよ。たまにこうして意思確認して、傑次第では今日死ぬかもしんねーんだぞってわかっとかねーとさ。それでこそ一日一日大事に生きられるってもんじゃん?」

「そんな殊勝なこと塵ほども考えてないくせによく言うね。悟いないしたまには苛めておくかくらいにしか思ってないだろ」

「どう思うよ硝子ちゃん、この俺への信頼のなさ」

「いや普通に夏油に同感だけど」

 

 ひどいッと泣き真似をしたそばで傑と硝子ちゃんがグラスを合わせた。そうだった硝子ちゃんは面白いことの味方だった、これは仕方がない。

 運ばれてきた酒やつまみを囲み、まあいいけどさと箸を取る。

 

「ちなみに来年の今日もこの状態だったら同じ話してやっからな」

「……いや、さすがに、……というかもうこの話やめないか」

「そうだな二人とも、あのクズ飲めもしねーのに来るらしいぞ」

 

 え、と傑と声を合わせれば、目の前に出されたのはスマホの画面。任務へ赴いていたはずのもうひとりの悪友はこの飲み会に出られないことをひどく悔しがっていた。遠方の任務であるだけに、いくら「最強」でも今夜戻ってくるのは無理だろうと言っていたのだが、まさか。

 

『秒で行くから待っててね♡』

 

 あ、これは来る。ちらりと向かいのそいつに視線を向ければ、どこかつかれた笑顔の傑がこくりと頷いた。

 

「何だよ秒で行くって。あと何秒?」

「悟だからね。たぶんあと六秒くらいかな」

「妙にリアルじゃん。じゃああと、二、一、」

 

 ガラ、と店の戸が勢いよく開かれた。あまりのタイミングの良さに大笑いしている俺たちのテーブルに、もうひとり悪友が加わる。飲めもしないのに来たのかとからかわれても、別にいーでしょと気にした様子もなくソフトドリンクを頼むもうひとりの「最強」。

 四人揃って飲んで、笑って、今日も夜が更けていく。

 来年また祝えるかわからない悪友の誕生日を、心から祝いながら。

 

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