高専に乗り込んで百鬼夜行の宣戦布告をしたとき、五条先生が燈の名前を出し、夏油さんが「誰?それ」と返したワンシーンがあったと思います(幻覚)
わかっている。──ずっとわかっていた。
私は確かにその名を知っている。
「……叶木、燈だよ。お前の幼馴染みだろ」
本当に忘れちまったの、と親友の口が紡いだ、
く、と肩が揺れる。血を流しすぎた身体はもはや力も入らないというのに、まだ笑うことくらいはできるらしい。
「……忘れたよ」
顔も、声も、あいつと過ごした思い出も。存在していた事実は覚えていても、存在していたということしか覚えていない。
それが何故かと言われれば、──何故だったか。
『傑、』
ふと、脳裏に響いた声。その言葉を紡いだ口元から、じわじわと視界が開けるように彼の顔が思い起こされる。恐怖で眉間を痙攣させ、みっともなく涙に濡れた頬を動かし無理矢理に笑みらしい表情をつくり、それでも眼だけは力強かった。
己にもたらされる「意味と意義のある死」を受け入れるから、と彼は言った。
『後悔すんなよ。絶対に』
俺を呪いにしないでくれ、と。
私は
後悔などするわけがない。してはならない。──だから。
「……思い出すわけには、いかないんだ」
馬鹿みたいだろ、と呟いた言葉は声になっていただろうか。
悟の口元に力が入ったのが見えた。マジでお前らって、とかすかに落とされた言葉に、うるさいな、と内心だけで返す。
「傑、」
『傑、』
親友と、記憶の中の彼の声が重なって聞こえる。
「 」
『 』
は、とまた息が漏れる。
少しも似ているところのない彼らなのに、何故ふたりの声が重なってしまうのか。悟は悟で、彼は彼だ。重ねているつもりなんて微塵もない。
どうしてなのだろう、悟の隣に がいるような気がしてしまうのは。
「……はっ」
大丈夫、私は少しも後悔していない。
お前との約束は、ちゃんと果たしてみせたから。
「最期くらい呪いの言葉を吐けよ」
今になって、あのときの彼の気持ちが少しだけわかってしまった気がした。自分の終わりを親友に任せられるというのは、──確かに幸せなことなのかもしれない。
意識が消える一瞬にも満たない刹那に、そう思った。
覚えていたら、思い出したら、後悔してしまうから。