呪霊操術がほしい羂ちゃんがお土産抱えて夏油さんに会いに来ました。
ちなみにこの羂索は作者の別の短編の主人公の身体を使っている想定で書いていますが、そちらを読んでいなくてもたぶん大丈夫です。
それを聞いて、まったく揺れなかったとは言わない。
憤懣やるかたないが、事実は事実として認めよう。確かにその言葉は、一瞬にも満たない刹那も刹那、私の思考を止めるだけの力をもっていた。
『
眼前に立つのは見知っているのに知らない「誰か」。その
その額に大きな傷痕をきざみ、
『貴方は誰ですか』
そう尋ねてもソレは笑みを深めるのみで名乗ろうとはしなかった。ただ、自分の用件のみを一方的に語り始めた。
曰く、呪術の研究のために
曰く、自分ならば呪術師が消費され続けている現状を変える手伝いができると。
曰く、呪術師を虐げる「非呪術師」への「処理」についても協力を惜しまないと。
彼の顔を借りて語られる内容は、決して彼が口にするはずのないことばかり。やれやれと困ったように首を振る姿はかつての彼の仕草に重なるのに、その口が「五条悟ではダメなのです。貴方でなくては」と語る不気味さ。
彼の姿をしていなくても絶対に頷かないだろう内容に、ただただ苛立ちが募った。まるで心の内を見透かされたような、
その姿や話の内容からしてどう考えても呪詛師だし身元の確認はまあいいか、と手のひらに呪力の渦を巻かせた、そのとき。
ソレの口が吐いたのが、「己に協力するならば、叶木燈を呪術師にしてもいい」という言葉だった。目を瞠った私に、ソレの眦がますます下がる。
「方法は申し上げられませんが、理論的に可能です。生物的に、叶木燈を呪術師にしてさしあげましょう。もちろん肉体的に何の問題もなく、人格等の精神にも影響しません。今のままの彼に、呪力を知覚し、扱う術を与えることができる」
貴方の長年の悩みは、苦しみは、葛藤は、これで解決するでしょう、と。
縛りにするというからには、これは嘘ではないのだろう。呪霊に追いかけ回されてもみることすらできないほど才能のない
悩まなくていい。苦しまなくていい。もう、答えの出ない袋小路を走り、眠れない夜を過ごす必要もない。
「──は、」
それは、どんなに。どれほどまでに。
感情が込み上げる。
「
考えるより先に地面を蹴り、黒い火花とともに拳に強烈な手応えを得る。
吹き飛んだソレは背後の壁に激突し、轟音とともに土煙が広がった。
「……燈を呪術師にする? 私の悩みを解決するだと? 随分と上から語ってくれるじゃないか」
いつ、誰が、そんなことを望んだ。
土煙が晴れていく。少しずつ輪郭が見えてきたソレは、確かにダメージを得ているようだった。頬が張れ、口元から血が零れている。つまりソレはちゃんと「彼」のカタチをした身体をもっている。幻覚の類いでないことがむしろ残念だった。
本当にその身体が「彼」のものなら、私はこれから死者の肉体を存分に痛めつけることになってしまう。しかしどう考えてもあのひとなら「存分にタコ殴りになさい。跡形も残さなくてよろしい」とか平気な顔で宣うに決まっているので、まあ遠慮をする気はない。
口元の血をぬぐってゆらりと立ち上がるソレの出方を窺う。はらわたが煮えくりかえるような怒りはあれど、衝動に身を任せるつもりも油断するつもりもなかった。
こいつは、絶対に逃がさない。
「叶木燈は非術師だ。それは今までもこれからも変わらないし、変わらなくていい」
かつて燈を殺そうとしたとき、呪霊なんて見えなくていいと思ったことに偽りはない。
燈に力なんてなくていい。呪霊なんて見えなくていい。殴るどころか一発叩いただけで首の骨が折れそうな程度で十分。
ところで、と私はにこやかに両手をひらく。
「私はその
言葉の節々から悟への嫌悪だか敵意だかわからないものは感じられた。悟ならばコレの正体もわかるかもしれない。少なくともコレは、絶対に五条悟とは接触したくないはずだ。
何にせよ、彼の姿をしている存在を野放しにはできない。
体内を呪力が巡る。怒りのせいかかえって調子が良かった。数千を
少し姿勢を崩して立つソレは、くく、と頬を張らしたまま肩を揺らした。
「……何だ、存外つまらない術師だな、夏油傑」
お褒めにあずかり至極光栄、と呟くと同時に、百を超える呪霊が疾る。
真人と出会って欲しそうなご感想をよく頂くので、じゃあ羂ちゃんもそう考えるかなと思って。(ご感想いつもありがとうございます! いろんな解釈を拝見できて楽しいです)
羂ちゃんは拙作「最強よ、傲慢であれ」の静寂さんの身体を使っています。なので五条さんが見たらブチ切れ案件。あの話に先があるならこうなると思っています。
最近試験勉強から目を逸らしたいあまり、青春ラストの作者解釈をちょっと書きたくなってきました。