夏油の友だちのパンピーの話。   作:ふみどり

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続き物ではないのですが、私のなかでは繋がってるものなので繋げました。


それぞれの

 そりゃあ雑魚だよ雑魚、としれっと五条先生は言う。

 

「まーパンピーなんだから当たり前なんだけど。弱っちくて小っさくてひょろっこくて、僕たちが見ててあげないとすぐ死ぬんじゃない? 悠仁でも普通に殺せちゃうよ」

 

 だけどね、と先生は少し黙って、それからちょっとだけ口角を上げて、愉しげに言う。

 

「ずいぶん昔に気づいたことなんだけどね。どうもアイツ、僕の六眼ですら見えないものが見えてるみたいなんだよ。何それって思うっしょ? 僕もいまだに思ってる。でも、それがちょっと面白くてさ」

 

 叶木さんて呪力ないよね、と思わず聞き返せば、呪術に関係ないものの話だよ、と先生はまた笑う。僕には見えないからわかんないけど、とらしくもないことを言う先生に、少し驚いた。何でもできる「最強」に、あの人はこんなセリフを言わせるのか。

 それが新鮮で、つい俺は言ってしまった。いつか、同じものが見えるようになったらいいね、と。すると先生はうーん、と首を傾げて、別にいいんじゃない、と軽く言う。

 

「燈に見えてるなら、僕に見えなくても」

 

 必要なときは燈とっ捕まえてくればいいし、と先生は続ける。

 

「それでいいって言ったのも、燈だからね」

 

 

 ***

 

 

 最初は、修学旅行先で買ったという匂い袋だった。

 

「硝子ちゃん甘いもんあんま好きじゃねーじゃん? 趣味外してたらごめんな」

 

 そんなことを言いながら、差し出されたそれ。ただの土産だと思ったから、そのときは何も気にすることなく受け取った。煙草にも溶け込む淡い香りは、嫌いではなかった。

 それから、バイト先でもらったが趣味じゃなかったという、ちょっといいボールペン。

 それから、間違えて買ってしまったという少し明るい色の髪ゴム。

 それから、おふざけついでの可愛いんだか不細工なんだかわからないマスコット。

 少しずつ増えていった、叶木からの小さなプレゼント。知らず知らず日常に溶け込んで、意識していなければいつのまにかなくしてしまいそうな、どうやって手に入れたかも忘れてしまいそうな、ささやかなもの。なくしてもいい、と思っているのだろう。捨てても構わない、と。

 だけど、私はこれを叶木の「わがまま」として受け取った。

 

『忘れたくなるまででいいから、ちょっとだけ俺のこと覚えてて』

 

 いつ殺されるかもわからない叶木の、小さな、小さな願い。気づかないならそれで構わない、むしろ気づかないくらいのほうがいいとか思っていそうな。まさにそれは、「呪い」だった。

 淡い水色のマグカップに、私はそっと口をつける。

 

「……アイツ、私なら割り切れるとか思ってんだろうな」

 

 そんなところがクズなのだと、あの馬鹿はいつになったら気づくのだろう。

 

 

 ***

 

 

 もし、俺にも呪力とかいうもんがあったら。

 アイツがふとした瞬間に、何もない場所を見て顔をしかめる理由がわかったのかな、とか。ときどき小さく溜息をつくアイツの気持ちの、ほんの欠片くらいはわかったのかな、とか。

 そんな不毛な思考は、とっくに捨てたつもりでいたけれど。

 

「……よかったじゃん」

 同じものを、同じように見ることができる仲間。秘密にしていたことを、もう秘密にする必要のない生活。それを得られたことをよかったと、安堵したこの気持ちに偽りはない。だって俺じゃ、どうしたってわかってやれないんだから。傑のことを想うなら、絶対にそっちのがいい。

 だから、それでいいと、本当に思った。思ってたのに、この馬鹿。

 

「や。久しぶりだね、燈」

 

何で俺のこと忘れねえんだよ、コイツ。

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