夏油の友だちのパンピーの話。   作:ふみどり

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ふたりは飲み友。


ナナミンと

「あれ、七海くん久しぶり〜。仕事帰り?」

「お久しぶりです。ええ、貴方こそ珍しいですね、おひとりですか」

 

 珍しく一応先輩にあたる人々の友人と顔を合わせた。いや、顔を合わせること自体は珍しくない。ただ、呪術高専にこの人がひとりでいるところを、私は初めて見た。

 俺だっていつもアイツらと一緒な訳じゃないよ、と叶木さんはあくまでも軽く笑うが、その目の奥にはわずかに安堵が見える。

 呪術高専ここは一般人であるこの人にとっては必ずしも安全な場所ではなく、あの三人なら叶木さんを高専で一人にすることは決してない。それなのに、この人が一人で高専の廊下を歩いている、理由。

 用事は終わったのですか、と尋ねれば、叶木さんは帰るところだよ、とさらりと言った。

 

「そうですか。ところで最近、良いお店は見つけましたか」

「あ、そうそう七海くんが好きそうな店見つけたんだよ。パン好きだったよね」

 

 最近できた店なんだけど、と叶木さんは話し出した。外に向けて足を進めれば、叶木さんもつられて歩き出す。

 とりあえず叶木さんに残穢がないことを確認し、そのまま外まで誘導した。付近にも、妙な気配は感じられない。

 張り巡らされた結界を通り抜け、高専の敷地外に出る。そこでようやく叶木さんは話すのをやめ、小さく息をついた。

 

「……気を遣わせて悪いね、七海くん」

「帰るついでなので構いませんが、本当に何故今日はひとりだったんです?」

「まあ騙し討ちみたいなもん。急な呼び出しだったんだけど、迎えが伊地知くんじゃなかった時点で確認すべきだったよ。反省する」

「ちなみに相手と用件を伺っても?」

 

 叶木さんの口から出たのは、呪術界でもそこそこの重鎮。といっても五条さんに喧嘩を売る度胸がある人間とは思えなかったが、そういえば最近資金繰りに困っているという噂を聞いたような。

 

「……優先的にめぼしい情報を流すように、とでも言われましたか」

「だいたいそんな感じ。適当に流したけど、いやマジで面倒だった。報酬として呪術界での地位だの家柄だの嫁だのくれてやるって、俺を何だと思ってんだか。いらねーよ」

「殺されなかっただけマシでしょう」

「全くその通り。お陰様で生き残ったよ、ありがと七海くん」

 

 いえ、とサングラスを上げれば、先程までとは違い、いつも通りの笑顔を浮かべる叶木さん。

 

「礼代わりに夕飯でもどう? さっき言ったパン屋以外にもいろいろ新規開拓したんだよ。フレンチから中華まで、お手頃値段の美味い店見つけてあるよ〜」

「では中華で」

「おっけー行こう」

 

 ところであの二人は呼ばないでくださいよ、と念の為付け加えれば、アイツら本当に慕われてねえな、と叶木さんは軽く笑う。

 

「まあ俺もあの二人の後輩とか絶対なりたくないもんね。よく堪えてるよ七海くん、いやマジで」

「ちなみに貴方もわりと同じ穴の狢ですが、自覚はありますか」

「嘘だろやめて泣くぞ」

 

 そんなどうでもいい軽口を叩きながら、薄暗くなってきた道を歩く。

 この人もこの人で人間性に相当の難はあるのだが、私には無害なのであまり気にしないことにしていた。少なくともこの人は、あの人たちと違ってきちんと会話が成り立つ。我ながらハードルが低すぎると思うが、何せ普段相手にしている人間が人間なので仕方がない。

 叶木さんとの会話は、ストレスが少なかった。

 

「それにしてもちょっと不思議だったんだけど、悟はともかく傑も嫌なの? アイツ一応後輩には優しくしてるもんだと思ってたんだけど」

「嫌というと語弊はありますが、あの人はあの人で自分に都合の悪いことは聞いてない振りをするでしょう。無性に腹が立つことがあります」

「あっははわかる〜! よしよし、じゃあ今日もそんな先輩たちの恥ずかしい話でもしようか。ちょっとは溜飲が下がるかもよ」

「喜んで伺いますが、よくそれで殺されずに済んでいますね」

 

 やっぱ俺の人徳じゃない、と真顔で言った叶木さんに、酒を飲む前から酔っているんですか、と同じく真顔で返す。

 ひっでぇとけらけら笑った叶木さんに、私もネクタイを少し緩めた。

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