カオ転三次 転生者がガイア連合山梨支部を作る話 作:カオス転生三次っていいよね
ぱちゃぱちゃと音を立てて湯を弄ぶ。
神奈川で現在危機的状態にある異界を掃討した後、地元の霊能組織から心づくしとしてせめてと秘湯へ案内されたのだ。
こういう時は相手の顔を立ててある程度は受け取っておくべきだと言われていたので久々にしっかりと休ませてもらっている、汚れ落としでさっと浴びることは多いが湯船につかってのんびりするのは久々だ。
ちらりと視線を投げるも、映るのは湯気と庭ばかり。
かつてと比べて、少し寂しくなった。
昔、小異界を潰しまわってた頃、お姉さんが疲れをじっくり抜くためにはたまにはこういうのも要るのよって、霊薬をたっぷり混ぜたお風呂を作ってくれたことがあった。
術で回復効果上げるの手間だから二人一緒に入っちゃいなさいよ!なんて言われて。
日埜神社のお風呂はちょっと大きめだけれど、それでも二人だと狭くてちょっとふざけながら押しあったりして…何二人だけで楽しそうにしてんのよってお姉さんもお風呂の窓からのぞいてきたりしてみんなで騒ぎながら楽しんでた頃。
霊地としての質も、稼ぐために問題ない所で観光地しながら磨き上げた諸々の設備とかも、こっちの方がはるかに上なんだろうなって思う。
けれど、僕は日埜神社の、古びた普通の家にあるようなお風呂の方が好きだった。
「うん、だめだめ、しっかりしなきゃ」
ぱしゃりと顔をお湯で洗って寂しい気持ちを払ってシャキッとさせる。
これが僕らの頑張ってきた結果で、いろんな人の人生を変えてきた結果なのだ。
胸を張っておかなきゃ背中についてきてくれた人に、僕らに賭けるって決めてくれた人に、僕らが切り捨ててきた悪魔に、余りに失礼だ。
むにむにと頬を弄って笑顔の作り方を思い出す、お風呂あがったらしっかりお礼言って、これからのこととかきっちり話し合わなきゃ。
「ガイア連合への参加と、技術交流に関する話は専門の人に任せるとして、源氏に関する事は大体僕に任せられることになりそうかな。
鶴岡八幡宮とか箱根神社とか由比若宮とか幕府跡とか…しばらくずっとこっちに居ることになりそうだなぁ、武士達の魂も随分荒ぶってたし。
今の民に災いを齎すわけにもいかんって今まで抑えられてたのは実力者ばっかり見たいだから…うん、頑張ろう」
だってぼくは義経で、日本を守るガイア連合の武の頂点なんだから。
ざばりと湯から上がった時、頭にあるのはこれからの異界の攻略手順と、坂東武者の武芸に関する事だけだった。
――――――――――――
「トロワ、これでアンタが言ってた依頼は全部だ、メシアの情報を寄越せよ」
「確かに。
そら、私が知っている限りの国内のメシア分布、確実にかかわっていると思われる事件情報だ」
「…多いな、何故こんだけ握っててアンタは何もしてなかった」
「高々一人、何ができる。
お前も軽い気持ちで動くなよ、お前の暴発でメシアンどもがイラつけばその事件数は倍になると思え」
バサバサの白髪の少年と、仮面の男が話し合う。
地方の奥まった林の奥にある豪華な屋敷、ジャケットに仮面の怪しげな男と、明らかに成長不全の節が見える細く目つきの悪い白髪の少年。
どこからどう見ても怪しげな組織としか言いようがなかった。
「だがいつまで黙っていろと言う!!
分かっているだろうあんただって、奴らはあからさまに俺たち転生者を狙い撃ちしてる…食い物にしてるんだ!
そうやって縮こまってばかりなら何のためにこんな組織を立ち上げた!」
「時期は来る、お前の憎むメシアン共に崩壊させられた日本の霊的国防組織の再建は急速に進んでいるんだ。
お前ひとりで、いやさ私達数十人程度で国中に目を届かせる気か?
結局のところ国中をカバーするなら国に委託され、信頼される組織こそ必要なんだ。
私たちの出番はその後、国内が立ち直りメシアの精鋭共とぶつかり合う時に対抗できるだけの精鋭組織であることだ、わかったら鍛えていろ。
そら、次の依頼だ、これでも民間人の被害は減るぞ」
「………っく!!」
ぎちりと歯を噛み締めながらも理性が勝ったのだろう。
依頼の書かれた紙をもぎ取り、白髪の少年がどかどかと乱暴に部屋を出ると、交代に軽薄そうな笑みを浮かべた男がするりと入り込む。
「あ~らら、アンチくんキレてますね。
ま、あれで理屈は分かる人ですからそのうち落ち着くでしょうけれども、お疲れさんですわ」
「あいつはあれでいい、熱を持て余しているというだけでメシアへの怒りも、転生者を守りたい気持ちも本物だ。
それでも抑えきれないものをぶつけられる程度なら苦労でもない」
「ヒュウ、流石リーダーさんは言うことが違う」
にこにこと目を細めて笑みながら仮面の男、トロワから片時も目を逸らさずに話し続ける。
「やぁやぁ、しかしとりあえず自衛力目当てで入りましたがねぇ、あんな目標があったなんてねぇ。
組織として大きくなっていくのは必要でしょうけれどもあんな明確に先の姿があるなんて知りませんでしたよえぇ。
流石に一番早くこういう組織を立ち上げた人は視点が違う」
「嫌味を言うな、分かっているだろう。
この組織にまとまりなどない、名前を付けようと言い出すやつがいないのが証だ。
自分が生き残るため、力をつけて家族くらいは助けるため、色々とあるが誰もかれもが個人として動いている。
そんな状況で組織としての大目標などとぶちまけて見ろ」
「ま、そうですがね。
俺だって実際一宮の惨劇見なけりゃさっきのでヒいてましたよ、もうちょい音に気を付けては?」
「居るのがお前だという事には気づいていた、だから聞かせた」
飄々と言葉を交わしながらもどこか上滑りするように、冷えた空気が場を満たしていた。
さらさらと砂のように軽い言葉をいくつか交わした後、本命とばかりに書類を持ち出す。
「で、トロワさん。
アンタが言う通りに引きずり込んだ仲間達は生き残ってすくすく育っているわけだ。
最初はメシアの被害者や異界被害に巻き込まれた天然ものの覚醒者、それを見て来たヤバいと実感してるの。
そのあたりだけでもどんどん増えていくだろうな、そんだけ今の日本はヤバイ。
…それで十分なはずだ、要るってのか?」
「甘えたことを言う、覚悟ができていなかったところで惨劇はやってくる。
そしてガイア連合や私たちが成果を出せば出すほど被害と緊迫感を持つ奴は減る」
「だからって甘いエサで釣って騙して人格崩壊ものの経験させて覚醒させて、そうと分からないまま死ぬかもしれないところに連れてって良いってか?
流石にリーダー様は考えることが違うもので」
ぎちりと声からは抑えきれない苛立ちと怒りを漏れ出させながらも顔は未だに笑んでいた。
まるでそれが最後の抑えだとばかりに。
「分かっているのに私に当たるのは止めておけ、仁藤。
戦闘やそのための鍛錬と言う辛く、異常な行為を自分や周りの命を守るためだからと正気で行えるやつなどそうはいない。
まともな奴らは目を逸らしていなければ戦えない、どれだけ必要だったとしてもだ、相手を傷つけるという事はそれだけ重い。
戦える力をつけさせておかなければそのまま死ぬだけだ、この計画を行えば生き残れはする」
「だからって騙すのはおかしいでしょうよ、信じるとかそういう心、忘れたので?」
「お前こそ忘れているようだな、誰もが信じても返してくれるなど、幻想だよ。
善意を持って救い、感謝をくれる善良な市民だと信じていた彼らの返礼は何だった?」
投げかけられた言葉に一瞬傷ついたように額に手を当て、そんな自分に少し唖然としたような顔をした。
仁藤と呼ばれた男の顔からついに笑みが消え、負けを認めたように苦り切った顔を逸らして吐き捨てる。
「…あんたのそういうところが嫌いだ」
「そしてだからこそこの事態に対抗できると信じているから従っている、だろう。
こちらもお前の能力だけは理解しているし信用している。
お前の仕事だ、今度はこの5人を引き込む、仲を深めておけ」
「…アイ・サー」
――――――――――
「…義孝は上手くやってるみたいね」
ぱらぱらと報告書をめくりつつ確認する。
ガイア連合の手が届いていないところでの被害状況をざっと確認してもじわじわと減っている。
制限を掛けた武具や、結構なマッカと引き換えとなっている覚醒用設備の借用も増えていることを見ると人員も増加傾向にあるらしい。
良いことだと思う、これで終末を乗り越えられるだけの力を得られる、転生者も格段に生き残る確率が増える。
悪いことだと思う、結局のところ同意すらなく才能があるからと神様にむりやり他所の世界から引き釣り込まれただけの、普通の人間に戦わせている。
「はは、私達で出来たらよかったのになぁ。
葵が天沼鉾でも振り回してメシアンとか四文字様とか片っ端からなぎ倒して、義孝が緩んだ魔界との境とかいろいろ締めなおして、私がばーんと経済とか色々牛耳ってミサイルも何もかも大量破壊兵器封印しきっちゃうの。
だーれも手伝わせなくっていい、やるんだーって決めた私達だけで気兼ねなくバーッと全部片づけて、他のみんななんも知らないで前世のアニメとか作って笑ってて、あはは…はぁ」
分かっている、それでも言いたくなってしまうのだ。
戦うことは辛い、戦わせることは辛い、やらなきゃみんな死ぬしかないからやっているけれど、私はこんなつらい思いしたくなかったし、つらい思いをさせたくなんかなかった。
それでも戦うって決めた私達だけで片付くならまだよかった、けど現実どうにもならなさそうだからと戦う気なんかなかったはずの他を引き込んでいる。
「…あぁもう!
うじうじしてんじゃないわよ私!頑張ってくれた義孝に失礼でしょうが!
ガイア連合としての舵取り、頑張るわよ!
ただでさえ義孝が抜けていろいろ不具合出てるんだから、私の占いで補って負傷者減らさないと」
義孝が抜けたことで戦術に関してはほぼほぼ正解一発引きみたいな無茶は出来ずにじっくり試してものにしている普通の形になっている。
詰まる所磨き上げられてはいっているが実戦の中での試行錯誤の失敗もそれなりにあるし、それで負傷する人員も出ている。
せめて死傷者や重傷者が出てこない様に下調べを徹底しなければならない、そしてそれに関して一番あてになるのはそっちの方面に特化して単純な才能も最高クラス、葵と義孝っていう贅沢な護衛連れてレベル上げもしていた私だ。
内部の意見調整や参加しようとする組織トップ相手への交渉、方針立てなどいろいろ組織の一番上としての仕事も山ほどあるし、民間人に被害が出そうなこととかないかも視ておかないといけないから休んでる暇なんかない。
「再来週には葵が戻るんだったわね、ならそれまでは…二回くらいでいっか、どうせ一人で寝ても浅くしか寝れないし、そんだけ寝れば薬と合わせて持つでしょ」
仕事は山積みだが覚醒者の体は便利だ、体力も桁が違うし回復力も凄いし霊薬の効きも良いから休息っていう本来一日の半分くらい使うことを、食事の3回合わせて1時間だけで終わらせられる。
葵や義孝なんかの戦闘要員はともかく私は後方だし、部屋もばりばりに回復力を上げたりする術式を常に回している、この程度ならまぁ問題ないだろう。
「ふふ、葵と一緒にぐっすり休むためにも、きっちり仕事の憂いは片づけないとね」
するすると外に手渡しでなければならない書類を受け取りに行かせていた秘書が戻ってきたのを感じ、盟主としての顔を取り直す。
「當麻!持ってきたら5番と9番の部屋に占の準備させておきなさい、北条と山本と話した戻り道で視るわ!
手直しの余裕ないだろうから抜かりなく準備なさいよ!」
「は、かしこまりました」
義孝が仮面被って偽名名乗ってるのは九条義孝が源葵と日埜佳乃と一緒に居ないという辛い現実からの逃避です
コスプレのほうが軽いノリの転生者から親しまれやすいだろうとか、仮面に色々防具としての性能付けてたり色々表向きの理由はつけてますが、本音はそこです
あと今の転生者向け覚醒試練は体を寝かせて転生時の神に引きずり込まれて世界を移動して受精卵に宿って産まれるまでの記憶を思い出させることですね、覚醒したら目覚められます
安全装置もついてますがかなりギリギリまでストップは掛かりません